強豪集結。
特盛は、斬場刀を使うのを控える事にした。活躍し過ぎて怖い、とかそんな舐めた理由ではない。
壊されるのが、怖い。よく考えたら、シロは超騎士の斧も握り潰している。斬場刀は、残念ながら硬度ではアレに譲るはずだ。折角の愛刀が訓練で失われるのは、いくらなんでも泣ける。
そういうわけで、いつもの練習用の剣を使っているのだが。
強くなった気がしない。
オ、ボォッ
「はいはい」
有我が背をさすってくれる。吐くだけ吐く。
鳩尾に一発。それだけで、このザマだ。
ヤマトの強豪と、クマモトナンバーワンと、肩を並べて戦った。馬鹿デカくて重い斬場刀を、自在に操ってみせた。竜も主もぶった切った。
それでも、有我には敵わない。
「う、うう、ぐぎひ」
ふうん。
コウチナンバーワン、一一人有我に負けて、悔し涙を流すとは。有我は特盛の自負を、予想より高いなと思った。
一一人は絶対最強。常人はもとより、ナンバーツーの二神、ナンバースリーの三鬼であっても、勝てないのが一一人。その最強と戦って、負けるのを悔しがるとは。
この、身の程知らずが。余程の戦場を渡ったと見える。
「まだやる?」
「はい!」
おー。覇気が、衰えない。
勝てない。今のおれでは、絶対に。でも、このまま、寝てられねえ!
「オオオ!」
動きを細かく、無駄を少なく、そして、面ではなく、線でぶった切る。線とは、自らの持ち手を始点、敵の体を終点とする、斬撃線。剣を当てるのではない。線に沿わせ、斬る。これで、より破壊力を求める事が出来る。斬場刀を使っていて、感じた事だ。斬場刀が教えてくれた。自身の使い方。剣の振るい方。より効率の良い斬り方。より強くなる方法。
それは有我とても、危険を感じる一撃。以前より溜めの時間は少ないのに、鋭い。よくもこれだけの斬撃を身に付けた。未熟以前だったあの時から、そんなに日は経っていない。
その短時間での急激な成長に対し、それを招いた努力への敬意を込めた反撃。
特盛は、それをギリギリ躱す。
「おや?」
今のは、当てるつもりだった。もちろん手加減はしているが、殺さぬ程度だ。悶絶はさせる一撃のはず。
慣れた、のか?フ・ズィでの一件。味方に加わってくれた2名が、有我並みの実力者。そしてその2人の援護を肌で味わった特盛は、何となく有我の速度を知覚出来るようになった。だから反撃も可能、とまでは行かない。今、全力で肉体を酷使して、やっと一撃躱した。反撃の態勢までは維持出来ない。
故に、次撃で、倒れる。それもまた、反応し、カウンターを食らわす姿勢を取った事を、有我は褒めても良いと思った。
特盛は、不進林での戦いで、開花していた。無数の木石が飛んでくる攻撃をさばききる。出来なければ死ぬ。そんな状況で、敵の攻撃を面で捉える。そして、自分の攻撃を線として、面に切り込む。面の最も硬い部分を避け、最も脆い部分を粉砕する。無数の木石を、点として捉えていては、間に合わなかった。斬場刀故の戦法を、見事掴んだ。
肉体も強くなった。致命傷を避けつつ、攻撃をしていた、あの戦い。それでも三完を疲弊させる程には、消耗していた。再生強化を繰り返し、間違いなく、成長していた。
有我の攻撃を受けても、手加減されているとは言え、気絶せず済んでいる。苦しみの時間が増えると言う事だが。
