ジンのヴァイキング見物。
「ありがとね」
「ありがとうございました」
「なんのなんの。困った時は、お互い様よ」
無双双児は、先日助けてもらった、病院に運んでくれた、ヴァイキングに礼を言いに来た。
「お前ら、もう動けるのか」
「うん。まだ痛いっちゃ痛いけどね」
「リハビリもかねて。もう動き出しませんと」
あれから、2週間。全治3ヶ月の怪我のはずだが。
「まあ、元気でやれよ」
「それで、イギリスの様子は?」
「ヴァイキングが当たってるんですよね」
騎士団は守り。調査は、ヴァイキングが受け持った。
「ダメだな。進めねえ。敵の数に、キリがない」
「生き物なんでしょ」
「クローン・・いえ。それでも不可解な速度の生産」
「ああ。有り得んのだ。そのうち尽きると思っていたが」
いくらなんでも、多過ぎる。蹴速達が、無数に殺し尽くした後なのに。
「蹴速に出張ってもらうしか、ねえな」
「なるほどねえ」
「それが、安全ですね」
ヴァイキング、ジンは蹴速の誕生日祝いから戻っていた。
いきなりシロが現れて、どうしたのかと思ったら。
おれに直接言えよ、蹴速。
全く。
「嬉しそうですね」
「ああ!とても!」
メイルは、ストレスが溜まってきていた。船にも乗れない、戦えもしない。何も出来ない。
「そう言えば、そのうち来るってさ」
「コウチが、ですか」
「うん」
それならば。
ざん
足音。
「何か、注文した?」
「いえ」
メイルは、自分の武器を取った。
ジンは扉を開けた。この家は鋼鉄製ではない。閉じこもるのは、不利だ。
骸骨の群れ。やはり。
「ここが襲われている、と言う事は」
「街が危ない!」
メイルが駆ける。街を目指して!自分の領地を守るために!
「頑張るなあ」
ジンは、視界全ての骸骨を滅ぼしてから、メイルを追った。
街には骸骨が溢れていた。街角では、ヴァイキング兵が踏ん張っているが。
メイルは叩き潰し始めた。得物は、大金槌。船だろうが、砦だろうが、海獣だろうが、捻り潰せるお気に入りの武器。
骸骨も粉々にする。やってみて分かったが、多少吹き飛ばす程度では、復活する。完全に粉微塵にしなければ。
「オオオオオオオオ!」
太い声。強い声。大金槌が唸りを上げる。
「なんだ、強いじゃん」
ジンが追い付いた。
さて、どうする。有我達が来るのを待つ予定では有ったが。
予定変更。今すぐ、ぶちのめす。
ジンはやはり、視界全ての骸骨を街並みごと消して行った。
多少メイルからの抗議も有ったが、有事だ。仕方無い。
ヴァイキング砦。ここが本拠らしい。
「支配階層は、ここに居ます」
「ふーん」
ジンは、砦ごと消滅させるか、と一瞬思ったが。お手伝いさんとかも巻き込むな、と思いやめた。
正面から入る。敵らしい敵は居ない。骸骨だけ。メイルの案内で、上階へ。
ある一室。会議室か?
「あれかな」
「確かに。あれは、魔刃」
刀ではない。剣でもない。それは、刃。日本刀の持ち手が無い状態、と言い表すべきか。刃のみねに、指を通す場所が有る。超とがったメリケンサックと言えば分かりやすいか。
それが、人を操っている、のだろう。明らかに、振れてない。武器に振り回されている。
ジンは取りあえず、全力で拳を振るい、魔刃を消し潰した。
持ち主は、うつろなまま。やはり、亜意やシロが居ないと。
「可哀相だけど、この人は、このままだね」
「ええ。殺さないで頂いて、ありがとうございます」
「良いよ」
ジンとメイルは砦を後にした。骸骨は、倒れ伏している。
メイルの頭に入っている、父と親しいヴァイキング首脳部。後は、水飛沫号の乗組員だけか。
水飛沫号。父が、自分が、初めて船に乗った時の、練習船。あれを、手にかけるのか。
今は、親族の誰かが動かしているはず。
水飛沫号が普段居る、港へ。
「うわあ。いっぱい居るね」
「ええ」
骸骨の群れ。そして湧き出している元。
水飛沫号。
「出来るだけ、武器と骸骨だけ消すよ」
「お気遣い、有難うございます」
本心から、メイルは感謝した。
船の周辺を掃除してから、乗り込む。人間の姿も少しは有る。
問題無く、全て消した。船も原型を留めている。流石にアチコチ小破しているが。
「これで、全部なのかな」
「どう、でしょうか。私の記憶に有る限りは、片付いたはずですが」
「見回って来ようか」
ジンはメイルを抱いて飛んだ。
ヴァイキングの国土は、それなりに広い。大地、島、船。主要拠点を見回ってみたが、問題無い。
「問題解決、かな。後は、直ぐに来てくれれば」
「ええ」
操られていた人間達は、未だ自我を取り戻していない。遠からず、死体の山になるだろう。
「何か、欲しい物は有りますか?」
