神無、神朗に会いに行く。
二神太郎花八郎神無は、押しも押されぬコウチナンバーツーである。ナンバーワンである有我が、あまり公の仕事に向いていないためも有り、最も顔が売れていると言っていい。一一人は有名だが、有我が出張ると、人が死んでしまう。
蹴速程でないにせよ、一一人も気の長い血筋では無い。ためにならぬ、と判断するや、コウチの者も斬り捨てる。おかげで、人手を集めるのに苦労した時代すら有る。当時の二神と三鬼の代表を除き、会議の出席者を皆殺しにし、では誰が事務仕事をするのだ?と詰められ、引きこもった一一人の逸話は、3名家の間では有名だ。その後しばらく顎でこき使われ、一一人はあまり人を斬らなくなった。
そんな戦闘以外では役に立たない一一人を置いて、二神はコウチを指揮する。縁の下の力持ちの三鬼と共に、コウチの実支配者である。
「旅に出る!」
「行ってらっしゃいませ」
二神の家を取り仕切る梟らに準備をさせる。
梅の父親、華虎に言われた通り、中つ国に向かい神朗の心労を解きほぐす。
旅は道連れ。まさか、コウチナンバーツーを1人で行かせるわけにもいかん。
「美味しいもの、いっぱい食べれるかなあ」
「ああ!幾らでも有るだろう!世は広いのだ!」
「お母さん、はしゃぎすぎ。神無さんが、困るでしょ」
「そんな事無いよねー」
「ああ!マオミドリも遠慮など要らんのだぞ!俺達は家族なのだからな!」
魔王アオミドリと、その子、マオミドリ。子の勉強のため、と言う建前の元、家を追い出されたアオミドリ。それを心配して付いて来たマオミドリ。
神無としても、魔王連中と個人的に仲良くなっておくのは、都合が良い。コウチの影の守護として存在してもらいたい。訓練相手としても好い。
今の魔王達は、人間に取って絶対的な敵では無い。
神無は、魔族との戦闘で、親を失っている。
それは、戦い。
強い方が勝ち、弱い方が負ける。当たり前の事。
だが、許さん。必ずや魔を消滅させる。そう、誓ったのだったが。このザマだ。魔族などと家族。この俺が。
マオミドリと繋いだ手は、暖かい。
この子の親を殺すわけにはいかん。俺は、コウチの3名家。ナンバーツー。コウチで暮らすこの子、俺が必ず守る。
俺は二神神無。強き者だ。
幼子を泣かせるような軟弱では、無い。父も母も、弱かったから死んだのだ。
俺は、ちがう。
アオミドリは、その性格上、神無の心中にあるくすぶったモノに気付いた。厄介事は避けて通る性分。どーしよっかなー。
マオミドリは、神無の優しさを想った。すごく偉い人と聞いている。なのに、こんなに気さくだ。母親のようなズボラなのではない。
3人組は、山を越え、エヒメから船。そして中つ国へ。
マオミドリは、母親が、意外に強い事を知った。毎日の鍛錬で、神無より強さを見せている。その後の自慢気な顔さえ無ければ、尊敬も素直に出来るのだが。
こうして。てくてく3人で歩くのも楽しいなあ。
アオミドリは、当初乗り気では全く無かった。蹴速と離れたくなかったし、家から出るのもダルい。他人となんて会いたくない。
しかし、追い出されてしまった。ちい。魔神様とだって訓練してる、この僕を。
めんどくさいなあ。蹴速君と、ごろごろしてたい。
母の瘴気と言うか、怠けオーラを察したマオミドリは、他の魔王や家族に頼んだ。何とか真面目に働ける魔族にしてやってくれないか。魔王達は悩んだ。魔界の管理の仕事は、真面目にやっていたはずなのだ。だから、蹴速とも遭遇した。
それが、今や。
気を張り詰めて生活していたのだろう。そう、キは言った。