治癒もせぬまま、特盛は起き上がり、有我に斬りかかる。痛みによって動きのキレは鈍いが、痛みを怒りで塗り替え、我武者羅な圧力を以って有我を襲う。
充分な威圧。特盛は強くなった。
有我は、特盛を、認めた。
手加減を無くしはしないが、梅や神無に相対するのと同レベルで打ち合う。
今度こそ特盛は、死にかける手前で気絶させられた。
「お願い、シロ」
「魔神様なら、向こうだよ」
シロは今、神無と戦っている。
「あらら。応急処置だけでも、しなきゃか」
「おれがやるよ」
「アカ?」
アカは特盛を見る。ボロボロのボコボコ。呼吸すら苦しそうだ。
気を入れる。いつも亜意やシロにされていたのを思い出す。イメージする。魔力を気と融合。それを純粋なエネルギーに変換。更に特盛の肉体を触る。損傷、疲労、治りたがっている肉体をエネルギーの塊として知覚する。自分の肉体と特盛の肉体を腕を握る事によってつなげる。つながった場所にエネルギーを送り込む。皮膚細胞、血管、筋肉組織、骨、神経、ありとあらゆる近い場所から、流し込む。エネルギーは近くから付着していく。ゆっくりと丁寧に送り込む。全身に行き渡るように。やはり亜意やシロには手際では及ばない。あいつらは、実に早く確実に治す。
一応治った。ただし、エネルギーを送り過ぎた。アカには問題無い。後100回やっても余裕は有る。
「う、おおおっ!」
エネルギーの過剰摂取で、特盛の肉体がはちきれんばかりだ。鍛えて鍛えて鍛え込んでいる特盛だから、すげーで済んでいる。
常人なら、体の何処かが、吹っ飛んでいる。
「じゃ、やろっか。アカ、ありがとう」
「おー。どういたしまし、て」
「お願いします!」
有我と特盛の激闘を他所に、アカは自分の出来る事を広げる。世界移動は、何とか出来るようになった。まだ家と魔界だけだけど。これもまた、練習していけば何とかなるだろう。
自分の技が、欲しい。蹴速を驚かせたい。蹴速がおれに興味津々で、本気で戦いたくなるような、自分の業が欲しい。
治癒の時に用いるエネルギーを大地に流した事が有る。竜が生まれた。流石にサイズは小さいが、間違いなく竜だ。食べてみたが、エネルギーは元通りではない。少し増えた。シロに聞いてみると、生命創造とは少し違うそうな。竜は普通の生き物では、無い故に。
有我が特盛を地面に這い蹲らせたが、特盛は跳ね上がり、逆撃。惜しい。更なる有我の追撃で、今度こそ起き上がらない。
アカは特盛に感謝しつつ治癒の経験を積む。出来る事を丁寧に増やしていく。オリジナルは可能領域を少しづつ増やしてく事で生まれる。
シロは、多少驚愕していた。こいつが、蹴速に教えたのか。
「カア!」
気合。だが来ない。その気に合わせて、シロは気を入れてしまった。来なかった、事に気を逸らされる、正にその逸れた瞬間に斬り込んでくる。
なるほど。3名家。ナンバーツー。言うだけの事は有る。
シロを確かに斬ったが、傷は付いていない。それを見て神無は、神化を反射的に使いそうになった。今のは、確かに直撃。なるほど。蹴速と同レベルだ。ちびりそう。
シロの攻撃を逸らし受け流し、直撃を躱し続ける。こうも全力全神経を回避に使い続けるとは。有我と戦っても、数度に1度は反撃が出来る。化物め。
擦っただけで、肉と骨が飛んだ。利き腕が。仕方無し。空を舞う腕を掴み、リーチを増した剣を魔神に突き立てる。俺の手は、俺から切り離された程度で剣を離しはしない!
