表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/100

新たな領地よ。

 1月と半。アインシェン到着。多くの島々が連なる諸島国家。支配者は国王らしい。以前の南海制圧では、ここを支配、新たな拠点とするはずであった。


「まず、王宮を襲撃。親衛隊クラスを皆殺す。そして時を置き、敵の集結を待つ。その時こそ一網打尽。完膚無きまでに叩き潰し、抵抗の気運を消滅させる」


「支配者を暗殺しないのは、はっきりと交代を告げるため、ですか」


「その通り。ここは、異郷の地。我らの名前も通っていない。コウチナンバーツーと名乗っても、意味は無い。だから、これから作る。1から」


「トクシマに対しての攻撃と同じと思っても」


「ああ。あの時より軍勢は少ない。戦力は増したがな」


 連れてきた人員は千。4隻の船に大量に食料を積み込んであるので、兵員は然程でも無い。


 ハナっからナンバー頼りの戦略。我らの力が何処まで通用するかの試金石でもある。


 首脳部のみの話だが、人員を増やせば、撤退の手間も増える。いざとなれば、本気で逃げる必要が有る。例えば、蹴速や魔王級の敵が居た場合。神無の神化を使い、魔王アカに足止めを願い、ようやく逃げられる。そうなれば、もう制圧だなどと言ってられない。策を練り直すしかない。そうならない事を祈っているが。


 見えてきた。あれが、コウチの第一歩を踏み示す、記念の地だ。


 これが南の島というものか。デカい葉っぱ。高さはそうでもないが、太い幹。暖かいから、すくすく育つのか?


 仮要明、熊大将のナインライン組みも、興味深く見ている。ナインラインとの共通点も無くはない。


「さて三十鬼。同行してくれるか」


「承知」


 神無は船を下り、波間を蹴立てて上陸。三十鬼も後に続く。水上を走る程度の児戯は誰でも出来る。蹴速は、だからすごい。空中を蹴るのは、神無でも難しい。


 現地の人間に首都の位置を聞く。礼を述べ去る。下手に攻撃でもして、此処に集まられても困る。此処は戦略目標では無いのだ。


 神無達は先程と同じく水面を走り、船上まで飛び上がる。


「目標が分かった。攻めるぞ!」


おおおお


 船上の意気を戦場に持って行く。百戦百勝で無ければ覇者たる資格無し。神無は分かっていた。負けた事実が明日の反逆者を生む。誰も太陽には逆らわない。人には逆らえても。コウチは太陽になる。


 アカを船の守りに付ける。各国の強豪にはコウチの戦に参加してもらう。仮要明はアカと一緒だ。


「さて、一気に駆け抜ける。付いてこい!」


おお!


 三十鬼、熊大将、一飲涙。神無と合わせて4名の一騎当千が駆ける。


 何事か、と人々が見守る中を一直線にひた走る。出来れば民衆は斬りたくない。格好は、大事なのだ。


 王宮に侵入。守衛はすり抜ける。反応した優秀な兵のみを斬る。優秀な者は努力を惜しまない。周囲からの信望も有ろう。容易く怒りを買える。


 豪勢な装飾の有る方へ走る。分かりやすくて助かる。しばし、場を荒らす。強盗のような真似を。


 駆け付ける足音。


「王族と思しき者は斬るな」


「応!」


 生きて、宣言してもらう必要が有るからな。


 数百人程斬った所で、逃げる。一飲涙も含め、全員傷一つ無い。


「3日後にまた来る!死にたくなければ宝物を用意しておくが良い!」


 捨て台詞はこれで良いだろうか。


「あのまま占拠しても良かったのでは?」


「戦力をあるがまま、は怖いのだ。ある程度減らしたい。こちらに理の有る形で」


 戦争だったから仕方なく命を奪った、そういう言い訳が欲しい。名誉は作り出すものだ。


 ただし、此処は拠点。守備力を全て削ぐのも不味い。自治自衛してもらうつもりなのだ。コウチの兵は置かない。助けに来れないから。


 船に戻り落ち着く。


「3日後まで、大怪我をしない範囲で自由に過ごしてくれ。アカ、お前は今のペースで治癒をし続けると、疲弊しきってしまうか?」


「ううん。全然よゆー」


「そうか。有り難い!将軍格はアカに癒してもらうように」


 一般の治癒能力者に負担をかけすぎると、いざという時に使い物にならなくなる。もちろん彼らの修行も必要だが、実際に役に立たないのでは、居ない方がマシだ。余裕を持っておきたい。


