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蹴速と御徳。

 子育てと言う生涯の戦場の中で、瀕死の危機を迎えた蹴速家であったが、皆の協力を得て、何とか窮地をしのいだ。


 蹴速も、おれの時も、こうやったんか。そう思っていた。


 己の子に乳を与える、己の妻。蹴速は、考えてはいけない事を考えた。


 もう、何時、死んでも、良い。と。


 無責任極まりない。家長の考えて良い事ではない。しかし、幸せだ。


 蹴速は、人生の絶頂に居るのだと思った。


 だが、蹴速のために時間が止まったりはしない。大量に出るゴミを焼却場まで運ぶ。量が量なので、ゴミ捨て場ではなく、処理場まで持って行く必要が有る。


 こんな所も人手を雇えば良いのだが。祝寝は、家族でない者を家に入れるのを嫌う。


 そこからの縁で、蹴速の嫁が増えるのは、困るから。


 後の祭りと、シロはツッコミたくて仕方がなかったが、祝寝は蹴速に躊躇無く言いつけるので止めておいた。


 まあ、力仕事を得意とする連中ばかりだ。今更、数百キロのゴミを重いと感じる戦士は、此処には居ない。その意味では、祝寝の思考は無駄遣いが無くて良いかも知れない。


 ゴミ袋を鋼鉄のカゴに入れて、跳び行く地球最強。あるいは、これこそが、力の正しい使い方なのか。


 朝の宅配のトラックが家に向かっている。蹴速は、ゴミ出しのついでに何処かで時間を潰そうとしていた。ポケットに小銭ぐらいは有る。


「おはようございます」


「ああ。おはよう、蹴速君」


 本部訓練場、御徳。汗を流している最中だ。


「珍しいね。1人かい?」


「はい。皆、朝食の準備をしてます」


「ほおう。羨ましいね。こっちは本部の食堂だよ。ま、1人身の気楽で辛い所さ」


「ははは」


 ふむ。在前御徳は、蹴速の事を深く詳しくは知らない。だが、ただの知り合いでもない。同僚の夫であり、部下の夫であり、何度もメシに呼んでくれたイイ奴でもある。タダ飯より美味いものは無い。


 その蹴速が、1人、供も連れず来た。これが三鬼梅なら、御徳すまないが暗黒大陸を1人で攻略してくれないか、大丈夫だ船は用意してある・・・とまでは言われるだろう。強さはともかく、御徳に取って、蹴速は普通の青年だ。いや、全く普通ではなかった。


 ともかく。話位は出来る。


「座ろうか」


「はい」


 走練場のアスファルトの上に腰を下ろす。既に陽光が出ているので、温められた地面は、じんわりと熱をくれる。あー、と声が出そうな気持ちよさだ。温泉行きたいなあ。


「夫婦喧嘩でもした?」


「それは、まあ、しょっちゅう」


 蹴速は、基本的に人に譲らない。全て獲る。そして、彼の嫁も同じ思考の持ち主だ。それはもちろん、大喧嘩だ。そんな時は、いつだって勝負で決める。シロのゲーム機が輝く時。そして蹴速は、全敗する。ゲームで修練を一切積んでいない蹴速は、面白いほど弱かった。


 ふーむ。蹴速の様子を見て、これじゃないのか、と認識。


「まあ、1人になりたい時も有るか」


「ええ」


 え。あれだけ嫁もらっといて、それ?


 御徳の潜在能力が開放され、一時的にヤマト下位ナンバークラスの力が発揮される所だった。


 御徳は、彼女も居ない。


 それでも大人の余裕と落ち着きを何とか保った御徳は、もうちょっと褒められても良い。


 蹴速は幸せだ。それは、何を賭けても良い程、間違い無い。しかし、蹴速は自由を求めてしまう。何も考えず跳び回りたい。それは、自由では、ないのだが。己の欲した嫁、子、家族を置いて行くのは、蹴速の本意ではない。己の意思によらぬものを自由とは言わない。だが。


「運動しようか」


「え?」


「そう言えば、おれは君と戦った事が無いね」


「そう言えば。確かに、そうですね」


 御徳も、蹴速に勝てるなどと自惚れてはいない。だが、この機会。兵が会ったなら、戦う他有るまい。


 魔神戦の前哨戦。これ以上の敵は、絶対に無い。有り難く勉強させてもらう!


