敵は銀河。
あっという間に時は過ぎる。
無事蹴速との邂逅を果たした三十鬼が、神無と同じ失態をする等の微笑ましいエピソードも有りながら、皆、外海遠征への準備を整えていた。
宴席で、べろんべろんに酔い潰れ、神無に親身に介抱された一飲涙は、コウチへの疑心を持ち続ける事が難しくなっていた。その時一緒に飲み食いし、歌っていたのが、魔王達であったと聞かされた時には、倒れそうになった。
仮要明は、空兵でもある自分をどう磨くべきか。答えを、来て翌日には出していた。空を飛べる魔王に教えてもらえば良いのだ。
「こうだよー」
「はい!」
全然分からん!だが、分かる事も有る。魔力で飛んでいるであろう魔王アカ。つまり、エネルギーを飛ぶために放出しているのだ。それは人間にも出来る事。効率で劣り出力で負けても、人間にも出来るのだ。
飛行しているラインを見極める。エネルギーの流れ、風、重力への抵抗力。なるほど。こうか。
剛爆式射空砲、出力。背負った巨大な5門の筒から化石燃料と魔力結晶を混合したエネルギーを噴出。飛行する。
ここまではミヤザキ単独で出来る。現在の課題、速度の向上、飛行の安定性。これらをコウチに居る間にクリアする。目の前に教材が有るのだ。学ばずしてどうする。
アカの飛行を間近で見ながら、自身の飛行を磨く。結局は、体で学ぶしか無いのだ。
限界の見極めのため、ある程度危険な飛行もする必要が有る。落ちかけると、アカに助けてもらう。本当に、羨ましくなるほどの速度。そして絶対に落ちない安定した飛行。
アカは、本当に変わった。アオミドリは思う。見ず知らずの人間の面倒を見てやるなんて。自分の出来る事を広げる、なんて言ってたけど、あれで良いのかなあ。キもモモも、アカにケチは付けないけど。
アオミドリは子供達に、最も美しく可愛く優しい、蹴速君に一番似合うお母さんは誰かなー?と聞いてクロに張り倒されながら、そんな事を考えた。
クロさん!?
クロには仕事が有った。この家全体の管理の他に、子供達の健やかなる成長を見守る、という尊い仕事が。子供に圧力をかけるものは張り倒す必要が有るのだ。
全く、蹴速と相思相愛、似合いの2人と言えば、このクロハメツを置いて他に有ろうはずも無い。
クロ!?
魔神シロは、自身の創造物が、破滅的な何かを抱え込んだ事に気付いた。だが、解決策は思いつかなかったので、忘れる事にした。
新しい嫁も来た。無双双児だ。2人増えても、余裕の有る家とは。どういう想定をして建てた家だ。
アフリカは、厳しかった。
強敵も、難題も、たっぷりと味わった。良い仕事をした。
蹴速達はイギリスの件が片付くと、即座にアフリカに跳んだ。隕石の落ちた地点は、南アフリカ共和国。さて、空から発見出来るかどうか。
「どうやらあそこですね」
上空を少し通り過ぎただけで、超騎士が発見した。
「おお。確かに」
分かりやすかった。黒煙が、絶え間なく。隕石落下から1週間は経っているのに。集った兵は何をしている。
隕石を見に行く。
原因が分かった。奴らだ。
「おー!久しぶりだな!蹴速!」
「お久しぶりです。蹴速様」
「ああ。元気やったか」
「もちろん!」
「当然です。自分の体調管理も出来ない兵など」
「それで。ここは、どうしたん?」
「隕石が落ちてな。おれ達が来た時、住民が危険だと思ってさ。皆が逃げやすくするためにな。目立つように、と」
「タンクローリーをガソリンスタンドにぶつけました。そうしたら、吹っ飛んだタンクローリーが隕石を焼き始めまして、依然延焼し続けているのです。自然災害は恐ろしいものですね」
恐ろしいのは、こいつらだ。何が含まれているか分からない、成分不明の隕石を飛び散らせるような真似を平気でする。流石だ。無双双児。
