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蹴速とアカの訓練。

 獣沓は自分の名を考えた。獣のくつて。お前。


 10年を生き残った自分より、無茶苦茶と言うのは分かっていたつもりだが。大概だなあ。もっと強いのが見つかったら、乗り換えた方が良いかあ?


 一応、意味としては、沓の獣。自分達の足として役立ってもらう、とかの意味を付けた。蹴速のネーミングセンスは、あんまりだった。


 コウチの山と海を好きに動いて良いと言われ、適当に跳び回る。獣を木石ごと食ってみる。ふむ。やはり、暗黒大陸とは味がちがう。みずみずしい。美味い。蹴速亭のメシも美味かったが、野生も美味い。次は海へ。川は禁じられた。広さが足りないから。


 気持ちの良い。


 クジラとか言う、デカい魚も美味い。コウチに来て良かった。ただ、調子に乗れば、殺される。人間が周囲に居ない事を確認してから、好きに振舞っている。


 獣沓は泳いだ事が無い。水泳、か。してみようか。


 天敵と言うか、他の、生存競争でしのぎを削る魔獣が居ないので、完全にリラックスしきっていた。


「あなたも泳ぎに来たの?」


「はい。ここいらの情報を仕入れるついでに、水泳と言うものもしたくなりまして。モモ様も?」


「ええ。気持ち良い季節よね」


 季節は真冬だが。


 2人は、お互い、水泳を楽しむ。獣沓は初めての泳ぎ。そして4足歩行の獣。そう。犬かきだ。可愛い。見た目、恐怖をバラまく魔獣でしか無いのだが、仕草は素晴らしく愛らしかった。モモは、適当にクロール、平泳ぎ、バタフライ、背泳、水球、シンクロ、水中歩行、等等。適当に、水と遊んで来た。


「私はもう帰るけど、どうする?」


「ええ。私もご一緒しましょう。中々に興味深い時間でした」


 獣沓は、泳ぎながら、周辺を観察していた。海底。海岸。やはり、暗黒大陸とは、全くちがう。陸も海も、当然、空も。ここで、生きていくのか。


 飛ぶモモに、遅れぬよう、付いて行く。


「こうやって戦うのは、初めてかな」


「ああ。お互い全力は、地上への被害が大きすぎる」


「見せてもらうぞ」


「ああ。ありがとうな、シロ」


「魔神様ありがとう!」


 所は、蹴速の世界。宇宙。青星やらから、かなり離れた地点。魔神シロの結界を頼りに、蹴速とアカは、稽古をしに来た。


「今日。蹴速に全力を出させて見せるよ」


「かもな。楽しみや」


 魔神シロの見る所。蹴速が辛勝する。両者の基本能力はほぼ同等。言えば、蹴速が1回り上か。だが、アカには回復能力が有る。使うなら、魔力での攻撃も出来る。芸はアカが多い。


 楽しみだ。


 先ず、全力でぶつかる。


 魔王アカの持ちうる全ての魔力と力を拳に集中。解き放てば、間違い無く肩から先が吹っ飛ぶエネルギーだが、それを一切の迷い無く実行する。怪我が治るから、では無く、蹴速と相対するのに、手加減などと言う、2人の間を遠ざけるものは、要らない。


 アカの完全な本気に、先ず体が反応した。危険だ。モロに食らえば、蹴速でも死ぬ。避けるのは、簡単。蹴速の方が、わずかに速い。正直、潰そうと思えば、発動前に潰せる。が、もったいない。頼めば、シロは何度でもやってくれるだろうが。おれとアカの2人の交わり。この機会、無駄にしない!全力で迎え撃つ!


