強さと言うもの。
グリス異変。
有我一行はヴァイキングを支配した後、グリスへ向かった。ヴァイキングからグリスへは、陸路も有るのだが、グリス首都へ港から近い、と言う事で船で赴く事に。
「振るってみたい?」
「ううん。危ないから、止めとく」
ジンの新武器。その機能性は、かなり高い。炭酸水とか、どうだろうなあ・・、そう思いつつ、グラスを刃先に持っていくと、本当に炭酸水が溢れ出した。
とんでもない。本当に神器だ。魔具のレベルを超えている。
美味しかったし。
モリから漏れ出した水をごくごく飲み干したジンを、皆は尊敬した。
グリス首都。アテネイ。
崩壊していた。
立派な神殿でも立っていたのだろうが。ただのガレキの山。そんなものを筆頭に、街もひどい有様だった。
「災害かな」
「どうする」
「放っておきたい所だけど。支配するんだ。助ける」
「うん!」
キ、モモの同意の上で、グリス救助を開始。
無論、コウチによる支配は宣言した上で。
グリスには、神族も残っていたが、彼女らでは、抑えきれないようだ。柱となる者達が、ごっそり抜けているからだろう。
ゼウス以下の、コウチ侵攻に当たった神族を皆殺しにした事を、生き残りの者自らに語らせる。それを、現在のグリス神族へ伝わらせる。
抵抗は、無かった。
大地には、神々の祝福が有ったはずなのに、それが消えている。故に、制御されていた災いが、山のように押し寄せてきていた。
有我は、よっぽど、支配は諦めて、捨てようかと思ったが。
モモが熱心だ。そして、マキもそれを見ている。
ええい。ここで諦めては、情操教育に悪い。
まさか、子を持つと、こんな影響も有るとは。
ダイコウチからの支援も約束。
易易と支配を受け入れたのは、何故か。答えは、少し後で分かった。
グリスの現在の指導者階級を含めて尚、最も神性の高いものが、ジンの海神のモリだったのだ。それを持つジンの強さも相まって、ジンは新たな指導者として、熱望された。
神は統治せず。
そう言い残し、ジンはコウチによる支配を勧めた。
それを、グリスは受け入れた、と言うわけだ。
「ジンさんは、よほど幸運に恵まれていると思えます」
「それは、自分でも思うよ。蹴速と会えたしね。それに、マキともこうして会えた」
ジンはにっこり笑って、マキと向き合った。
人嫌いが、成長したものだ。
ジンは、記憶力もそれなりに有る。出会った人間の名前、性別、身長、体重、強さ、そう言った知識は、全て。全世界の簡易なデータ全て。その程度の知識は有る。
だから、頭が良い、わけでもないが。
出会った人間の内、蹴速と出会って以降の嫌な人間は、殺した。
蹴速に、そう言うのはバレないように。と注意され、その具体的な実行方法も教えてもらった。一時ニュースになったが、蹴速が更に大きなニュースを立てて、誤魔化してくれた。
蹴速と、それ以外。それがジンの世界だった。そのうち、祝寝とも遊ぶようになって、蹴速達、になった。軽兵、無双双児、古強者。色々な強者とも出会った。超騎士。ちょっと目の上のたんこぶだけど、蹴速とお似合いにも見える位、素敵な女性だ。
そして祝寝。蹴速に取って、唯一特別な女性。
自分ではないと、はっきり言われた。
あの時の絶望以上のものは、もう感じないだろう。
都合良いぞ、蹴速。寝物語に言ってみた事が有る。すまん、と一言だけ。許すか、ばか。