街が燃えている。多分、住民は逃げることには成功している。すると、あちこちに兵らしき者が散らばっているのは、避難誘導及び無双双児への警戒か。正しい行動だ。
「で、この隕石はまだ調べてない、か」
「おう!一緒に見てみるか」
「それがよろしいでしょう。蹴速様もご一緒なら百人力」
「おお」
ジン、超騎士、亜意もそれぞれ、見てみる。高さ100メートル程。直径も恐らく100は有るだろう。デカい。
割に、落下地点に被害が少なすぎる。無双双児が現れてから、避難を開始する位には。この規模なら、都市一個が壊滅しているはずだ。隕石は大地に突き刺さっているが、それだけ。たまたまアフリカに居た兵が、地元に居た兵が、身を犠牲に減速させたか?有りうる。
蹴速はそこまで思考した所で、隕石を持ち上げた。
重い。数十万トンは有る。蹴速でも、力を入れなければ上がらないだろう。
「下に、誰か埋まってないか?」
皆に調べてもらう。
結果、誰の死骸も見つからなかった。良かった。
「下ろす。退いちょってくれ」
「おー」
また、元の場所に置く。ここから、本格的に調べる。
「割ってみるか」
「危険では?ガスでも含まれていれば」
「無人島は何処に有ったっけなー」
「面倒ですね。ここで解体しましょう」
「んー。そもそもどうすりゃ良いんだ?」
「ああ。危険かどうか確認。終わったら地元に引き渡して、観光資源」
「ほう。何がしかの原料になるかも知れんのに。太っ腹だな」
「そういうルールよ。持ち帰っても良いけんど、現地に嫌われるとやりにくくなる」
「そーそー。そこの双子みたいにね」
「ん?」
「あら?」
「まあ、割ってみるか。超騎士、結界頼む。万が一は、結界ごと踏み潰す」
「分かりました」
亜意は蹴速自身がこの街を崩壊させるな、と少し案じたが、周りは然程心配でも無さそうだ。
蹴速は、とりあえず、一撃、適当に勢いを付けて蹴る。その辺の普通のビルなら、粉々になる程度の力だ。
ごん
転がった、が、割れない。
「お」
「すごい。蹴速が蹴って、砕けもしない」
ジンが感嘆のため息を。
少し悩む。本気で蹴ると、間違いなく、近隣に破片が飛び散る。さっきのは、超騎士の結界で止まる程度に抑えたのだ。
「調査が進まぬのでは、本末転倒。本気で良いと思います」
「うんうん!」
「ですね!」
無双双児に後押しされると、そこはかとなく不安になってしまう。
だが、超騎士の了解は得た。亜意もジンも忠告をして来ない。良し、本気で行く。
ごおあっ
本気で、半分の力。魔神シロでも痛がる程度の力。大抵の島は跡形も無く吹き飛ぶ力だ。
ヒビ一つ、入らない。ただ、隕石を地面に蹴り込んだので、完璧に埋まってしまった。
「おいおい。自信無くすぜ」
「すごい石も有るもんだな」
亜意ですら、呆れ返った。魔神シロ以外に蹴速の蹴りを受けきるモノが有るとは。目にしても、信じられない。
そして、更なる驚き。
石が、浮いた。ひとりでに。
「おお・・」
誰も想像もしていない事態。
そして、石は元有った位置から、少しずれた場所へ降り立つ。
「これは生物でしょうか。素材は無機物のようですが。貝のように、身にまとっているだけとか」
「ふむ」
「削ってみるか?一応、剣は有るぜ」
「ええ。衝撃には強くとも、切断には脆いかも知れません」
無双双児の言う事にも一理有る。これ以上の力は、出したくない。一歩間違えれば、何処かに大被害が及ぶ。
「頼めるか」
「無論!おれ達の仕事なんだぜ!」
「その通り。この場はお任せあれ。どうぞご休憩を」
「任せた。頑張ってくれ」
蹴速達は見物に回る。持ってきておいた軽食をつまみつつ。