シロは、昂揚した。魔神シロと言えど、こんな無茶な戦い方、した事は無い。純粋に恐怖し、狂喜した。剣を避けもせず、神無を殺しに行った。
「そこまで」
横入りしたクロがシロを吹き飛ばし、神無は生き残った。我に返ったシロは神無の腕、肉体を修復にかかる。3秒で全快した。
「ありがとうシロ!」
「いや、うむ。危うく、殺しかけてしもうた。すまんの」
「何。そんなのはお互い様だ!俺も殺しに行っているぞ!いつだって!力及ばぬだけでな!」
「うむ。だが、ぬしは蹴速の嫁。それをわしが勝手に消すのは、蹴速に嫌われてしまう」
「ふっ!可愛いやつめ!クロも、助かったぞ!シロが迫ってくる時には、走馬灯が見えたからな」
「これが私の仕事ですから。お役に立てて光栄です」
クロは特に訓練などはしない。魔神側仕え、今は蹴速家のハウスキーパーだ。それでいて、魔神シロを吹き飛ばせる程度の力量と思い切りの良さ。強い、と神無は見ていた。
治癒は出来た。とは言え残る、腕の喪失感、絶叫したくなる程の痛み。それらによる吐き気を飲み込み、耐えている神無を放って、シロとクロは茶を飲み始めた。
「蹴速は、まだ帰って来んのか」
「お仕事ですもの。泊まり込みも有りましょう」
「ふん」
あちらに行こうかどうしようか、少し考えてしまう。この家を蹴速に任されていると言うのに。蹴速の信を失うのは痛い。魔神シロに依存させたい。クロが鼻で笑った気がするが、気のせいだ。クロに読心術は使えないはずだから。
コウチに最も近いエヒメからは、既に一飲涙美乗利が到着していた。
「早かったな。ご苦労」
「コウチ様の招来とあらば、当然の事」
梅は、エヒメを警戒していた。反逆の意思、無し、反攻の視線、無し。それでも、エヒメは有能だ。コウチに従うと決めてから、一貫してそうしている。ブレない。それは強さだ。
「貴様には外海遠征の供をしてもらう。悪い待遇にはしない。やってもらえるか」
「外海・・・。それは、しかし、コウチと言えど」
「その通り。コウチも成功させた事は無い。歴史上。その歴史は、これから変わるのだ。その道、共に歩んでほしい」
「光栄至極」
一飲涙は、死んだ、と思った。自身の戦闘技量は決して高くない。しかし、それでもコウチのために散る必要が有る。最低でも英霊に名を連ねるのが、ナンバーワンの仕事だろう。
「頼む。出征はおよそ1月後。それまで鍛錬に励んでくれ。その間、共に行く者達と、技法の摺り合わせをしても良いな」
「分かりました」
「ヤマトナンバーワン、クマモトナンバーワンも来る。お互い、コウチの忠勇なる配下として競い合ってもらいたい」
監視し合え、と言う事か。少々穿った見方では有るが、大間違いでも無かった。梅の目測としては、今現在逆らう国は、恐らく無い。しかし、コウチトップクラスを討てば。そういった思惑もゼロでは有るまい。徹底的に意思を挫く。コウチに歯向かう事、即ち天に唾吐く行為と知らせる。故に、お互いを良く見ていろ。
一飲涙はコウチを強大と見た。それは、ダイコウチなるものを創ったのだ。弱いはずが無い。そうではなく、他国トップクラスを招いて、国内に置いて自由にさせる。緩い監視は付いているかも知れないが。そんなものでナンバーは止められない。
大した自信だ。故に、隙だ。一飲涙は、コウチの隙を記憶した。使える情報ではない。反攻など以っての外。だが、憶えておく。
あからさま過ぎたか?梅の目論見は懐の大きさを見せて、屈服させる事。ヤマトのナンバーを討てば、もうフ・ズィの守りは、コウチから出さざるを得なくなる。出来れば、殺したくない。コウチに完全に服従しているクマモトからの感化も期待している。エヒメとヤマトのトップクラスを屈服させれば、自然と国内にも広がるだろう。コウチを頂点とする、気運が。
