問題解決。
対蹴速。
そう言われても。
無理に決まってるだろ。
そんな雰囲気の世界で、元気な奴らしか居ないのが、地球の底力だ。
「悔しいなあ」
「ええ。私達に油断は、無かったはずなのですが」
「見覚えは、有る?」
「いえ」
今回は、見た。2人だったのが功を奏したのか。
敵の姿は、白かった。
いや、白人とかではない。
白い、防護服のようなものを着ていた。しかし、防護服では有るまい。
あんな速度で、動けるわけが。
「しかし、なんで、生きてるんだろうなあ」
「確かに」
敵の正体は不明なのだ。生かそうが殺そうが思いのままだろう。それに、本当に蹴速レベルなら、それこそ生殺与奪は自由自在。
「敵の正体。何となく、想像は付くぜ」
「え、本当?」
「ああ」
全治6ヶ月のはずの怪我人が、のこのこ出歩いていた。
「敵は、おれ達を狙っている。つまり、おれ達を敵に回しても構わないんだ。最悪、蹴速をも」
「あー。そう言われれば」
蹴速なら、自分達がやられたのを気にして、怪しい人間を皆殺しにするだろう。
「なるほど。そのような人間は、地上には、おりませんね」
「そう言う事」
地上でないなら。地球に最近新しく出来た衛星。
「あそこかあ」
「お客さんのようだな」
「舐められてるのかな」
「実際、おれ達は負けてるからな。新参者にデカい顔されても、仕方ねえ。実力で示すものを、示されちまった」
「ええ。生きている事を感謝するべきです、が」
「気に入らない。挨拶も無しなんて」
「まあ、な。で、今度は、おれが挨拶してくるさ」
「おいおい。無茶し過ぎだろ」
「らしくないですね」
「おれも、そう思うんだが」
どうやら、まだ意地が有ったらしい。蹴速に、ジンに追い抜かれ、消え失せたはずの意地が。
「ちょっと行って来るわ」
「おれも行こうか」
「蹴速!」
「来ていたのですか!」
「よお」
「元気そうやな」
病室の扉から、蹴速が入って来た。
誕生祝いの品を、こちらにも買いに来ていたのだが。本部にも立ち寄った際、ニュースを聞いた。亜意だけを連れて、病院へ。
「お前らを倒すレベルの敵やって?」
「ああ。正確には分からんが、お前に匹敵すると思う」
亜意は、少し震えた。
「出現場所は、モスクワと有ったけど」
「うん。おれ達が負けたのはそこ」
「おれもだ。白昼堂々。正直、プライドに障った」
「まあ、全員一度は戦ったんよな。じゃあ、次はおれの番やな」
「蹴速。頼む。その前に、もう一度だけ、おれにやらせてくれ」
「構わんけど」
蹴速がやれば、流石に終わる。下手人は、恐らく死ぬ。もう挽回のチャンスは無い。
最後だ。もし勝てれば・・
「お前、怪我は。全治半年とか聞いたぞ」
「ああ。多少動きが鈍いが、それだけ。どうって事は無い」
胸部を強打。上半身の骨が20本折れ、ひびが入っているが、それだけ。内臓には損傷は少ない。今すぐ、動ける程度の傷に過ぎん。
亜意は治さない。蹴速の指示なら、まだしも。
お人好しでは、無いのだ。
蹴速も亜意を便利使いしない。亜意は、包帯の代わりじゃ、ない。
軽兵が行きたいなら、それで良い。死ぬ前に助ける。
「じゃあ、行くか。ピロシキ食おうぜ」
「美味いのか?」
「ああ。な?」
「良い店紹介してやる」
3人は、モスクワへ発った。
日本で買い物をしている祝寝とクロ、モモには問題を解決して戻ると伝えてある。クロは魔神の居る場所へなら、移動出来るので、あいつらだけでも帰れるだろう。最悪、祝寝の家で寝ても良い。
軽兵の紹介してくれた店は、蹴速もお馴染みだった。軽兵の実家なので。
ピロシキを初めて食べる亜意は物珍しげに。亜意を嫁として紹介する蹴速。忙しそうな店の中、両親に、怪我をしていても元気だと伝える軽兵。
「じゃ、行くか」
「ああ」
ここから、モスクワまで蹴速の足で、5分。軽兵も居るので、30分と言った所か。
「本当に、こんな所で?」
「ああ。とんでもない」
亜意は蹴速と腕を組んでいる。
本来なら、蹴速の動きを阻害する行動だが。蹴速は、全く邪魔と思っていなかった。
今回の敵は、自分と同格らしい。
ならば、片腕が使えず、半身を常時かばい続けるこの体勢。これで、五分か。
「いつ来ても良いが、散歩もしたいな」
「ああ」
夫婦の会話。
少し離れて、自分に来い、と願う軽兵。蹴速に行ったら、即殺される。
来た!
