2人旅。鮭川。そして、帰郷。
刀農を騒がせたであろう、殻ペンギンの奇襲。だがそれは、特盛と刀農兵の活躍によって、未然に防がれた。
その張本人の1人。平特盛は、悩んでいた。
悩みすぎて、危うく斬場刀を人にぶつけそうになったり、建物を破壊しそうになったりしていた。全て、超騎士が守ってくれたが。
ぼうっとして、街を歩き、食べ、飲み。
そうして、時のままに、鮭川に向かった。
こんな気持ちで、鮭川のコウチ兵に会うのか。
こんな情けない兵が、かつて居たか。
「着きましたね」
「ああ」
見えてきた。鮭川。ブルーランドの人間を斬りまくり、コウチ兵が散った場所。
「刀農もそうでしたが、鮭川も中々」
雪国に到着した。
「進むのに一苦労ですね」
「ああ」
鮭川に着いてから、特盛が生返事しかしなくなった。
新築の倉庫。そう、特盛が破壊した倉庫跡に建っている。
超騎士も特盛の活躍は聞いている。特盛がじっと見ているのは、倉庫ごとぶった斬ったと言うアレか。
「先ず。・・・コウチの詰所に行くか」
「はい」
どうであれ。特盛は歩んでいる。なら、それで良い。
いつも通り、斬場刀を駐車場に置き、挨拶。
「うぃーっす。久々!」
「おお。特盛さん!」
3名家の息がかかっている特盛は、そこそこ重要視されている。それにここ、鮭川に於いては、存分に実力を示した。
「また何か、戦乱の兆しですか?」
「いんや。観光だ!美味いもん食いに来たぜ!」
「おおお!どうぞ!!」
観光案内をもらった!
斬場刀を預けて、散策。寒冷地を徒歩はオススメ出来ない、と言われたので、犬ゾリ。
「タフな犬だ」
「元々、犬は頑丈な生き物のようですが、目の当たりにすると驚きですね」
体高2メートル、重さ300キロ程の犬が従順にソリを引いていく。犬は2頭。
こいつらは、コウチに仕えているのか。いざとなれば、戦場にも。
何となし、動物を見ると、殻ペンギンを思って、気持ちが繊細になる。
「ブルーランドの奴らは、何処で働いていると思う?」
「聞けなかったのですか?」
「他意が有る、と勘ぐられても困る。ブルーランドの奴らをどうこうしたいんじゃない。おれが、見たいだけなんだ。おれが動いて、どうなっちまったのか」
そういう気配りは出来るのか。見張りだ!で、特盛なら押し通せると思うが。何なら、本当に順応の様子見でも装えば良い。梅なら、自然に口裏を合わせてくれるだろう。
そこまで考えるのは、まだ早いか。
超騎士は、丁寧に特盛を観察していた。梅が望むなら、経過報告をしても良い。特盛は屈辱に思うだろうが、バレなければ構わない。それに、梅が本心から心配していたとでも言えば、問題有るまい。
今、最も活動が激しい地域に居るだろう、と言う事で、開拓の現場が有る場所に向かった。昼を食べてから。
開拓村になっていた。斬場刀を持っていない特盛は、目立たない。
普通のキリン人間と武装サイの2人組が、物見遊山に来ただけだ。
「何やってんだろう」
「私にも詳しい事は分かりませんが。木の切り出しと調査。魔獣の生息範囲を侵していないかをチェックしているようです」
もしも、鮭川の未開地魔獣を刺激してしまったら。ここに居る兵だけでは、絶対に防ぎきれない。
切り込んでいいラインを見極めている最中か。
3名家の頭には、いずれ大農耕地、工業地帯を作る事も想定の中に有るが、今はまだ、何も手を付けられない。先に鮭川の人間が、開発を終えるかも知れない。それならそれで良い。上がりを、ほんの少し分けてもらえれば。
皆、忙しそうだ。活気に満ち、気力が溢れている。
特盛も、少し前まで、こんなだったのだ。
「料理屋も並んでいますね。商店街も」
「ああ。本格的に動いてんな」
まだ道路の外は土の地面だ。コンクリートやアスファルトは、最低限しか無い。ここまで、一気に来たのだろう。
「どうです?感想は」
「たくましいな」
「他には」
「すげえ」
すごい。生存圏を追われ、流れ着いた土地で生き残る事に成功している。
おれより強い者は居なかったはずだ。だが、今こうして頑張っているのは、こいつらだ。
おれは、本当に、強かったのか?弱くは、ない。だが。いや。
「行きましょうか」
「ああ・・」
また、考えにふけってしまった特盛を連れて、開拓村を後にする。
さて。夜中に森を刺激して、特盛の活躍する舞台を作り、復帰を促す手も有るが。どうする。
焦る事も無いか。
超騎士は、鮭川の人間を多少犠牲にする事で、特盛が調子を取り戻すなら、やっても良かった。だが、それは必要な場面で効果的に使ってこそ。無駄使いは、ダメだ。
詰所の一室にて。
「マジで、おれは悩んでいる。それをお前に相談しても、どうにもならねえけど、喋る位には」
「随分と、素直な方ですね。知っていましたけど」
「おれは、誰にも、犬にも劣ってんのか」
「そんな事は有りませんよ」
「今のおれは、そうなんだよ」
また、泣き始めた。
こんな時。他の家族なら、上手くやれるのだろうか。超騎士の思考には、再び剣を取らせる方法しか思い浮かばなかった。
夜明け。犬ゾリで散歩。
「餌が欲しけりゃ走れあっ!」
「はは」
一晩寝たら、元気になってた。
超騎士は、精神的疲労で、ぐったりとなった。
考えて、考えて、考えて。それでも、分からなかった。なら。
分からないのだ!!!