訓練場を見せてもらう。竜巻が起こっていた。
「すごい」
エヒメナンバーワンの目を以ってしても、強いと見える。あれは、しかし、コウチのトップクラスでは無い。あのような技法、聞いた事は無い。噂に聞く神化なら、可能かも知れないが。
竜巻の中心部に見える1人の男。あれが起こしているのか。駆け足と剣風のみ、か。魔力反応は無い。あれが、コウチの雑兵のレベル。私に、取って代われそうではないか。
数分見せてもらっていたが、止む気配が無い。男も全く動くのを止めない。あれを、持続出来るのか。化物の巣か、ここは。
呆然と訓練を見ていた、一飲利に話しかける者が。
「そこは、砂埃が来るぞ。もう少し、遠ざかった方が良いな」
コウチの者、ではない。装束が、違う。黒と黄色の入り混じった、雷のような服装。攻撃的なスイカと言うか。
「忠告、感謝いたします」
「何。おれも被ったからな。その後に御徳に頭を下げさせたのは、可哀相だったからな」
強、そう。少なくとも魔力の底は見えない。体捌きは、常人にも見えるが。
「私は、エヒメナンバーワン。一飲涙美乗利と申します」
「おお。エヒメからのお客様か。コウチを楽しんでいってくれ。とは言え、おれもコウチの者ではないのだがな」
「貴方は、どなた様で」
「説明が難しいな」
キはどう説明すれば良いか、悩んだ。コウチの者なら、蹴速の嫁、で通じるのだが。
「まあ、3名家の客人だ」
無難な説明をしておく。
「私と、似たようなものですか」
「ふむ。確かにそうとも言える」
空かされているか。どうも的を得ない。他国の重鎮か?
キが一飲涙に声をかけたのは、単に親切心からだ。重要な意味などは、無い。
「ではな」
「はい。お世話になりました」
「どうと言う事もない」
キは本部要人の階に向かう。やはり。
梅に用事が有って来たのだが、面白い人間を見た。有我よりは弱かろうが、強そうだ。アカのおやつに選ばれるレベルかも知れない。
ノックをして入る。
「梅。お前、向こうで何か欲しい物は有るか」
「そんな事を聞きに来たのか、わざわざ。夜になれば帰るぞ」
「ああ。唐突に魔神様が、もしかしたら行く、と言っていてな。おれも、ぶらぶらして来ようと思ってな」
「なるほど。そうだな、超騎士の使っていた斧が有るだろう。あれの剣のカタログでも有れば、もらってきてくれ」
「了解だ。蹴速はまだ戻っていないが、お前は早く帰れよ」
「ああ。仕事は順調だ。早く帰れるだろう」
「それは何より」
ひらひらと手を振るキを見送り、梅は仕事に取り掛かる。キの気配りは、一体。あれでも魔王か。それを言えば、アオミドリも大概、魔王っぽくない。アカも子供っぽい。モモは大人しすぎる。最も似合いそうなクロは、魔王ではない。魔神シロの選択が、良く分からない。強さは間違いなく揃えてあるが。
キは街を練り歩く。魔王と言えど、人間体なので目立ちはしない。1部、兵らしき者が見てくるだけだ。
コウチの衣服に黒は見られない。キ好みの服は、あちらで手に入れる事にしているのだが、魔界では見られない服が有るのには変わりない。楽しい。
「む」
ふらふらと走る車。酔っているのか、眠りこけているのか。危険だ。キは車を捕まえ、破壊した。ちゃんと人の居ない場所を探しだし、そこで破砕した。運転手も殺したので、二度と危険な運転は発生しない。
良い事をした後は、気持ちが良い。有我達を始めとするコウチの人間とも敵対はしたくない。皆、仲良くするのが最高だろう。
キはのびのびと散歩をしていた。
