熊大将の心。コウチの風。
熊大将壱日は、ナインライン全土を回って行った。人の話を聞く。自分の気持ちを言う。コウチと共に行くか。各々の力を高めるか。
熊大将は、コウチと行く。
ナインラインに、ダイコウチからの独立を企てるものは居ない。だが、そのナインラインで一旗揚げようと言うものは居る。例えばクマモト。例えばミヤザキ。そして、他の国全て。
残念ながら、ナインラインに、大人しく従ったままで居よう、と言う国はあまり無い。虎視眈々、出し抜く機会を待っている国ばかり。
話してみても、やはりそうだ。コウチとの独自パイプを模索している国。共有する資源、技術を提携、連携して産業に打って出ようと言う国。武力を以って、コウチに仕えようとする国。野心が心地良い。
最精鋭を失ったあの日から、何とか立ち直っている。
おれを、見ているか。お前らを、むざむざ死なせた癖に、生きながらえ、生を謳歌しているおれを。
親友、部下、多くの命を、己の指揮で失った。指先が冷たくなった。現実感を失い、夢を見ているかのようだった。
かつてのクマモトナンバーワン、綺羅郷の命までを犠牲にして飼っていた火焔流が、一瞬で殺された。
何もかもが、あの日、変わった。有我と魔王達の侵攻。止められる者は、居なかった。止めようとした者達は、皆死んだ。
あの戦場に、1人立つ。
あの日の風とは、ちがう。冷たい。あの時は、武装も相まって暑かったなあ。
お前達には、気に入らないだろうが。
コウチの酒。どぼどぼと、地に吸わせる。
新たな、クマモトの、ナインラインの道筋だ。おれが、守る。今度こそ、きっと。だから、おれを見ていてくれ。呪ってくれて良い。恨んでくれて良い。でも、だから、皆を見ていてあげてくれ。おれだけを恨んでくれ。コウチは、恨まず、利用してくれ。
不味くなかっただろ?今の。もちろん、クマモトが1番だがな。
どうか、皆を見守ってあげて欲しい。お前達の屍を踏みにじる真似は、決してしない。もっと良い国にする。おれは、大将だからな。
熊大将壱日は、ミヤザキへ。礼を言いに。
「元気そうだな。骨を拾う必要は無いか」
「ああ。戦友にとんでもないのが居てな。5人で1万を相手取って、勝ってしまった。ヤマトナンバーワン、三十鬼三問。化け物だったぞ」
「ほう。噂には聞くが、そこまでか」
「どうやら一一人と互角らしい。二神を圧倒する姿は、何度も見た。自分でも稽古を頼んでみたが、相手をしてもらうのが申し訳なくなるな」
「確かに。とんでもない奴らでしたね」
「南刀か。どうだ、新しい飛行機械は」
「ええ。おかげさまで、順調に開発は進んでおります」
「真に受けるなよ。こいつは、どんな奇想天外も順調と言い切るからな」
「大丈夫だ。短い間だが、それは良く分かった」
「それはおかしいでしょう。私はアカさんや神無様との稽古には付いて行きませんよ」
「それを。おれに笑顔で振ったのは、お前だったな」
「ほう。クマモトとの外交は明るそうだな、仮要明」
「そうですね」
笑いの絶えない、愉快な場となった。
「礼を言いに来た。コウチに行って、良かった。今、おれは強く生きている」
「そうか。気持ちが良さそうで、何より」
皮肉気な笑顔。クマモトを立ち直らせて良かったのか。ミヤザキトップの仕事だったのか。
「巨鬼様。みみっちい事考えてると、人間が小さくなりますよ。大きく育てた上で、刈り取れば良いじゃないですか」
「この馬鹿が」
「全く」
仮要明を悪者にする事で、クマモトとミヤザキの外交は上手く行きそうだ。
「大地は順調か」
「ああ。コウチには頭が上がらん。もう、ほぼ持ち直したと言っていい」
「めでたい。放っておけば、ナインライン全土に広がったのではないか。心配していた」
「原因は、複数思い当たるが、どれかは特定出来ていない」