 蹴速は気を高める。触れるだけで、人間が消し飛ぶ程度になった。ここから、更に集中する。指1本で、魔王級を昏倒させる程度に。


 蹴速も本気。アカが感じ取ったそれは、更にアカを上のステージに誘う。


 死んでも良い。これで、この試合だけで、散っても良い。蹴速に、おれを刻む。


 アカの集中もまた、尋常では無い。恐らく、発動と同時に、死ぬ。蹴速と同程度の強固な肉体でも、耐え切れるエネルギー量では無い。完璧な、どうしようもない馬鹿だ。


 蹴速は、心からアカを愛した。


 シロがこっそり嫉妬する位には。


「行くぞ」


「うん!」


 最初に誘ったのはアカだが。行くのは蹴速。だって、アカは妻として、待ってしまう。蹴速が、そうさせた。


 魔王アカの全身全霊は、見事花開いた。そして、蹴速に摘まれた。


 接触の瞬間。アカの全てが散る、その極わずかな時。蹴速は、アカより速く蹴りを撃ち込みつつ、重圧を全身から発生。アカの気、魔力、エネルギーを包み込み、潰し、アカの自壊を避ける。そして、もちろん、アカにも蹴り込みまくり、ダメージを、アカの回復量を上回らせる。全力を拳に集めていたアカに、受けきる事は、不可能。その拳も、蹴速の全開の蹴り1発で止まった。ただ、蹴速の足は折れた。足にも重圧を発生させ、アカの拳を押さえる働きをさせたが、その上で、骨折させられた。分かりやすく言うなら、アカは深海1兆メートルで、時速2千キロを叩き出した。その摩擦、摩耗、圧力。アカは、ボロボロになりながらも、何とか生き残った。蹴速の優しさ、では無い。蹴速の欲望。アカに全てを出しきり、全てを使い尽くすようでは、シロには、何をどうやっても勝てない。手加減、では無く、蹴速なりの戦い方を取る。蹴速に取って、より都合の良い方を。


 シロに尻拭いをさせるだけの男になりたくない。


 蹴速の足を折った。ちゃんと、蹴速に取って刺激的な戦いになった。自分は蹴速と戦えれば、心から喜べるが、蹴速は、自分より弱い者と戦わされても迷惑だろう。目標が、打倒シロで、それで良いとこまで行くのだから。今更、魔王なんかと戦っても。


 でも、蹴速は、戦ってくれる。本気で。


 嬉しい。


 アカは、右足を折った後、左足でボコボコにされながら、幸せな気持ちに浸っていた。


 シロは、おおむね満足していた。蹴速の気持ちが、くすぐったい。アカの強さも、蹴速の鍛錬に取って都合が良い。


 また、明日やろう、と言いたいが。スケジュールを詰めると、飽きる。同じ相手は、ダメだ。特盛に、飽きたと言われたのは、それなりにショックだった。


 蹴速は、毎日シロと戦っても良いが、それは、シロに全てを委ねると言う事。プライドが許さない。時間も、足りない。


「貴方が、対魔蹴速か」


 所は、宇宙。そこで話しかけられた。何だ、この非常識な人間は。


「おお。対魔蹴速とは、おれの事よ。お前は?」


「貴方の探している者だ。先日は、妹が世話になったようだ」


「あー。そっちから、来てくれたんか。面倒かけさせたな。すまん」


「いや。おれも貴方に会いたかった。このスーツを試させてもらう!」


 蹴速の足は、折れている。シロは、まだ治癒していない。


「おっけー。おれは、こいつの結界で、空気やらをもらっておる。スーツ一丁のお前と比べたら、ハンデをもらっちゅうけど、それでも良いか?」


「ああ。お互い生身では無い。同等だ」


 蹴速は、この男が気に入った。骨折は隠す。足1本使わない程度のハンデ。それで、本当の互角。こっちは2人がかりなのだ。シロ無し、で蹴速は宇宙空間で生存出来ない。あちらは、1人。ならば、足1本では、申し訳無い。片手も封じる。片手片足を封じて、五分かな。


 シロは蹴速の心を読み、欲情した。だが、家まで我慢する。


 妹のスーツもそれなりだが。完全オリジナルの、完全オーダーメイドの、家族の想いの詰まったこのスーツ!!負ける訳が、無い!!