後日、目撃証言から導き出されたキは、梅から軽く口頭注意を受けた。殺すのは、出来れば控えるように。
コウチの人間を殺した魔族を放置して良いのか。良い。蹴速が事によれば、いや、間違いなく敵に回る。キは蹴速の妻だ。それを害する真似をすれば、コウチは見捨てられる。
身内に仇なす者を、蹴速は許さないだろう。敵になりたくない。
甘さ、ではあるが、実際に蹴速は、理屈で法律で動いているのではない。気に入らなければ、ヤマトにした事をコウチにもするだろう。
困った者を好きになってしまった。
蹴速もコウチも両方取るために、キは注意するだけに留める。
むう、梅には、迷惑をかけてしまったようだ。その辺を歩いている人間もダメか。人間など、勝手に増えるではないか。魔物のように。だが、梅が言うなら、心しておく必要が有る。家族だからな。
キは、アオミドリ、アカ、モモにも、自分の体験談を聞かせた。子供たちにも教える。コウチの人間は、あまり殺してはいけない。
以前、神無に聞かれた。子供達は学び舎に通わなくて良いのか?問題無い。自分達もそんな場所は知らない。それでも存在し続けている。ならば、通わぬのが正しいのだ。
2日後。三十鬼三問到着。熊大将壱日、南刀仮要明も。3名は本部にて、顔を合わせる。
「ヤマトナンバーワン。よろしく頼む」
「うむ。お互いに初めての事。気を配り合って、戦うより無い」
「よろしくお願い致します」
この中では、格段に落ちる南刀。ミヤザキから来た旅行者扱いでも、問題無い程度の小物である。それでもクマモトナンバーワンが見知っている顔なので、知らぬふりも出来ない。
三鬼梅との面会。
「皆、ご苦労。世界の強豪がここ、コウチに集ったのだ」
「ヤマトの力、存分に振るいましょう」
「また、よろしくお願い致しまする」
「良く、見習わせて頂きます」
「うむ。誠に心強い。着いて早々だが、親睦を深めるため、今夜、宴の席を用意してある。楽しんでくれ」
「はっ」
いきなりか。ヤマトとは、少し違う。ヤマトでは、宴会は事が済んでからだ。勝手の違いに、異国であることを知る。
夜までに、各所の案内をされ、しばらくの住処を整える。と言っても、ある程度はコウチ側で用意されていたが。持ってきた荷物も然程多くない。ヤマトの宝刀も無論置いてきた。自身と諸共に失するのは、痛い。名刀を数振り。整備の簡単な物を選りすぐった。
礼装は要らないと言われたので、本当に普段着で向かう。会場は市街地から少し離れた場所にある、大きな館。
入るのを。ためらってしまった。ただの家、のはず。3名家の家とは言われていない。武装せず、こんな所に?
躊躇していたら熊大将がやって来た。
「会場はここで合っているぞ。おれも一度だけだが、来たのでな」
スタスタ
「おい、感じないのか」
「ん?」
「この、瘴気を。武器も持たず入る気が、しないぞ」
「ああ。大丈夫だ。いきなり食われはしない」
「いきなりでなければ、食われるのか」
「敵対すればな。そうでなければ、大丈夫。さあ、行くぞ」
仕方ない。三十鬼、魔窟に入る。
「来たか。全員揃ったな」
そこには、3名家を始め、エヒメナンバーワンの姿も。
「はじめまして。エヒメナンバーワン、一飲涙美乗利と申します」
「ヤマトナンバーワン、三十鬼三問。しばらくの友だ」
「クマモトナンバーワン、熊大将壱日。力を合わせよう」
「ミヤザキより参りました、南刀仮要明。勉強させて頂きます」
挨拶の度、仮要明はヒヤヒヤしていた。自分だけ場違い過ぎる。しかし、一一人有我が普通に食事を取っている。もちろん人間だろうが、普通が、似合わない。猛り立つ猛獣が、フォークでケーキを食べているような違和感。それに有我に付いて来ていた連中も、居る。この全員の強さを盗んで帰るべし。それが、お仕事だ。
