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長い休暇。蹴速の場合。

 蹴速は梅と、こう歯牙しがの下へ。イギリスに出現した例の怪物について、何か教えてもらえれば、と思ったのだ。キと獣沓も連れてきた。獣沓は連れてきたは良いが、窓際から話せば良いと思っていたのだが、目立ちすぎる。


 結局、蹴速亭に歯牙を招く事に。


「こんにちわー!綺麗なお姉さんだよー!」


「わあ、オカシイお姉さんだ!」


 魔王の子供達に取っても、未来予知の出来る河歯牙は、特別扱いをしても良い存在だった。あれを誰が飼うか。それとも障害にならない内に消すか。議論した事も有る。結局、梅の子飼い扱いのまま、で方が付いたが。


 庭先で秘密会議。側で子供達も聞いているが、秘密のお話し合いだ。


「来てくれて、ありがとうございます」


「良いって良いって。あんなのに居座られたら、他のお客さん来なくなるからね!」


「本当にすみませんでした」


 殊勝な蹴速は珍しい。子供達も、滅多に見た事は無い。


「だいじょぶだいじょぶ!」


 蹴速に、こんな態度を取らせ続けると、闇討ちが冗談でなく発生するので、とっとと頭を上げさせる。


「とっとと占え」


 梅の態度は普段通りだが、子供達へ、余計な鬱憤を溜めさせない事も考えている。旧友であり、利用価値の高いコマ。まだ死なせたくない。もうちょっと使い潰してからだ、どうするにせよ。


「はいはい!人気者は辛いね!」


 歯牙もギリギリの所で遊んでいる。この子達との火遊びで、焼かれるラインは何処か。梅の同席している時に見極めておくのが良い。


「で、詳細な情報とモデルが有ると占いやすいんだけども」


「向こうの世界に始めに出て、こちらの暗黒大陸にも出現したようです。たどっていくと宇宙まで出ました。そっから先が不明で」


「ふんふん」


 全然分からん。梅をチラッと見るが、何の優しさも無い目で見られていた。これは、適当でも何か言わなければいけない雰囲気!


「よおし!占っちゃうよお!」


 分かんない!


 だが、その時。ひらめいた。蹴速の言葉は何の役にも立たなかったが、蹴速の体は、怪物を覚えていた。億単位で殺し回ったのだ。歯牙は、それを読み取った。


「あー、やー、なー、へあっ!」


 ノった。梅は成功したと思った。


 子供達は面白がった。マシロは、新奇なものに興味を惹かれたし、マクロはその手法を覚えようとした。ちなみに、技法を真似ようとしたのは全員だ。梅に、この下心は、流石に無かった。クロはその可能性を分かっていたが、この家の不利になるわけでなし、放っておいた。


「視えた!でもやっぱり良く分かんない!」


「詳しく話せ」


「何処の誰ってのは分かったよ。でも、其処までの道が遠すぎて、私じゃ、理解出来なかったな」


 これは、仕方無い。梅にも、正直宇宙とかの感覚は無い。となれば。


「シロ。頼む」


「おお!蹴速の役に立つとなれば、仕方有るまい」


 自慢気に歯牙のイメージを読む。こればかりは、能力と知識の両方が有る、シロにしか出来ない。現代の魔神のありのままの姿を見つめる家族。どう見ても、小物だが。相手が夫だからなのか。