マキは、ジンを見損なっていた事に気付いた。自身の腕力に振り回されている愚か者だと思っていた。
「申し訳有りません。私は、あなたを見下しておりました」
「ふふっ。そう言うのはね、バレないようにすれば良いんだよ」
昔のおれみたいだ。可愛い。
この子達が、元気に育ちますように。ジンは、海神のモリにでなく、ただ、祈った。
救助活動は困難を極めた。
コウチからの支援を大至急運ばせたが、それでも、国一つの災害は大きすぎる。支配下に置いたヴァイキングからも増援を寄越させたが、ヴァイキング自身、混乱から完全に立ち直ったとは言い難い。ゆるりとしたものだ。それでも、応援は有難かった。メイル自ら乗り込んできたのには、驚いたが。
グリスでは、有我が陣頭指揮を取り、ジンも飛び回り、更には、御徳以下の剣士隊、量猟以下の砲兵隊も全て作業兵として、活用した。いずれ、コウチにも大災害が来ないとは、限らない。その予行演習として、持って来いだ。
キ、モモは、争いが有れば、根絶するよう仕事を仰せつかった。マキはそれの見学。この一大事に騒がしいものは、邪魔だ。
結果、グリス、ヴァイキングを狙っていた、賊を幾つか、魔族を数千、潰せた。
マキも実戦を経験出来、良い仕事となった。
コウチの守兵として居残った神無達は、暇の極みだった。
「仮要明、斬らせてくれ」
「お断りします」
求愛にも似た響きだが。中身は、殺害宣言だ。
「良いじゃないか。飛行性能は上がっているのだろう」
「私自身は、強くなっておりませんよ。飛行出来たからと言って、ヤマトナンバーワンと張り合う気など、毛頭有りません」
「残念だ。飛行動物を斬る機会は、最近無いからな」
「そう言えばそうだな。俺も魔族を最近斬っていない。斬らねば鈍るな」
「私の領分では有りませんので、蹴速様にでもお願いしてください」
「蹴速は、斬れない。おれの実力では」
「俺もだ」
ハハハ
なんて、楽しそうに、生贄を選ぶ顔だ。
熊大将と一飲涙は、平和に鍛錬している。
なんだかんだ、2人の実力も伸びている。意外にも、一飲涙も伸びしろが多かった。速さ、巧さ、共に磨いている。
熊大将もジリジリ、より強くなっている。
そして、この2人。
「仮要明も、射撃に徹すれば強いよな。100発防げたら、斬っても良いか?」
「俺は千で良い」
「ならぬものは、なりませぬ。おれは、死にたく有りません」
「堅い奴」
「全く」
こいつら。
「飛ぶ的が欲しいなら、おれがやろうか?」
「良いのか。願ってもない、と言うか、願ったり叶ったりよ」
三十鬼が立つ。既に気が入っている。
魔王最強対ヤマトナンバーワン。
「これは、面白そうな」
「ああ。勉強になる」
「私も勉強させて頂きましょう」
全員が見守る。仮要明も、実戦に近い状況でのアカの飛行を見る。
さて、対魔蹴速と同程度の能力だとか。
勝てるわけは無い。無いが、蹴速にだって、簡単に負ける気も無い!
三十鬼は加速と停止を小刻みに繰り返し、アカを惑わせる。蹴速は、フェイントを滅多に使わない。使う必要も無い。故に、アカは知らない。この高レベルで、フェイントは、かなり効く。アカは取りあえず、目に映った三十鬼全てを打ち落としてみたが、やはり多重攻撃となると、一点の重みは、軽い。
受けられた!そこに反撃!!
