神無の稽古。
神朗は充実した休暇を味わっていた。朝稽古、昼稽古、夜稽古。何時でも神無と一緒。
そして、神無と華虎の試合。
強いのは神無。だが、業前は長年積み重ねた華虎に分が有る。
勝ったのは、神無。
現行の3名家に勝つわけには行かない、と言う理由では無い。
本気の三鬼華虎に、神無は勝った。
「本気は、初めて。だな?」
「ええ!稽古は何度も、だが!」
神無は、気を充実させる。顔を歪ませ、本気を形作る。事と次第によっては、梅に謝る必要が有るが。
構わん。最悪殺す。俺の糧になってもらおう。
おお?本気か。本当の。やべえ。死ぬ。
三鬼華虎は、先代の二神に1度も勝った事が無い。もちろん一一人にも。そこには、絶対的な差が有ったのだ。
さて、現代の二神は、どんなもんだあ。
のらり
遅い。ゆったり歩いて来る、踏み込みでは、無い。神無は、取りあえず迎撃。横に剣閃を走らせる。だが、剣の通り過ぎた後、華虎は居ない。
一瞬で消えた。辛うじて視界の端に捉えた華虎から、距離を取る。
二神神無が、下がってしまった。
「流石につええ。簡単には斬れねえなあ」
「・・・ふふふ」
更に気が高まる。
挑発になっちまったか。梅。おれの墓前には、どうか酒を!
これが、三鬼華虎。先代の3名家は、かなり連携が取れていて、共に訓練をする間柄。つまり、全盛期の二神や一一人の力を思い知っているはず。即ち、俺にも、対応可能と言う事か。
そうでなくては、な。勝負にならん!!
神無が斬る!
完全に間合いの外だったにも関わらず、華虎は大きな動きで避ける。その間合いの外からの斬撃は、華虎の居た付近を大きく切り裂いた。
だが、華虎には当たっていない。そのまま華虎は円の動きで、神無に近寄る。やはり遅い。何時でも、斬れそうだ。しかし、先程は当たらなかった。
速度で競っちゃ、上の人間には勝てねえ。あの化け物共とやり合うには。こうするしか、ねえ。
遅い。まるで止まって見える。だが、だからこそ、何時斬れば良いか、分からない。こちらの剣に合わせて、あちらは加速する。絶対に斬れるタイミングを見計らう必要が有る。だが、見極められない!
ジリジリと神無は下がる。そして華虎は、神無に遅れてゆっくりと詰める。
神朗は、神無が下がるのを初めて見た。三鬼華虎。現役は引退しているのに。こうも強いのか。
ふん。
なるほどな。
神無は切り替える。
賢く、頭の良い立ち回りをしようとしていた。そんなものは、二神の戦術では無い。二神は、神化で以って、敵を粉砕する。絶対攻撃にして絶対防御。
故に、こうだ。
おん!!
空気が張り飛ばされた。神無の剣が走ると、間合いの外の華虎は動かざるを得ない。
そのまま逃げ回るが良い。いつか切り捨ててくれよう。
うーん。
華虎は、剣閃の隙間に断ち入り、突きを入れた。神無は、まさかこうも容易く入られると思っていなかったので、避けきれない。脇をえぐられた。
「おや?当たっちまったなあ?」
ごお!
神無の全力の斬撃を躱し、握りで殴りつける。神無は膝を付くが、返しを撃つ事で、何とか距離は取れた。
挑発後の斬撃は、持ち手とその時の体勢から、どう来るか読める。格下ならともかく、不用意過ぎた。
強い!いや。俺が、弱いのか!
お前らの娘。良く育っているが、畏れが足りない。恐らく、一一人に対してもこの態度のはず。仲が良すぎて、恐怖が足りねえんだ。だから、本気のおれに、警戒が、足りてねえ。早死にする前に、しつけとくか。
華虎は、本腰を入れた。気迫がちがう。
神無は、下がらない。
強い。有我程では、多分、無い。だが、俺が本気を出すには、十分。
おお
神無も、全てを出す。握りを堅く、脇をしめ、己を1本の剣と化し、しっかりと大地を踏みしめる。全てを出す!
華虎は、本気で逃げた。反撃やカウンターなど、思考から全て消した。
あっぶねえ。普段から、こいつと訓練してたら、とっくに死んでるぜ。
水練場の壁が、切り裂かれてしまった。
ちいい。今のは、掛け値無しの本気。それでも避けるか!
神無が、止まらない。全開の斬撃を繰り広げ続ける。それは、華虎では受けきれない攻撃。そして、速度を落とす事も出来ない。延々、神無の速度に合わせる必要が有る。
これはしんどい。だが、それで良い。無理に相手に合わせる必要は無い。おれの身体能力がお前に劣っているなら。そこを突け。見極めろ。
華虎の最後の仕掛け。
神無の斬撃を、更にすり抜ける。蹴速の攻撃すら躱した事は有る。本気では全く無かったとは言え。数回なら、神無の本気で有ろうと、自信は有る。
さあて。受けるかい?止めるかい?
