特盛、超騎士、2人旅。先ずはヤマト。
平特盛は、旅に出ていた。旅と言っても、ちょっとした小旅行だ。
「ま、適当に行こうぜ」
「ええ」
超騎士は、少し考えた。蹴速の側を離れては、蹴速を守れない。自分の主と決めた者を。しかし、更なる強さが欲しい。
今回、特盛はダイコウチの東側を見て回る。見物であり、礼の訪問でもある。
超騎士は、そんな特盛の護衛を買って出た。
蹴速の側に居なければ、蹴速を守れない。だが蹴速の側に居れば、危機感が全く無い。窮地が無い、レベルアップの機会が無い。
弱者の側に居たら、どうだろう。
家で弱いのは、子供、で無ければ特盛だ。完全に非戦闘要員である、祝寝、海鶴、己黄を除けば。
「先ず船だ。重い武器が有るなら、おれと同じ貨物船に載せれば良い」
「いえ。そこまでの物は持っていません」
超騎士の武装は斧、剣、盾、槍。それらを全身鎧の上に付けている。装備重量は実に240キロにも達するが、斬場刀に比べれば、薄手のシャツのようなものだ。
船を調達する特盛を見て、感心する超騎士。
ちゃんと積み重ねている。地に足の着いた振る舞い。
超騎士が初めて特盛を見た時。特盛はただの観客だった。あれから、そう日は経っていない。真面目に鍛錬して来たのだな。
今更な話だ。超騎士自身、特盛に付き合って訓練していたりするのだ。だが、特盛の若さが羨ましい。これから幾らでも強くなれる。
超騎士。イギリス最強。地球、全世界にあっても、有数の兵。
28才、既婚。
まだ伸びる。が、若い頃のような急激な伸びは期待出来ない。
特盛は、これからだ。
羨ましい羨ましい、そう思いつつ超騎士も、全力で特盛を鍛える手伝いをした。手を抜けない性格故に。それに、蹴速の嫁の1人である特盛を手助けするのは、正しく超騎士の義務。
行き詰まっていた。亜意に、息抜きして来い、そう言われる程には。
感謝しておこう。このままで、もし、蹴速の側でミスをしたなら。いたたまれなかっただろう。そうなる前に、家から追い出してくれた。
亜意と梅は要注意だ。祝寝以外でライバルになりうる人物。
だが、頼れるのも、彼女達だ。
今は私が梅の代わりに特盛を見てみるか。亜意にも、私なりだが、結界の張り方を教えても良い。
超騎士は、案外不器用な人間だった。
ヤマト到着。
お守り付きでご挨拶とは、恥ずかしい話だが。仕方無い。未熟は、承知の上。
本部に向かい、九重と十言を呼び出す。コウチの特盛が礼を言いに来た、と。
本来、会えるような人間ではない。相手は上位ナンバー。二神や三鬼を他国の雑兵が呼び出すなど、出来るわけが無い。優しく帰ってもらうか、大地に還ってもらうか、どちらかになる。
特盛は、知己を頼ったのでは無い。コネも気にして無い。会いたいから、会いに来た。呼んで来なければ、仕方無い。三十鬼に会って、伝言を頼もう。
真の、究極の馬鹿である特盛は、幾らか知り合いである三十鬼を伝言役にしようと思っていた。ヤマトナンバーワンを。
寝屋を共にし、多少の気心も知れている。住んでいる所も、聞いた。遊びに行くとか、そんな話はしていないが。まあ、良いだろう。
ヤマト本部で、ぼーっと突っ立って、ジロジロ見られていると、十言が来てくれた。
「よお」
「おお。久しぶりだな」
十言充言は、特盛を覚えていてくれた。
超騎士も1度だけ会った事が有るが。
「そちらも、1度お見受けしたな」
「ええ。お変わりなさそうで何よりです」
ヤマトの強豪は頭も有るのか。厄介だな。
「あれ。会った事有るのか」
お前も居ただろうが。
三鬼梅がヤマトに入り、ヤマト王、御加土と会い話をまとめた時。その時、九重と十言は、コウチ一行に会いに来た。その場に、超騎士も特盛も居たのだ。
「元気だったか。九重は暇か?」
「ああ。九重は今、下位ナンバーの訓練を見ている。何か用か?また化け物と戦うのなら、大歓迎だぞ」
「ほっほう。頑張ってんな。だが、そんな物騒な用事じゃねえ。礼を言いに来たんだ。ありがとう」
特盛は頭を下げた。
「船の手はず。貨物船まで。そして増援。何もかも世話になっちまった。ヤマトの手助けが無ければ、おれ1人じゃ、どうしようも無かった。梅さんからも礼が行っただろうが、おれからも改めて礼を言わせてくれ。ありがとう」
「どういたしまして。と、言っておこう。こちらにも考え有っての事だ。それにフ・ズィでは、お前の活躍だったじゃないか。あそこはおれ達が守る約定が有る。それを、コウチの者に助けてもらった。こちらこそ、ありがとうございました」
ヤマトナンバーツーが、深々と頭を下げた。下げられ慣れている超騎士はともかく、実力で十言が自らより上と思っている特盛は落ち着かない。
実際、フ・ズィの件は特盛の大暴れによって、不進林の主を刺激した形だ。放っておけば、更に巨きくなっていただろうが。
