御徳の稽古。
3名家及び、蹴速君の家に招かれたよ、やっほい!
今日、間違い無く、死ぬ。
御徳は、本気で神妙な気分になっていた。例え、相手に親切心しか無くとも、こちらは凡人でしかない。しかも今日は、ナンバーワン直々にお相手頂けるとか。死んでしまう・・・・
そんなわけで、いつも通りの日を送っていた御徳は訓練終わりに梅からお知らせを受け取り、絶望に身を浸していた。
まあ、チャンスではあるがな。
魔神シロに近い場所。魔神に近い実力者達。これ程の好機もそうは有るまい。
御徳には、表向き悲壮感が漂っていたが、その身に流れる血は、熱くなっていた。
「御徳さん。付きましたよ」
「あ、あー」
梅と御徳の話の最中に側に居た量猟も、付いて来ていた。なんで?
「今回は、そんな時間も有りませんでしたから、適当ですけど」
お土産をちゃっかり持っている。おれは持ってないんだが。
「大丈夫ですよ。こっちからって事にしますから」
こっちって、どっち?部下に任せっきりで、ダメな上司みたいなんだけど。
「すごい家ですねえ」
「ああ。本当にね」
何度か来た事は有る。その度、新鮮な驚きを味わう。
家の色が変わっているのだ。ペンキ職人がもうかっているのかどうか、知らないが。
シロの、魔王達の仕事であり、子供達の修行でもある。飛行しながら、塗料を魔力のみでコントロールする。ハケやバケツは使わない。塗料の入れ物から直接「掴み取り」、ムラのないよう塗りたくる。
子供達は、既に飛行や身体強化は出来る。ここから先、魔力を飛ばす、伸ばす技法を覚えていく段階に入ったのだ。
自分の身体に触れていない塗料を、自在に操る。自らの指先のように。上手くなればローラーをかける事も出来るようになる。面に均一に力をかけ、満遍なく塗り広げる。
自分の指先のようにと言った。だが、それはあくまで例え。実際はちがう。正確に言うなら、魔力の膜を薄く伸ばしている。それを自在に操り望んだ結果をもたらす。これは、身体の内側に張り巡らせる防御膜とも同じものだ。
更に言うなら魔力を固定化、実体化するのは、危険が伴う。自分の体から伸ばしている以上、反動も直接来てしまう。最悪、魔力的に侵食されれば、内側から死ぬ。皮膚も骨も防御が効かない。魔力は、酸素や水の性質に近い。これは、気が、肉や骨の性質に近いのとは、少しちがう。
ついでに説明しとこう。蹴速や無双双児、超騎士らの使う技は、全て気をベースにしている。己の肉の延長。骨の更なる硬化。それらを本能と意思が目指した果ての業。
魔力は、こちらの世界の技。自然が運ぶ甘い夏風や鋭い冬風を人為的に発生させられる技だ。ざっと超能力と捉えても良い。どうせ、人間技ではない。とても理解の及ぶ範囲には、無い。それでもあえてと言うなら、教えよう。魔力はこの世界にあまねく広がるモノ。それは空気であり、大地であり、海である。即ち、空で土で水である。世界の根源と同一。魔力イコール物質の構成要素と思って良い。
気と魔力は、同じであり、ちがうモノだ。人間が根性と気合で出すモノは、つまり世界の構成要素なのだから。同じとも言えるし、魔力そのものと言うと、ちがう。
まあ、こんな論は、無用の長物。覚えなくて、良い。
ただ在るがままの現実を見ていれば、事足りる。
御徳はキの案内で有我の居る訓練場に招かれた。
「どうも、ありがとうございました」
「何。知らぬ仲ではないだろう。そう改まる事も無い」
「はは」
んー。どうなんだろう?
「来たね。じゃあ、もんであげよう」
量猟は、何故かキに連れられて家の中へ。お土産を?先ず一一人にお見せしようよ!
「お願いします!」
何にせよ、どうであれ。来てしまった。ならば、これはチャンスなのだ。コウチナンバーワンの力、見せてもらう!
御徳は、初めて有我と訓練する。普通、一一人が一般兵の稽古を見る事は、無い。特盛は、梅の願い有っての事。例外中の例外だ。
一一人有我。今の御徳を、100倍強くしたような人間だ。まともに当たれば、必ず、絶対に、負ける。だからと言って奇策を弄しても、どうにもならん。今、有我に腹痛と頭痛と歯痛が襲っても、この実力差は覆らないだろう。
だから、正面から当たる!
学ばせてもらおう!!
ふん。確かに速い。
有我は御徳の速度を認めた。普通の神無や梅より、明らかに速い。ただ、惜しい。特盛にパワーで、はるかに劣る。それでも、戦えば勝つのは御徳だろう。今の特盛では、御徳を捉えきれまい。
有我は普通に御徳を相手取り、剣を打ち合わせ続けた。
?・・・何故、おれは生きている?相手は、一一人有我だぞ。全く相手にされなかった二神より、強い者。
遊ばれている、のではないな。訓練だからか。
有我の真剣な顔を見て、感謝の念を募らせる御徳。
良く見て取れば、その剣筋は御徳よりほんの僅か、上。これは。
気付いた御徳は、直ぐさま吸収し始めた。
御徳の剣が、更に良くなった。
有我はニヤリと顔を歪めた。別にこれが出来なかったら将軍位を落とすとか、そんな事は無い。そのままだ。だが、出来るなら、もっと使えるようになる。もっと強くなるかも知れない。コウチの役に立つなら、協力は惜しまない。
5分。打ち合わせてから、離れた。良い教師は、ここから反復させて体に染み込ませる。だが、一一人は。
「はい、最集中」
「は?、はい!!」
剣を構え直し、有我の息吹にまで警戒を払う。一呼吸の合間にこちらに剣が届いているのが、目の前の人間だ。
一一人の剣を見せる。案外、付いて来るかも。
有我は数十の己を現した。
御徳は、数体は見破った。そして、10体までは残像か何かだと、重心の置き方で気付いた。だが、そこまで。
最警戒していたはずの自分の剣が、いつの間にか先端から刀身の半ばまで切り落とされていた。斬られた振動で気付いたのではない。姿を肉眼で捉えた時には、既に斬られていた。ケタが、ちがい過ぎる。
しかし!
御徳は、瞬時に3体の己を現した。心底からの恐怖に体が一時的に限界を振り切った。更に有我の動きを見た事によって、分け身を習得した。
見事。
有我は今度こそ、丁寧に打ちのめした。御徳は、気付いた時には地面に倒れ伏し、全身に痛くない部位が、無かった。
アカー、お願いー。
はーい。
そんな声を聞きながら、先程の体験を思い返していた。おれにも、出来た。分け身。あくまでフェイント。戦闘能力が高まったりする技ではない。だが、生存能力は上がる。生きている限り、戦えるのだ。
舌を出しながら、痛みに悶絶しながら、御徳は手応えを感じていた。
有我とアカは、やり過ぎたかな?と少し反省していた。