1。クマモトの火焔流。これが大地を巡り魔力の循環をしていたとしたら、それをクマモトに留め続けていたのが原因。
2。魔力を固形化、大量の魔力結晶を作ったミヤザキ。結果、大地の魔力が枯渇。
ミヤザキは、表向き何か言われれば、1案を出す。だが、2案が正解だろうと推測する。他に、そもそも魔力の自然減少なのかも知れない。
魔力結晶はこれからも作り続ける。多少、自然に影響が有ろうが、問題の無い範囲で利用すれば良かろう。その範囲を見極めるためにもデータが必要だ。
「ナインラインの国々を回ってみた。どの国も頑張っている。おれも、クマモトも遠慮無く行けそうだ」
「だろうな。そうでなくては」
ミヤザキも、あらかたの情報は収集している。ただ、熊大将のように直接、面と向き合ってはいない。そうした方が、もちろん、相手に踏み込める。間接情報の弱点は、それが真意か否か、全く読めない事だ。例えば、中つ国からエヒメへの謀略の持ちかけ。あれは、推測情報でしかない。そこを謀略と断定して処断したのは、コウチの果敢さ。もしくは、愚かさ。エヒメ側からの裏付けも取れたとは言え。
コウチが飼い主の間は、ミヤザキの情報はそれなりのお値段で買ってもらえる。仮要明、飛行機械への投資、ナインライン南部の支配許可。
そして、空兵による実戦闘能力の獲得。
順調だ。全てが成長していく。
ただ、コウチは果断。ミヤザキに、おごり、慢心が生じれば、あっという間に切られるだろう。刀農の支配者層が、口答えをしただけで、殺されている。この巨鬼咲黄も、仮要明も、例外では有るまい。
恐怖、畏怖を以って、コウチには臨むべし。
熊大将は、ミヤザキに数日止まり、空兵の実力を見てから帰って行った。
「油断のならない強者だ」
「ええ。豪放磊落に見せて、繊細な気配り。注意力、観察力も有りました。元ナンバーツーと言うのが、効いているのでしょうか」
「そうだな。綺羅の下に居て働いていたのだ。それは、気配り上手にもなろう。あの馬鹿を支えていたなら」
「余程ですね。巨鬼様にそう言われては」
「お前は相変わらずで安心だ。ついでに減給もしてみるか」
「それは困ります。予算に持ち出しているのですから」
「何?コウチからの支援も有るだろう。足りぬはずが」
「いえ。何でもありません」
「待て!」
あの大馬鹿者。どれだけ金を食わせているのだ。
コウチからの支援は、全て飛行機械への支援。そう受け取り、バカ正直に、そう使っている。ミヤザキの予算へは、一銭も入れていない。それを良い事に、幾らでも使い込んでいるな。
このままにしておこう。
そこまで、アイデアが有るのだな?やって見せろ。出来ねば、お前の首、背任の首謀者としてコウチに差し出す。
ばれた!!早く使い込まなきゃ!
仮要明は大急ぎで必要な部品を発注し、職人に予約を出しまくり、術者をキープし始めた。
これで良し。おれの首が飛んでも、部下が完成させる。設計図はもう、出来上がっているのだ。
ミヤザキのトップは、それなりに馬鹿で、部下の大馬鹿を使いこなすには、適任だった。
在前御徳は、天国に居た。
どご
「えぅほっ!」
「おはよう」
「おはようございます・・」
「行くぞ」
「おおおおお!」
御徳は、泣きながら構え、泣きながら我武者羅に剣を振った。
相手は神無、コウチナンバーツー。御徳には、少々荷が重い相手だ。
気絶させられ、癒され、腹を蹴り込まれ起こされ、戦い、
ごお
気絶させられた。
「良い腕だ」
見ていた梅に話を振る。
「だろう?」
「それに、あの部下の方も良い筋をしている」
「やはり使えるな」
訓練場の別の場所を見てみれば、そこには有我、コウチナンバーワンに撃ちまくる、金甲量猟の姿が。
量猟にも、射撃砲撃の腕前を上げさせておく。こいつが、砲撃隊の頭なのだから。
ば!