三鬼の隠し技。剣を投げる!
無論、ただ投げただけでは3名家クラスは、簡単に弾く。自分も同時に跳ぶ。これで、あらかじめ投げた剣にて退路は絶たれた状態で、突進を待ち受ける事になる。
神無は剣を避けつつ、丁寧に華虎を待ち受けていた。当たり前のように斬られる華虎、のはずだった。
華虎は、突進を神無の間合いギリギリで止める。このままでは、剣を投げた意味は絶無。しかし、投げた剣が戻る!神無は背後の剣に気付いていない!
だが、神無は、止まった華虎に向かって踏み込んでいた。剣の戻りよりも速く!
ごぎい
骨の折れる音が響く。一太刀、二太刀は避けたが、3撃目に蹴り込まれ、たたらを踏んだ状態で、握りを腹に突き入れられ、昏倒した。
そして、戻った剣を手で止める。
鋼線付きの剣か。こんな取り回しの悪いもので戦っていたのか。恐らくは、俺にこれを見せるために。俺の弱さを知らしめるために。
梅は、もう神隠しで、このような道具に頼り切る事も無い。故に存念無く、教えられた。
華虎の腕の動作無くしては、受けられなかった。それも、気絶しかかっていた華虎が、神無に当たらないように微調整したもの。自ら負けを認めた華虎が、神無に無駄な怪我をさせぬよう。華虎の身に異変が無ければ、気付けなかった。
悔しい。何と言う弱さ!!!
俺こそが、未熟だったのだ。神朗に説教を出来る強さでは無い。
アインシェンを制圧。長らくの南海制圧を成し遂げ、思い上がっていたのか。俺は、魔神シロとすら稽古をした。そのような増長が有ったか。
稽古が足りない。雑念が消え去るまでやるしかない。
このままでは、俺は足手まといになってしまう。
海岸を散歩するアオミドリ親子。
「神無さんのお手伝い、しなくて良いの?」
「良いって良いって。神無はね、自分の仕事は、自分でやりたいんだよ、ほんとは。でも、普段は3名家とか言う、ややこしいのだから、負けが許されない。ここは、適当にやっても良さそうだし。多分、気を抜くんじゃないかな」
「ほんと?」
「多分ねー」
母を疑いの目で見るマオミドリ。
アオミドリにだって、確信までは無い。半分はテキトーだ。でも、なんとなくそう思ってた。有我は頂点。梅は協調性。神無は?有我を蹴落としたいのでは、ないだろうが。独立心が有りそうだ。力を振るいたい、と言うか。アカみたいな感じだ。亜意とも似ている。個人的には、暑苦しくて好きじゃない。腹に何か有りそうなのは、好いんだけど。
さて。中つ国は、神朗の指導の下、落ち着いている。反乱の兆しも、ことごとく事前に潰している。だが、全てを解決、と言うのは神でも無ければ無理な話だ。
ここ、海岸沿いには、反抗を狙う勢力のアジトが有った。
そして、目に付いた上等な魔力を持った者。こんな所を歩く女性2人。護衛も付けず大層な自信だが、神族の自分達が、此処に居ようとは思っていなかったのだろう。
さらって、二神との交渉材料に使う。
「抵抗はせぬ方が身のため。大人しくしていれば、必要以上の危害は加えない」
?
「これは?」
「食べて、良い人だよ」
「そっか」
マオミドリは全速で踏み込んで、首をへし折った。アカやら亜意の悪口を言いまくったが、これは彼らの教育の成果だろう。感謝しとこう。
「この人、誰だったんだろう」
「さあねえ。あっちから来たし。見物に行こうか」
邪魔そうなのを殺せば、きっと神無は、アオミドリの素晴らしい大活躍が!と家族の前で褒めてくれるはず。殺っておこう。
少しは有った魔力をすすり、死体を消した親子は、男の出てきた方向へ向かった。
アジトには男女数十人。どうやら、神無の敵。全員殺して、食った。
「まあまあかな」
「神化だっけ。何で、アレをやらなかったのかな」
「神無に備えたんじゃない?時間制限有るって話だし。バカみたいに鍛えまくってる神無でさえ、10分。このザコの群れじゃあ、1分保たないでしょ」
「なるほどー。流石お母さん!」
「えへへえ。それほどでも、有るけどね!」
アオミドリは、ある程度、と言う制限は有るにせよ、察知能力、戦闘能力、回復力。全ての力を備えていた。それでいて、目立ちもしない性格だったが。
魔神シロに勝ち、蹴速の1番になる。
分不相応な夢。いや、妄想。
しかしながら、魔王アオミドリ ユウキアイは、生き生きとしていた。
夢の引きこもり生活が、もしかしたら手に出来るのだ。
蹴速が外で働いて来てくれれば、全てが叶う。
ぐふふふ。
お母さん・・・・・・




