魔王モモ。
アカの連れられた先には、人が居た。
数十人から数百人だろうか。男も女も、子供も居る。つまり、変異成長するのだ。アカ達のように、最初からそのままの姿で生まれたのではない。普通の人間の可能性が出てきた。地面から生えてきたので、魔族かと思っていたのだ。それも、未知の。
魔力の無い土地と言う事は、魔力の自然回復も有り得ない。地球に初めて行った時の亜意のようになる。ゲートを、ようよう開いて何とか帰還出来た。魔力を操る者に取って、かなりキツい環境のはず。そんな所に好き好んで住むだなんて。余程、弱くて住処を追われた、とか。それにしては、アカを即連れ去った。逃げ去るでなく。飛んで来たアカを、恐れるでなく。不可解。
そしてアカは、拘束されていない。
「んー?」
この場の人間を皆殺しにすれば、解決する。でもなさそう。時間かかるかなあ。
「ねえ。どうしておれを連れてきたの?」
「君が、望んでいたから」
「おれが?」
「魔神も、蹴速も、居ない場所に行きたい。そう思っていたじゃない」
「ふうん」
アカは、亜意に比べれば、十分に温厚だ。
連れてきた者達を殺した。
「面倒だなあ」
次いで、周囲の風景を、消滅させた。
「神無に怒られるかあ。仕方ない」
しょんぼりしつつ、人間、人工造形、全てを破壊する。
こっそり付いて来て、ピンチに助けに入りヒーローになろうとしていたマシロとマアカは、全力で退避していた。アカの気迫の膨らみを感じ取った。
「流石、魔王最強」
「お母さんすごい!」
ただの砂場に変えた所で、アカは飛行し、地形を把握してみた。
「あれ?」
「付いて来ました」
「すごかった!」
なんだ。来てたのか。
「大丈夫だった?あんまり遠慮せず攻撃してたけど」
「もちろん!アカ様の救援に入れるよう、探査を開始しておりましたから!」
「だってさ。お母さんと一緒に戦いたかったけどなー」
ふーん。マシロは魔神様と比べたら、随分、慎重だな。子供達の間で、協調出来そう。それに、子供でも、親と同じじゃないんだ。
マアカも、そうなのかな。
とりあえずゲートを開き、帰還。神無には、謝る必要が有るか。
そして無人となった砂地。
「短気な人だったねえ」
「折角連れて来てやったのにね」
無人であった砂地に、人が。民と名乗った者も。全員、アカに殺されたはずだが。
「お仲間もお連れしようか」
「良いね」
彼らは、砂に消えた。
船上に突如現れたアカ達3人。咄嗟に構えた特盛と、剣を確認した神無。
「ただいま!」
「帰りました!」
「あんまり戦えなかった!」
「おかえり!」
「無事でなにより!では、報告を聞こう」
アカの話によると。地面から出現した人間に何処かへ連れられ、到着したその場の人間達を皆殺しにし、帰って来た。
ふむ。
「なるほどな」
「全然何も分かってないねー。ゴメン!」
「いや。少なくとも、尋常な人間ではないな。そして、そやつらが生活しているであろう事も確認出来た。兵を上陸させる前で助かったぞ!」
出来れば、もう少し情報が欲しい。だが、くつろいでいた人間が、働いてきた人間に、偉そうに言える事も、無い。
「ねえ、魔神様。此処、魔力が無いんだけど。何か分かる?」
「んんー?」
さて。懐かしい空気だが。なんじゃったか。
ああ。あれか。ふんむ。
「モモ。行ってみるか」
「はい!」
ま、今のモモなら、何とかするじゃろ。
アカも付いておる。
魔神様のご意向は分からないけれど。魔神様が言うなら、従うまで。
神無以下、人間達は再び待機。いざ、に備え訓練も出来ない。
「あの。おれ達、アカ達に任せっぱなしな気がするんですけど」
「気、ではない。事実、任せっきりだ」
「ですよね」
「死にに行きたいなら、止めはしないが」
「いや!それは嫌です。戦ってならまだしも、毒かもと警告されて、突っ込んで死ぬとか。間違い無く、ダメ兵士の歴史に名が残っちゃうじゃないですか」
「そう言う事だ。分かっているな」
「まあ、何となく」
神無としては、本当に行きたいなら止めないつもりだった。救い難い馬鹿は、味方を要らぬ危地に誘い込む。何なら、神無自身が切り捨てても良かった。さすれば、悩みも無くなる。賢明な判断だ。
梅には、一言謝れば済む。蹴速は、どうだろうか。殺されるかな?蹴速に殺されるのは、それはそれで栄誉か。悪くない。
アカ達を見送る神無は、物騒な想いに耽っていた。
モモは、手近な砂地に降り立ち、砂を触ってみる。
「どんな感じ?おれは、魔力が無い、だけしか分かんなかったんだけど」
「これ。・・・多分、いえ、間違い無く。死んでる。それに」
モモは更に飛び立ち、岩、石、砂を改めて調べた。そして、
「全て、死んでる」
「おおー」
どう言う事?