「おれも後で殴りたい」
「ああ。無双双児の後にな。超騎士、見よってくれるか」
「はい。被害の広がりは、抑えましょう」
「ありがと!」
「あたしも、気になるな。どんな馬鹿硬さだ」
「地味ーにショックよ。腕力しか取り柄が無いのに。それが通用せんなんて」
「間違いなく、宇宙から来た事は決定でしょう。狂言では有り得ない」
「まあなー」
監視衛星が捉えてなかったとしても。蹴速が壊せない物は地球上には存在しない。地球すら、その気になれば壊してしまうのだ。
少しずつ表面を削り取る無双双児。彼らの得物も、超騎士の斧と同じ素材。つまり、地球で最も良く使われる最高硬度の武器だ。
あれで削れると言う事は、やはり切断に弱いのだ。衝撃に対して、特に備えをしてあったと言うべきか。
少しずつ、あれは、地球に降り立つために作られたのでは、という考えが広がる。剣にあれほど無防備なのに、衝撃に、あまりにも強すぎる。そして、少なすぎる被害。こいつ自身が、減速したのでは。
「おーい!一応気を付けろよ!」
蹴速は、とりあえず声をかけておく。
「分からんが分かった!」
「了解しました」
超騎士は、何も言わず、無双双児の結界を厚くする。その極微量の動作、眉が動いたかどうか、に気付いたのは、亜意だけだった。
縁の下の力持ちってか。こいつのフォローは、ならあたしか。
亜意もまた魔力を操る者。全く同じ技法では無いが、空間を、位相を操る同士。感じるものは有った。
亜意が気付いた事に、超騎士は気付いた。何もしていないはずの自分を見ている。三鬼梅と言い、目の良い事だ。
超騎士に取って、味方があまりにも有能過ぎるのは好ましくない。影から、裏から蹴速を支えるポジションを所望している。蹴速を前線で支えられる事だけを味方には期待している。それ以上は、私がもらう。ただ、そこには先駆者が居た。能美祝寝。蹴速が、ただ1人自分で選んだ女。口惜しい。だが、人生は長い。戦場でも蹴速の側に居られるのは、こちらの特権。天秤の傾くのを待つのも、良い。
無双双児は、別に油断をしていなかった。むしろ、全力で警戒して、斬っていた。蹴速が、歯が立たない。
喉が渇く。暑いのもあるが、ヤバイ仕事だ。蹴速の純粋な力が通用しないのを初めて見た。見ろ、片割れなんて、緊張で目が潤み、頬を赤く染めているではないか。おれみたいに。
蹴速は、察知した。何かが起こる。いや、起こす、か?
カツ
突き立てた剣。今までと同じ。だが、結果は、違う。
ゴ、オ
無双双児は全力で退避した。誰に何を言われる前に、即逃げた。
だから蹴速は、無双双児を信用している。
石が、変わる。
石表面が、ボロボロ落ちる。煙の中から出てきたのは、卵。卵のような、機械。
「なんだ」
「攻撃来ます」
超騎士の言う通り、卵表面から、無数の砲撃。全て超騎士の結界が弾く。
「敵か」
蹴速が飛び出す。砲撃は、とりあえず、敵自身に向けて弾き返しておく。超騎士のそこそこの結界に弾かれると言う事は、蹴速には、傷一つ付かない。
砲撃を発している門を、叩く。内部構造に浸透する、と言うか、そこから全て破壊する。少し、プライドを傷つけられ、手加減が少ない。
1秒に280撃。砲門は、全面におよそ、800。3秒で武装解除された今にも砕け散りそうな卵は、静かに、乗組員を吐き出した。
「降参します」
「おお」
この時、蹴速はシロに会わせた後、殺すつもりだった。卵の装甲は不味い。あれを量産されるのは。
「誰だ、お前ら」
亜意が聞く。降りてきたのは、4名。この大きな卵に、たったそれだけではないだろう。
「我々は、惑星、地球より来ました。地球人です」
「地球?」
偶然?