 速い!蹴速は、少し驚いた。自分の通常の速度程は、出ている。片足で、何とか加速。避ける事は出来た。


「最初っから、全力で行く。そっちも全力を出せ。でなければ、意味が無い」


「ふ。先刻承知。お前も、本気を出せ。もっと、有るんやろ。まあ、出させる、が!」


 左足で加速しつつ、左手で攻撃。片手を封じているため、体バランスも崩れている。だが、それでも、秒間100発までは出せる。それ以上は、しんどくなるが。


 男は、攻撃を避けて見せた。ただ、戦技者では無いようだ。距離を取り過ぎている。カウンターはもちろん、反撃が出来ない。


 そこから、光線。


 蹴速は直撃を食った。


「蹴速が!」


 蹴速が色々やっているのに、気付いていても、黙って見ていたアカが、思わず口に出してしまった。蹴速は、完璧な直撃は、シロに1度だけ。それ以降、食った事は無かった。


 通常、光の速さで有っても、普段の蹴速なら避ける。だが、今の蹴速には、その動作が出来ない。音速までしか、対応が間に合わない。


 痛い。ダメージが有る。即死で無い幸運に感謝、かな。


 レーザーをモロに当てられて・・何故生きているんだ!?


 男は、目標を、強い人間と認識していた。だが、人間とは、レーザーを食っても死なないものか??


 蹴速の胸部を貫通。内臓と骨を焼いて、飛び出した光線は、今はもう消え失せた。継続ダメージは無い。毒性も、恐らく薄い。


 正気を保つのに、必死にならなくてはいけない痛み。辛い。思わず、殺したくなる。八つ当たりしたくなる。


 だが、おれは、今のおれを超える!!


 片手片足、その両方で加速!手で、足で、空間を蹴る。男に追いすがる。男は、それでも距離を取ろうとするが、戦技者では無いが故、蹴速から、直線的に遠ざかろうとしてしまう。フェイントやターンを使わない。読める。


 そこに、全力で加速。何がどうで有ろうと。蹴速にスピードで勝負出来るのは、シロのみ。男のスーツに何が詰まっていようが、速いのは、強いのは、蹴速!


 迎撃のレーザーを躱す。砲口は確認出来た。どんなバカでも、同じ技を容易く食らうわけが無い。やはり、こいつは戦技を知らない。


 教えれば、強くなりそうだ。


 加速を止めず、殴り続ける。スーツの耐久性もそれなりだったが、超騎士の通常結界より、やや上程度。蹴速なら通せる。


 スーツを破壊し、シロに心で頼む。


 シロは、男も結界で包み、生存を可能にさせた。


「・・・・強すぎる」


「そーでもない。重症だ」


「平気で会話してるじゃないか」


「シロ、頼む」


 蹴速の全ての怪我が治った。


 これは、やはり五分では無いな。もう片足封じたら良いか。でも、それは負けるしなあ。負けるのは悔しいし。まー、適当適当。


「送るわ。その壊れた状態やったら、無理やろ。自力で帰るの」


「ああ・・・ん?何故、呼吸が・・・」


「結界を張ってもらっちゅうんよ。こいつに礼を言えよ」


「結界?何だか分からないが、ありがとう?」


 シロに取っては、心からどうでもいい存在。特に反応も出来ない。興味が無い。


「んじゃ、行くか。新しいスーツは、作ってもらえるんやろ?」


「あ、ああ。済まないな」


「かまんかまん。それより、もっと強くなりたくないか?」


「?どういう意味だ」


「お前のスーツは強い。お前も、それに振り回されてない。でも、もっと動き回れる。お前は、それをまだ知らん。おれと訓練せんか」


「敵に塩を送る、のか。おれは、君に勝つ事を諦めていないぞ」


「無論。そうで無ければ、意味が無い。おれは、おれのために強い奴が欲しい。お前とお前の妹さんの成長を願っちゅう」


「へんたいか、お前」


「いや?正常よ。人類に限るなら、1番強いおれが、1番正常」


「キチガイなんだな。分かった。君の強さは、本物。勉強させてもらいたい。このスーツの発達は、おれ達に取って、かけがえの無い事」


「おっけー。頑張ろうな。土曜が暇なんやろ」


「ああ、良く知っているな・・そうか、妹に会ったんだったな」


「そう。何時行っても良いのか、確認したわ。そのうち、暇な時にでも行く。またな」


「ああ。また」


 新しい稽古相手を見つけた。蹴速は、顔を歪めて笑んだ。


 アカは競争心が湧いた。


 シロは、つまらなさそうだった。


 シロに労いの言葉をかけつつ、アカと言葉を交わしつつ、帰還。夜は夜でちゃんと愛し合い、シロの機嫌も治った。

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