「此処は、人間の住んでる世界でもないし、魔界でもない。こんな場所で、魔族は生きられない」
「うん」
「その、アカの会った人間達。多分、人間じゃないと思う」
「そっか。まあ、地面から生えてきたしね。ちょっと変わってるよね」
「ええ。死んでいる人間」
どうやって殺そうかな。アカは、彼らが復活している事など知らない。だが、無意識が考えていた。この辺は、魔王としての本能のようなものだ。
モモは、何か、感じ入るものが有った。死にながら、存在している。幽霊?地球の物語でしか、知らない。魔王モモも、見た事は無い。
マシロ、マアカは親達の会話に聞き入っていた。死んでいる人間!死体ではない!面白い!!
マシロは、それらを操ろうと考えた。死んでいる、これ以上死なない兵。くふふ。
マアカは、それらと戦う術を考えた。分からない!
アカは、砂を握る。握り締める。強く。もっと強く。
全力で。
開いた手のひらには、塵も残っていない。最小分解されたためだ。
アカの手のひらにもダメージが来るやり方だが、アカの持ち前の魔力により、傷付く端から治る。
「うん。出来た」
「すごい・・・」
アカは、自分が葛藤している間に、ずっとずっと戦っていたのだと、良く分かった。
この戦法、アカの魔力総量ならば回復無しでも、3日3晩戦い続けられる。戦術は、完成したか。
アカは、蹴速を思った。蹴速なら。きっと初対面で、消滅させただろう。おれは、時間を置いて、決め手を見つけなければいけなかった。もっと強くならなきゃ。蹴速と、もっと楽しく戦うために。
死んでいる相手に、モモの力は効かないだろう。モモの能力は、魔力を殺す。全物に等しく魔力が存在する以上、生き物、物質を伴うモノ全てを殺せる。
等しく、魔力を、殺せる?殺す、とは?
生き物の意を伴わなぬ物と化する事。物質を構成するモノを、失わさせる事。それは例えるなら、椅子から椅子の足を失くする事。それは、最早固い座布団だ。
ならば。固い座布団に、足をくっつければ。椅子になるのではないか。
くっつける。魔力を。
原理は、逆。だが、一方ならば、出来ていた。
簡単なはず。魔神シロが創ったこの身に、出来ぬはずもない!
モモは砂を集め、手に乗せる。魔力死を与えていたモノに、生を授ける。それは、魔力の贈与では、ない。ただ魔力を入れてみても、マシロがやったように、無に帰する。それでは、ダメだ。
こうするのだ。
物質の構造。其処に必ず存在する魔力。だが、この砂には、無い。しかし、モモは、魔力の在り処を知っている。その、魔力の有るべき場所に、魔力を「置く」。繊細な作業だ。殺す時は、無差別に魔力を対象とし、消失させれば良かった。だが、今は、場所を選ぶ。物質の「流れ」を読む。魔力を置く順番を把握する。砂一粒に、なんと時間がかかるのか。
だが、
出来た。
アカにも分かった。何をしていたのか、全然分からない。だけど、モモの触っている砂には、魔力が有る!
「すごい・・・!!!」
アカも、初めて見る現象。竜は魔力を運びはするが、生み出したりはしない。あくまで、流れの一つに過ぎない。魔界に、人間の世界に、自然に湧き立つものだと思っていた。それを、意思で生み出した。モモは、とんでもなく、すごい!
「すごいすごいすごい!!!」
「そう?なら、嬉しいな」
モモは、初めての行為に、驚きも有った。だが、察した。この能力。
予め有ったのだ。
恐らく、魔神シロの設計に有ったはずだ。破壊と生成。それを持たせて、モモを生んだはず。モモは、自分がやっと其処に行き着いたのだと、思った。
今まで、自分は、シロの期待に応えられていなかったのだ。
モモの激情に気付いたアカは、どうして良いか、分からなかった。素晴らしい能力なのに。何故、モモは、悲しそうなのだ。
マシロは、マアカは、モモの腕を握った。両手で、しっかりと。
思惑有り、下心有りのマシロ。お母さんの友達で、何人も居るお母さんの1人。マアカは、手を放せない。
心は痛い。けれど、2人の手が、手が、私を、放さないでいてくれる。そうだ。ちゃんと、魔神様にも言わなきゃ。この地を攻略してから。
魔王モモ ヤサシサ。その真価を発揮する。




