三十鬼、鍛える。
三十鬼三問は、下位ナンバーを見ていた。
皆、順調に伸びている。強固に仕切り、結界を張った稽古場がグズグズになっていく。
三十鬼の見た所、神無までは倒せるはずだ。神化を出させなければ。三十鬼、十言、九重、トップ3が奇襲すれば、神無には勝てる。有我は3人がかりなら、確実。1対1では、分からない。こちらに邪馬太刀が有ったとしても、あちらにも宝刀の1つや2つ有るはずだ。
うっかり、戦う事を考えてしまう。コウチとは事を構えないと決定したのに。
「どうだった。噂の男は」
「契った。1年の間に子を設ける予定だ」
「なにい!!」
この、三十鬼三問。ヤマトナンバーワンの者。浮いた噂1つ無かったのだが。邪馬刀国に比べて、日陰の存在ではあった。しかし、ナンバーツーとして、しっかと補佐していた。不足の無い剣鬼。それが三十鬼だったはず。つまり?
「ヤマトのために、か?」
「いや?・・・ああ、いや、その通りだ。おれは、」
「ちがうのか!!一目惚れかよ!?」
「すごいのだな、蹴速とか言う奴」
当然、ヤマトのナンバーは対魔蹴速の名を知っている。3名家に対するのと同等の注目度で。いや、それ以上か。
邪馬刀国は、ヤマトの生ける伝説。コウチの3名家並み。それを、怪我1つ無く倒した。ある意味。ヤマトが落ちるのと同義なのだ。邪馬刀国が倒れると言うのは。
たまたま生き残ったナンバーの胸中に有ったものは、憤怒と安堵。その場に居合わせられなかった己への怒りと、敵への、どうしようもない怯え。生き残った。三十鬼ですら、そう思った。邪馬刀国が相手にならないレベルの人間に、何か出来るわけが無い。去ってくれて、本当に良かった。
戦いを、挑みもせず。そう思った。ヤマトの精鋭から、更に選び抜かれ鍛え抜かれた、ナンバーが。ただ、ホッとしただけ。民間人のように。
三十鬼は、己に激怒した。気も狂わんばかりの怒りを初めて抱いた。蹴速に、ではなく、己に。尊敬する敬愛する邪馬刀国を屠った人間を、殺しに行かない自分に殺意を抱いた。
三十鬼は、稽古場にこもった。修行と名付けて、己への怒りを開放した。それは、無茶で知られる九重が止めにかかる程。
蹴速は、仇。それは事実。
蹴速は、認めた男。自分から、嫁になりに行った。それも事実。
いつか、斬るかも知れない。今は、同じ布団で寝ていても。
ちがった出会いをしていたなら。いや。そんな、妄想は要らぬ。
おれが、お前より強くなったら。殺す。だから、おれより強いままで居てくれ。
三十鬼は1回り強くなっていた。自分達の伸びるより早く。十言と九重は、驚きを以って迎えた。遠征に出向き、実戦を積んだとは言え、訓練に明け暮れていた己らより。
「そのうち、王より言われるだろうが。お前達もいずれ、コウチに向かう。そして、コウチの強さを教わると良い」
「そこまでなのか。蹴速だけではなく、一一人も」
「直接一一人とは、まだやってない。二神となら何度もやったが、神化を使わなければ、どうと言う事は無い。だがコウチには、まだ居る。これ以上は、自分の目で見た方が分かりやすい。上には上が居る」
「ふん。その口ぶりじゃあ、三鬼でもないか。楽しみだ」
2人共に、気迫が見える。その者達との邂逅で、三十鬼を超える目も有ろう。あるいは、蹴速をも。
「時間あんだろ。やろうぜ」
「帰って間もないと言うのに、すまないが。おれも今日を待っていたんだ」
「どいつもこいつも。本気で来い」
三十鬼、抜刀。無論、邪馬太刀ではない。ただの試合に、宝刀など使えない。仲間を、本気で斬るわけにもいかん。十言、九重も、自然に抜いた。
言葉からして、2対1を所望か。
殺す。
舐められた、と感じた九重は、今、ヤマトナンバーワンを代替わりするつもりであった。
十言充言は、今までの三十鬼ではない、と感じた。油断や隙、そう言った人間らしい甘さが無かった、寸分の無駄もない剣身そのもの。それが三十鬼だったはず。ではこれは?
新境地か。三十鬼が、コウチで掴んだ何か。見せてもらおうか。
十言もまた、本気になった。
鳥肌が立つ。ヤマトナンバーツー、ナンバースリーを同時に相手にする。今までの自分なら、決してやらなかった。こんな無謀な真似。だが、もっと上に行くため。こんな事もしてみたいのだ。
普段なら、待つ。三十鬼から攻めては、相手は守勢にかかりきりだ。だが、今は。全てを振るい、全てを磨きたい。
三十鬼の攻め気に2人共が気付いた。三十鬼からの、速攻。怖気が走った時には、2人の剣から同時に剣を打ち合わせる音が響いた。
「速い!相変わらず!」
ただ、複数の己が見える速度で立ち回っただけ。過去の三十鬼とのちがいは、もっと速くなった事。
2人には、それぞれ隙を伺う気は有れど、協力するつもりは全く無かった。だが、そんな事を言っていられる状況では、無さそうだ。
強い。このままでは、何も出来ず負け、下位ナンバーに落とされる。
困る。何かにつけ、三十鬼に稽古を申し入れられる立場が、失われる。
だが、その危機感すらも楽しみに変え、九重は突っ込む。十言はそれに合わせ、九重の真後ろから入る。正面限定であるが、幾ら三十鬼と言えど、十言は見えない。このまま状況に応じ、変化し、襲う。
三十鬼は速い。だが、2人も有我並みの実力者なのだ。簡単に負ける道理は無い。
九重は右から、十言が続く。
結局、三十鬼はいつも通り待ってしまう。
九重から十言への流れだと思ったが、流石はヤマト精鋭中の精鋭。
同時に来た。意表を突く動き。
数十人に分かれた九重と十言。しかも2人が入り混じっている。普通、分け身は場を同じくしないものだ。良い連携だ。こいつらも、新技に取り組んでいたのか。頼もしい事よ。
それを超える数を出し、翻弄し、また待つ。
勝てねえ。
九重九連はヤマトナンバーワンの意味を思い知った。邪馬刀国が生きていた頃も思った事だが。どうにもならない。これが、ナンバーワン。最強の現し身。
だが十言は更に飛び込む。またも数十の己を現しつつ、そのまま全てで突っかかる。らしくない。十言は、タイプとしては、三鬼梅に似ている。慎重に丁寧に。
だが、今の三十鬼に、そんな悠長な時は無い。勝機は、作るしか無い!