 アインシェンはコウチの補給基地にする。兵力を程良く削り、叛意を挫き、コウチに屈服させる。一歩一歩着実に進む。


 3将軍も適度に落ち着いていた。戦ってみて分かったが、レベル差は無い。王宮詰めのナンバークラスが居なかったと言う事は、然程戦乱に濡れているのではないのだ。こちらはコウチのおかげで戦争の緊張感には慣れている。同等ならば、分が有る。


 2日後、仮要明が気付いた。


 船室に入り、神無に会う。


「上空から、見られています」


「何?」


「最初、勘違いか、何か光る物をくわえた鳥かと思いました。しかし、薄い雲を通して見た影は、人間のものでした。こちらが気付いた素振りは見せず、そのまま帰って来ました」


「良し!報告も含めて満点の行動だ。ありがとう!」


「いえ。アカ様なら、造作もなく屠れると思いますが、どうなさいますか?」


「ふむ」


 出来れば放置し、後を付けたい。捕縛した場合、即座にシロに引き渡さねば自害する恐れも有る。とりあえず取られて困る情報は無い。それだけは助かる。治癒者に見えるであろうアカを捕らえに来てくれれば、最良の展開なのだが。


「置いておこう。各将軍には俺から伝える。この件、他言無用に願う」


「はっ、そのように」


「うむ」


 良く気付いた。そして動揺を見せなかった。ミヤザキが送り込んでくるだけの事は有る。


 伝達を終え、アカの事も皆に話しておく。


「もしかしたら、アカを捕らえに来るかも知れない。アカ、出来れば捕まってくれ」


「えー。捕まえて、教えてもらえば?」


「シロが居れば、それも良い。だが自害でもされれば、我らに情報を得る手段は無くなるのだ」


「なるほど。じゃあ読心さえ出来れば良いの?」


「出来るのか?」


「んー。ちょっとだけ。例えば神無の奥底までは見えない。でも今、どうしようか考えてるのは、分かるよ」


「それだけ分かれば十分だ!すごいぞアカ!」


「え、そう?」


 シロに比べれば、出来ないも同然なのだが。


「ならば方針を変える。アカ、仮要明を連れて、捕まえてきてくれ」


「了解!」


 褒められてちょっと嬉しいアカはノリノリで飛んだ。仮要明も大慌てで追う。幸い、目標は去っていなかった。


「あれ?」


「はい。正確に姿は見ていませんが、シルエットに大きな違いは有りません。恐らくは」


「ま、いいや」


 読心してみれば分かる。練習させてもらおう。少なくとも、あれはコウチの人じゃない。何をしても良いんだから。


 アカは普通に飛ぶ。仮要明は懸命に。


 相手も気付いた。反転するが、仮要明に気を使っていたアカがちゃんと飛んだので、さくっと捕まった。


 仮要明の到着までに、あらかた読んだ。


「捕虜で良いのかなー」


「はい。このまま神無様に引き渡しましょう」


 不思議な事に抵抗は無かった。逃げる気は有ったようだが。武装も剣のみ。まさか、空を飛べるのに、接近戦も有るまい。仮要明はそう思った。


 アカは、読んだ上で、五体満足でも問題無いと判断した。アカの判断に、そもそも異を唱える気の無い仮要明も何も言わなかった。


 船室。全員の見守る中で、神無の尋問が始まる。


「聞こう。何者だ?」


「グリス、から来た。のぞいていたのは謝る」


 アカは目標の後ろに立たせてある。今の所、本当のようだ。


「目的は?」


「アインシェンまで散歩に来た。ら、見慣れない奴らが居たんで」


「他意は無かったのか」


「ああ」


 アカが首を横に振った。


「信じよう。お前が喋ってくれる事を信じねば、無用に疑念を育てるだけ。我らにはお前の言葉以外、判断の根拠は無いのだから」


「有り難い。異邦人を信じてくれて」


 首を横に振った。神無は頷く。


「お前の国はどんな所だ?良い所か?」


「ああ。この世で最も偉大な国さ」


 それは、良いな。


 神無とアカは笑みを交わしあった。三十鬼は、勘づいた。が、表には出さない。一飲涙、仮要明は傍観。熊大将も笑みを浮かべた。


「強い者は居るのか?俺達のような」


「そりゃあ、いくらでも居るのさ。グリスはアインシェンより、よっぽど大きいんだ。うじゃうじゃ居るね」


 アカも頷く。


 そうか。骨の折れる事だが、期待も出来る。良い配下となろう。


 さあ、この者をどうする。有我なら斬るか。梅なら生かすか。俺は?


