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キの想い。

 さて、この世界の異常とは。


 アフリカ大陸に飛び出た蹴速達には、特段、驚くべき光景は待っていなかった。確かに、ダイコウチでは見たことの無い魔獣、怪獣が山程居たが。それだけだ。


 こんな事ならキも誘えば良かった。


「どう思う」


「同意」


「確かに。前回同様、殺し尽くす予定でしたが、こうなれば、魔獣を従えた方が良いかも知れません」


「蹴速が正しいと思う」


 ジンはともかく(ジンは蹴速のために、事実を変えてしまったりした事が有る)。亜意と超騎士の同意を得られた以上。そうした方が良いだろう。


「そう言うわけで、頼む」


「ああ」


 二つ返事でキは付いて来てくれた。


 グリスから帰って来て、そう日は経っていない。疲れは取れただろうか。


「何。気にするな」


「しかし。お前を働かせ続けている」


「今回は、恐らくおれの出番は交渉のみ、だろう?」


「ああ。大船に乗ったつもりで、居ってくれ」


「そうだな。おれは、散歩のつもりで居よう」


「それで良い。おれらあが、何とかする」


「お前なら、間違い無く言葉通りにするだろう」


ふふふ


 キの笑い声が、優しい。


 5人で、再出発。


 魔獣との会話を試みるキ。体長50メートル程の大型。蹴速とジンが取り押さえているので、微動だに出来ない。


「ぎぎぎ(こんばんわ。良い夜だな。所で、話を聞かせてほしいのだが)」


「があがあ(こんばんわ。出来れば拘束を解いてください。お話とはなんでしょうか)」


「ぎあぎあ(逆らうと死ぬので、気を付けてくれ。詳しい話をする前に拘束を解こう)」


「があ(ありがとうございます)」


「蹴速、ジン。手を放してくれ。拘束を解くと言ったのでな」


「了解、ジン」


「うん」


 蹴速とジンは、手を放した。


 魔獣は、その場で大人しくしていた。かなり賢い。大急ぎで逃げる、か襲ってくると思っていたが。これは当たりだ。


「ぐあぐあ(では、詳しい話を聞こう。手荒な真似をして悪かったな)」


「ぎあ(いえ。生かしておいてくれて、ありがとうございました。なんなりと、お聞きください。もちろん、答えられる範囲で、ですが)」


「ごあぐあ(そうか。悪いな。何か食物でも、後で調達してみよう。それはそれとして。この地について知っている限り教えて欲しい。支配者のようなものは居るのか、も)」


「ぐあぎあ(はい。とは言っても、私も下級の魔獣なので、そう詳しい込み入った話も出来ませんが。ここは、まず。暗黒大陸。ご存知かどうかは分かりませんが。その暗黒大陸の端っこに今、居るわけですね。そして、支配者は居ます。兆獣王、と言います。この暗黒大陸全ての獣と戦って勝てるそうです。会った事は有りませんが)」


 暗黒大陸。夜に出てきたので、昼間も暗いのかどうかは、まだ知らない。


「ぐあ(なるほどな。それで、この大地を支配している兆獣王とやら。群れを指揮しているのか)」


「ぐおぎあ(いえ。兆獣王自身は、指揮する事は無いはずです。群れを率いる以前に、群れを持った事も無いと思います。王とは言っても、ただ強く、何者の反抗も許さない程強い。それだけで)」


「と言う事らしい」


「ふむ。なら、怪物のイギリス侵攻について、兆獣王は知らなさそうやな」


 どうする。


「このまま殺し尽くして、この大陸を支配しても良いんじゃねえか」


「うーん。それは、ひたすら時間がかかるしなあ。此処に魔獣が集まるって言うなら。此処はこのままでも良い。此処から生まれるなら。殺し尽くして、綺麗な土地にして、コウチに引き渡す」


「現状、不明なのですね」


「ああ」


「とりあえず、ここいらの調査。1週間粘って、何も見つからなければ、掃討する。これでどう?」


「それで行くか。分からんからな。おれはジンの案で行こうと思う」


「手ぬるい。が、時間はかかるからな、掃討は。良いぜ、それで」


「同意します」


「話はまとまったか」


「ああ。この辺の話を聞いてくれんか。それと何を食べるのかを。礼を渡したい。ああ、出来れば殺したくないんで、人間とか言う冗談はさせんようにしてくれるか」


「ふ。了解した。ぎおぎお(では、最後に。この辺の詳しい話が聞きたい。もし、知っているなら、体長1、5メートル程の怪物の話を聞きたい。そして、お前の好物など有るのか。礼として渡したい。嫌いなものも有れば、教えてくれるか。それは避けよう)」