「ん?」
「今なら。混乱のドサクサで、何か国宝でも、問題無いと、思います」
メイルはメイルなりに、ジンに報いたかった。
それが、門外不出の品でも。
「良いの?じゃあ見てみようか」
それほど、期待はしていない。だが、メイルの気持ちも嬉しかった。し、自分が此処まで来た理由。何か、分かるかも知れない。
先程の砦に戻る。此処には、ヴァイキングが各地で奪った物、ヴァイキング自身が生み出した物、あらゆる物が有るはずだ。
だが、大部分は持ち出されているはずだ。皮肉にも、操るはずの武器に、そそのかされて。
キョロキョロ。
普通の武器ばかりだ。
もちろん、一級品では、有る。が。ジンの武器としては、資格は無い。
蹴速と同じく、今まで、武器を使った事は無い。
さて。見物だけで帰るか。
「これなど、どうでしょう」
メイルのおすすめ。きらびやかで在りながら、鋭さがにじみ出ている。名槍。逸品である。
ジンは、少し振ってみた。槍が、消え失せた。
「・・すごすぎる」
「まあねー」
蹴速と同じルート。蹴速の親に作ってもらうしか、無いか。まー、蹴速とお揃いなら、それがベスト。
ごとん
槍を消し飛ばした衝撃で、何かが倒れた。
おお。
禍々しい。先刻のと同じ、魔刃。
蹴速が居れば。自分がこれを手に取っても、操られても、何とかしてくれるのだが。今は、この場所には、居ない。
ジンは魔刃を消した。もったいないけど。
「申し訳無い。時間を取らせただけでしたね」
「いやいや。面白かったよ」
本当だ。自分の世界では、あまり見られない武器も沢山有る。これは、個人携行用大砲だろうか。元の世界では、もっと小型化されている。こんなデカい、砲身が10メートル、弾倉らしきサイドカーみたいなもの。それに、腕を突っ込む場所が有る。つまり、これは個人が持ち運ぶものなのだ。
きっと、特盛みたいな人間を見て、開発してしまったに違いない。
槍、剣と言った基本的な武装も、様々。見ているだけでも、かなり面白い。
「うん。楽しい」
ジンは笑顔なので、メイルも胸を撫で下ろした。礼を欠いてしまうのは、不味い。基本、力の横行する世界では、仁義が重要になる。意外な事だが、法治の進む程に、人の間での礼儀作法は廃れる。腕力がモノ言う世界では、礼節は恐ろしく重要になる。それ以外に、力を押し留めるものが、無いから。
それ以上に、恩人に何も返せないのは、生き恥だ。何も返せないと言った。言いはした。だが、本当にヴァイキングがその程度の民族だなんて!
「何でも言ってください。私の名にかけて、融通します」
「うん。じゃあ、まずは。美味しいもの食べよう!動いたからね」
「ええ!肉と魚。どちらが好きです?」
「肉かなー」
「では、串焼きなど」
「良いね!」
和気あいあいと、2人は、いつも通りの街に入った。
先程まで骸骨の襲撃を受けていたのに。すごいものだ。
「良い風」
「ああ」
有我は亜意と一緒に船の上だった。
神無も帰って来た。ヴァイキング、グリス同時制圧の時。
神無と、4将(何故か、仮要明も含まれている)は休ませる。
健康のため、モモも外に出ている。そして。
「母上。これが、外、ですか」
「ああ。これが、外だ。マキ」
キと蹴速の子。マキも初陣だ。最も、激しい戦闘にはならない。そう言う背景有っての事ではある。
いつかは、外に出る。故に、可能な限り安全な戦場へ。
それでも、流れ弾も、有りうるのが戦場だが。
「お父様も一緒なら、尚の事良かったですね」
「ふ。そうだな。だが蹴速は蹴速で忙しい。分かってやれるか」
「それは元より。されど、心の寂しさが埋まるわけでは有りませんよ」
「ふふ。そうだな」
キはマキを抱く。
ややこしいが、母体はキなので、母親でも合ってる。
有我は、どういう言葉使いしてんだ。と思ったが。まあ、良い。我が子には、海鶴と己黄の子を見習ってもらおう。きっと祝寝の影響が濃い。真人間に育つだろう。
モモはニコニコしている。キが、親らしい。立派だ。少しの寂しさも無くは、無い。しかし、仲間が友が、家族が。素晴らしい魔族になっている。我がことのように、嬉しい。
3隻の船で、外海を行く。普通なら戦力も知識も、全く足りていないはずだが。
ヴァイキングとグリスの生き残りに案内を頼んでいる。生と安住を約しているので、まあ働いてくれるだろう。
彼らの知識によると、外海故の魔獣は、そう居ないらしい。強いものは場所を選ばないから、外海のみに留まっては、居ない。
むしろ、海鶴の言う海竜がヤバそうだ。陸上の竜と同じなら、育つだけ育った海竜は、魔王で無ければ、止められるまい。
