特盛、旅立つ。
特盛は家に帰ってから、襲撃が有った事を知らされた。
肝心な時に・・・このおれは!
「気にするな。確かに斬場刀が有れば、戦力になっただろう。しかし、お前は街に気晴らしに行ったはず。休む時に休まなければ、結局は伸び悩んでしまうぞ」
「でも。皆が戦っている最中に。おれは、遊んでいました」
「それが休みと言うものだ。私も有我も、兵を働かさせつつ、休んでいる。気にしては、体を壊す」
「・・・神無さんは、なんでおれを、連れて行ってくれなかったんでしょう」
今まで、聞いた事は、無かった。
「力不足では、断じて無い。でなければ、フ・ズィに行かせるものか」
「うう」
「・・・急ぎの用事ではないが、一つ仕事が有る。やってみるか」
「は、はい!」
「フ・ズィから、鮭川の動きに不審な点が有る、と報告が有った。行ってみるか」
「え。密偵ですか?しかし、そんな修養、おれは積んでません」
「大丈夫だ。お前は表向きのコウチからの使者。裏での調査は、別の人員を回す。お前の仕事は、コウチの代表が表立ってウロウロしていると、意識付ける事だ」
「なる、ほど。それなら、おれでも」
「お前はただ、フ・ズィで話を聞き、鮭川でコウチの意を示すだけ」
「はい!」
意を示す?良く分からないが、元気良く返事。
無論、梅はそれを知っている。
梅は本部にて、影を呼んだ。
「特盛に付け。奴を盾に、鮭川を探るのだ」
「承知」
「万が一は助けてやれ」
「奴には、既にそのような心配も無用かも知れません」
「肩を持つじゃないか」
「いえ。印象を述べているだけです」
「お前を選んだのは、もちろん特盛の幼馴染だからだ。良く動きを知っているだろう。上手くやってくれ」
「委細承知しました。失礼致します」
本部、梅の部屋から出るのは、いつぞや特盛が武器を選んでいた武具屋。
武具屋を装い、影として働く者であった。装いのために、本業として武具屋をやっている。何処でも武具屋として振る舞えるように。これでも、父祖の代からの由緒正しい影。戦闘能力は凡の域を出ていないが、あらゆる兵装に通じているので、手段を選ばなければ戦える。
「なんで、お前が乗ってるんだあ?」
「へへ。商機は逃せない。鮭川はさ、魔物退治が今も盛んなんだよ。今までならコウチから行けば、損だった。でも、こうやって定期船が出るようになった。今、この時が勝機よ」
「はあー。まあ、頑張れや」
「おめーこそ、三鬼様直々の仕事じゃねえのか」
「うっ・・・」
「うっ、じゃねえよ。そんなんで上手く行くのか」
「当たり前だろ!おれが、行くんだぜ」
言葉とは裏腹に、自信満々でもない。
一丁前の兵の顔しやがって。不安と緊張。それでも任地に赴く、自負の有る顔。
幼馴染は、いつの間にか、いっぱしになっていた。
おれが、影から支えてやるつもりだったのに。1人で立つように。
特盛は、横の幼馴染が、変な雰囲気を出しているのを感じて、距離を取った。
グルウメのお付きの2人は、シロに引き会わされて、情報を引き出された後、亜意の癒やしで回復。その後も事情聴取を事細かく。
しばらくは、コウチで暮らす事に。ヴァイキングまで遠征に行く時に、ついでに連れて行く事は、確約。
グリス。神殿。
「すげえ、おもしれえ事になってた」
「は?」
「コウチって知ってる?」
「ヤーポーンの国の一つ。典型的な陸の孤島」
「おー。流石、知恵の女神」
「それで?アインシェンに赴いたのでは?」
「アインシェンは落ちた。コウチがやった」
「コウチは、小国。強者も数える程。アインシェンには大蛟が居たはず。それに人魚も共闘したかも知れない」
「人魚には、動きは無かったなー。大蛟は、さくっと殺られてたよ。コウチの部下に」
「それは、確かに、興味深い」
「だろ?おれ、欲しいんだ。コウチ」
「では、そのように」
「よろしくー」
グリス、立つ。
「やっぱり、地球と地理はそんなに変わらないね」
「ああ」
蹴速達はヴァイキングに到着していた。途中、空飛ぶ巨獣に襲われたりしたが、丁度良い眠気覚ましになった。と言っても寄り道せず、飛ばしたため、3時間で着いた。