魔神様の下、仲良く暮らしていた。しかし、それは、今現在のコウチ、ダイコウチでの戦乱よりも、厳しい日常。
元々アオミドリの性格は戦闘には向いてない。モモの優しさとは別。戦争と言う、競技が苦手なのだ。一方的な殺戮は面倒だが、そこまで嫌いでは無い。同格、同等の相手とどちらが、上か。それを決めるような、言わば暑苦しいのが嫌なのだ。だから、魔王達とも戦いたくなかった。ものすごく、ダルい。出来れば、朝起きたらご飯食べて、昼寝して、昼ご飯食べて昼寝して、晩ご飯食べて寝たい。そんな生活がしたかった。だが、まさか魔神の仕事をサボれるわけは無い。
ずっと、鬱屈していた。いやそこまで深刻では無い。たりぃー、と思いつつ生きて来ただけだ。それが、少し楽な生活になった。祝寝とか言う、新しい目の上のたんこぶも発生してしまったが。家事とか、クロにやってもらえば良いじゃん。だが、これさえやっておけば、文句も言われない。適当適当。
誰もが、気付いていた。
アオミドリこそ、魔なるものの手本。
気に入らぬ事はやらない。殺戮を好み、正々堂々を嫌う。
アカは戦闘を好き好み、およそ魔王らしからぬ正攻法を取る。亜意も同じく、自分より格上だろうとも挑んでしまう。キは、仲間を守り援護に入り、それは頂点たるに相応しくない振る舞い。モモは論外。
その気性は、正しく魔王。ただ、魔神の居る世界で、その素養は発揮されていたとは言い難い。
そこに来て、この戦雲。
好機。ひたすらに人間を殺し回って良い。
アオミドリは、もしかしたら目覚めるかも知れない。本当の魔王に。
今の所、怠けが加速されてしまっているが。
魔神に刃向かえるようになったのは、良いのか悪いのか。
神無との旅で、適当に殺し回ってみれば、良い刺激になるかも知れない。そう考えた魔王達はアオミドリに、神無のボディガードの仕事を押し付けた。断れば、家事を全てやらせると脅して。流石にそんな面倒な事は出来ない。魔力を適当にぶっぱなせば、まあ人間位どうとでもなる。こっちのが簡単そうだ。そう思い、アオミドリは同行。
予想外。面白い。
家でずっとドラマを見るのも良いが。旅で知らぬメシを食べるのも、知らぬ街並みを見るのも。楽しい。
マオミドリも楽しそうだ。やはり、僕は最高の親で、蹴速の最高のパートナーなのだ。
この増長傲慢こそが、真骨頂。
そして、中つ国へ。
正確に、何時頃到着と、知らせていないので、出迎えは無い。神無としても、今そのような飾りは必要としていない。必要なのは、主人はコウチであると知らしめる事。そのためには、神朗の上であると教えてやれば良い。そう、神朗頼りの仕事だ。
期待して良い。優秀な、俺の替え。何時俺が死んでも良いよう、俺自身が育てた二神の血統。丁寧に手入れしてやらねばならん。
「神朗!!元気だったか!」
「はい!中つ国は、最早コウチの従順な下部。何時でも兵を出せ、盾として使えます」
「おお!この短期間に!実に見事!お前を選んだ俺も誇らしい!有我や梅に対しての面目も立つと言うものだ!」
「はい。もちろん、華虎様のご指導、ご協力有っての事。私の独力では、とても時間が足りなかったでしょう。大変にお世話になってしまいました」
「うむ!」
出来ぬ、とは言わぬ。その性根、見事。お前を選んで正解だった。
「親父殿!神朗が大変に世話になった!礼だ!」
梅からの土産。そして神無自身が選んだ肴。
「おおおお!ありがてえ!酒!つまみ!天国だ!!」
「ふふふ!!」
中つ国では、神朗の忠実な配下をやっている。探りを入れて来た者、分断を狙った者、それらを斬り殺す日々も悪くないが。やはり、タダ酒より美味いものは無い!
