イギリス調査、開始。
「どうします」
「ん。イギリスの調査か」
「ええ。時間をかけて、じっくりと取り組む必要が有るでしょう。出来れば、前回と同じメンバーが欲しい所です」
蹴速と同格のジン。回復の出来る亜意。連絡役を務められる超騎士。
「確かに。不安なメンバーは1人も居らんかったからな」
例えば、アオミドリ。キ。性格上、大丈夫か、不安の残るアオミドリ。実は、戦闘能力が、モモより低いキ。サポートとしては、キは性格も相まって素晴らしい働きをするが、矢面に立たせるには不安が有る。それでも、尋常な敵に遅れを取るわけは無いのだが。
特盛も、かなり強くなったが。前を任せられるか、と言えば、蹴速の求める基準には達していない。
蹴速は、死なない事を求めている。だから、それを示した有我、超騎士、無双双児、軽兵、シロをかなり信用している。前衛として。
死ねば、悲しい。死ぬな。
敵は幾ら死んでも良い。だが、おれの好きなものの死は、おれが許さん。
死による戦力の喪失?そんな事はどうでもいい。おれが勝たせる。
共に戦ってくれるのは心強い。休憩も出来る。だが、究極的には。シロ以外、誰も必要では無い。敵として、シロが絶対に欲しい。戦いたくて戦いたくて、たまらない。自分を全て出せる相手。今の自分を超えるきっかけになる敵。もっと強くなりたい。シロ。愛している。お前を殺したい。
「今。蹴速に呼ばれた」
「そうですか」
「愛じゃのお」
「然様ですね」
「淡白な反応よ」
「私も愛されておりますので」
「むう」
シロは、自業自得と言う言葉を知った気がした。
眼前のアオミドリは、反論も肯定もする余裕は無い。
強い。知っていた。分かっていた。自分達は、誰よりも魔神の強さを知っていたはずだ。
なのに、稽古を申し出てしまった。
回復が追い付かない。自己治癒能力は、アカに次ぐ。身体能力も、魔力も、低くない。それでも、どうにもならない。それはそうだ。アカだって、魔神には、歯が立たない。勝負になるのは、蹴速だけ。
夫だけ。
魔王アオミドリには野心が有る。
巡り会った運命の人と、一生を楽しむ。子供も出来た。オマケも多いが、3人仲良く暮らしたい。
夫を助ける力が欲しい。変な夫なので、戦闘を与えないといけない。その相手は、まあ誰でも良い。魔神など与えておけば良いだろう。飽きもせずぶちのめし合うはずだ。全く幼稚な。だが、それを受け止めるのも妻としての甲斐性だろう。
それはそれとして。
家の権力争いには、勝つ必要が有る。蹴速の横に座って、オマケを見下す!
そう・・
シロ。お行儀が悪いですよ。
アオミドリ、そんな厳しく言わんでも。
いいえ、あなた。しつけは若いうちに済ませないと。
そうか。アオミドリがそう言うんならそれが正しいんやろう。
ええ。あなたは私が支えますからね。
助かる。アオミドリが1番よ。
よだれが落ちる!