「ぐあぐあ(どういたしまして。私はこの地域の生まれです。しかし、まだ生後10年でしょうか。母親とも、もう離れ離れ。この地域について、誰より知っているとは言えないのです。お役に立てず、申し訳無いのですが。その上での、話としてご承知ください。この地域を実質上支配しているのは、賢獣シーラ。彼女は、水獣ですが、それでいて地上にも影響力を持つ偉大な獣なのです。彼女の忠告で、どれほどの魔獣が命拾いしたか。また、非常に長生きで、その間の知識を忘れること無く、全て覚えていると言われています。自身の眷属や、親族について聞く者も有ります。そして、件の魔獣ですが、私には心当たりは有りません。その大きさの魔獣を食べた事は、もちろん有ります。しかし、あなたの申されるモノかどうか、判断が出来ないのです。故に、賢明な判断として、賢獣シーラにお会いしてはどうでしょう。長々と喋ってしまいました。私の好物ですが、怪鳥フウラが好きです。ですが、ふふ。実は、既に頂いているのですよ。そちらの方が、殺した中に、フウラが居りまして。それで、私もノコノコ出てきたわけです)」


「ぎあぎお(なるほどな。実に得難い、貴重な情報だった。礼を尽くしたい。フウラとやら、我々が狩って来よう。そして、賢獣シーラだったか。良い情報だ。会いに行こう)


「ぐあぐお(そうですか。私をあっさりといなす方に殺されずに済んで、ホッとしています。シーラは海岸に普段居るはずです。そして、フウラ。有難うございます)」


「ぎあ(なんのなんの。本当に感謝する。フウラはここに持ってくれば良いかな)」


「ぐお(はい。お恥ずかしながら、私もまだ特定の巣を持っていないのです。この年で、ツガイも出来ず。ここまで持って来て頂ければ、私が見ております。勝手に頂戴しましょう)」


「ぎい(何と。そうなのか。既婚者のアドバイスとしては、相手はとっとこ出てくるものだ。焦る必要は無いが、これは、と思った相手には全力で挑む事だな。シーラの情報感謝。フウラはここに置いておこう)」


 キは深く感謝の言葉を捧げ、魔獣と別れた。


「すごい。キ。お前の働きは、おれとジンを足したよりも大きい」


「そんな事は無い。言い過ぎだぞ、蹴速。魔獣を取り押さえたお前達が居なければ、会話にもならんさ」


 キはあっさりとしていた。本心からそう思っている。謙遜では無い。


 自身が、単独の戦闘能力で最も劣った魔王だと言うのは、自覚している。強者こそが全てを得る世界で、最も弱い己の価値は。魔神、魔王達とは上手くやっていた自負は有る。皆で楽しかった。役に立つ能力と、褒めてもらった。しかし、アカやアオミドリのように、前線を任される事は無い。亜意のような強靭さ。モモのような、圧倒的な能力。全てが、自分には無い。


 魔王として、最も出来損ないなのが、自分だ。


 だから、他の魔王、他の者の役に立とうと思った。他の者は出来損ないでは無い。きっと何かをする。自分には出来ずとも。他の者が。仲間が、友が、成し遂げてくれたなら。それは、きっと、自分にも、何かが有ったと。思えるのだろうと。


 アカが死んだ時。アオミドリが前に出た時。自分は、何もしなかった。


 ああ。やはり。自分は、どうにもならない。ただの出来損ないなのだ。


 蹴速達との戦い。


 何故か、折衝役をしていた。


 いつの間にか、妻になっていた。


 アカを殺した者の。


 アカすら、なびいた。魔王最強のアカも。と言うか、自身を殺した相手に嫁いだアカの度胸は、もう何も言えない。


 蹴速達との日々は、面白かった。家事と言う、新たな働き。魔王に野菜の下ごしらえを命じる、最も弱い人間。祝寝。最もか弱い者が、命令を?族の長である蹴速も、それを推奨していた。不思議だったが。新しい価値観を知った。


 このような世界も、有るのだ。教えてくれたのは、皆。


 魔王、魔神、人間。


 自分以外の皆が、自分に教えてくれる。自分は、出来損ないであっても、出来る事も有るのだ。


 おれにも、役立てる事が有る。こんなに嬉しい事は無い。


 もしも。亜意が、アカが、この胸の内を聞いたなら、烈火の如く怒るだろう。アオミドリが、モモが聞いたなら、泣くだろう。


 マキ。


 まさか、聞かせられるはずも無い。


 魔神シロは、何も言わない。


 魔神。


 親でもあり、自分達の絶対的な支配者でもある。魔王の誰も、魔神に逆らった事は無い。強い、と言う言葉では、収まらない。絶対、と言う言葉。対になるものが無い様。まさしく、それだ。究極の力の形。在りとし在れるもの全てより、強いもの。


 何者なのだろう。


 思えば自分は、他の魔王について真剣に考えた事は有っても、魔神の事は考えた事が無い。何故だ。一応、親の事なのに。


 帰ったら、他の魔王にも聞いてみよう。


 また、楽しみが増えた。

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