特盛は、分からない問題に、答えを出さなかった。分からなかった、と言う事実を、心に置いておく。
バカの考え、休むに似たり。考える事は無駄では無い。だが、答えが出るとも限らないし、プラスになる保証も、当然無い。
分からなかったなら、それは休憩が出来た、良かった良かったと思えば良いのだ。
構わん。人生の選択枝の正解が分からないように、自分の行いの正しきもまた、分からないのだ。
特盛は、己の壁を乗り越えることも、打ち壊す事も出来なかった。ただ、壁と向き合った。己の中に、弱さが有る事を知った。
朝起きて、犬ゾリで遊んで、楽しい。
これが、今のおれの限界か。分かった。
仕方ねえ。これが、おれなんだ。
特盛は、己を見つめ、己を認めた。そして、横に置いた。
向き合う日が、また来たら。その時。今よりマシな自分で在れば、良い。
鮭川コウチ兵とも挨拶。
「先日は、マジに世話になった。お前らのおかげで、大金星よ。梅さんからも挨拶が有っただろうが、おれからも改めて。有難う」
「いやいや。お前のおかげで、おれ達も恩賞もらったし。死んだ奴らの家族にも、ちゃんと金が渡った。ありがてえ。何もナシは、キツ過ぎるからな」
「当然だろうよ。ケチくさいのは、いけねえ」
「だな!」
わはは!
超騎士は、ニコニコしながら見守っている。もちろん、愛想笑いだ。
「一言、礼が言いたかった。じゃあな!元気でな!」
「お前もな!」
「特盛さんも、お元気で!」
コウチ兵数十名が、特盛の見送りに来てくれた。
「またな!!」
特盛は全力で斬場刀を振り上げ、高々と掲げて見せた!
超騎士は、大人しく特盛に付いて行く。
「来て良かったですか。この旅は」
もしかしたら、失ったものも有ったかも知れないが。
「ああ。お前と一緒で、ほんとに良かった。楽しかったぜ」
「そうですか。光栄です」
「お前は、どうなんだ。蹴速と来れれば~とか考えてないか?」
「それはもちろん。ですが、気心の知れた相手との旅行も、面白いものでしたよ。私も、楽しかった」
大きなカバンには、お揃いの着ぐるみが大事にしまわれている。
久々に会えた家族の顔は、懐かしさすら感じたが、それも一瞬。あっという間に、普段に戻った。
これが、家か。
特盛は、両親への土産を持って、一旦家を離れた。
「まあ!お帰りなさい!」
「どうした!?ま、まさか、お見限りに!」
「ちがう!これお土産。あと、梅さんから、日頃お世話になってるからって」
特盛が、土産の品をどちゃっと床に置く。
「すごいわねえ」
「おおお」
鮭川、刀農が、すごい寒い場所だった。犬ゾリに初めて乗った。御都は綺麗なとこだった。ヤマトは、何だかんだすごかった。
話は尽きない。
「今日は、こっちで泊まってく?」
「んー。どうしようかな」
「そうしろそうしろ」
「何も言ってないからなあ」
「でも、こっちに来る事は伝えてあるんでしょう。なら良いじゃない」
「まあねー」
「良し!今日は寿司を取ろう!」
「特盛、そう言う事になったわよ」
「はいはい・・・」
特盛は、暖かい場所に帰って来た。