一一人有我と三十鬼三問。現時点では、僅かに有我が上か。4ヵ国、御都、刀農で斬りまくり、先日中つ国でも剣を振って来た。それで、ようやく並ぶ。それが、今のヤマトのナンバーワン。
「顔を見るのは初めてになるね。よろしく」
「はい」
見つめ合う。現在トップ同士が全力でぶつかり合えば、どちらが勝つか分からない。それでも戦えない理由。蹴速の存在。
「こちらには、噂の対魔蹴速様は居らっしゃるのですか」
「ううん。今はお仕事で留守だよ」
ふむ。まあ、3名家全員を相手取る自信は、流石に無い。故にここで仕掛ける事は無いが。家を空ける事も有るのだな。
熊大将は、普通に特盛や梅とメシを食っていた。もう慣れたものだ。
様子を伺っていると、仮要明に話しかけてくる者が。
「どうだ。楽しんでいるか」
「はい。大変楽しく過ごしております」
「そうか。これはおれも手伝ったものだ。遠慮なく食ってくれ」
黄と黒の装束の者。デカい態度の料理番だ。しかし、これがコウチ流なのかも知れない。有我も、お付きの者と分け隔てなく話していたようだし。
「キ、次出来たよー」
「ああ。ではな。楽しめ」
「はい。有難うございます」
赤い装束に連れられ、話しかけてきた者は行った。上下を隔てるものが無いのか、コウチは。すごいものだ。
側近とは言え、トップに舐めた口で常時接しているのは、仮要明の方なのだが。
まさか仮要明も思わない。対峙するトップ同士に並ぶか、もしくは強いものが、給仕をしている等と。
化物の巣と評した一飲涙は気付いていた。尋常では無い。見覚えのあるキ。何処かの要人であろう者が、何故あのような仕事を。それにキより上の者もゴロゴロ。これならば、世界を覇するのも頷ける。これと事を構えたカガワとトクシマは、不運としか言えない。
元より仕掛けるつもりの無い一飲涙ですら、完全に怖気づいた。
萎縮してしまった一飲涙に気付いた神無。従ってもらうが、動かぬ手足なら要らない。良く動いてもらいたい。
「どうだ!楽しんでくれているか!」
「はい。もちろん」
「顔色が悪いな。やはり慣れぬ土地が響いたかな」
「いえ。・・失礼でなければ、聞いても良いでしょうか。あの給仕をしておられる方々。常人では無いでしょう。何故あのような真似を」
一飲涙は、自分だけが気付いている秘密とは思わなかった。少なくとも自分を完全に上回っているであろう、ヤマトナンバーワンは気付いているはずだ。隠しだては、していない。聞いても問題無い、はずだ。
「うむ。あれは俺達の家族だ。3名家ではないが、それに準じた能力でな。普段はああして家事をしているのだ」
馬鹿なのか。あの能力を持ち合わせながら、家事?今度こそ、一飲涙は、理解出来なくなった。
神無は一飲涙の思考がオーバーヒートしたのを見て取った。ふむ。こうも、魔族である事を隠して説明するのが難しいとは。魔王というのも面倒なものだ。頼りきって生活しているので、文句は全く無いが。
梅は臨時で手伝いに来てくれた菅女に礼を言っていた。
「すまんな。家の事となると、私も不得手だ」
「仕方ありません。今が海鶴さんにも己黄さんにも大事な時ですもの。自然、祝寝さんに負担がかかるでしょうし」
魔王達がみっちり家事に従事してくれているが、祝寝に仕込まれた海鶴程には役立ててない。これから身に付いていくとは思うが。
目を会場に向ければ、自棄になったように飲みまくっている一飲涙。アカにオススメのメニューを聞いている仮要明。有我と見つめ合いながら、もりもり食べている三十鬼。
うむ。皆、楽しんでくれているようだ。出陣前には英気を養うのが一番。