有我とて、コウチナンバーワン。勝つ自信は有る。だが、万が一は起こりうる。だから、万が一と言うのだ。
亜意とキ。治癒と合力の能力で、手助けしてもらう。
モモは、適当。それこそ、マキを守ってくれれば、それで良い。安心出来る。
どうも、戦闘を好まない人間は、有我には良く分からない。生まれた瞬間から闘争を義務付けられている、一一人には。少し荷が重い。
魔神は、何故モモを作ったのだろう?有我の知る魔族の知識に、噛み合わない。そんな事を言えば、魔王達と家族になっている、一一人など、有り得ないのだが。
分からない事など、人生には幾らでも有るものだが。
シロにもモモにも聞けない。
一一人に、遠慮などと言う感覚が有ったとは。
有我も、コウチを率いる立場になって、それなりに時が経つが。自分自身をすら、良く知っているわけでは無いらしい。
面白いものだ。
三十鬼三問は、ヤマトの人間の活躍を聞き、邪馬刀の初陣を耳にし、胸が熱くなった。活躍の場を与えてくれた王、そして三完、特盛に感謝。
だが、この戦いは、もっと熱くなってしまう。
「強うなった?」
「アカに鍛えてもらったんでな」
飛び込み、斬る。単純な動きだが、全開の三十鬼の速度は、御徳より、尚速い。魔王を含めても、明確に三十鬼より速いのは、アカとシロだけだろう。クロは、良く分からないが。
それでも、蹴速は寸分で躱し、カウンターを入れる。
ギリギリで避ける事に成功。蹴速は力を入れてない。当たっても、死なないとは思うが。自分の速度で、蹴速の拳の硬さを味わいたくない。
今すぐ、逃げ出したい。邪馬刀国との稽古以来の感覚。
楽しい!
更に速度を上げ、蹴速の周囲に数十の三十鬼の姿が。
うん。強い。蹴速は微笑み、数百の姿を現した。
三十鬼は可能な限り斬って斬って斬り捨てたが、全身に、背、腹、頭、両腕、両足に触れられ、蹴速は立ち止まった。
「お前は、本当に、何者なのだ。おれより、コウチナンバーワンより、明らかに強い」
「んー。人類最強。対魔蹴速。目下の目標は、打倒シロ」
「魔神か」
三十鬼は、シロと剣を交えた事は無い。ただ、蹴速とシロの戦いは見た事がある。他国の者に見せて良いのか?と思いはしたが。見せてくれるのだから、文句も無し。
自分なら、1秒経たず死んでいる事だけは、理解した。あの戦いに、有我は飛び込んで行ったらしいが。冗談ではない。状況は、そんな単純なものではなかったらしいが、それでも、尋常では無い。有我を、尊敬した。
有我が魔神シロと戦った時。シロは、本気では無かった。有我も理解しているが。最強の一一人が挑みながら、シロには、遊ばれていた。蹴速と戦う時だけ、シロは本気になる。隙と言えば隙。だが、その隙。蹴速でも無ければ、突けない。
何故シロは、魔神は、人間を襲わなかったのか。魔王の育成をしていたのか。理由の一つは、分かった。強者を求めていたのだ。一一人が、邪馬刀国が生まれたように、人間からも強者は生まれてくる。その刺激として、魔族を適度に人間の世界に紛れさせた。魔界の存在も意識付けた。
そして、蹴速と出会ったのだ。
三十鬼は、蹴速に近付いた。剣は鞘に収めている。
「ん?」
無防備な。おれでは、何も出来ないと思っているな。
口付ける。
「・・・」
「・・・」
・・・?これから、どうすれば、良いのだ。
蹴速に抱きかかえられる。唇は自然に離れた。
「んーと。まず、風呂な」
「ん、ああ」
そういうものなのか。流石、既婚者。
ヤマトナンバーワンの立場と言うもの。しかし。ヤマトの新しい子を育てるのも、また大切な仕事では無かろうか。うむ。
トップクラスは、頭の回転も速い。自己弁護を1秒で済ませた。
ヤマトとしては、対魔蹴速個人と縁が出来るのは、悪くない結果だ。
と、思いたい。
「どう思う」
「ん?好きにしたら良いわ。ヤマトを守る理由が、出来てしもうた。三問のご両親も居るんやろ」
「まあな。だが、それは関係無い。おれの子であれば、問題無いが。一一人が、三鬼が、何故お前を使わないのか、良く分かった。お前が居なければ、何も出来なくなってしまうのだ。それを恐れている。おれもな」
蹴速は首をかしげる。自分もシロを頼る事は有るが。そういうものだろう。いくらなんでも、蹴速と言えど、飯を服を家を、生み出すなど出来ん。人に頼れば良い。
ここでの勘違いは、蹴速も以前、銀河を相手取った時、シロの力を借りるのを渋った事が有ると言う事。蹴速は、それをごっちゃにしてしまっている。
蹴速の思いは、恐らく真理。だが、蹴速自身、それを自分だけでは、受け入れられなかった。
ここに居るのは、ただの人間。完成された人格者ではない。
それが、人類最強であっても。