「あそこです」
メイルの言う造船所に下りる。騒がしい場所だ。
「お嬢!お帰りなさい!」
「はい。所で、つかぬ事を聞きますが、最近、おじ達は来ましたか?」
「いえ?前の旅以来、ご無沙汰ですよ」
「そうですか。では、この方達の案内が有るので、皆、元気で」
「はいよ!」
造船所を少し離れる。港近く。
「考えたくありませんが」
「父親の周辺は操られてても、不思議は、無いな」
「蹴速、おれ達じゃどうにも出来ないよ」
「おれらあの目的は、人助けじゃあない。世界征服。コウチに従う属国になるなら、助ける」
これぐらい働いても、良いだろう。
「残念ながら、父が居なければ、私の影響力も大したものではありません」
「そうか。なら、人からは離れて暮らした方が良いな。じゃあ」
「蹴速。おれは残る」
「ジン?」
「タダ働きをしてはいけない。うん。覚えてる。でも、今は、おれの意思で助けたい。亜意か誰かが、コウチがここに来るまで、おれがメイルを守る」
「何も返せませんよ」
「良いよ。おれが守りたいだけだから」
蹴速は戸惑った。ジンの意向が読めない。
「メイルさんには、今日会ったばかりやろう?」
「ああ」
「ジン・・・」
一緒に、帰りたい。
「おれを信じろ、蹴速」
「・・ああ!なら、頑張れ!」
「おお!」
ジンは、迷っていなかった。今日会ったばかり。恩人でもない。友人でもない。知り合いですら、ない。だが、気になる。
ジンは仕事を蹴速から習ってきた。タダで動いてはいけない。命をかけるのは、死んでも良い時だけ。死ぬ位なら、殺せ。そして、自分に従え。誰も助けてはくれない。自分を助けるのは、自分。だから、自分以外には従ってはいけない。
分かっている。覚えている。蹴速に言われた事は全て記憶している。
だけれど。気になる。意を持った武具。魔槍。
ジンは超科学と超魔術の間の子。魔術を求める心は、遺伝子に刻まれている。
「よろしくお願いします。私は忠言に従い、砦や、親戚の立ち寄る場所には近付きません。別荘にでも、こもろうと思っています」
「うん!警護は任せて!」
「余程に自信の有る様子」
「まあ、今すぐ操られてる人ごと、その武具達を全滅させる自信は有るよ。ちゃんと、皆を待つけどね」
「それはまた」
それは、言い過ぎだろう。自負も結構だが、操られ、全力を出せていなかっただろう父を倒した程度で、その気か。善人なのだろうが、お調子者のようだ。こちらが注意して、コウチの者が来るまで、守らなければ。
フ・ズィでの再会。三完林は、良くしてくれた。
「何度か、こちらの治癒の使い手を催促されました。今までに無かった事なので、怪しんだのです」
「なるほど。しかし、鮭川が、何をするって話ですよね」
「ええ。あちらに戦力らしきものは有りません。コウチの一般兵の方々でも鎮圧出来るでしょう」
「うーん。分からねえ。まあ、何が有っても、何とかしますよ。情報提供ありがとうございました!!」
「いえ。熊大将さんにも、よろしく。活躍を期待していますよ」
「はい!!」
特盛の威勢の良さは、増したようだ。少し、空元気にも見えるが。
「これを」
手持ちの菓子を。
「何です?」
「私の食べている軽食です。お腹が空いた時にでも、どうぞ」
「おお!ありがとうございます!」
フ・ズィの偉いさんが食ってるものか!やべえ!
もらった袋を、大事に仕舞い込み、礼を述べる。
「では、行ってきます!」
「はい。怪我などには、十分お気を付けて」
「ええ。風に聞いて下さい、おれの大活躍を」
笑いもせず、三完は頷いた。特盛は、外したかなと思いつつ、辞した。
三完は、特盛の言葉を冗談と捉えなかった。それが、この先の喜劇を生む。
特盛は1人で、フ・ズィの最寄りで船から下りた。ここから鮭川直行船は、無い。斬場刀を背負って走るしかない。車の手配も出来ていない。レンタカーで、トレーラーは、ちょっと厳しい。と言うか、特盛にそんな免許は、無い。
これも修行!