むくりと起き上がった御徳が神無を急襲する。神無は振り向きもせず、剣を振るい御徳を弾く。片手で、両手の御徳を弾き飛ばした。
「本気を出せ。さもなくば、此処で死ぬぞ」
神無は全力を込めて、剣を振り下ろした。
ナンバーツー、二神の剣。防御は通用しない。受ければ死ぬ。
御徳は、総毛立った体を本能のままに、動かさせた。
速い。
蹴速並み、とは行かない。だが、有我の速度に近付いている。恐らく通常の神無よりは速かろう。
その速度のまま、神無に切り込む。神無は逃げられない。
逃げる必要も、無い。
御徳の剣を受け、砕き、拳を叩き込む。御徳は避ける。
ちゃんと避けた。メートル単位で。
だが、拳圧で体がきしんだ。
空に飛ばされ、身動きが取れなくなった所を狙い打ち。御徳は、またも天国へ。
「見事。こいつは、使える」
「ああ。お前にそう言ってもらえると嬉しい」
「あちらも、だな」
移動しながら有我を撃つ量猟。それは、もう狙撃では無い。そんな暇を使っていれば、有我は即踏み込んでくる。大体この辺、で撃たなければ間に合わない。
砲は、短距離砲と、長距離砲を併用。片手リロード片手撃ち。反動も片手で受け止める。長距離砲の重さは、120キロ。それを片手で狙いを付け、撃つ。長距離砲の合間に短距離砲を撃ちまくり、時間を稼ぐ。有我の移動した後には、蜂の巣が出来ている。
そう、移動した後に。量猟も有我の移動予測射撃くらいしている。それでも、全く間に合わない。今、斬られていないのが奇跡。
有我は、感心していた。手加減はしている。だが、簡単に踏み込めるわけでも無い。きっちり、こちらの侵入経路を潰しに来ている。だから、有我自身には当たっていなくとも、有我の剣を防ぐ事が出来ている。そして、長距離砲で、狙う。悪くない。有我が退屈していないと言う事は、褒めても良いのか。
有我が消えた。煙幕に紛れて、では無く。砲撃の合間、ちゃんと量猟が見ている事を確認した上で、消えた。
そして、量猟の首元に剣を。
「参りました」
「うん。上手かったね。ボクでも、踏み込みは、ためらわれた」
「本気、では無かったのですよね」
「当たり前でしょ。君は代え難い人材。殺したくないよ」
「ありがとうございます」
どうなんだ。有り難い言葉だが、今の自分は3名家を足止め出来るのか。出来ないのか。ヤマトナンバーワンのような敵が現れた時。自分は役に立つのか。
「良い動きだった。これからも御徳を助け、コウチのために働いてほしい」
「ありがとうございます」
梅からの言葉。
「あの。私の実力は、どんなものでしょう。3名家の方々を足止め位は、出来るのでしょうか」
「無理だ。我々の本気なら、お前1人を突破するのは容易い。3人全員が、2秒内にお前を倒せるだろう」
「あー。そう、ですよね、はあ」
「お前1人なら、な。それこそ御徳とでも組めば、私は負けるかも知れない」
少しだけお世辞。実際、神隠しを使った梅は、有我でも止められない。亜意、シロ、アカぐらいか。梅を止められる可能性が有るのは。
だが正面から挑めば、危ない。今の御徳は強い。そして量猟も。
「3名家は、コウチを守るため、コウチの敵を倒すためにある、戦いのための家。お前達より強くなくては、意味が無いのだ。気にするな」
「はい」
量猟は、別に有我に戦闘で勝ちたいわけでも無いが。
自分で言った事位、やってみようかと、思っただけだ。3名家のおまけでは無い。3名家の休暇位、私が作って見せる。伊達で将軍の補佐をしているのでは無いんだぞ、と。
「起きたら言っておけ。より良い戦場を褒美として与えると」
「はい。神無様にもご迷惑をおかけしました」
「何の!面白かったぞ!」
神無は、3名家は笑顔で帰って行った。
私も帰るか。
治癒を終わらせ、治癒者も帰った。御徳は、眠ったまま。
起きたら1人で、側には缶ジュース。
ありがたいけど。待っててくれよ。
プシュ
ごっごっごっ
化け物だったなあ。少しは強くなったつもりだったが。ナンバーツーにさえ、手も足も出ないのかよ。
こんなザマじゃ、魔神には、勝てない。
御徳は、時間ギリギリまで素振りをして帰って行った。
これがコウチの日常風景だ。




