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2人旅。刀農。特盛の直面したもの。

 刀農は雪だった。


「寒う。お前は平気か、って聞く必要は無かったな」


「ええ。はっきり言って、結界で十分。衣服は人目に付かないためのものですね」


「すげえな」


「もう癖ですね。結界強度の維持のために意識下、無意識下によらず、ずっと結界を張り続ける鍛錬をしていたら、日常的に衣服をまとうように、結界をまとっていました」


「当然ちゃ当然だが。やっぱり、めっちゃ頑張ってんだなあ」


「そうでもないですよ。ただの趣味です」


 あ、やっぱこいつもオカシイ人なんだ。特盛は安心した。


 雪だるま、雪武者、雪ぞり。雪景色は、それでも人目を楽しませる。


「すっげえ。コウチも雪は降るけど、ここまでは降らねえ」


「私の故郷もそうですね。別の地方ならともかく、ここまでは降りませんね」


 街行く人々もそれらしい格好をしている。


 特盛は、車から降りると、当然雪国の格好ではない。


「店入るか」


「ええ」


 それでも超騎士がすぐに結界を張ってくれて、寒さは感じていなかったのだ。だから、落ち着いて観光が出来た。


 防寒着を買い込む。超騎士の分も。


「しかし、これは」


「良いじゃねえか」


 超騎士は、ペンギンの着ぐるみを購入していた。特盛の強い後押しによって。


 特盛の頭には、あのブルーランドの殻ペンギンの姿が焼き付いていた。斬場刀すら弾いた絶対防御。実に超騎士に似合う。もちろん、着ぐるみは普通のペンギンだが。フリーサイズなら、鎧の上から着込める。雨合羽(あまがっぱ)のように。


 超騎士ペンギン誕生。いや、ペンギン超騎士か。


「おお・・・・。威風漂う。何着ても似合うなあ」


「そうでしょうか?」


 武器を取り付けるために、穴開け加工もしてもらった。フル武装ペンギン。


「特盛も何かどうです。ライオンや虎など有れば、似合いそうですよ」


「そうかあ?」


 そういった可愛いのは、自分の領分ではなさそうだが。超騎士が言うのなら、探してみるか。


 パンダ。カエル。トカゲ。狛犬。竜。何でも有るが。さて、自分に似合うのは一体。


「これなど、どうでしょう」


 超騎士が差し出したのは、サイの着ぐるみ。


「角か?」


「ええ。一点突破。絶対的な火力の象徴として。ゾウでもカバでも良いのですが。ああ、キリンも似合いますね。いえ、むしろキリンが良いでしょうか?」


「うーん。そうだなあ」


 サイか、キリンか。どちらも特盛は動物園で見た事が有る。言葉面では、カバを逆さに着ると自分らしい気もするが。逆さとか、恥ずかしいしな。かっこいいのはサイ。可愛いのはキリン。強いのは、両方。


「分かった。両方買うぜ。代わりばんこに着れば良い」


「そうですね」


「超騎士も、もう一着何か買っとくか」


「私もですか」


「良いのが有れば、買っておけよ」


 言われて超騎士もサイを買った。


「おそろいか」


「ええ。頑丈な装甲は良いものです」


 それを言えば、ゾウでもアルマジロでも良いのだが。折角だ。


「刀農は、何が有るんだろうな」


「この雪化粧された街の中で、あるもの。雪国の街並みを拝見しましょう」


「おお!パンフレットにも有ったな」


 普通の人間は暖を求めて、こぞって建物に入るのだが。


 積雪2メートルの中を、淡々と歩く。


「これで、誰か外で鍛錬してたら、そいつに稽古を申し出れば良いんだがなあ」


「分かりやすいですね」


 そんな人騒がせな人間が特盛以外に居るわけが。


「居た。行ってみようぜ」


「はい」


 これは。予測能力で、特盛に遅れを取ったのか。


 超騎士は、ちょっぴりショックを受けた。


 雪に埋まった道を、ひた走る武装兵。無駄にフル武装だ。いや、魔獣でも出現したのか?


「よお。そんな急いでどした」


 特盛は走る兵に追い付いて、横を走りながら質問した。


 兵は馬鹿みたいに巨大な武器を背負い並走するサイ人間に、何とか答えた。


「うおっ!いや、何。魔獣が現れてな!他国の者か。その辺の店にでも入っていろ。外よりはマシだ!」


 言い終わると、兵は前を向き、敵に居るであろう場所に全力疾走する。


「袖すりあうも他生の縁。助太刀するぜ!」


「行きましょう」


「死んでも知らんぞ!!」


 それ以上は言わず、走る。


 超騎士は既に探索を終えていた。この兵に付いていけば、着く。


「ほう」


「これは・・・何だ!」


「殻ペンギンだ。しかし、なんで此処に居やがる」


 それは、特盛がヤマトの下位ナンバーと共に屠った、ブルーランド生物の王。だが、あれは極端な極寒の地。刀農も寒いが、ブルーランドは比べ物にならない。こんな場所で、殻ペンギンが生きられるのか?冬だから、生息範囲が大きくなってるのか。


「被害はまだ、ですね」


 海岸沿い。そこで、間に合った兵が威嚇(いかく)をしている。


「あれを、知っているのか」


「前、同種を斬った事が有る。はるか北でな」


「斬ったのか。なら、どう対処すれば良いかも」


「ああ。こうするのよ!」


 特盛は斬場刀を持って、砂浜を駆けた!