三鬼華虎は、市井の出だ。当時、より強い血を求めていた梅の母親に見初められ、強烈なアプローチをかけられ、いつの間にか婿入りしたのだ。礼儀作法も習わさられたが、よりビビったのは、自分より強い妻。3名家は流石に知っている。だが、ここまでとは。そして、妻より強い二神に一一人。面白い奴らだった。強く、強く、圧倒的に強い癖に変な奴らだった。毎日稽古に向かい、毎日叩きのめされ、楽しすぎた。コウチのためだなんて思想は持っちゃいなかった。ただ、剣を振るうのが楽しくて、いつの間にか、3名家の三鬼華虎になっていた。一一人や二神と稽古が出来て、幸せな環境だった。
奴らの忘れ形見が、ここまでの仕事をやってのけるとは。妬みも羨ましさも有る。おれ達も、こんなドデカイ偉業。やってみたかった。
だが。おれ達の子らが、やっているのだ。こんなに誇らしく思った事も無い。自分自身の事ですら。おれ達の子だぜ。見てるよな。バカ共。
おれが、行ったら。またやろうぜ。多少は強くなったし、娘の婿が、これまた化け物でよお。お前らに、聞かせてやりてえ。幾らでも話が有るんだ。また、墓にも行くがよ。いつか、あの世で会おうぜ。
中つ国は、神朗の言う通り、統率が取れていた。神朗の目利きと華虎の鍛錬により、コウチに忠実な兵が山のように。
さて。今回は、神朗の疲労を取る。
「使える稽古場は有るか?」
「はい。普段、華虎様に相手をして頂いている場所が」
そこは、水練場。つまり、プールだ。なるほど。ここなら、誰にも見られず、稽古出来る。
屋内施設ゆえ、本気は出せないが、気持ちの良い汗を流す程度は出来るだろう。
貸切だ。存分に、
行く!
神無の踏み込みは、然程速くなかった。まず、神朗の目を慣らさなければいけない。ただ、叩きのめすのは、今回の目的では無い。
神朗は強い。基本的な身体能力なら、梅より上かも知れない。今の梅には、どう転がっても勝てないだろうが、神化を使えば、話はちがう。神化は切り札。日常的な訓練では使えない。だからこそ、二神は如何に通常を乗り切るかを磨いてきた。神化に頼りきりでは、使い物にならない。
それらの技の数々を、お互いに披露し合う。
神無の踏み込みを、間合いに入り切るより、一歩速く、間合いそのものを斬るようにして、加速した接近を潰す。と、同時に回り込みを警戒して、振り下ろした剣をそのまま横なぎ。結果、更なる接近は無かった。コウチナンバーツーの足を止めた。
神無は喜んだ。神朗は、ちゃんと強者を警戒し、生き残れるよう動いている。間違っても命懸けのギリギリの動きを取っていない。そんなものをしていたら、命が幾つ有っても足りない。3名家の戦場は、生きている限り有る。命の使い捨ては、言語道断。3名家を名乗る資格無し。何時までもコウチを守り続けなければいけないのだ。それが、3名家の仕事だ。
神朗は、今度は攻める。突きを連続で出しつつ接近。神無なら、この突きを弾きへし折る事も可能だが。
神無は誘いに乗った。神朗の剣を弾く、と、神朗は弾かれた勢いに乗って加速!それまでの速度をはるかに超えて、回り込み、更に下段を狙う。足首を斬る!自身は、身を完全に寝転ばせた状態で。これで、下段への刺突なぎ払い以外、届かない。そして、神無の姿勢は、こちらを弾いた以上、上体がしっかりと起き上がっている。幾ら何でも、反撃は間に合わない。
跳んだ。そして、上からの斬撃。神朗は、転がるままに避ける。だが、読まれている。立ち上がろうとした瞬間に、首元に剣が。
参った。
「良い動きだった!鍛錬を怠っていないようだ!」
「華虎様のおかげです。私の倍以上を生きている方が、私よりも厳しい鍛錬をしておいでで。素晴らしい刺激となりました」
「うむ!」
では、ついでに親父殿の技量も見ておくか!仕事だからな、仕方無い。
神無のまとった気迫を見て、そっくりだと思う華虎であった。