「お前は、問題無くグリスとやらに帰れるのか」


「そりゃあそうさ。来たんだ。帰れるに決まってる」


「名は何と言う」


「ゼウス。これでも、グリスでは知らねえもんは居ねえんだ」


「ほう」


 アカは頷いている。


「では、さらばだ。付き合わせて悪かったな。今度は、グリスで会おう」


「ああ。楽しみに待ってる」


 ゼウスは飛び立った。


「アカ、詳しく聞かせてくれ」


 神の頂点。ゼウス。不思議を操り不可思議を知り、とにかく不可能を知らぬらしい。グリスは彼の治める国とか。そしてグリスとやらも、北国らしいが、面積は大きく、支配しがいが有る。人口も多い。良い労働力となろう。目立った戦力としては、中つ国と同じく神族。かなりの数らしい。一騎当千が多数、と言うのは誇張では無いらしい。


 アインシェンに来た目的は、観光偵察。めぼしい者が居れば勧誘も。名立たる海洋国家アインシェンに人員を派遣するかどうか、の判断も。


「では、グリスにはこちらも有我を連れて行くか」


「もし、許されるなら、私も同行を願いたいものです」


 三十鬼。強くなれるかも知れない機会は、逃せない。


「グリスの話題に持ちきりになるのは、仕方有りますまい。ですが、目先のアインシェンも油断は禁物ですぞ」


 引き締める熊大将。無駄な手傷を負い、無駄に死ぬのは、ゴメンだ。


「アインシェン、その優秀な者の姿を、我らは見ておりません。慎重に、と言う熊大将殿のお言葉。最もかと」


 一飲涙。ある程度は、存在感を示す必要が有る。目立ち過ぎてもいけないのが、難しい所だ。


「確かに!忠言、感謝するぞ!」


 やはり良い。強者は。刺激される。神無はご満悦だった。


 時が来た。制圧のために連れてきた兵500を束ね、5人が先頭に。この戦で、兵数は減らさない。


 走る!


 王宮前に人の壁。さらには万を超える軍勢。


 万?それだけで、良いのか?


「三十鬼来い!アカ、軍を守れ!一飲涙、熊大将、援護!」


おおおおお


 仮要明は始めから、高空に飛ばせてある。戦況を見つつ、必要ならば援護。


 神無と三十鬼が突っ込む。弓矢は弾き、避け、無効化。まずは小手調べ。包み込もうとする敵軍を、熊大将と一飲涙が、きっちり牽制してくれている。そのまま神無達は軍を壊滅させた。


「ふう」


 神化の必要は無い、か。


 だが、来た。


 王宮、その門の前に立つ者。


 強い。


「ここは私が」


 三十鬼が前に出る。神無としては、強敵を部下に任せると言うのは、居心地の悪いものだが、正直助かる。神化は、出来れば使いたくない。


 静かに立っている。今、目の前で味方が斬られまくったのに。感情の揺れが見えない。


 間違い無く強い。だが、その程度では。この三十鬼は、破れない。おれが、ヤマトナンバーワンなのだ。


 声もかけず、三十鬼は、通り過ぎた。


 正確には、神無の目にはそう見えた。気付いたら、三十鬼が敵を斬り捨て、通り過ぎていたのだ。


 化け物め。確かに有我と同等。俺では、勝てんか。


 神化を使いさえすれば、と言う口惜しさは、神無には無かった。使えない己の未熟に過ぎない。使えない方が悪いのだ。有我が、三十鬼が、俺より、強い。そういう、ただの事実に過ぎない。


 それでも、いつか並んで見せる。俺は、蹴速に追い付くのだから。


 三十鬼は、己の剣が充実しているのに気付いた。かなり調子が良い。これはもちろん、魔王アカとの稽古のたまもの。実力が引き上げられている。それでも、現在の自分は、まだ邪馬刀国に追い付いていない。かつてのヤマトナンバーワン。ヤマトの者なら、誰もが憧れた本物の実力者。