「その宇宙のお客さんが、どうした」
「今、宇宙は危機を迎えています。我々は逃げてきました。どうか、最後を安らかに、こちらで迎えさせて下さい」
「ほう」
危機か。
「もっと、情報をくれ。判断のしようがないぜ」
「襲われたのです。宇宙恐竜に」
「宇宙恐竜・・・」
「銀河と同じ大きさを持った、恐ろしい生き物です」
「すごいな」
銀河について、超騎士に聞く亜意。銀河とは、太陽とか地球とかの星の集まり。それと同じ大きさの生き物だと。
「ですから、」
「そいつは、何処に居る?」
「ここより、遥か離れた星の彼方。しかし、接近までに3ヶ月は、無いでしょう」
「3ヶ月も有るんか。ちょっと倒してくる」
「・・・我々の星の軍も出ました。爆弾も何もかも手を打ち、どうにもならなかったのです」
「やろうな。でも、おれはまだ戦ってない。無理かどうかは、戦ってから決めるわ」
「お供します」
「すまん。超騎士は、最初から連れて行く気やった。亜意もな」
「当たり前だ」
「おれは!?」
「来たいか?」
「うん!」
「じゃあ、来い」
「おお!」
「それで、我々は・・」
「その辺に住むか。衣食住は、自活出来るんか?」
「はい。数年分の生活環境は船に有ります」
「その間に、どこら辺に住みたいか、決めたら良い」
北アメリカ大陸なんかが、活気が有ってこれからって感じだが、もう少し落ち着いた街が良いだろう。
ちょいちょい
「ん」
「おれ達も」
「行きます」
「お前らでは。いや。そこまで規模がでかいなら、あれが使えるのか」
「そーいう事だな!」
「大船に乗ったつもりでお任せ下さい」
無双双児を連れて行くつもりは全く無かった。が、広範囲なら、アレが使用可能。地球上で使われると大惨事だが、銀河レベルなら、問題有るまい。
「魔神シロに連絡を取った方が」
ついでに助力も。
「んー」
蹴速は、シロに言うつもりが無かった。出来れば1人、もしくは、ここに居るメンバーのみで解決したかった。
ただの、ワガママなのだが。
「銀河とかは、良く分からんが。あいつも連れてった方が、楽は楽だぜ」
亜意は、無駄なスリルを楽しむ気は無い。殺し合いは大好きだが、手抜きするのは趣味じゃない。出せる戦力が有るなら。
「・・・そう、よな」
相手は銀河。絶対に勝てるとは言い切れない。自分のレベルアップに使いたかったが、仲間を家族を、無意味に危険に晒すような真似は、するまい。
「おれは、蹴速に付いて行く」
ジンは、シンプルだ。蹴速が単独で突っ込むなら、自分も寄り添う。魔神が居ようと、居なかろうと。
「皆ありがとう。無双双児、一旦向こうの仲間を連れてくる。待ちよってくれ。亜意、頼む」
亜意の開けたゲートから、あちらへ。蹴速の家の庭に出る。
「お、蹴速!おかえり!」
「ああ。ただいま。でもまた、直ぐ行くんよ」
「ええー。おれも付いてって良い?」
「んー」
蹴速は、家の守りを考える。万が一は、有りうる。蹴速、シロの両名が出る以上、安心して任せられる者を置いておきたい。
「これからちょっと、めちゃくちゃすごい奴と戦って来る。で、おれとシロの両方が出る。家を守って欲しいんよ」
「えええええ!おれも行きたいなあああ」
アカは渇望した。だが、そうだ。この家から、2人が居なくなる。それは。
「おれが、いや、おれでは物足りないだろうが、おれが残る。行って来たら良い、アカ」