 御徳さんに、迷惑をかけてしもうたか?まあ良し。コウチの将軍の力を見せてもらうか。


 実力に天地ほどの差が有りながら、両者の表情は、同じく笑み。歯をき出し、殺す気であった。


 御徳は内心、死ぬほど後悔していたが、破れかぶれ、突っ込んだ。


 こんなんばっかりだな、おれ!


 それでも、その進行は滑らかだった。有我よりは遅い、神無よりは迫力が無い。梅ほどは奇をてらってない。


 その踏み込みは、綺麗だった。蹴速すら褒めたくなるほど。


 右足を強く踏み込み、曲げた右腕、鞘を押さえた左手を強く意識。開放。


 その抜き打ちは、蹴速をして速いと思わせた。


 剣の最高速度の乗った場所を見極め、爪一枚で止める。人差し指を曲げ、爪表面で受けた。斬った剣の方が、欠けた。これでも、蹴速は丁寧に手加減している。反動が御徳に届かぬよう、爪で殺しているのだ。


 動揺を見せず、御徳は、その場から振り上げ、落とした!今度は加速は無い、だが、重力が味方だ。大地を噛み締めた両の足。剣を握り、斬る事だけに集中した腕。全てを、斬る事に特化させた。


 蹴速は、微動し、避けた。御徳の剣より更に離れ、剣圧の届かぬギリギリ、数ミリメートルを見極め。


 振り下ろした剣を、大地に根ざした足腰の力で逆行させる。落とした時に付いた加速のままに天に昇らせる!


 今度は、蹴速の人差し指と親指に挟まれ止められた。爪一枚が、指二本を動かすまでになった。


 わーい、嬉しい。


 なわけ、あるか。


 御徳は全身全霊を出す。今、勝てなくとも。この強敵相手に、全力を出した結果を知っておくのは、悪くないはずだ。


 分け身。通用はしないだろうが。


 一一人との試合を、やっている想定で動く。一一人有我ならば、数十の己を平然と出す。だが、おれにはそんな真似は出来ない。だから、こうする。


 御徳は分け身の途中で、跳んだ。当然、其処に居る事はバレた。そこから、どうする?


 空で、分け身。空を蹴ったか!


 それは神化状態の神無、でなければ蹴速以外には使えぬ技だったのだが。やってのけたか、在前御徳!


 いや、違う。実際に空は、蹴れない。だが、そう見せるだけなら出来る。


 御徳は空中に跳んだ後、腕の振り、足の振り、落下の加速を合わせ、更に遠心力を最大に活用。それらによって、蹴る必要もなく、身を分けた。攻撃には絶対に移れない、完璧な惑わせるだけの技。


 だが、実際に蹴速は驚いた。落ちる御徳が、迫って来ようと、防御の姿勢も取っていない。


 ここで、御徳は最大限の恐怖を感じたが、無視。斬るべき時に斬れぬなら、そんな将軍は要らん!


 蹴速が動けなかったのは、御徳の動きを目に焼き付けておきたかったから。見事だ。蹴速にも出来ない事はない。だが、身体能力で蹴速に遥かに劣る者が、やってみせた。本当に見事だ。褒めて良い。


 対魔奥義で応えよう。


 御徳は、攻撃の姿勢を無理矢理ねじり、転がり落ちる体勢になろうが構わず全力で退避した。


「あれ?」


「は、ははは。降参」


 形としては、完敗。だが、生き残れて良かったと御徳は心から安堵していた。何をする所だったのだろう。聞くのが怖い。


 別に蹴速は御徳を殺すつもりでは無かった。ただ、人間業での技巧を教えてやろうとしたのだ。これでも、蹴速は一つの流派を極めている。それこそ、有我に技量で勝つ事も有るぐらいには。


 魔神シロとの戦いでは、一つも使えなかったのだが。全てを出す、のは蹴速のオリジナル。古流武術たる対魔には、自分の力を出し切るタイプの技は無い。生き残る事が主目的だからだ。出し切ったら、死んでしまう。小手先の技で相手の実力を殺すようなものが多い。落ちてる物を使うのが必殺技の一つだ、と言えば分かりやすいか。蹴速が習った時には、工事看板の使い方が伝授されるような古武術だ。アレンジし過ぎだろ。


 一瞬で相手を殺すような便利な技は、無い。ひたすらに地力を上げる事を要求される。逃げ足を鍛えるために。その甲斐有って、蹴速の足も鍛えられた。何が奏するか、分からないものだ。


 一汗かいた2人は、次の出征での再会を約して別れた。


 蹴速は、出るかどうかは分からないが。

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