「奴だ」
「おお」
見つけたのは、おれが先!
軽兵は、飛びかかった。
その敵は、白装束。白衣では無い、確かに、防護服のような。しかし、あれで、噂通りの動きを?
構えた敵。
消えた。
軽兵の目には。
蹴速のみが捉えた。きっちり警戒していた軽兵の懐に、容易に入り込んだ。そして、掌打。・・いや、武器か。
グローブのような物から、衝撃が打ち出されている。ならば、あの服も、何かカラクリが。
倒れ際、しかし軽兵は手刀を伸ばし、白装束に打ち込む事に成功。
おかしい。あの速度なら、直ぐさま攻撃範囲を抜け出せる。
舐めているのか。
蹴速の気が充実した。
衣服を破られた白い奴は、軽兵から距離を取った。
ほう。トドメは刺さんのか。
軽兵を殺そうとしたら、殺すつもりだったが。何度も見逃してもらっている。こちらも、行動不能に留めるのが、礼儀か。
蹴速は決めた。
敵が、こちらを見る。
と、消え、蹴速の懐に入った。
だが、蹴速は、その瞬間にはもう、白い服を剥いでいた。
「女の子か。すごいな」
「・・・!!」
少女は、逃げた。だが、今度の逃げ足は、遅い。やはり服にギミックが有るのか。
とりあえず、女の子を捕まえた蹴速は、軽兵を担いで病院へ。
もちろん女の子も一緒だ。服は、亜意に持っていてもらっている。
亜意は、自分の目では、おぼろげにしか捉えられなかった者を、少しは警戒していたが。
「改めて、自己紹介するか。おれは対魔蹴速。さっきお前が倒したのが軽兵」
「あたしは亜意。こいつの嫁だ」
「おれ達は無双双児!」
「それで、あなたは?」
「・・・」
「名無しのごんべえじゃ、有るまいし」
「口がきけんのか?」
「どれ」
亜意が少女の体に触れた。
異常無し。ただ、組成が、こちらの人間、例えば祝寝、とかと少し違う。
「喋ってくれると、助かる」
「て言うか、黙ってるなら殺す」
「おいおい」
「いけません。それでは、負けた腹いせのようで、私達が小物扱いになります。イメージがダメになってしまいます」
「どうでも良いだろ、そんなの」
「ダメだよー、ね、蹴速」
「まあなあ。何だかんだ、信用商売やからな。亜意、堪えてくれ」
「ふん」
「・・・すみませんでした」
「お。別に謝らんでも良いぞ。生かしておいてくれたし」
「うんうん。ムカついたし、悔しいけどね」
「ええ。少々土下座の手本でも見せて頂ければ」
「やめちょけって。それで。あんたは、どちらさん?」
「青星から、来た」
「やっぱりなー」
「青星って、あの持ってきた星か」
「そうですね」
「・・うん」
「それで、青星のお前が、どうしてこんな事を」
「私達は、お前らに助けられなくても、何とかしたんだ。何とか出来た!助けてやったような顔を、するな!!」
「ほう」
「あー」
「そう言う事ですか」
「ガキが」
「私の強さを、分からせてやる、つもりだった」
「まあ、強かったよ。おれ達は少なくとも、油断してなかったし」
「ええ。誇って良い実力です」
「確かに。かなり速かった」
「ああ」
「軽兵」
「馬鹿か。もう起きてきたのか」
「おれだって兵よ」
全治9ヶ月の男が、のそりと現れた。
「強かった。勝つつもりで行ったんだがな」
もし、勝てたなら、蹴速を追いかけるつもりだった。夢に終わりそうだが。
「でも、あなたに、簡単に」
「そりゃ、おれは、今のとこ人類最強やもん」
「蹴速に速いと言わせただけで、表彰ものだろ」
「そうそう」
「お前、学生?」
「はい」
「兵にならん?」
「え」
「強いし。この服は、どれ位保つ?」
「充電すれば、1日は」
「ふーん。拠点が必要なタイプか。ま、短期でこなせば問題無いな。そこで住み分けが出来そうや」