27トンを背負って街道を爆進し、一般人に畏怖を与えるランナーの伝説が始まった。
鮭川まで、3日かかった。あいつは、もう帰っているか。船も一隻都合してくれたのは助かった。流石に泳ぐのは無理。
さて、怪しいっつってもなあ。これが普通なのか、緊張感があるのか、特盛には土地勘が無いのだ。
とぼとぼ、ともかくコウチの兵が居るであろう詰所を目指す。船着場から、然程離れていない。
「おいっす」
斬場刀は駐車場に置いた。
「はい」
「コウチから来たんだけど、鮭川で変わった事って有る?」
「はあ。そりゃ、コウチとは気候風土ちがいますからね。美味しいものも取れるものも、全然ちがいますよ」
「いや、そーいうんじゃなくて。えーと。鮭川で反乱の兆しとかさ」
「無いですねー。んな無茶な事を仕出かす連中じゃないですよ」
「だよなあ。ありがとう!」
「いえいえ」
誰だったんだろう。特盛は当然、名を知られていない。
冗談みたいな武器を携えた兵の噂は、自然と広がりを見せる。
どーしよう。まあ、良いや。
「あの」
「はい?」
「怪しい奴とか、居ませんでした?」
刃渡り18メートルの剣を背負った者が、鮭川の住人に聞く。
「いえ、別に」
目の前に、とは言えなかった。
「そうですか。ありがとうございました」
梅に託された仕事。恥ずかしい真似をして、梅の顔に泥を塗るわけにはいかない。
うーむ。
その辺をうろうろしていた特盛は、あいつに捕まった。
「おい。やっと来たのか」
「おお。何だ、まだ帰ってなかったのか」
「簡単に、まとまるわけねーだろ。これからだよ」
全く。次の船に連絡を入れて、フ・ズィに寄ってもらえば良かったのに。力任せ過ぎる。
だから、特盛なのかも知れないが。
「お前、此処の人から何か聞いてねえ?」
「あ?何を」
「鮭川に武器流してる奴とか。つまり、おめーみたいな」
「帰るぞ」
「待って待って!冗談だって!」
「てめー、仕事なんだろーが。しゃっきりしろや」
「ぐう。言い返せん。まあ、何でも良いから、言え」
「底抜けの阿呆め。まあ、おれもコウチのもんだ。裏の取れてない情報でも良ければ、くれてやる」
「助かる!!今度、ジュースおごってやるからよ!」
「死ね!」
「んで?」
「・・」
「とっとと言えや」
「てめえ、マジで三鬼様に言いつけるからな。まあ、良い。話してやる。付いて来い」
「馬鹿!」
特盛は幼馴染に付いて行く。そこらのベンチで一息。
「変なのが、うろついてるのは目に付いたぜ」
「ほお」
「鮭川にも、もちろんいかつい男達は居る。しかし、ヤバイ雰囲気だった」
「へえ。お前がそこまで言うなんて。まさか、名家クラスじゃねえよな」
「さあな。少なくとも、雑兵じゃ、ねえ」
「こええな」
勝てるか。いや、勝てるわけねえ。本当に、3名家並みだったら。
「何処に居るんだ?」
「港、倉庫に。だが今は確認出来てない。昨日までは居たがな」
「ふむ。じゃあ、行って来るぜ」
「気を付けろよ。おれには、相手の力量を読むなんて出来ないけど、怖かったぜ」
「ああ。だが、心配無用。おれが稽古を付けてもらっているのは、誰か。おれが知っているからな!」
誰だよ。幼馴染は当然の突っ込みを心でしたが、特盛の闘志に水を差しはしなかった。
港に逆戻り。さあて、倉庫を当たるか。
だが、総当たりの心配は要らなかった。明らかに、この土地のものではない毛皮を羽織った男達。
「よお。なにもんだ、お前ら」
超直球であった。
「我々は、こちらの友人。あなたこそ、一体」
「おれはコウチの平特盛。で、お前は?」
「コウチ・・・。なるほど。私は、ブルーランドの白熊王」
「ブルーランド?」
「やはり、分かりませんか。こちらに来たのは商売のためなのですが、中々難しいものですね」
「はー。それで、商売には、そんな武器が必要なのかよ」
「ほう」
特盛は、男の背に有る斧に気付いていた。体捌きが、不自然だった。
「これは、あくまで護身用です。あなたのそれに比べれば、ね」
「ふん」
図星だった。しかし、今の所、怪しげな感じは無い。やり込められてムカつくが、それはどうでもいい。
「まあ、良いや。邪魔したな」
「はい」
特盛は倉庫を後にした。
去って行く特盛を見送るブルーランドの男。
「コウチ?早いか、それとも遅いか」
「遅いでしょう。既に鮭川の人心は掌握出来ています。そして、先程の方も押しが弱い。コウチにやる気は、無さそうですね」
「はは。見られては不味いものが、いくらでも有るからね。彼女も死なず、我らも騒ぎを起こさず済んだ。良かった良かっ」
ゴオオオオ
「な、」
ゴギア
「崩れます!急いで出ましょう!」
「あ、ああ!」
ギャアアアア
「・・地震か?」
「おれだ」
特盛は帰っていなかった。
怪しげなものは、一切感じなかった。だが、強い。そして、倉庫から感じる斬場刀と同じ気配。それをコウチに報告していないと言う事は。
斬るしかねえ。
「馬鹿かお前は!!」
「賢く見えてたのか?」
特盛は斬場刀で以って、倉庫を壊滅させた後、強そうな奴を尋問なり拷問なりすれば、解決するんじゃね?と言う思考しか持ち合わせていない。
「もう、良い。死ね」
速い!