キ。
「キ。お前が言うなら、おれは信じられる。任せても良いか?直ぐに帰って来る」
「ああ。アカを頼む。ウズウズしているだろう」
言ってしまった。魔王の中で、一番弱いおれが。有我達に頭を下げて、もっと家に居てもらうか。アオミドリもモモも、アカに比べれば落ちる。
「安心しろ。まだ、3人も魔王が残っている。十分すぎる」
もう口を開くな、おれ。
「キ、良いの?キの能力が有れば、蹴速君の役に立てるよ」
「おれでも、お前でも変わらんさ。行きたいと言ったのは、お前だ。だから、行くのもお前だ。頑張って来いよ」
「うん!」
ま、交代だ。ナインラインで、アカは気を使ってくれた。たまには良い。モモとアオミドリを巻き込む形になってしまったが。
「シロ」
「うむ!」
いつの間に。
「行ってくれるか」
「ふふふ。夫婦の共同作業。断る意思無し!」
「おお」
蹴速達は子供達にも挨拶し、家に居た有我にも守りをお願いした。
「ま、大丈夫でしょ。ダイコウチ内に、今コウチを襲撃する意味の有る国は全く無い」
「有我が言うなら、そうなんやろうな。でも、もしもの時は頼んだ」
「うん。行ってらっしゃい」
「行って来る」
各々声をかけ、亜意のゲートで、アフリカに。
「杞憂だったな」
「そうやな」
何も心配する事は無い。蹴速、シロに及ばずとも、皆十分に強いのだ。
亜意はキの表に立つ発言に、少し驚いていた。あいつはどちらかと言えば調整役。大真面目に和を重んじるタイプ。自ら、大黒柱になる気を見せつけるとは。亜意の血が走りたがる。共に血風を浴びたいと思う。強く魔王としての友誼を感じる。亜意はもう魔王ではないのだが。
「で、どんなやつが相手なの?」
「敵は銀河。コウチより、ダイコウチより、魔界よりデカい」
「すごいね」
「ふむ。わしが行って締めてやっても良いが、蹴速は行きたいのじゃな」
「ああ。お前に勝つために、鍛えてくるつもりやった。それでも、お前より弱くとも、一緒に行かせてもらうぜ」
「可愛いの。良い良い」
所は宇宙、人間は超騎士の結界無しには、自由に活動出来ない。頼りきってしまうが。
「問題有りません。ですが、結界を張るしか、私には出来ない。それ以外は、お願いします」
「任せて!蹴速と同格の!このおれが!一緒だ!」
超騎士は内なる感情は内なるままに、ジンに微笑んだ。
無双双児と合流。地球人に、敵の正確な居場所を聞く。
このメンバーでそれを正しく理解出来たのは、超騎士とシロと無双双児の片割れのみ。正直、蹴速もさっぱり分からなかった。
「蹴速は、わしに付いてくれば良い」
「すまん。お前抜きで行くつもりやったのに、頼りきりや」
「良い良い。使えるものは何でも使えば良い」
シロも蹴速と仲良くするのに、油断や手加減はしない。
蹴速が無双双児を抱え、シロが亜意と超騎士を抱える。ジン、アカは単独で。人間は超騎士の結界によって保護してもらう。
宇宙空間では、あらゆる星からの力が働く。その力を全てぶっちぎるために、莫大なエネルギーを必要とする。この4人なら、可能だ。
目標宇宙恐竜まで、ざっと1週間跳びっぱなしだ。長い旅になる。
超騎士の睡眠中はシロが結界を張ってくれる。誰かが眠る時は、別の誰かが引っ張る。
チカチカする星を見ながら、右の左の星を通り過ぎ、隕石を手当たり次第破壊し、持ってきた寝袋で遊泳しつつ休息。折角の宇宙なので、ちゃんとコンペイトウも持ってきた。乙なものだ。
