亜意の道。
ヴァイキング、グリスの2大国を手に入れた。
残念ながら、どちらも上がりをもらうには、時を待つ必要が出来たが。
どちらに於いても、ジンの存在が重要度を増した。
グリスでは、ジンはゼウスに変わる、新たな支柱。コウチの守り神である事を強調し、コウチの支配下にあるグリスも、もちろん守ると宣言。ジンの仕事が増えた。
ヴァイキングは、指導者クラスの人員を大幅に失い、グルウメの一族も発言権をかなり削られた。が、やはりジンとメイルの関係、荒廃したグリスへの支援命令にイチ早く名乗りを上げた勇猛さ。
メイルは、ヴァイキングの指導者として認められた。コウチとの関係を利用し邪魔者を排除するが、決してコウチの不利益にならない事を、丁寧に説明。有我は、受け入れた。
ヴァイキングの海路、船を活用した細やかな情報網。それら全てをコウチは収めた。
グリスの残った神族も、ジンへの協力、引いてはコウチへの服従を約束。断れる状況でもなかったが。
神族の技法の数々は、二神の分家に習得させたり、技術者をコウチに招く事になった。
「マキ。どうだった、実戦は」
「快いものでした。返り血を浴びるのは、とても気持ちの良いもので、お母様達が、殺戮に浸るのも分かった気がします」
「うむ。何事もやってみなければ分からん。好きな事をやれば良いのだ。力は、気ままに、自由に生きるために有る」
「はい。この力。未熟ながら、伸ばして行き、更なる自由を掴もうと思います」
「ああ。兄弟、切磋琢磨し、頑張る事だ」
親風を吹かすキに、有我も微笑を浮かべた。
「色々学べた事も多でした。魔族の見かけ魔力と、本質的な魔力のちがいなど」
「その通り。下級魔族は、魔力を垂れ流しにしているため、見かけ上の魔力は高い。だが、内在している魔力は、その見かけを超えない。故に、外から想像出来る摂取量には届かないのだ。反対に高等な魔族は、最低限の魔力を身にまとわせ、半自動的な防御膜を構成する。そのため、低レベルに思える魔力の最大値は、想像より遥かに上。極端な例だが、魔神様を見れば分かるな。常時の魔力は、我らと然程変わりないが。中身は、蹴速の攻撃を防御出来る、濃密な構成。見かけで魔王かと思ったら、中身は魔神だった、と言うわけだ」
「はい。見かけで判断してはいけない。モモ様を見て、惰弱な魔族と思ってはいけない、と言う意図ですね」
「それだけでも無いが。まあ、それも有る。モモの魔力は、アオミドリとほぼ同等。おれより上。そして亜意に勝る。ここまでなら、そこそこに思える。だが、怖いのはモモだ」
「はい。子供、皆で聞き飽きる程に聞きました。何が有っても、モモ様を本気にさせてはいけない、と」
「ある意味、魔神様より不味い。魔神様は、お前達を決して害しないだろう。だが、モモは、意図せず、不運によって、お前達を殺すかも知れない。訓練程度で、モモを本気にさせるな。もちろん、お前達の誰かが、モモを殺し、領地を奪い、魔界を獲る、と言うなら、それで良い。本気で仕合うのも良い。暗殺も良かろう。実に魔族らしい。魔王の子、蹴速の子として、全く不足無い行動。親として、誇らしい」
「その時。お母様は、誰に付くのですか」
「お前だ。友である魔王達。友の、そして、我が子同様に思っている、他の子。全てより、お前を取る」
「父上となら?」
「両方だ。お前達が相争うなら、おれが止める。家族だからな」
「実にお母様らしいお言葉。マキもそうしましょう。いつか。兄弟、魔王、魔神を殺し、全てを手中に収める日が来たなら。両親に、満足な暮らしをさせてあげましょう」
「ふ。期待していよう。だが、油断するな。他の子達も、お前同様、魔王の子。どれもこれも、強い。マシロが抜きん出ているが、誰が次代を取っても可笑しくない。出来るなら、マキ。生き残り、生を謳歌せよ」
「はい。きっと、そうしましょう」
殺せ。獲れ。邪魔なら殺せ。不快なら殺せ。気に障ったなら殺せ。要らぬなら殺せ。目に付いたなら殺せ。自由とは、殺しても良い、と言う許可では無い。殺すと決めて、自分でやる事。その結果、相手を怒らせ殺されるのも、相手の自由であり、己の自由のゆえ。全て、飲み込め。それが嫌なら、モモを見習え。
