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神無、旅立つ。

 蹴速は早速、新技の開発に取り掛かった。遠距離での取り柄を増やす。


 自分に出来る事。殴る蹴る以外に。それは、重みをかける事。重みを自由に操る事。これを相手に、目標に、当てる。自由自在に遠距離に当てられるようになれば、使い物になるかも知れない。


 ふむ。上手く行かない。やり始めだから当然としても、危ないな。


 「重み」を飛ばす自体は成功しているのだが、途中で分解、破裂する。飛び散った重みは、そこら中の地面を陥没させてしまっている。あるいは木を倒してしまう。


 重みを固める。「内部」を作った後、外圧を一定でかける。そして、目標で弾けるように、一箇所に栓をしておく。正確に言うなら、同じ重さであっても、ズレを作っておく。これで、ぶつかれば、ズレから重みは崩壊し、弾ける。今の蹴速なら、数十万トンの重みをその場にバラまく事が出来るはず。ただし、これでは太陽を壊せない。全開の蹴り、兆トンクラスを操れるようにならなければ。だが、順番を追う。まずは億から。


 蹴速が地球の周りの隕石を破壊し始めるのを見て、超騎士は黙想にふけった。


 自分に出来る事は。現時点でも十分に世界有数。蹴速を除けばトップクラスで通じる実力者だが、あくまで蹴速を除けば、だ。それなりの器用さと結界の操作。役に立っている自信は有る。しかし、もっと役に立ちたい。何も思い浮かばないが。


 彼女らも、こうした思いを抱えている事だろう。


 二神太郎花八郎神無は率いていた。自分と同格、もしくは強い者達を。全国のトップクラスを配下に従えるというのは、存外に怖い。特に、自分より強い者は。


 三十鬼三問。ヤマトナンバーワン。有我と互角の傑出した怪物。だが、それを手足として使いこなすのが仕事だ。やるしかない。


「興奮を禁じ得ません」


「俺もだ!2回目の遠征だが、やはり興奮する」


 南海遠征。神無及び二神の家の者に取って2度目の旅だ。今度は蹴速もさらいに来ない。きっと成功させる。幸か不幸か、あの時より遥かに強大な仲間に恵まれた。


「おれが付いてるから大丈夫!」


「お前ならば、本当に大丈夫だろうな!」


 何故か付いてきた魔王アカ。それは南刀仮要明に取っては渡りに船。実戦での飛行も学べる。有り難すぎる。


 一飲涙美乗利は、自らの境遇に、多少の非現実感を抱いていた。仮にもエヒメナンバーワンの自分より強い者達、更には魔王に囲まれた船旅。もしや、ここは既に現世ではなく、地獄なのでは。隣で平然とアカに菓子を勧める熊大将壱日が信じられない。どういう神経をしているのだ。


 神無と強力な仲間達は旅を続ける。この世全てをコウチとして塗り替えるために。


 特盛は、またも置いてきぼりだった。


「うーん?」


 いや、まあ、あれだ。熊大将より強い、役に立つ、等とは思ってはいない。それでも、前線で活躍出来る自負は有る。軍に組み込めずとも遊撃として動ける、そう思っている。


 おれは、何が足りないんだろう。


 斬場刀の素振りを朝からずっとやっている。飯の時間以外は全て斬場刀を握って過ごしている。組手でなければ、振れる。おかしな話だが、組手で使うと、斬場刀が破壊されてしまう。相手を、ではない所が、この家の恐ろしい所だ。


 神無が特盛を連れて行かなかった理由。それは未熟だからではない。今すぐにでも切り込み役として無二の働きを示してくれるだろう。ただ、外海遠征では、武器を失う事も有るだろう。有って欲しくない事だが、撤退する事態も有りうる。特盛は、やっと出会えた相棒を失って、平然としていられるのか。斬場刀を新しく作るのは、時間がかかる。


 ここまでが、建前だ。


 真の理由は、征服に特盛を用いたくない。梅が嫌がった理由が分かる。奴には、自身のあの心を持ち続けてもらいたい。計画的に人を殺す手伝いをさせたくない。奴が腐る手前までは、自宅警備員でもやっていてもらおう。