「良いって!おれだって仕事だったんだよ!」
「おれ達もさ」
十言のウインク。気を使える奴。
「何なら、訓練場に行ってみるか。九重にも会っていけよ」
「良いのかよ。なら、お邪魔させてもらうぜ」
去って行く3人。十言も特に説明しなかったが、ナンバーツーが迎えに来て、頭を下げた相手は、何者なのか。少し話題になった。
ここヤマトでナンバーは力の化身であっても、権力とは直接結ばれていない。それらが一体となったコウチとは違いが有る。コウチで3名家が表であのような事は出来ない。二神ならともかく、一一人が三十鬼と表で稽古は出来ないのだ。家なら可能だが。
ただ、明らかに雰囲気を漂わせた超騎士の方が、強者と認識された。特盛はお付きか何かだと。実力としては、何も間違っていない認識ではある。
「遅い!」
九重が、下位ナンバーを弾き飛ばしていた。どうやら3人を同時に相手取っている。
「影響を受けやすい奴」
十言がぼそりと呟く。
「張り切ってんなあ」
やはり強い。肩を並べて戦ったとは言え、九重の方が圧倒的に強いのだ。
「まだ!」
突っ込む下位ナンバー。
「お。不津鳴じゃねえか」
「ああ。あいつも、また強くなったぞ」
不津鳴は数十の己を現すが、その瞬間に九重に握りを押し込まれ、膝を折った。不津鳴が倒れる間際、九重が不津鳴を襲った隙を狙い、残り2人が九重を襲うが、九重は、もう居ない。
「もっと速く!来い!」
分け身は使わない。直線。読まれても良い。こうまで言われて通せないなどと!
2人は別方向から、全く同時に突っ込んだ。九重なら避ける事は出来るが。
誘って逃げては、その場で上位ナンバーを降りる必要が有る。
同時に来る斬撃。流石ヤマトのナンバー。これを1本の剣で防ぐのは、不可能。ならば、こうだ。
同時に来る剣の2倍の速度で、九重は剣を振り切った。故に2方向からの攻撃は、およそ同時に弾かれた。
不可能とは常人の言葉。ヤマトのナンバーは、常人ではない。
「速い」
特盛も大真面目に見学していた。
1人1人叩きのめされ、終わった。
超騎士の感覚では、強い、が警戒の必要は無い。魔王からが危ない。有我、三十鬼レベルなら、正面からなら押し切れる。
それより、九重の動きが見えているらしい特盛が気になった。距離が離れているから、見やすいと言えばそうなのだが。ふむ。
「今回の戦術の明暗、結果の理由をまとめて提出。後は各々の得意戦術を磨いておけ」
指示を出す九重。
「すげえな」
「あれでも、ヤマトトップクラスの1人だ。ここまで来る前は、おれ達もトップに面倒を見てもらっていた。お前だってそうだろ?」
「いや。おれは、今も見てもらってるなあ・・」
特盛は、今も身分としては、ただの一般兵。もしくは蹴速亭警備員だ。
とてもではないが、偉い事は何も言えない。
対外的には、フ・ズィの化け物をわずか5人で倒し、コウチ兵を率い鮭川に来たブルーランドの人間を迎撃、ヤマトの船と精鋭を率いて、逆にブルーランドを制した。有能どころでは無い、超スーパーすごい戦士だ。
だが、それら全てにお膳立てが為されていた事を特盛は知っている。自分の働きは誇らしいが、誰かに助けてもらっている事も、良く分かっているのだ。だから、外に向かって自慢出来ない。
本当は、自慢して良い。助けが有ろうが、動いたのは特盛。特盛が動かなければ、助けも意味が無い。目的が無いのだから。
むしろ、そうやって大威張りしてこそ、助けた者達も、助けて良かったと思えるのだが。まだ年若い特盛には、分からなかった。
斬場刀を振り回し大立ち回りを演じた特盛は、十言に取って、面白い奴、だった。斬ろうと思えば、簡単に斬れる。恐らく、一緒に居たクマモトナンバーワンの方が手強かろう。
だが、あれに突っかかった特盛の度胸は賞賛に値する。見事、結果を出した事も。
「特盛か!久しぶりじゃねえか!」
「おお!動きを見せてもらってたが、つええな相変わらず!」
お互いに抱き合って、再会を喜び合う。
「お。前も会ったよな。えーと」
「超騎士。よろしくお願いします」
「ああ。よろしく。九重九連だ」
こちらは普通に挨拶。握手もしてみるが。
「すげえな」
「それはまあ、金属の籠手ですから」
「いや。すごい迫力だ」
九重は感じ取った。しっかりと握った手。九重は、鉄くらいなら握り潰せる。鉄骨を素手で折り曲げる位は出来る。
だが、この手は。こちらが潰される。
分かっていた事だが。魔神戦に駆り出された超騎士と、それを見ていただけの自分の差。特盛は改めて理解させられた。
戦友が褒めているのが、自分ではない。
顔には、出さない。
超騎士は、その寂しさに気付いたが、何もしない。それは、その心の弱さは、抱えておいた方が良い。それが、あなたを強さに向かわせる。そうして、家に帰ったら、蹴速や梅に癒してもらえば良い。
弱いから強くなれる。