「君は、自由にこっちに来れるの?」
「はい。この服は、銀河の中なら、自由に移動出来ます」
「めちゃくちゃすごいな」
「とんでもない」
「言うだけの事は有りますね」
「登録しに行こう」
蹴速が少女を連れ出した。
「蹴速は相変わらず勝手だなー」
「ええ」
「完璧に美味しい所を取られた」
「でも、これで、リベンジは幾らでも機会が有るね」
「お・・」
「結果、でしょうけど」
「何でも良い。そう言えば、そうだな」
蹴速。取りあえず、感謝しとく。ピロシキ一個おごってやるぜ。
ロシア本部まで跳ぶ。対魔蹴速推薦。で、登録。何か有れば、自分に言うように。
「その、すみませんでした」
「かまんかまん。こっちの人間を殺していれば、もしくは、おれのものに手出ししてれば、殺したけど。生かしておいてくれたからな」
危険に飛び込むのは、兵の常。それを厭うなら、兵になってはいけない。
「じゃあ、またな」
「はい」
少女は、青星に帰って行った。
「蹴速。何故生かした?無双双児は、既にお前の嫁だろ」
「ああ。見抜かれてるなあ」
「あの女が欲しいのか。それならそれで、今奪えば良いだろう」
「ふふ。言い返せも、せんが。少しちがう。ひょっとしたら、おれと戦えるレベルになるかも知れん。惜しい」
「そっちか」
「キと出かけた時に、グリスの奴らを殺しまわったんやけど」
「ああ。聞いたな」
「その時、ゼウスと言う奴と戦った。すごい面白かった。出来れば、もっと戦いたかったけど、生かせば、家族が危険かも知れん。それで、油断出来ず、殺した。もったいなかった、と今でも思うちゅう」
「ふーん」
「あの少女。強うなる、かも知れん。今で、ピークかも知れんけんどよ」
「ま、好きにしろ。そう言う理由なら、構わん」
「焼き餅か」
「さあな」
亜意は、あの少女が、そこまで好きではない。むしろ、嫌いかも知れない。甘い。ヌルい。兵を生かし、蹴速との戦いも、自身の死を望んでいない。あれは、殺し合いじゃない。趣味が、全く合わない。
「良し。祝寝のとこに行こう」
「ああ。待ってろ」
蹴速が不思議に思っていると、ゲートが開いた。
「亜意?」
確かに、早いし楽だが。
「来い」
「ああ」
逆らう理由は無いが。釈然としないなりに、蹴速は亜意に従いくぐった。
「誕生日、おめでとう!」
「おめでとうございます」
「おめでとう!蹴速君!」
そこは、家の庭。パーティ会場になっていた。
「おお・・・!おお!そうか!」
蹴速も誕生日だった。
「と言うわけでさー。今日の1月前に子供を作れば、蹴速君と同じ誕生日で、印象深そうだねえ」
アオミドリ。愛おしさすら、感じる。その煩悩。
「用意出来てるよー!」
アカ。ありがとう。
「久しぶりに体を動かした。味も鈍っていなければ良いのだが」
海鶴。お前の作る魚料理、美味いに決まっている。
「うむ!」
「そうだな!蹴速のために、子供らのために作ったのだ!」
己黄、神無。ありがとう。
「さ、早く食べよう」
「うむうむ。料理は熱いウチに食え、じゃ」
「お腹空いたー。食べよ、蹴速」
有我、シロ、ジン。お前らも相も変わらずで、大好きだ。
「こっちのは、おれが獲って来たんだ。今日は、幾らでも食え!」
「これは、家からだ。まあ、食べてみてくれ」
特盛、梅。ありがとう。
「私も、未熟ながら、お手伝いを」
超騎士。ありがとう。料理出来たっけ?
「お父さん、誕生日おめでとう!」
子らが、声を揃えて。誰だ、教えたの。
してやったりの、マシロ。お前か。
すごいな。
「ありがとうな」
蹴速は心から笑い、楽しんだ。