 特盛の苦悩は、少しだけ続く。


 1月空けた事で子供達に忘れられてないか、心配だったが杞憂だった。心からホッとして子供達との訓練に時を費やす。


 強くなっている。自分の生後数ヶ月は、当然歩く事もままならなかっただろう。子供達は、既にある程度強い。変にストッパーをかけなければ、死ななければ、きっともっと強くなれる。


 成長してからが、ある意味山場だ。独り立ちしてしまえば、親の庇護を受けられない。何処かで強者と戦い、人知れず命を落とす事も有るだろう。それまでに、出来るだけのレベルアップを図る。


 モモは最近、蹴速と過ごす時間が増えてきている。この家のルールを無双双児に教えたり、家での過ごし方も一緒に。祝寝が忙しすぎるのが原因だが。もう、お手伝いを雇っても良いだろうに。頑固な奴。


 海鶴の卵は、そろそろ孵りそうだ。子の名は、もう考えてある。


 海鶴は久しぶりに会った蹴速の顔に、待ち望んだものに、安堵の溜め息を吐いた。それを吐かせた事に、蹴速は謝罪した。大事な時に、待たせた。


「良い。仕事をしてくれるのを、邪魔するツガイなど有り得ん」


「寂しかったろう」


「うむ」


「待たせたな。抱いても良いか」


「ああ。優しくな」


 蹴速は海鶴を卵ごと抱きしめた。柔らかく優しく。


「大丈夫そうや。安心した。海鶴も、良く卵を守り、育ててくれる。安心して、仕事に行けるぞ」


「何。妻として、当然の事。だが言葉にしてもらうと、嬉しいものだな」


「ああ。海鶴は良くやってくれちゅう」


 疲れているだろう。自分なら、耐え切れない。ずっと閉じこもっているなんて。良く、やっている。


「己黄の所に行って来る。またな」


「・・ああ」


 離れるのが、耐え難い。あんな事を言っておきながら。


「これ。おれの手甲」


 蹴速は部屋に持ち込んだ具足を、部屋の片隅に置く。


「守り刀じゃないけど、置いちょく」


「蹴速」


「嬉しんでくれたか?」


「ああ。守ってくれるのだな」


「当たり前や」


 この手甲を海鶴が装着可能なのではない。この、おれの心を置いて行く。


 蹴速は出て行った。妹の下へ。己黄だって蹴速を待っているのだ。それは、分かる。


 それでも涙を堪えきれない。海に留まっていれば、このような想いを知る事も無かった。気持ちが揺らぐ事も、無かった。でも、蹴速は置いて行ってくれた。この部屋には、蹴速の心が残っている。


 祝寝は、好きなだけしがみつかせてくれた。


 己黄は寝ていた。祝寝によると、もうずっと寝っぱなしだそうだ。


 この部屋にも手甲を。


 寝ている己黄に触れる。こんなか弱い生き物が、おれには出来ない仕事をしている。ずっと。休む間も無く。


 熱い。己黄の体が熱かった。苦しそうではないが。体力を使用しているのは、間違い有るまい。冬眠のようなものと捉えて良いのか。飯も食わず。


 黄金の少女を良く見た後、部屋を出る。


 己黄は眠りながら気付いていた。黄金龍より大きなものが、すぐ側に来ていたのを。守ってくれようとしているのを。もうすぐ、会える。3人で。


 地球への避難民は、地球の2つ目の衛星として生きる事に。卵の者達も。いつの間にか宇宙恐竜になってしまっていた、らしい。あれが、どういう生き物なのかは不明。謎の多いものだ。


 シロによれば、いつぞやの邪神も、時を経ればああなるのだそうだ。殺すのは早まったか?ああも成長するのであれば。まあ、己黄の親の仇。仇討ちは早ければ早い程、良い。


 祝寝。


「遅い」


「ごめん」


 許してくれた。


 船上の旅人達は修行に明け暮れていた。暇だから。


「ほい」


 アカの手刀。三十鬼は全力で回避し、即反撃。怖い。対魔蹴速もそうだが、化物共が!