「ふむ。あちらの世界の、そうさな、わしの足でざっと1年はかかる距離じゃな」


「おれなら?」


「2年と3ヶ月」


「まだ、倍以上の差が有るんか。もっと頑張らんといかんにゃあ」


 蹴速はシロに笑いかけた。融けたシロは、そのまま蹴速と戦いたかったが、我慢。


「シロ。お前なら、一瞬で行けるか」


 ここはシロに甘える。流石に、1年空けたら、間違い無く、家に居場所が無くなってる。この人誰ー?って子供に聞かれてしまう。それぐらいなら、諦めた方がマシだ。


「うむ」


 流石にモノがちがう。蹴速には、強い自負、自信が有るが、シロを前にすると、それも消え失せる。最強たる自分が、1人の挑戦者に。なんて、気持ちの良い。


 実の所。シロには、怪物の心当たりが有った。もちろん、何百の心当たりの中の一つだが。帰宅した蹴速達の話を聞くに、多分あれじゃろうなー位の認識は有った。ただ、どうでもいい事でしかなかったのだが。蹴速の良い経験になるかならぬか、それだけを見極めていた。結果、蹴速は、己を知った。人間の深みを増した。きっかけは、限定されていない。何処にでもヒントは落ちている。蹴速は、これを機に強くなるかも知れない。そうならないかも知れない。いずれにせよ。蹴速の選択ならば、それで良い。望み通り、思い通り動いて、望みの結果を引き寄せられなかった。ならば、蹴速よ。どうする。


 シロは、蹴速の成長のためなら、何でもする。味方を欺く事でも。それでも、亜意達の事も忘れたわけではない。無理のかかりそうな事態ではないと、思っての事。思いやり魔神じゃし!


「同じ顔ぶれで行くか」


「だな」


「ですね」


 帰って来ている超騎士も。


「お前も行くか」


 梅から一言。


「は?」


 河歯牙は、これで売れっ子だ。梅の頼みだから来ているのであって、暇は余り無い。そんな事は知っているだろうに。


「解決に、そんなに時間はかかるまい」


 梅は会話の内容から、シロが同行すると判断。蹴速とシロが取り掛かる以上、即座に終わるはず。なら、これ以上蹴速を縛り付ける問題は、根こそぎ解決するべきだ。歯牙に直接見せれば、良い。


「シロに連れてってもらうけ、到着は早い。後は皆殺しにするのか、どうするのか。その場で決めるけど、時間がかかりそうなら、歯牙さんだけでも、帰ってもらう事は出来ると思います」


「うむ」


 シロは蹴速に言われる前に、蹴速の望む答えを心を読んで答えた。


「私も同行するので、安心してください」


 超騎士は、梅の意図は読めない。河歯牙が何者かも、知らない。だが、梅が無益な事をするはずがない。この非戦闘員、ならば私が守ろう。


 今回は、無双双児も行ける。ジン、超騎士、亜意、キ。それにシロ、歯牙。蹴速を含めて9名の大所帯だ。戦力に一切の不足無し。


「家は頼んだぞ」


「うん!」


 アカにお願いする。宇宙なら、アカも十分に戦力を振るえる。素晴らしく役に立つが、蹴速、シロの両名を長々と不在にするかも知れない。まあ、夜には帰るつもりなのだが。防御力の最も高い超騎士を連れて行く以上、ある程度の感知能力の有るアオミドリが頼りだ。しかし、アオミドリは神無に同行している。今は居ない。結界に反応し、目視後の迎撃になる以上、速度に秀でているアカが居れば有り難い。梅と有我を家に縛り付けておくのも、難しかろう。


 この心配は、ほとんど杞憂だが。それでも油断を好む者は居ない。全力を出しての窮地ならともかく、全てを出さず危うい状況に陥るのは、ただ弱いだけだ。


「今はそれほど忙しくない。有我を家に置いておこう」


「呼んだー?」


 黄神をあやしていた有我。抱き上げ、近寄ってくる。


「蹴速達が、またあの怪物を追いかけて行く。家の守備に回ってくれるか」


「良いよー」


 梅の言う通り、忙しくない。暇な内に、梅が目をかけている御徳を鍛えてやりたいが。此処に呼べば良いか。


「在前君は、暇かな」


「うん?普段通りのはずだが」


「ウチに呼んで、鍛えてあげようと思ってね」


「それは良いな。だが、仕事終わりに招く事になるだろう。晩飯を準備しておくか」


「そだね」


 在前御徳の予定が決まってしまった。

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