蹴速家の光景。
蹴速はグルメ武者との再会を喜び、多少のやり取りを交わした後、ジンと共に日本へ。グルメ武者にも、いつか子供達を会わせたいと思う。
その前に、親に。幾ら何でも、もう顔見せしないと、いけないだろう。
「あああ・・・」
「何だ」
亜意に聞こえたらしい。このうめき声が。
「いや。もう、おれの親に子供らを会わせにゃあと思うて」
「はん。そう言や、1度しか会った事も無いな」
「ああ。今度。全員そろった時に、会いに行くか」
「良いんじゃねえか」
亜意は蹴速の両親に強い印象を持っていない。あっさり挨拶をしたような気がする。
「お前の苦手意識が分からねえ。仲が悪いってんじゃないし」
「ああ。まあなあ」
蹴速と両親は、別に仲違いなどしていない。ただ、なんとなく顔を合わせづらい感覚が有る。
対魔古武術。歴史は知らない。長いらしいが、数百年なのか、数万年なのか、それは知らない。
蹴速、5才。習い始める。5才と2ヶ月、免許皆伝。何も、教わるものが無くなった。
蹴速の歴史で言えば、4才で初めて空を蹴る事に成功した。当時はまだ自在に移動出来るわけではなく、空に浮ける、程度でしかなかった。6才の時に重さを操れる事に気付く。5才と2ヶ月と1日で実戦を経験。初めて、意識的に怪物を殺害する。6才と半年、初めて人間を殺害。怪物を殺した時ほどの衝撃は無かった。8才、兵の実績トップに躍り出る。10才、あらゆる兵に危機感を与える。そして現在。世界最強。魔神シロを除けば・・。
「シロ。お前、どう紹介しようか」
「んん?1番の愛妻と言えば良い」
「それは祝寝やし。おれより強いと言うた方が良いかなあ」
「心も言葉も、はっきり言いおる。蹴速の親なのじゃから、蹴速の好きにせい」
「ま、そうやな」
魔王の中で親の概念が有るのは、亜意だけかも知れない。他の者に取っては、それはシロを指すが、シロは普通の親ではない。
「おれ達は?」
「お前らは、既に顔見知りやん」
無双双児、超騎士などは、兵時代から付き合いが有る。親の方でも、兵の武具を提供しているので、ある程度顔が広い。ジンはもう、幼少期からの知り合い、と言うか蹴速の親に取って、2人目の子供のようなものだった。
「私達も、1度だけのご挨拶だったな。神無の帰りを待って、会おうか。有我」
「そだね。3名家で会った方が説明が楽だし」
あちらの魔王達、3名家は当然、深い付き合いは無い。
「私は、何時でも」
一飲涙美乗利は、出来れば三十鬼三問の影にでも居たかった。三十鬼のお付きのように控えながら紹介してもらえれば。
だが三十鬼はまだヤマトだ。
三十鬼は、ヤマト王に、本格的な出張を申し出た。
その意味する所、三十鬼は分かっている。
「そうか。だが、忘れ物だ」
ヤマト王は、三十鬼から返された邪馬太刀を、もう一度三十鬼に預けた。
「言ったはずだ。これは、ヤマトナンバーワンが持つべきもの。それは、お前以外に居ない。・・・生き残り、子を育て、ヤマトを陰ながら応援してくれる事を期待している」
「そのような建前、要りませぬ」
建前と同時、本気であった。ヤマト王、御加土土加作の思考には、さて、蹴速の嫁をヤマトに留めおくと言うのは、まさかコウチに対しての人質と勘ぐらないだろうか?と言う疑問が有った。コウチは苛烈。人質がポロリと涙の一粒でも流せば、その日の内にヤマトが消失する。そんな危険物を国内に置いておきたくない。例え、ヤマトナンバーワンを放出しても。
三十鬼には、この感覚は無い。ナンバーが国を裏切る事も、国がナンバーを外に出したがる事態も、想像出来ない。
「お前は、引退までナンバーワンだ。無論、十言や九重が追い付けば、その限りでは無いが」
ヤマトとの繋がりを完全に断ち切らせるのは言語道断。もったいないにも程が有る。三十鬼は、ヤマトのお守りだ。余程の事をしなければ、ヤマトはひどい目に合わずに済む。そんな仕事を、三十鬼には期待している。
三十鬼も、気付いた。そう言う事か。
「では、遠慮無く」
十言、九重。早くこの剣を奪いに来い。
この剣だけは、ヤマトに在るべきなのだ。
・・・本当に、そうか?