 傍目からは、五分。アカの攻撃は三十鬼に当たっていない。三十鬼の攻撃は当たっても効かない。どちらも動ける。


 だが、アカはまるで本気では無い。それは分かっている。分かっているが、本気にさせられない。速攻を仕掛けて潰しに行っても、ものともしない。これが、魔王か。


 アカは喜んでいた。予想より強い。蹴速の500分の1くらいか。昔のアカなら嬉々として食べただろう。


 動きを勉強させてもらおう。そして、疲労負傷したなら、治癒の修行をさせてもらおう。


 三十鬼に取っても、アカに取っても、良い機会だった。


 仮要明は別に、最前線を張りたいわけでは無い。高空から狙撃さえ出来れば良い。爆撃も良い。そうして前線を押し上げる原動力になる。悪く言えば、安全圏で働きたい。だが、それはそれとして、一流の力も見ておきたい。仮要明も結局は戦場で働く。そこで獅子奮迅の活躍を見せるものに、注目しないでは居られない。


 神無は一飲涙を見極めた。弱い。


 雑兵では無い。流石に。しかし、これでナンバーワンは、無い。あの時、何故有我がエヒメを先に斬らなかったのか。良く分かった。だが、長所も有る。ある程度は本気で見極めにかかったが、致命傷を与える事は、ついに無かった。神無がわざと外したのでなく、外された。逃げは上手い。生き残りやすい。つまり、情報を持ち帰れる。やはり使い物になる。特攻も好きだが、生きるのに全力を使う奴も同じ位好きだ。


 一飲涙は必死だった。各国の強者に見下されるのは問題無い。問題は、本当に利用価値無しと判断され、切り捨てられる事。使える道具で在る必要が有るのだ。


 全力で剣を振るう一飲涙は、美しかった。


 神無は美しいままに、その輝きを永遠として散らせてやろうかとすら思った。美姫と言うものか。


 熊大将は剣を振っていた。素振りだ。組手以外の時間は、ずっと。


 あの馬鹿も、ずっと剣を振っているのだろう。土産話を沢山持ち帰り、自慢してやらねば。恥ずかしい働きは出来ない。


 だから、振り続ける。1秒先には、強くなっている。1分先には、もっと。その先をも信じて。


 南海の陸地まで軽く1月。旅は続く。


 無双双児はアジアを中心として活動している兵だ。それが1月近くテリトリーを空けていた。


 敵が発生していた。


 近隣の兵を惨殺しているらしい。そう聞いた無双双児は、敵の居そうな場所を荒らして回った。口の堅そうな者は叩き壊し、軽そうな者は友達になり、双子は聞き込みを続けた。敵の家族らしい人々と一緒に過ごしていると、敵の方からやって来た。


「家族から離れろ!」


「ああ」


 双子の片割れは、離れ、敵に近付いた。それを見て警戒する敵の背後に、今まで姿を現しておらず、気付かれぬよう忍び寄った、もう1人が捕縛。両手両足を動かぬよう、ちゃんと捕獲した。


「やったー!」


「私達なら造作もない事」


 ハイタッチして喜び合う双子。敵の家族に挨拶してから、敵を本部まで連行。処罰は双子の仕事では無いのだ。この辺、実は双子の方が蹴速よりも理性的だったりする。蹴速は本当に気分次第で殺したりする。歯止めが必要だ、と常々双子も思っていた。蹴速とて双子にだけは言われたくなかろうが、双子に理が有ったりする。


 事情聴取によると、どうも無双双児の支配地域が欲しかったらしい。留守になったので、好機と見てとか。


 蹴速なら間違いなく殺した。だが、無双双児は刑務所にぶち込まれるのを見届けてオシマイ。お仕事が終わりさえすれば、文句も無い。報酬もきっちり入ったし。


 心配は、仲間も何人か殺られている。アジアの治安が一時的に悪くなるだろう、と言う事。そして、この調子では、まだ蹴速の家に嫁入りする事実を広められない事。


 自慢したいのに。


 しばらくは通い妻だ。それも良い響きで、連想した双子は同時にニヤけた。

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