 そして、あの人を無傷で屠った、蹴速。本人とも仕合ってみたが、どうにもならない化け物だった。初めて恐怖で失態をさらした。神無には、自分も覚えが有ると慰められたが。


 まずは邪馬刀国。それから蹴速。そしてヤマトの天下になった暁には、まあ、記念に、試しに、付き合っても、良い。蹴速程の実力者と付き合うのは、何か得られるものも大きかろう。うむ。


 アインシェンは都合4日で落ちた。500の兵を走り回らせ、支配構築に1月。神無達はそれぞれ強敵を屠り去る活躍を上げ、全員の評価が上がった。


 目立った成果としては、人魚が居た。どうも海鶴の種族とは多少毛色がちがうようだが。アインシェンは他種族とも上手くやっていたようだ。


 タダ乗りさせてもらおう。無茶は言わない。上がりを少しもらえれば、それだけで良い。コウチは優しいのだ。


 無論これは、アインシェンを壊滅するまで追い込めば、もう再建は不可能ゆえ。現地人魚とのつながりも、海鶴を酷使するか、無理矢理力づくになる。人魚はそれで動くか?問題が多過ぎる。ダイコウチと地続きではないので、色々難しい。ある程度、で良しとしておくしかない。


 そして、手土産を大量に持って帰るべし。


 接近する影有り。


 コウチ、梅の下へ報告が有った。


 万が一を考えて、監視をコウチ周辺に付けておいたが、まさか機能する事が有るとは。魔物退治の人員をそのまま移動させたので、数に困りはしないのだが。


 御都か、刀農か。まさかヤマトは有り得んだろう。ナインライン、中つ国は絶対に無い。鮭川は論外。


「有我を呼んで来る。兵を揃えておいてくれ」


「了解」


 御徳に兵を参集させる。戦闘か会談か、まだ分からないが。


「有我。何やら敵のようだ」


「へえ。今度は、容赦出来ないね」


「ああ。だが敵の見当が付かん。様子を見る。それから、斬る」


「うん。出るのはボクだけで良いの?」


「ふ。軍を出す。お前だけを出させても、兵の士気が上がらん。自分達の手で母国を守らせる。名誉の戦死は極上の気付けだ」


「そっか。梅ちゃんの思うようにお願い。ボクは従うよ」


「あまり自由にさせると、乗っ取られるぞ」


「あはは。乗っ取られるような一一人なら、そんなのは要らないよ。最強で在る事が、存在理由なんだから」


「大したものだ。しかも、その気は一切無さそうだな」


「当たり前。イヤだよ死ぬとか」


「面白い冗談だ。それはともかく、来てくれ」


「うん」


 有我は梅と同行。家の戦力は、これで3名家全員が抜ける。まあ、魔王が4名、魔神が1名。今すぐ宇宙をどうこう出来る戦力なので、心配は無い。


 亜意に言付けを頼み、梅の神隠しで本部へ。


「敵は海から、船団の模様。こちらからの砲撃は控え、住民の避難誘導にかかっております」


 御徳からの伝達。


「ん?お前は将軍だぞ。兵に言わせれば良いだろう」


「うーん。何もしてないと、手持ち無沙汰で」


「せめて量猟に・・は、やらせてはいかんな。うむ。暇ならやれ」


「はいはい」


 軍勢を率いて海岸へ。老人病人の移動にも兵の体力は使い物になる。大きな意味で民を守れぬ力など、無価値同然。敵を殺し味方を生かして本物。コウチには偽物は要らない。


「良し。いい動きだ」


 梅からの言葉を全軍に伝える。攻撃は遅れても良い。住人を生かせ。


「どうする?」


 どうする?とは、有我が乗り込んで斬って来ても良いのか?という意味だ。


「待て。上陸際を潰す。砲撃は敵船の動きが止まってからだ。その時、切り込むのがお前だ。御徳、有我の後に続き、散り散りに蹴散らせ」


「承知」


 大船団と言って良い。ダイコウチのものでは有るまい。あれ程の船。


 敵船からの砲撃も来ない。不可解な。


「まだだ。待て」


 梅は待つ。万が一の敵襲。ならば万が一、あれが何処かの避難民である可能性、無きにしも非ず。


 船から、手漕ぎボートが。


「待つ。決して手を出すな」


 全軍待機。


 上陸して来た、3名。


 有我は梅の側に寄った。小声で、強い、と伝える。


「行くぞ」


 梅は有我を従える形で、3人に会いに。


「ようこそ客人。私はこのダイコウチの代表の1人。三鬼梅」


「いやあ。初めまして。私はヴァイキングの長。グルウメ・グロウヴ」


 角飾りの付いた武将の兜、ただし異国風。獣皮であろう衣服。そして、長槍。斬場刀に比すれば大人しいものだが、何やら禍々しさが漂う。あれは不味い。持ち主も強かろうが、あの槍が不味い。