魔神を支配下に置き、この家を我が物とする。
アオミドリは野望を隠さない。真っ直ぐに進む。
全快した肉体でシロの背後を狙う。が、自身の背を小突かれて、数キロ飛ばされる。着地はしない。空で体勢を整え、戻る。一瞬背骨が粉砕したが、回復した。衝撃で全身がちぎれそうだったが、今は問題無い。
この肉体に、不足は無い。不足は、自身の戦闘技能。他の魔王が戦っている間、自分はずっと城の中に居た。持って生まれた戦闘能力は、アカに次いでいる。だが、実戦では、キのように役立てず、モモの足元にも及ばない。モモは性格上、戦えないのだが。
そして、全てに於いて、亜意に負けている。
元々、性格は合わない奴だった。怖い人だった。一部地域の魔族を皆殺しにして、魔神にスカウトされた、稀有な人間。魔族の身体能力は持っていない癖に、壊れた肉体を治癒しつつ、殺した魔族の血で魔力補給しつつ、殺し続けた。今、思い返しても震えが来る。自分の地域で起きていたなら、どうなっていただろう。やはり勝てたか。あの頃の亜意は、本当に身体能力は低かった。その辺の魔族に、平気で怪我を負わされていた。肉体性能に物を言わせて、押し潰せた気もする。
だが、負けた気もするのだ。まず間違い無く、あの頃なら勝てるのに。それでも、亜意には勝てない気がしていた。
怖い。怖かった。出来れば、顔を合わせたくなかった位に。
亜意は、魔神にでも平気で逆らって、殺しに行っていた。ただ、魔神に遊ばれているのを分かって、本気ではやらなくなった。アカや他の魔王にも手出しを禁じ、魔神は魔王アオ アイを作った。
殺したんじゃから、責任取って魔王として、治めてくれんかの。
死ね。
何か、やる事でも有るのか。
無い。
暇潰しには、なるぞ。
・・・
料理人も、居る。
ち。
あー、誰か、3食付の魔王の仕事やってくれんかのー。
やる。
おお!
無茶苦茶だ。
それは、亜意も魔界に落ちて、ろくなものを食べていなかっただろうけど。頭オカシイ。やるって。何で言えるんだ。魔族ですら無いだろ。
今、あの時の亜意に追いつこうとしている。
魔王アオミドリ ユウキアイ。趣味は読書。家の外に出るのはお仕事だけ。だった、者だ。
魔神に逆らうなんて、有り得ない発想。だが、今の自分なら。
魔力を気と混合、魔神に接近する直前で爆発させる。もちろん自分も巻き込まれるが、それを想定している自分に驚きは無い。魔神シロは、一瞬思考が途切れたはず。全速力で突っ込み、肉体でダメージを与える。通常、魔神が魔王の肉体で傷付けられはしない。だが、加速しきっている自分と、一瞬の思考停止により、肉体の構えも途切れたであろう魔神なら。今の一瞬なら!
ご
アオミドリは頭から突っ込み、ぐちゃぐちゃになった。
魔神の肉体は、爆発に応じ、少し強固さを増してしまっていたのだ。それまではアオミドリと戦うため、手加減していたのに。
上半身は完全に原型を留めていない。はいていた靴だけが無事だ。
復活まで、数時間はかかるか。
シロはクロとお茶会。今日は、緑茶とまんじゅう。
「蹴速と戦いたいの」
「はい」
「え?」
「いえ。趣味を共に楽しんでみようかと」
「ほう」
そのような思考を。自分の役に立つように、一定の性能は持たせているが、闘争心は植え付けていない。成長したのか?
成長も組み込んでいない。いや、変化をするはずは無かったのだが。
面白い。これは、シロに感化されての事か。それとも、クロの、クロ自身の変化なのか。
思えば、子をなした事も、起こりえない事象。クロには、変化は起きない、はずだったのだ。
蹴速に変えられたのか。
心地良い。
アオミドリの修復を待ち、アカとも戦う。
強い。蹴速と同程度の能力に加え、完全に力を発揮し始めた。
最早、地上での稽古をクロに禁じられる程に。
洗濯物に、大量にホコリをまぶしてしまって、祝寝は許してくれたが、クロにはしこたま怒られた。あの時だけは、魔神の力を使い、洗濯をもう一度行った。ふんわり仕上げまでやってのけた自分は、実は主婦に向いている魔神なのか。
生活は、その時々に新鮮な体験をもたらしてくれる。面白いものだ。