たまに氷が流れる事が有る。亜意に頼んで、かき氷シロップを買ってきてもらい、宇宙かき氷を楽しんだり。そうめんに氷を突っ込んでみたり。宇宙は、案外楽しい。
「宇宙空間は真っ暗やと思いよった」
「ええ。光線もあるでしょうけど、まさかここまでとは、思っておりませんでした」
超騎士、シロの結界が無ければ、蹴速でも健康被害を気にしなければいけなかったかも知れない。
太陽系を後にして、別銀河に突入。話では、こちらに侵入してきているはずだ。宇宙恐竜は。
ここからは何時戦闘に突入しても、おかしくない。隕石上で最後の豪勢な晩飯を頂き、備える。
2日後。幾千の星を越えて来た蹴速達は、見た。宇宙の怪獣を。まだ、距離はある。にも関わらず、そこらの惑星より、遥かに大きい。ドキドキして来た。
「作戦は?」
「手当たり次第壊して削り倒す。全員一丸となって行くぞ」
「いや、わしは1人で行こう。アカ、ぬしもその方が良いじゃろう」
「え、そうなの?」
「そうなんか?まあ良い。味方には気を付けて。お前ら特にな」
「もちろん!」
「当たり前です」
まあ、シロとアカなら、最悪、無双双児の攻撃を受けても大丈夫だろう、という目論見はあった。故に単独行動を許した。
「おれはー?」
「あれはの、ある意味、蹴速より強い敵じゃ。競ってみんか」
「へええ・・・」
全力を出しても良い相手。それも、蹴速より強い。まだ距離はある。が、アカは魔獣化して、飛び出した!
「おお。やる気満々か」
蹴速達も続く。ジンが超騎士と亜意を、超騎士の結界ケーブルで引っ張って行く。蹴速は無双双児を。
「何をしても構わんぞ」
「やっふううう!」
「はああああいい!」
無双双児もまた剣を使うが、本来の得物は、肉体そのもの。蹴速のように拳や蹴りを使う、というのではない。本当に体当たりをするのだ。ただし、思いっきり気を込めて。
以前、蹴速を巻き込もうとした事が有り、その時蹴速は遠慮せず反撃、無双双児を半死半生に追い込んだ。それ以来、武器を使うようになった、が。
あれをやるのか。
双子は手を繋ぎ、お互いに気を送り合う。お互いの肉体を共鳴器官として使い、増幅し合い、お互いに送り返し、無限に気を高め合う。もちろん、双子の肉体の保つ所まで。
「行くよ!」
蹴速は無双双児を連れ、全速力で宇宙恐竜に跳び込んだ。
皮膚組織が、地球の大陸レベルの大きさなのだが、それを片端から根こそぎ削ぎ落とし、貫く。蹴速の蹴りだけではない、無双双児の威力が効いている。恐ろしくスムーズだ。勢いを駆る。現在蹴速達は恐竜の腹部。内臓を食い尽くす!
蹴速も全開。双子は気を高めていなければ、蹴速の勢いで潰される所だ。
宇宙恐竜頭部に踏み込んだのは、魔王アカ。目が合う。と言っても、敵の目は、惑星複数個の大きさだが。
「君。蹴速君より強いの?」
答えも聞かず、アカは全速力でぶつかる。魔獣体故の肉体性能を有無を言わせず味わわせる。全力を振るう。今こそ、本気を。
アカの意気、蹴速達の覇気、それらを感じつつ、ジンもまた本気を出す。
「遠慮しなくて構いません。あなたはあなたの本気を」
「尻は拭いてやる。行け」
「おおおおおおお!」
久方ぶりに、全力を振るえる。実は、蹴速と同じ、魔神戦ぶりだ。
地球上では出せない、この力。思う存分、吐き出させてもらう!!