「驚かせたでしょう。すみませんな。いや私どもは、ただ交易を望んでおるだけでしてな」


 良い趣味じゃないか。気が合いそうだ。


「ほう。話を聞こう」


 梅の言葉に、魔槍が跳ねる。だが、有我が弾く。


「全軍かかれ。1人残らず生かして帰すな」


 梅の言葉に、密かに号令の時を待っていた御徳が、雄叫びを上げて軍を導く。


 グルウメは有我が抑えている。


「気の短い」


「見極めが早いのさ」


 梅は言葉と共に神隠しを発動。グルウメの首を刈りに行ったが、魔槍に弾かれた。


 初見で神隠しを防いだだと。


 有我も、何時、自分の枷を解いたのか、気付かなかった。


 船団からの砲撃は無し。御徳を先頭に切り込み部隊が乗り込みに行く。量猟は砲撃隊を指揮し、船上空に撃ち込む。上空で砲弾は炸裂。船を火に沈める。


 御徳は疑念を抱いた。海上で部隊を止め、防御の姿勢を取らせる。


 炎上、沈む船から、降りてくる者達。


 骸骨の群れ。


「魔物、ではない。油断するな」


 言うが早いか、御徳は骸骨を切り伏せる。抵抗無し。脆い。見掛け倒し?


 骸骨は、しかし、復元してしまった。


「撤退!」


 切り込み部隊は撤収した。そして御徳は量猟に指示。


 量猟は部隊に特殊火砲、延炎のびるびを準備させた。焼き尽くすなら、この一本。


 骸骨が十分に接近した所で、延炎を撃つ。御徳の予想通り、良く燃える。


「あなたの部下まで、気が早いのですね」


「良い仕事をするだろう」


 まだ、グルウメを殺せてない。長く生かさせておくのは、不味い。


 梅の焦りに有我が気付いたので、本気で走り、グルウメの首を刎ねた。


「どうかな」


 崩れ落ちる体、だが、落ちる魔槍が、有我に飛ぶ!


 難なく弾く有我だが、弾かれた魔槍は、自ら有我に向かう。それを延々弾き続ける有我。


「どうしよう?」


 有我でも砕けない、斬れてない。有我ならば、鉄の塊程度、菜っ葉の如く切るはずだ。


 梅は考えた。グルウメのお付きは、動揺してない所で無く、微動だにしていない。グルウメの操り人形だったのか。では、魔槍は?この様子では、むしろグルウメも操られていた側、と見るべきか。