十言の飛び込みに、九重も合わせる。このレベルなら、瞳に何かが写った瞬間に、それに合わせられる。条件反射パターンを刻むのと同時進行で、戦闘に関わるあらゆる動きを瞬時に繰り出せるよう鍛えられている。ちなみに、万が一、敵が邪馬刀国レベルなら、即逃走、ヤマト本国に連絡を入れる事もパターンの中に有る。
今のパターンは、3秒引き付け後、敵をすり抜ける。追撃をかけよ、だ。だが、三十鬼もそれは知っている。堂々と挑むのか?十言。
九重は考えつつ、訓練通りに体を動かした。十言の健闘中に、気を高め、三十鬼だろうが何だろうが粉砕出来る準備を整える。
3秒後、
ぎあ!
十言の撤収を目で見る事無く、全力を放つ。言うなれば、アカにすらダメージが通る一撃。それを、十言と三十鬼が受けていた。
「馬鹿が!!」
三十鬼を引き付け過ぎた。3秒の後も、剣を交えていた。故に三十鬼も離れられなかった。ナンバーツーからの誘いを逃げては、ナンバーワンでは、ない。
何とか、致命傷を受けないよう、コントロールしたつもりだったが。
十言は、もう動けない。防御の構えを間際に取ったとは言え、ヤマトナンバースリーの全力が直撃。死んでいても全く可笑しくないのだ。
三十鬼は、腕をしびれさせた。とっさに十言を弾き出しつつ、大急ぎで剣を振り切り防御としたため、強固な構え、とは行かなかった。
右腕に力が入らない。恐らく、1分は死んだままだ。さて、どうするナンバースリー?
右腕をぶらん、とさせて、見せつける。左手のみで構え、待ち受ける。
迷い。明らかに自分が有利。こんな状態で勝っても、何も嬉しくない。
手段を選ばないはずだったのに、九重はうろたえてしまった。
「甘い。片腕を封じた程度で、勝てるつもりか。それは、自信ではない、おごりだ」
腕はそのまま、三十鬼が来た!
来るならば、応えられる。九重は、血肉に染み込ませた動きを丁寧に徹底的に再現する。如何なる状況に在っても、それが出来ねば、到底ナンバーには至れない。
例えナンバーワンでも!片腕ならば、押し切れる!
九重は反撃を一瞬速く切り込んだ。通常、ここからの変化は有り得ない、と言う瞬間を狙いすまし。
片腕の三十鬼は、確かに、力負けするしかない。
普通に斬り合えば。
変化のしようの無い瞬間。その時、三十鬼の脳裏を過ぎったのは、蹴速の動きだった。
基本の身体能力が比べようもない相手だが、その肉体の動きの、力強さ。強者の手本。魔神シロは、実は良く分からない。強い、と言うのは感じられる。化け物だ。だが、それが、自分の目で見てもはっきりとは理解出来ないのだ。蹴速の場合は、見て分かる。ケタのちがう怪物だと。その動きに見とれた。
無駄が無いのでは、ない。有り余る力強さと勢いが、全てを可能にする。机上の理屈など、あの力の前では無為の極地。正しい動作、より効率の良い動き。そう言った、学び取ったものは無駄では無い。だが、意味を為さない。蹴速の前では、等しく、無力。
力とは何だ。動きに宿る重心移動か。エネルギーのやり取りか。
否。
この剣を押し込む、気迫だ。
動かせ!
現実には、九重に押し切られる、などと。その未来が気に入らぬなら、斬れ!押せ!己を押し込めろ!!
三十鬼は、更に踏み込んだ。瞬間を、更に切り詰める。時と時の狭間に有る、その隙。九重は、まだ知らない。蹴速を見た事が無い九重は。その超短時間を。
一瞬速く斬ったのは、自分のはずが、気が付いたら、押し込まれていた。そして、そのまま斬られた。
出血を始めた九重を、即、治癒してもらう。これ以上やると、右腕が回復してしまう。修行は一時オシマイだ。
離れ業。三十鬼は、十言と九重を、同時に相手取り勝った。
「どういう相手を想定して戦ってんだよ。邪馬様を、まだ見てんのか」
「ちがうな。太刀筋が、力みすぎだ。それに負けるのだから、恥ずかしい事この上無いがな」
「おれより強い者が、片手の指の数程居た。だが、おれは奴らに勝つ。お前らには、踏み台になってもらおう」
「言いやがるぜえ。おれの糧になってもらうがなあ!」
「お前を超えるのは、おれだが」
気が衰えない。むしろ、高まっている。これが、ダイコウチでも屈指の強者共。蹴速が居なければ、世界を支配して居ただろう、ヤマトのナンバー、その頂点。