だが、マキ。
殺し合え。そうすれば、強くなれる。もっと命を輝かせられる。命を食って、命を磨け。殺さなければ、自分が死ぬ。
殺さない自由は、現在、魔神シロにしか与えられていない。
蹴速を殺さずとも、命を失わず、済む。最も自由で、最も強い。
マキ。あれを目指せ。思いのままに、生きよ。
そして、おれを殺し、魔力を食らえ。おれは、お前の力になろう。
親らしくない事を思う。おれは、おれと蹴速の混じり合ったお前の、血肉になれる事が嬉しくてならない。もっと、蹴速と交われる。子の中で、おれと蹴速は、真に一つになる。
マキ。両方と言った心に、嘘は無い。だが、お前の父親を、おれは愛していたのだ。いつの間にかな。
「所で、アオミドリ様の美点とは、何でしょうか。モモ様に、あれ程の魔王らしさがお有りなら、きっとアオミドリ様にも」
「変わり身の早さかな」
「そうですか」
親子は、白けた目で、遠い空の下のアオミドリを思った。
くしゅん
「噂だ!蹴速君が、僕を求めてるんだ!」
「いや。それは無い」
アオミドリと特盛は、庭先の訓練場で駄弁っていた。
「なんで!なんで無いとか言うの!」
「蹴速がするなら、おれと梅さんの話に決まってんだろ」
「ええー。普通に特盛君は、無いかなー。色気とか」
「お前に言われるとな。こう、言い知れぬ怒りとかを感じるよな」
「嫉妬?ふふふ。特盛君も可愛いとこ有るねえ」
アオミドリに取って、特盛は格下扱い。なので部下の魔族に接するのと同様の態度で居られる。
「嫉妬でも無いがな。って、んな事どうでもいいんだよ。おめーだろ。武器の話振ったの」
「あー。そいえば。斬場刀頂戴?」
「殺すぞ。言うまでも無いが、お前らが振るったら、斬馬刀が敵を斬る前に壊れちまう。もったいないにも程があんだろ」
「うーん。やっぱ、そうかなあ」
「作ってもらえば良いだろ。魔神に」
「ええー。それだと、バレるじゃない。僕が、魔神様にも通用する武器を探してるって」
こいつに、心を隠すなんて出来るのか?既に読心でバレてそうだから、頼んじまえよ。めんどくせえ。
「ねー。コツ教えてよ。どうやって武器って見つけるの」
「ああ?あー、そうだな。・・・人徳かな」
大真面目な話。特盛の個人の努力で掴んだ武器では無い。
斬場刀。神無の家に有ったものを、自由に選んで良いと言われた。3名家が使った事の有る、由緒正しい名刀。くれたのは、神無。神無が居なければ手に入らなかった。
誰かの手助け無くして、自分のものにならなかった。己の力で手に入れたのでは、無い。
「そんなの難しすぎ!」
「お前には、そうだろうなあ」
そもそも。
「お前。武器必要なのか?」
斬場刀を、振るっただけで壊す事を、特盛は危惧した。そんなレベル。
「手っ取り早く強くなれるしね。他の皆は持ってないし。こーいうちょっとした所で差別化して行って、蹴速君に、あ、アオミドリは何かちがう。素敵だ、って思ってもらえるんだよ」
「はあー」
そうなんか?特盛は、蹴速を誘う時、何も意識してない。
「亜意、良いなあ」
「それこそ人徳だろ。あいつは働き通しだったしよ。良い褒美じゃねえか」
「僕も、もっと働けば良かった・・」
「まあ、頑張れや」
それはお披露目の時。
グリスからヴァイキングへ立ち寄り、適当にグリス救援への感謝、及び対応の賢明さを褒める。メイルをコウチが支持している事を、大々的にアピール。メイルには、良いコマになってもらう。
帰路に付く、コウチ一行。
びゅう
「変な風だ」
「ここら辺は、湿った風は、あまり吹かないよね」
「ああ」
ヌルい風。生暖かな。まだ、北の海だと言うのに。
もし、ここに、海鶴が居れば。逃げろ、と言っただろう。
びゅ、おう
「マキちゃん。こっちにいらっしゃい」
「マキ。そうしろ」
モモがマキを守る。キは、有我の力になるため、前へ。有我、ジン、亜意は前衛に。何の、前衛に?