「その槍が怪しい。どうにかする。待てるな」


「はーい。面倒だから、出来れば早くお願いね」


「ああ」


 有我は一時も止まらず魔槍を斬り続けている。決して魔槍に触れないように。こんな程度で良ければ、1日中出来る。ただ、言った通り、面倒ではある。


 神隠しで、家に。


「蹴速、すまん。頼み事が出来た」


「分かった」


 二つ返事で、蹴速は動く。他の魔王では難しいかも知れない、シロは動かない。でも、蹴速なら何とかしてくれる。


「じゃあ、ちょっと行って来るぜ」


「すまんな」


「頑張って来てねー」


「お気を付けて」


 重玉の実験に付き合ってくれていたジンと超騎士にも頭を下げる。


 有我は変わらず魔槍を弾き続けていた。


「あれ?」


「ああ。何とかなるか?」


 蹴速は手に重圧を発生させた。内部に向けて軽く数十万トンの力のかかった直径10センチのボール。こいつを、食わせる。


 有我の方に走り、魔槍にボールをぶつける。有我と共に退く。


 グシャグシャにひしゃげた魔槍の成れの果て。だが。蹴速は止まらない。更なる力を込め、1億トンのボールを投げ込み、魔槍をただの鉄クズにまで圧縮する。


「良し」


「ありがとう!」


 有我が蹴速に抱きつき、謝意を現す。好機であるが故。


 鉄クズは、もう動かないようだが。


「完全に、心配は消す、か」


 蹴速は全力を尽くした。1兆トンの重玉に鉄クズを入れる。


 見えなくなるサイズになったのを見て、ホッと一息。流石に疲労した。帰ったら亜意に甘えよう。


 骸骨の群れは、しかし数をあまり減らしていない。御徳配下の剣士隊が、役に立たない。何とか時間稼ぎが出来るだけ。実際に減らすには、延炎を使うより他無く、その延炎も、数はあまり無いのだ。