一飲涙は、三十鬼の陥った状況は知らない。だが、自ら意識的にそうしようとしている。エヒメナンバーワン、エヒメトップのやるべき事。どうすれば、エヒメを守れるか。
蹴速の嫁になっていたのは、予定の内だが、想定とは随分ちがうのも事実。まさか、コウチトップクラスがそろっているなんて、有り得ない。常識が無いのか!いや、有ったなら、世界征服を志し、遂げるなども有り得ない事だった。その途上、この一飲涙美乗利も噛ませてもらう。エヒメのトップも世界征服に貢献した、そう言う実績が生まれるはずだ。
獣沓は、自然にそこに居た。盲導犬と言う名目で普段は付き従えているので、首輪にリード付きだが。
己の体が、人間と言うものに比して巨きい、事に早くに気付けたのは良かったかも知れない。奇妙な人間達の機嫌を取りながら生きるのが、効率が良さそうだ。
そして獣沓は、鍛える、と言う概念を習得する。
「こう、でしょうか」
「うん、上手い上手い」
モモに教えてもらって、戦闘の際の立ち回りを覚える。もちろん、魔王達と一緒に行軍した時の動きだけだが。
モモは、別に格闘術を学んだわけではない。ただ、アカや蹴速の動きを見て覚え、キの魔獣の動かし方を見て覚えただけだ。
「基本的には逃げれば良いけど、それじゃ面白くないわよね。アカの魔獣形態を見習いましょうか」
「ははあ」
魔獣形態。アカの変身した姿だ。恐らく、獣沓の千倍から万倍は強い。だが、肉体の機構としては、似ていると言って良い。覚えられるものも有るだろう。
「こう!」
「・・・!」
アカに教わる事は、多くは無かった。ただ有り余る魔力に物を言わせて突っ込むだけなのだから。それでも、その全てをぶつける力の瞬間は、見るべきものが有った。暗黒大陸での獣沓の狩りには、速攻とカッパライしか無かった。じ・・・っと、獲物の飛んでくるのを待つ。もしくは、自分より弱い魔獣の獲物を奪う。それだけで、強敵とぶつかり合うなどと言う生き方は知らない。そんな真似をするのは、兆獣王だけで、アレを標準と思う事は、獣沓には出来なかった。
力を操ると言う発想を得て、獣沓は自分の限界まで引き出す術を覚えた。全力を出す、と言うのは、実は無駄な事だ。そこまでしなければいけない相手と事を構えている時点で、生き残る能力に欠けている。身を潜めコソコソしていた方が良い。それこそ、兆獣王なんぞと張り合うと、命が幾つ有っても足りない。だが、それをした方が良い局面のようだ。力を振り絞り、離脱した方が。
魔王達。更にそれより強い蹴速。彼らの戦場に付き従うなら、逃げ足は絶対に鍛え上げる必要が有る。今より速い足を手に入れなくては、味方に殺される。
「おっけおっけ。速くなってる。魔力を乗せると移動も速くなるでしょ」
獣沓も最下級の魔獣ではない。ホンの少しではあっても、魔力の使い方は何となく分かっていた。ただ、それを本格的に知覚して使いこなした事は無い。意識して使うと、全くちがう。
「確かに、これは面白いものですね」
今までより速く、己の肉体限界を超えて走る。獣沓は快感を覚えた。
「気を付けなくちゃいけないのは、あくまで魔力強化した部位は限定されている事。これは、例え魔神様でも例外じゃあないんだ。蹴速の攻撃を受ける前提で強化した腕は折れない。でも、それ以外の部分は普段の、あるいは戦闘用の強化でしかない。足にでも食らえば、間違いなく折れる。ちなみに、おれ達が食らうと死ぬから、受けない方が良いよ」
「良いアドバイスを頂きました」
あんな化け物と、誰が戦うか。
モモには、海で一緒に泳いで以来、良くしてもらっている。色々な事を教えてもらい、魔王達との繋がりも作ってもらった。
最も世話になったキとは、そこそこの関係だ。
もし、今より強くなれたなら。キを助けたいと、思わなくもない。危険な事には関わりたくないものだが。
「マオミドリを除いた全員、集合しましたね」
「ああ。美津波賀も黄神も」
ついでにアカも海鶴も。素知らぬ顔でシロもクロも居る。
「ではこれより。第一回子供会議を始めます!議長は私、マシロ。司会進行はマシロ、決定はマシロでお送りします」
「それは独演会ですね」
「いいえ!あなた達の話も聞くだけは聞きます。もちろん、聞く価値が有れば、の話ですが」
兄弟姉妹の間で、取りあえず真っ先にマシロを潰す決定が為された瞬間であった。
「次代魔神たるこのマシロ。魔王として成長を期待出来るマアカ、マオミドリ、マキ、マクロ。各々の種族の能力を期待出来る美津波賀、黄神。これだけの軍勢ならば、2つの世界を征してなお有り余る権勢が得られるでしょう」
「異論は有りません。しかし、得てどうするのです。我らは、支配者の更に上位に在って、適当を極めれば良いではないですか」
「ええ。ですが、一度やってみたかったのです。実効支配!」
「だよね!おれもお父さんと思いっきりやりたいし」
マクロは黙して語らず。マシロ以下の兄弟達を見守り、行き過ぎやり過ぎが有れば、止める。実質的な支配者を目指していた。
アカは、皆に似合う服を考えていた。いつも服屋ではしゃぐのはアカと決まっていた。戦闘にも映える一張羅をこしらえてやらなければ。
シロは、この場の全員の野心を見通していた。そして、心地良さを感じていた。いつか、この中の誰かが蹴速より、自分より強くなるかも知れない。それはマシロなのか、マアカなのか、また他の誰かかも知れない。何にせよ、楽しみな事だ。
クロは、力の及ぶ限り子供達を守ろうと思った。同じ子供同士の殺し合いも、いつか始まるかも知れない。その時、誰をも守ろう。勝負つかず、決着つかずの状態に持ち込む。ただし、クロの力の限りだ。クロを超えているなら、その子の勝ちだ。
兄姉の話し合いの最中、美津波賀と黄神はシロの体によじ登っていた。お互い、泳いだり飛んだりは得意なのだが、歩くのは不得手だった。海鶴は、そんな子供達を、落ちた時、拾えるよう支えられるよう、見ていた。