「ええい!」


 他国の者に、この刀農を救われるのを黙っていては!


 この者。刀農では珍しい思考だったりする。刀農は、結果オーライを良しとする。故に、特盛が出張って何とかなるなら、そうさせる。自分達が、刀農の者が、と言う自意識は、刀農には薄い。


 殻ペンギンの足を狙い、斬場刀を全力で振る!


 躱した!


「んん?」


 殻ペンギンなら、甲羅を盾にするはず。もしくは、高速回転により弾き飛ばすか。なんだ、こいつ。


「くわくわ」


「ああ?」


 話しかけてきた。


「くわ!」


「分からねえ。もしかして、仇討ちか?なら、おれだ。おれが、お前の親か何かを、殺った」


 特盛は、斬場刀を砂浜に突き立てた。


「わりいな。邪魔だったんで殺した。今すぐ尻尾を巻いて逃げれば、追わない。どうする」


 サイズが1回り以上小さい。恐らく、子。


 子殺しか。


「くわ!!」


「そうか」


 突っ込んできたクチバシを避け、特盛は、斬場刀を引き抜き、首を刎ねた。


「前のめり過ぎだぜ」


 やべえ。辛い、と感じてしまう。こんなんじゃダメだ。おれは、コウチの最前線を切り開くのに。親子も兄弟も友達も。コウチの敵は切り伏せるのが、おれなのに。


「おおお!すさまじいものだ!」


「ああ。後始末は、任せて良いか。じゃあな」


 話をして、稽古もしたかったが。気分じゃない。逃げ帰りたい。


 てくてく歩いて去るサイ人間と武装ペンギンを見送ってしまう兵。話を。しかし、この処理は、仕事だ。置いておけるか、こんなもの。


「良い働きでしたよ」


「ああ・・・」


「慣れますよ」


「そう、か?」


「ええ」


 超騎士の、声の響きににじみ出た、深みに気付いた。おれは修羅場をくぐったと思っていた。だが、そんなのは、公園の砂場だったんだ。


 おれは、こんなにも弱かったのか。


 超騎士は、何も言わずに居てくれる。


 どうしよう。泣きたい。


「いずれ、慣れます。ですから、今は構いません。誰も、見ては」


「おお」


お お お お


 特盛は泣いた。あの、子は、仇を討つために、こんな場所まで。余程の恨みであったろう。どうすれば、良かったのだ。


 特盛の号泣を、誰にも聞かれぬようにした超騎士は、近くのベンチを探した。そこに案内。


 泣き止むまで、待つ。


 斬りまくったブルーランドの者達も、そうだ、初めて人を斬ったカガワナンバー4を名乗った者も。今まで、辛いと感じた事など、無かったのに。何故。


 今まで斬った者にも、当然家族も友も有ったはずだ。そんな事は知っていた。その上で斬ったのではなかったのか。


 おれは、一体、何を考えている!


 あらゆる兵、強者、戦士が、一度ならず悩む問題に直面した特盛は、頭を振り絞っていた。


 答えなど、見つからぬ問題だと、超騎士は知っているが。


 人が人を殺して良い理由など、無い。だが、もし。動物が植物が虫が、人と同じ知性を持ち同じ心を持っていたなら。私達は、殺さないのか。皆で仲良く飢え死にするか。それは、美しい光景であろう。異論は無い。


 だが、生きたい。己のためなら、大抵のものは犠牲にして良い。大半の者は、開き直った。己と、属する社会に基準を置く事によって、悩みを置いておく事に成功した。


 特盛は、どうする。超騎士は、アドバイス出来る位置に居る。何なら、今すぐ家まで連れ帰り、皆に相談させても良い。


 近所の飯屋を探索。泣き止んだら、何処で温かいものを食べさせるかを思考。


 悩め。若者の特権であり、仕事だ。自分の中から、ひねり出せ。


 その後なら、自分なりの答えを探し求めた後なら、話し合う事も出来よう。


 蹴速は、悩みを持っていなかった。虫を慈しみながら、人間を無造作に殺し抜いた。同じ命であるが故に。自分に極端に基準を置くと、蹴速になる。自分以外、祝寝、ジン、家族、一部の兵以外に、価値を求めていなかった。誰が死んでも居なくなっても良い。だから、何百万人でも平気で殺し回った。それでいて、自分が殺したくないと思った害虫を殺すのは、心を痛めた事も有る。


 鎧の中から取り出したティッシュボックスを特盛に差し出し、超騎士はラーメン屋に誘導した。


 水分が必要だろう。


 以前、蹴速に日本食を案内してもらった時、行ったのが、回転寿司とラーメンだった。


 雑談はした。だが、踏み込む事無く、その日は眠りについた。

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