 骸骨は後、数万。


「蹴速、あれは私達でやる。やれなければ、手を貸してくれるか」


「ああ。言ってくれれば、幾らでも貸す手は有る」


 何を遠慮しているのか。もちろん梅達のそれは、コウチの代表である自負。蹴速抜きでは何も出来ない。そんな3名家に成り下がる気は無い、という意思表示だろうが。


 頼れ。使え。使えるものは夫でも使え。


 有我が切り込み、剣圧で粉微塵にしていく。


 御徳は歯噛みする。まだ、吹っ飛ばす事しか、自分には出来ない。実力に差が有りすぎる。


 だが有我と言えど、一度に数体を消滅させるので、精一杯。有我は傷付かないが、時間がかかる。


 それでも、梅は蹴速を参戦させないようだ。


 蹴速亭。


 家の中が、少し静かになった。


 キもモモも、そう喋る方でもない。アオミドリに至っては、子供達とお昼寝。まあ、今までちゃんと見ていたのだ。ゆっくり休んでもらいたい。


 祝寝も、今は本を読んでいる。


 結界が鳴る。この家「が」知らない者が家周辺に立ち入った。


 超騎士はジンに声をかけ、魔王達にも警戒に出るよう頼んだ。超騎士は既に探査を終えている。


 数十万の骸骨の群れ。発生源不明。強者の反応無し。


 時間はかかるが、ジン1人で消滅させられる。問題は、伏兵。骸骨が囮である可能性は、高い。


 ジンが即座に数百程を消滅させた。ついでに、家の周りもドンドン更地になっていくが、仕方がない。


 骸骨はジンに任せる。魔王も見ていてくれている。困った事には、ならないだろう。祝寝は室内に退避させたが、不安になっているだろう。声をかけてくるか。


 超騎士はそう思い、室内へ。探査自体は継続している。


「大丈夫です。ジンの活躍によって、敵は問題無く消滅して行っています」


「うん。大変だろうけど、頑張ってね。出来れば海鶴も己黄も、動かしたくないの」


「ええ。同感です。私達でどうにもならない敵は、恐らく存在しません。安心して下さい」


 だが、そう言う超騎士にも、敵の正体は掴めていない。2度目を許すなど、自分を許せない。今、敵を見つけ出し、処理する。


 しかし、周辺数キロを隈なく捜索しているにも関わらず、怪しげな気配が無い。


 これは、一体。


 とにかく範囲を広げる。数十キロ、街中に居る可能性も考慮してみる。数百キロ、国外の可能性も。


 居た。海上で、様子を伺う者。ここから数百キロの海上。船に乗っているな。船内倉庫には、骸骨の元となりそうな何か。


「キ、頼みが有ります」


「ん?ジンは順調だ。出しゃばってリズムを崩すのは、どうかと思うが」


「いえ。首謀者らしきものを発見しました。捕縛をお願いしたい」


「すごいじゃないか。分かった、行って来る」


 場所を聞いたキは船まで飛んで行く。


 超騎士は、能力を明かしてしまったが、キならば、べらべら吹聴する事も無いだろう。口止めも、一応しておくべきか。


 30分後、キは1人の女を連れ帰った。意識有り、身体の自由有り。本当に捕縛に留めたようだ。


「有難うございます。それで、船はどうしました」


「うむ。件の骸骨は、粉々にして来た」


「私の懸念としては、果たして水没した程度で、骸骨は行動不能になるのか。でした。その処置で問題無いと思います。本当に有難う」


「うむ。で、お前の察知能力は、おれ達をも超えているのか」


「ええ。シロを除けば、世界一である自信が有ります。ですが、出来れば黙っておいてもらえますか」


「だから、おれか。アオミドリ、モモ。最低でもアオミドリは連れて行くよう、お前なら言ったはずだからな。亜意はジンの回復をさせるにしても」


「その通り。明かして困るものでも有りませんが、知らぬ者は多い程良いのです。私に取って」


「構わんぞ。誰も困らないからな。おれが周囲の偵察に出た所、偶然発見した、と言う事にしておこう」


「重ね重ね有難う」


「何。おれには労など無い。礼を言われる程じゃないさ」


 キに取って、家の、家族の守りに健闘する超騎士の意向を、ないがしろにすると言うのは、発想に無かった。


 捕縛した人間は、シロに探ってもらう。安全策を取る。


「ふんふん」


 案外、簡単に動いてくれた。


「面白いの」


 シロが、面白いと言った。魔王、超騎士は、ざわついた。


「こやつ、傀儡じゃ。操っておるのは、武器」


「武器、とは?」


「剣、槍、弓、砲。そのような武具が自我持ち、人間を操っておる。遠い北の方から、わざわざやって来たようじゃ。可愛いの」


 可愛くは、無い。が、奇っ怪な。


「それで、元凶たるモノは何処に」


「ヴァイキング。じゃと」


「え」


 超騎士には聞き覚えの有る名詞。同じヨーロッパ圏を縄張りとする兵団。いや、まさか。偶然、と言うやつなのか。


「そっちではないじゃろ。ただの蛮族じゃの。強い者が弱い者から奪っておる。そんな生活を繰り返し、成り上がったようじゃ」


 聞き覚え、身に覚えのある事だ。皮肉にも程が有る。魔王を率いる魔神に言われる、この苦味。


「そのヴァイキングとやら。何故コウチ、しかも、この家を」


「ここからは、わしの推測じゃ。こやつには、其処まで深い情報は無かったのでな」


 シロ曰く。より強大な人間を操り、支配する事を望んでいるのだ、と。隣国グリスには手出し出来ない。故に外洋に目を向け、ヴァイキング得意の船で、ここまで。


「この人間は、元に戻るのですか?」


「癒やしでも何でも、操作している力を跳ね除ければ、の」


 聞くが早いか、亜意は即治癒をかけた。


 黒いもやが、抜け出る。更に亜意は魔力を黒いもやに向ける。もやは消えた。


「こうか?」


「うむ。流石亜意ちゃん、上手い!」


「ちっ」


 蹴速と共に出る事も有るかも知れない、ので経験しておきたかった。幸運だ。


「・・・ん。ん・・・?」


「大丈夫か」