「同感」
だが、特盛は、有我に稽古を付けてもらっている兵だ。
その程度なら、躱してカウンターが取れる。
ギ、ア
「やるじゃねえか」
なんと、斬場刀を手斧で受け止めた。
「ぐ、う。見た目通り、重い。が、さよならだ」
白熊王とやらが、斬場刀を受け止めている間に、別の奴が、回り込み切り込んで来る。
特盛は斬場刀を振り上げ、回り込んで来た者を、斬った。
「ち」
「降参して、地べたを舐めたら許してやるよ」
「その程度の腕前で!」
手斧を投げて来た!更に本人は腰元の小刀を取り出し、駆けて来る。
特盛は手斧を片手で掴み取り、小刀を斬場刀で受け止めて見せた。そしてそのまま押し切り、殺した。
まさか、斬場刀に振り回される腕前とでも思ったか?おれが、振り回しているんだ。手斧の一つや二つ、取れねえわけねえ。まあ、成長途中ってのは認めるが。
「大層な名前の割に、熊大将の足元にも及ばねえな・・・・・・ああああああ!挑発して殺っちまったああああ!!」
情報源をおおおお!
「しかも、この倉庫、あいつらが買い取ってなかったら、この港の所有物だよなあ・・・。やべえええ」
「おい、やったのか」
「ああ・・・」
「やはり、敵だったか」
「あ、ああ。まあな」
騒ぎを聞きつけたのだろう、幼馴染には、どもりながら受け答えする。
「で、どんな奴らだった」
「あー。ブルーランドの、白熊王とか何とか。倉庫に、武器持ち込んでたよ・・?」
目が泳ぎまくる特盛。
「おい。どうした。胸を張って良いんだぞ。お前が殺したのは、コウチの敵。三鬼様だって分かって下さる」
「いや、へへ・・・。裏、取って、ねえ・・・」
「・・・」
「なーんか、な。気になって、斬ってみたんだよ。多分、敵だと思って」
「・・・もう、殺っちまった後だ。倉庫調べるぞ」
「ああ!だよな!」
取りあえず幼馴染は特盛に蹴りを入れてから、倉庫跡を見る。
「おい。調べるって、どうするよ。これ」
「ああ?」
特盛は適当に廃墟をならして行った。屋根を放り投げ、壁を放り出し。素手で鉄筋、鉄骨をブチ抜いていた。
「・・・伊達じゃ、ねえな」
「まあな。これ位出来なきゃ、付いていけねえ」
「すげーな。マジに」
「そりゃ、兵なんだからよ。お前みたいに、商売の腕も、知恵も、おれは持っちゃいねえ。戦場の腕前しかな。だから、どうって事はねえよ」
「ふーん」
特盛の謙虚さ。こいつ、こんなに大きな人間だったか。
特盛は、それからもガサガサ作業し、ついに人間が立ち入れるようにした。
「良し。おれもチェックしてみるわ」
「おお。武具の知識は、お前頼りだからよ」
「あんま、期待すんなよ」
特盛も、探す。斬場刀と同じ気配。間違いなく、やばい武器。浮気じゃない。斬場刀以上なんて、思ってないよー、と言い訳しつつ、見た事無い武器にワクワクしていた。
有った。デカい斧。忌まわしさすら、感じる。
ガ
忌まわしかったので、破壊した。斬場刀で、粉々に。
「危ねえ!!!おれが居るんだぞ!」
「わりーわりー」
「罪悪感ねえな!」
その後、確かに武具は見つかったが、これで、何かを狙うのは厳しかろう、と幼馴染は見た。確かに量は有る。だが、使いこなせる兵が、鮭川には居ない。万が一、鮭川のコウチ兵を倒したとしても、3名家に粉砕される。前例は既に有るのだ。そこまで、考え無しか?
まだ、何か有る。