宇宙恐竜足部は、ミジンコより尚小さい生き物に、急速に食い荒らされていく。その勢いを止めるべく、手を差し向けるが、その手は、既に無かった。
魔神シロ、登場。
両腕を消滅させていた。
「ふむ」
アカの目覚めに丁度良い。蹴速、ジンのストレス発散にもなる。さらには、本気を出して戦う事によって、通常状態でもより強さを増すだろう。
銀河の20パーセントを1人で消滅させながら、身内の成長を考えるのが、魔神。
無双双児が見つけた。
「あそこ!人が居る!」
蹴速も見た。確かに人間、いや、変な生き物。だが、どうする。宇宙恐竜に内在すると言う事は、敵なのか?それとも、致し方なくそこで生活しているだけか。
分からないので、彼らの生きる星を宇宙恐竜から切り離す。惑星一個を引き剥がす事は、今の蹴速に取っては、不可能では無い。無双双児もエネルギーを送ってくれた。ならば、余裕と言い切ろう。
惑星は取りあえず、適当に放置。敵を倒した後で、自分達の銀河に持ち帰っても良い。
そうこうしている内にアカが頭部を完全に崩壊させた。どうやら敵に技量というものは、無い。抵抗力も薄い。無論、シロが先に潰したのだが。問題となりそうなのは、頭部に有った、80個の太陽。蹴速達が来ていたなら、危なかった。だが、ここに居るのは、魔王アカ!太陽風呂は浴びてきた!
蹴速達は全力で内臓を潰して潰して潰していた。途中恒星もいくつか有ったが、遠距離から無双双児が気を打ち込み、崩壊させていた。無双双児が自壊しないように、蹴速がサポートしつつ。
足を崩していたジンは、手応えを感じていた。威力を振るえている。全力で移動し続け、全力で攻撃しつつ、自分を確認していた。
蹴速に嫌われたくなくて。地球を無為に傷付けるわけにもいかず。ずうっと手加減していた。
気持ち良い。全てを出すのは。また、来よう。超騎士に守ってもらいつつでも、シロと、蹴速と、戦おう。なんて気持ち良いんだ。
亜意はにこやかに戦うジンを見て、ジンを少しだけ好きになった。
超騎士は全員の動向を把握していた。守りに費やす結界に連絡用、探査結界。精神力が早くも尽きそうになるが、察した亜意が回復してくれた。悔しいが、頼れる。戦友として、二人と居ない逸材だろう。
蹴速が愛用するのも分かる。
無双双児は驚いていた。自分達の全力で蹴速をびびらせるつもりだったが、こっちがびびった。
また強くなってる。肉体が触れ合っているから分かりやすい。共鳴させ合い、今この瞬間なら何者よりも強いはずの己達よりも、強い。
蹴速に体を預けるのを止められない。
疲れたかな?
シロが監視しつつ、全員で宇宙恐竜を殺す事に成功。正確には宇宙の塵にした。
またしても1週間をかけて、帰還。今度は新しい宇宙人も連れ帰って来た。地球の友人になるかどうかは、これから次第だ。あの卵の住人にも手伝ってもらう。
実に3週間を要した長い戦いだった。
蹴速に取っても、良い経験になった。まだ太陽を破壊出来ない事を思い知った。その意味に於いては超騎士や無双双児が、自分よりも強い。
修行が、圧倒的に足りない。鍛え方が、甘い。だから、弱いのだ。こんな程度で強いなどと、思い上がるな。
蹴速の向上心を知って、シロは今すぐにでも蹴速と愛し合いたい気持ちになった。
ヒントは得た。後は動くだけだ。
蹴速はジンと同じ発想を持った。宇宙空間でなら、いくら動いても問題無い。格好の修行場だ。
ま、今は、家に帰りたい。こんなに長い間離れていて、子供達は、顔を忘れていないだろうか?心配だ。