「誰、ですか」


「ここはコウチ。おれはキ。お前は」


「私は、メイル。グルウメ・メイル。ヴァイキングの戦姫」


「お前、覚えているか。ここまで来た経緯を」


「・・・いえ。最後の記憶は、ヴァイキングの船。家の記憶。そこから先が、分かりません」


「なるほどな。武器が人を操り、支配すると言うのは?」


「そのような。おとぎ話では、・・・まさか」


「ああ。お前は操られていたらしい」


「申し訳有りませんが、にわかには信じ難く。ですが、確かに私の記憶は不自然に、消えている」


「どうする。ここから、お前の国へ、1人で帰れるのか」


「・・・無理です。私は、コウチと言う地名を知らなかった。地理も、人手も無い。せめて、仲間が居れば」


「海岸で戦っているのが、お仲間かも知れません。生きているかどうかは、保証出来ませんが」


「行ってみます。どうせ、他の選択枝は有りません。では、見ず知らずの私に親切にして下さって、ありがとうございます」


「どうと言う事も無い。ではな」


 骸骨を滅ぼしたジンが、帰って来た。超騎士の探査によっても、もう居ない。


「で、あの骸骨は何なのさ」


「武器が操った死者よ。魔族では無く、人間の残骸。故に魔力は無いが、原料が消失しない限り復元し続けるじゃろうな」


「ん?」


「斬るだけでは、ダメ。煮るなり焼くなりしろ、と言う事ですか」


「んむ。まあ、ぬしらであれば、魔力をぶつけるだけで、どうとでもなるじゃろ」


 超騎士自身、結界で押し潰せるだろう、とは思っていた。


 クロは、家の外の騒ぎが収まったのを感じた。祝寝に安全を伝える。子供達と海鶴、己黄の側で待機していたのだ。


 ジンは出て行った人の事を聞く。さまよえる異邦人。


 ジンは飛び出した。


「どうしたのだ」


「ジンもあれで、中々優しい。良い良い」


「へええ」


 メイルに追い付いたジンは、自分が蹴速達の下へ連れて行くと言った。


「ですが、何時までもご迷惑をおかけしては」


「良いって。道だって、全然分かんないでしょ!」


「それは、そうですが」


「行こう!」


 ジンは強引にメイルの手を取り、飛んだ。


「こ、コウチの人は、飛べるのですか!」


「まあね!」


「なんと。グリスにも劣らないとは」


「へへへ!」


 ジンは、もちろんグリス等と言うものは知らない。だが、蹴速以外、例え魔神だろうが、劣っているとは思っていない。冷静な見方では無いが、それでも、そう信じている。


 骸骨に孤軍奮闘する有我と、延炎を駆使する量猟達。


 そこにジンは降り立つ。無論、蹴速の隣に。


「お、どしたジン」


「蹴速。ちょっと大変だったよ。家が襲われてさ。撃退したけど、ちょっと癖の有る敵だった。それで、この人が色々知ってて、で、帰るんだって」


「なにい」


 蹴速の周囲の重力が一瞬、数百倍になったが、ジンが止めた。


「もう大丈夫。おれ達が居るんだぜ」


「あ、ああ。そうやった。お前もシロも、皆も居る。おれの杞憂やったな、すまん」


「んでね、この人の身内か知り合いが、ここに居ないかって」


「どちらさん?」


「グルウメ・メイル。ヴァイキングの者。仲間か誰かが居れば、私は国に帰れるのです」


 燃え落ちる船団を見ながら、つぶやく。もう、いまい。


「グルウメ?先程、グルウメ・グロウブと名乗る者を斬った。血縁か?」


「・・・私の、親です」


 記憶も、親も失くしてしまったか。


「すまんな」


「いえ。どうやら戦場。平凡なる常道です」


 命を失うのも、戦場に望んで立った以上、当然。


「話を聞きたい所だが」


「うん。おれ達が、もう聞いた。それで、シロによると」


 梅は経緯をジンから聞いた。


「ふむ。蹴速、骸骨の群れを薙いでくれるか。皆で話がしたい」


「お安い御用よ」


 蹴速は跳び出し、有我に声をかけ、2秒で消滅させた。一欠片も残さず塵にしたので、復元は有るまい。


 蹴速は、抱きついてきた有我と一緒に跳ぶ。


 兵は万が一、出てくるもの、に対して待機。延炎も今の内に休ませる。


「それで、お前の国に行けば、色々分かるって事か」


「恐らくは」


「コウチは敵を許さない。その、武具とやらを粉々にする必要が有る」


「ヴァイキングの罪は、私の首を勘定に入れて下されば、ありがたいのですが」


「気にするな。悪いのは、武具。それはこの目でも見た。君の国は、ただ、このコウチの属国になるだけで構わない。降れ」


「それは、私の一存では、何とも」


「ま、それは我々がヴァイキングに行った時、また聞こう。それで、どうやって帰る」


「船と仲間が居れば、と思いここまで来たのですが」


 それらは、今焼け落ちた。


「仲間か。そこのは、どうだ」


 グルウメのお付きが、棒立ちしたままに。


「いつも、父の側に居る者達です。彼らは、一体・・・もしや、あの状態に、私も?」


「らしいね」


 ジンはその場を見ていないが、家の者が彼女を殺してないのは、敵対していなかったためだろう。意味も無く手心を加えるとは思えない。


「じゃあ、おれが連れて行くよ」


「ジン?」


「おれの仕事なんだと、思う。困ってる人を助けるのって」


「おれも行こう」


「蹴速までか」


「ジンで十分。でも、おれはジンが心配」


「ん」


 ジンは蹴速に頷き返した。 


 家を襲われたのが、気にかかる。単独行動は怖い。


「お世話になっても、良いのですか」


「良いよ良いよ。困った時はお互い様」


 ジンはメイルを抱いて飛ぶ。蹴速も続く。


「忙しい男だ」


「だね」


 兵を下げさせ、撤収にかかる。海岸監視の兵を置き、民の避難も解除。3日程も様子を伺えば、良いだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