海竜出現。
「何だ、これは」
「大きいねー」
「端っこが、見えない」
目測可能距離を超えている。水平線の彼方まで、体が有る。
まず、これは敵なのか。そもそも、生き物なのか。島を誤認しているだけなのでは。
有我ほどの強者であっても、そう疑った。
「間違い無く、生きている。しかも、竜の類だ。ナインラインで見た」
この中では、竜を見た事が有るのは、キと亜意。
しかし、海竜と言えど、竜だろう。
ジンが居れば、正直どうとでもなる。
「あたしにやらせろ」
「・・亜意?」
「危ないかもよ」
「誰に向かって言ってんだよ」
亜意は、引き止めたジンに凄んで見せる。
「どしたの亜意。今はピンチでも無いし、戦闘要員は揃ってる。少ないけど。そりゃ亜意は、蹴速君の側にずっと居て、ボクらじゃ不安だってのは、まあ分かるけどさ」
亜意は超好戦的だが、無理無茶をしたがるわけでは無い。蹴速との差異で、仲間に不安を覚えたのだろうか。
「いや。自分を試したいんだ。頼む」
亜意が、頼む!あの、亜意が。はっきり言って、魔神より態度の大きい亜意が!
「危なそうだったら、割って入るよ、おれ」
「見てな」
それなりの自信。
「おれは、手伝っても良いか」
「頼む」
やはり変だ。普段の亜意なら、好きにしろと言うはずだ。人に頼むなんて。
亜意は、強者への道を半ば諦めていた。蹴速。シロ。特に蹴速の存在が大きい。シロはハナっからケタがちがい過ぎて想像も出来ないレベルだったが。蹴速は、同じ人間。なのに、比べ物にならない程、強い。自分が、千人居ても勝てない。
それは、それで良い。強いものが、弱いものを取り込む。全く正しい。
ただ、抗いもしないのは、自分ではない。
蹴速が動けない時。シロが昼寝をしている時。動く奴が必要だ。それは、他の魔王でも良いし、新しい家族でももちろん良い。
そして、自分でも良い。
今の自分は、さて、戦いに付いて行けるのか。長いこと、自分で殺してない。
もらいものを、即壊すのも、あれだ。1度位、使い心地を報告してやらねば。
亜意は、1人、海竜に下り立った。そして、剣を突き立てた。すると、海竜は消えた。10分程は、かかったが。
超巨大竜を殺した剣。名を魔剣水色。魔神シロが、己の腕をもいで、加工した剣だ。魔神の骨を主な素材としているため、蹴速が本気で蹴り込まなければ折れない。魔神の血肉が生きた状態で残っており、使用者の亜意の意に応じて、敵を吸収、使用者の血肉とする事が可能。この機能で竜を取り込んだ。また、クロをベースとした自我を持ち、ある程度の自由行動が可能。今は、亜意の指示により、ただの刀剣として振舞っている。
シロから、ご褒美にもらった玩具だ。
こんなものが有っても、例えば、蹴速には勝てない。触れられないから。もしかしたら、有我、アカには勝てるだろう。この剣が、触れた者を取り込む能力が有ると知らないから。つまりは、騙し討ちなら、強者に勝てる、と。
亜意は、卑怯な手は、好きだ。もっと言うと、勝つために行うあらゆる手段が好きだ。だが、その手を取らざるを得ないのは、弱者だ。勝つために手段を選べるのが、強者。
亜意は、弱い。
護身用として。そう、シロからも言われた。これを持って、先陣を切っても。亜意では、死ぬ。
分かっている。アカと真っ向勝負をすれば、有我と剣を交えれば、絶対に負けると言う事。回復が追い付かないだろう。それとも一瞬で死ぬかな。
