ご飯だよ。
腹を大きくした歯牙は、仕事を休業している。では、何をやっているのか。
「歯牙さん、すっごい下手だねえ」
「うるさいよ!お姉さんは、箱入り娘で、だあああいじに育てられたんだからね!」
「マアカ。お姉さんは、ただでさえ使い物にならんのだ。手を煩わせてはいけないよ」
「はーい」
「梅・・・今のは助け舟かな、泥船かな?」
「私の気持ちを汲み取るが良い」
「愛してるって?」
「とっとと、むけ」
ジャガイモを切り刻む、3名家、コウチナンバースリー。だが、安心して良い。向こうでは、ナンバーツーが火加減を見ているし、ナンバーワンが新しく米を炊くか、考えている。
何をどうやっても、現状では人手が足りなかった。家事を一部の人間に任せっきりならば。故に、家事は、家族総出でこなす事になった。当初、祝寝は要らないと言った。最早、意地だ。しかし、何十人分の家事を数人で対処するのは、例え蹴速の身体能力が有ったとしても、無理なのだ。祝寝はなだめすかされ、了承させられた。
祝寝の思惑としては、戦場で全く活躍出来ない分、家を取り仕切る功績は、全取りするつもりだった。海鶴も己黄も、勢力に取り込んでいる。
この真っ黒な思惑。蹴速に取ってもシロに取っても可愛いものだった。誰も、傷付かないのだから。幾らやっても良い。だが、祝寝、海鶴、己黄が倒れるようなら、本末転倒。疲労が回復しきれてないのを見て、蹴速は判断した。全員でやる。
と言っても、例えば蹴速は家事全般が出来ない。カップラーメンを作り方を熟読しながらなら、何とか。そう言うレベルだ。屋外、野外では、ずっと保存食頼りだった。そんな男に出来る事だと?
そうして蹴速はゴミ出し、掃除係りを仰せつかった。料理も、かき混ぜる位は出来るようになった。
女性陣、妻達の内、見込みの有りそうな人員には祝寝からの仕込みが入った。
見込みとは、祝寝の言う事を聞ける。時間、調理法を無視しない。以上。故に、シロ以外の全員が、家事に堪能な武芸者であり、魔王であり、になっていったのだ。クロは初めから祝寝以上に堪能だったし、無双双児も意外に出来た。あとは、ちらほら普通に出来なくもない人間も。
シロは、面倒がって、調理済みの料理そのものを現出させたりする。別に構わないのだが。毎回やってくれるわけでもない。何がしかの用事で、留守を任せる時は、それを頼む。そう言いはしたが。色々、台無しだった。が、便利なので、魔力を使える者は使えるかどうか聞いてみた。シロ以外には、初三千世界だけらしい。
意外な事に、初三千世界も料理が上手かった。「ゲーム」に登場するものなら作れるらしい。つまり、世界中全ての料理、なのだが。ただ、人間ならば、どうしても味付けは自分好みにするはずが、初三千世界には、そう言う好みは無い。料理の教科書に載っているだろう味付けだった。
歯牙は、そうして、教わっていたが。身重だ。先に出産を終えた梅達の手伝いをしつつ、腹の中の子の成長を待つ。
蹴速は、子の名を既に付けてしまった。馬鹿なのではないか。
お父さんもお母さんも楽しみに待ってるからね。ゆっくり大きくなりな。
歯牙の子だけでなく、まだ生まれてない、青星の兄妹の子の名前まで。
更に、歯牙と同じく、腹を大きくした熊大将や仮要明、量猟、もうすぐ産まれそうな三十鬼の子まで。
その蹴速はと言えば、赤ん坊の部屋に居た。
「飽きもせず、よく見る」
「おお」
何も出来ぬ三十鬼は暇なので、寝ている子らを見ていた。蹴速も一緒に。
小さい。こんなのが、親と同じ位に大きくなるのか。
マシロ達の時は、いきなりそれなりの大きさで生まれたので、それはそれで楽しかったが。新鮮だ。
「お父様!」
「悪口じゃなかったろう?」
飛び込んできたマシロを抱いてあやす。
「マシロ。ついでにお前も見ていろ」
「ええー」
「病に冒されれば、分かるな」
「はい。お父様の機嫌を伺っておくのも、良い子の条件でしょうかね」
目の前で言うなよ。マシロに付いて、2人を呼びに来たキ、その場に居た、三十鬼、蹴速、全員の心を一つにした瞬間であった。
遊びに来ていた青星の兄妹も、料理を手伝っている。
「行きます!」
「はい!」
現在、量猟、特盛、超騎士のチームを手伝い、配膳している。
皆、出来上がった所で、食事。これでも、全て出来上がるのに1時間はかからない。簡単なものなら、30分でも。食べる人数も多いが、作る人数も同じだけ居るのだ。問題は無い。
食堂は、それなりに賑わう。およそ50人。それが、めいめいに喋り、食べ、飲み。誰もが、この瞬間は、この後の片付けを忘れられる。
普段の日々。不断であって欲しい毎日。もっと良い日にするために。この日を守るために。戦うのだ。