三十鬼は、初めてアカを斬った。腕に、切り傷を残した。
流石に、腕1本もらう、程甘くないか。
「強い。これが、三十鬼」
神無も三十鬼と本気の稽古を結んでいる身だが。これ程は、引き出せていない。口惜しい。もっと強くなりたい。
アカは、それなりに本気だった。殺さないよう、注意はしていたが。
蹴速なら。蹴速なら、傷一つ負わず勝ったはずだ。
同程度の能力で、結果が異なる。これが、純粋な強さの差。
現時点で、アカだけが気付いている現実。
もちろん、この場に蹴速に怪我を負わせた者は、居ない。それでも、蹴速の真価を知っているのは、アカだけだ。
一度、殺されたアカだけ。
蹴速の本当の強さを知っているのは。
あの手刀の鋭さ。蹴り足の重さ。初めての死。
全てが、甘く愛おしい。
蹴速を思うと、胸が騒がしい。全力で戦いたい。今の自分なら、ガッカリさせない。
蹴速。
おれが、お前を満足させる。待っていてくれ。
今、目の前の相手との戦い。これも、勉強。蹴速との明確なちがい。それが有る以上、避けては通れない。
フェイントは続く。全速で行ききる、と見せて、ターン。アカは振り回されつつ、更に自分に出来る事を知る。勝つ、殺すだけなら、力を全て出し、地力に任せ、押し潰せば良い。だが、それでは、永遠に成長出来ない。
アカは自分の肉体の硬さに任せ、ターンに追い付く。速度も力も上げていない。今までのままだ。
反射神経もちがう。本来の肉体性能はもちろん、魔力による自己治癒によって、幾らでも無理が効く。
最初から勝負になっていない。はずなのだが。
未だ、三十鬼は、落ちていない。
開始より、6分。
もし、この数字が、蹴速との稽古なら、蹴速亭総出で、パーティーが開かれるだろう。
若干無理をさせ過ぎた。足が、もう一踏み込みで、終わる。腕が、もう上がらない。
これでラスト。反撃を無防備で受けて死ぬかも知れないが、仕方無し。
上がらないなら、そのまま突く!フェイント、はしない!
フェイントをかけない事がフェイント。今まで見せ続けた動きと全く同じ。最後だけを変える。
食らえ!
見事、アカを貫いた一撃だが。
薄皮一枚だ。
突き手は、見えていた。それしか、無い。故に、最もそれを繰り出しやすい所まで乗ってあげる。
だが、血まで流してしまうとは。これは、わざとでは無い。三十鬼の実力。
すごい。
三十鬼は突いた姿勢のまま、躱したアカに気絶させられた。反撃を思いっきり、腹に食った。
内臓が幾つか損傷し、骨も数本折れた。
それでも死んでいないのは、アカの手加減と、三十鬼の地力。
ごくり
熊大将のつばを飲み込む音が、皆の耳に聞こえた。
それ以外の音が、消えていたため。
平然と三十鬼を癒すアカ。どうやら、これも蹴速の子の母体らしい。大事にしなくては。
飛ぶアカは見えなかったが。凄まじいものを見た。神無と三十鬼の稽古もどえらいものだったが。絶対に、こいつらに付き合ってはいけない。仮要明は良く学んだ。
熊大将は、人間の果ての無さを思い知った。有我、神無、三問。どいつもこいつも。これが、世界の広さ。こんなのと、一緒に居て、訓練も出来るなんて、どれだけ恵まれているのだ!
特盛とも、稽古をするが、追いつかれているのを感じた。やはり単純な程、伸びやすいな。
おれも、もっと。純粋に強さに向き合わなくては。
熊大将は、ナインライン、クマモトの情報をコウチから伝えてもらい、コウチ経由で、クマモトへ指示を伝達していた。
間違っても、ただ稽古をしていれば良い人間では無い。
一飲涙は、心を動かされていた。
4ヵ国を制したコウチ。そのコウチのナンバーツーを圧倒する存在。更にそれを超える魔族。更に更に強い、人。
一飲涙は、今までの倍の稽古をするようになった。悩むのが、馬鹿らしくなった。胸を貸せ、と言う雰囲気で神無に接する事すら有る。その度にぼこぼこにされているのだが。
どことなく、特盛に似てきたな。そう思われている、一飲涙であった。
神無は、世界征服が完了した後を考えていた。
終わったら。遠慮せず神化を使い、蹴速と戦える。
その時までに、地力を上げる。
早く、全力を振るいたい。蹴速。俺の全てを受け止めてくれ!