それで良かったはずなのに。いつの間にか、死ぬのが怖くなった。殺したり、殺されたり。それで、完結した世界だった。敵は殺し、味方は生かし。それだけで、満足出来ていた。
蹴速と会うまで。
なんという暴力。度胸。魔神シロに、1人で突っかかっただと。それも、本気で。
有り得ない、起こりえない事態。魔神の死。魔王最強のアカが、30秒で落ちるのが、魔神。30秒持ちこたえるだけ、すごいものではあるが。複数名で挑んだから?否。仮に魔王全員で挑んだとしても、どうにもならない。対魔蹴速。魔神と戦える怪物。
おかしくなってしまった。
蹴速と共に行く。世界移動に治癒。蹴速には出来ない事を求められ、連れ回される。嫌だったか?嫌、じゃ、なかった。戦闘に赴きながら、何も殺さず帰って来る。手を汚すのは、蹴速。それでも、2人、笑っていた。
あたしは、おかしくなった。殺して、生きて来たのに。殺さず、殺してもらい、その手助けをする。まるで、夫が狩りに行ったのを待つ、妻ではないか。
それでも、良い。蹴速なら、良い。
魔神を殺した男。これ以上は、絶対に無い。
どうでもいい人生。何時終わっても、終わらなくても、どうだって良かった。目的もやるべき事も、何も。
この男には、有るのか。何か。お前、何者なんだ。蹴速。
無いよ。そんな大層なもん。殺したい時は殺すし、助けたい時は助ける。おれの好いたようにやる。まあ、戦う事自体、大好きなんやけど。だから、亜意とおんなじやね。何の因果か、知り合ったし、似た者同士よろしく。
それから3日後。同じ布団で寝ていた。
お前、無茶な奴だな。
お前に言われるとは。
子が宿ったなら。どうする。
名を付けにゃあいかんな。
子育て。自信あんのか。
無い。でも、おれとお前が、居る。何の不足も無いな。
そりゃ、そうだ。
応えてしまった。
あたしより、すごい奴。
もっと、お前に付いて行きたい。お前と一緒に何処までも行きたい。最後まで、付き合いたい。だから。
あたしは、もっと強くなる。蹴速の側に居るために!
この魔剣水色は護身用。ただし、亜意のための。殺し尽くせば危険は無くなると言う設計思想に基づき、あらゆる敵を屠り、あらゆる力を集積し、使い手を守る剣。
魔神から娘への、嫁入り道具でもある。これは、亜意は知らないが。
少しは強くなれたか?
海竜の溜め込んだ魔力を全て取り込んだ。おかげで、世界中を巡るはずだった魔力が、そっくり消え、あらゆる恵みが減ってしまったが。些細な事だ。
亜意の戦闘能力は、元々高くない。その気性の故に、最も好戦的な魔王だが、戦術は、魔力に任せた自己治癒頼り。攻撃は素手か魔力。それでも、魔王級の魔力をまとわせた攻撃は、十分に強力。ザコ相手には。
この剣が有れば、少しは死ににくいだろう。蹴速の足手まといにも、なりにくくなったか。
周りは、亜意の心が分からない。魔力は充実した。亜意の、眼前の目論見は分かったが。しかし、それはどういう意味なのだ。
有我は、放っておく。困ってそうなら、貸す手は有るが。
ジンは、そのうち一緒に寝ようと考える。話をすれば、まあ何とか。
キ、モモは、何もしない。亜意が、相談してくるなら聞く。そうでないなら、手助けは必要無い。亜意は、出来ない事をやろうとはしない。戦闘で死ぬ事は有っても、それ以外なら、きっと言ってくれる。待つ。
マキは、傍観。魔力の扱いに於いて、最も役立つ教師、亜意。その背を見せてもらう。
様々な心を乗せて、船は、コウチに帰る。