蹴速達は出稼ぎに。
増えた子供達に、顔を覚えていてもらえるよう、出来れば早く帰りたいものだが。
イギリス周辺の情報を本部と騎士団からもらう。本部情報として、活発化は見当たらない。今まで通り。騎士団からは、イギリス周辺の土地の異常を知らされる。具体的には、地面の陥没、潮の変化など。
まあ、あれだけ、蹴速が暴れまわったのだ。申し訳無い。
建前として謝罪しなければいけない。
ヴァイキングに挨拶して、穴へ。
今度は4人全員で挑む。メンバーは前回と同じく、蹴速、超騎士、ジン、亜意。
前回、蹴速が出た、人工と思しき空間へ。
数千体程しか出なかった。やはり、ここまでは通常。以前のは、何がスイッチだったのか。
「これは」
「すごい」
蹴速と亜意以外は、初めて見る。アリ塚の群れなす街。
「しかし、住人が居ない」
「ああ」
「奥まで行く?」
「それしかない。今日来たのは、最後まで見るためよ」
「行きましょう」
この4人が揃っていれば、魔神にすら、簡単には負けない。戦力に不足は全く無い。心配は、地球への影響。閉所である地下空間で、どこまで力を出して良いのか。少なくとも、蹴速は全力を出せない。適当にやるしかない。
それでも、やはり心配の要る敵も、居ないだろうが。
アリ塚を1個壊してみる。ちょっとしたビルより大きい。
中からは、やはり出てこない。何も居ない。打ち捨てられた廃墟なのか。
数分もすると、前回と同じく、数え切れない敵が。
今回は、敵の出現位置を探る。蹴速を先頭に、ジンが最後尾。ゆっくり進む。1分に千体を殺し、8時間程経った。
終着点。地下およそ2千キロ。
そこには、何も無かった。
正確には、黒い穴以外は。
「またか」
蹴速のうんざりしたような声。
「珍しいですね。そのような響き」
「まあなー」
因縁では有る。
「魔族の仕業って事か?」
亜意の知識では、これを使えるのは魔王、魔神のみ。梅のは、少し技法がちがう。
「いや。これは自然発生もする。ただ、この穴。ずっと有るんよな。それがオカシイだけで。おれらあが前に入った穴は、そう持続してなかったが」
つまり。原因は不明だが、穴が持続するシステムになっているのだ。誰かがやっているのか、自然にそのような構造になってしまったのかは不明だが。
蹴速達は、相談した。周辺の敵は全て殺した。さて、この穴に入るかどうか。
「超騎士。結界頼む」
相談は蹴速の最初の一言で終わった。
「相談じゃあないな」
「ふふ」
和やかな亜意と超騎士。蹴速のペースで動くのは、懐かしいジン。
4人は穴に飛び込む。
あの違和感は、超騎士の結界で緩和されているのだろうか。然程でも無かった。
そして開けた光景。
平原。
「ん?」
「何処だろうね」
「植物には、見覚えが有りませんね」
「有る」
亜意。
「これは、向こうの世界のもののはず」
「ふむ。つまり、こっちとあっちを、つないじょったんか」
「ああ。そう言う事だと思う」
しかし、あんな生き物。亜意すら見た事は無いのだ。魔界のものでは無い。
「此処は、じゃあ、あっちの何処かなんだね」
「そう言う事。しかし、それで、何処かは、相変わらず分からん。跳んでみるか」
蹴速は上空に跳んだ。雲を越え、周辺をはっきり見下ろせる位置まで。
「何だ。アフリカか」
そこは、先日宇宙船が不時着していた、南アフリカ共和国だった。元の世界では、だが。大まかな地形が全く同じだ。
怪鳥に襲われたので、殺して、その辺に捨ててみた。
肉食獣が集まってきた。更にまとめて殺して、放置。更に集まる。
この辺には、魔族や人の手が入っていないのだ。ここまで多いと言う事は。
蹴速は皆の下に戻った。
「どうも、あちらのアフリカに居るな、おれらあ」
「へえー。それで、怪物がこっちに?」
「ああ」
しかし。未だ不明な事。
あの数は、異常なのだ。流入は理解出来る。穴を入って来た。しかし、あの数だけは。
「調べてみるか?」
「ああ」
その前に、本部に連絡を入れておく。亜意が場所を覚えてくれたので、一気に本部へ、そしてまたこちらへ。




