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世界征服、その後。

 鬼神、平特盛帰還。熊大将壱日も。


 祝勝会を家で催してもらい、熊大将も、もちろん加わった。以前より確実に明るくなった熊大将を見て、有我は驚いた。特盛の能力と、梅の目を高く評価した。動いてくれた神無にも感謝を。これで、使いやすい手駒が手に入った。逆らわぬ優秀な駒。ニヤける有我を素直に気持ち悪いと言い、精神的ダメージを与えたマクロをクロが叱る。本当の事だからこそ、人を傷付けるのですよ、と。


 有我は、別に気にしてないし、とポーズを取りつつ、蹴速に泣きつけないのを残念に思った。


「良く、頑張った。お前の雷名。ここまで届いたぞ、特」


「はい!!!」


 特盛は、泣いていた。梅に、手放しで褒めてもらえた。もう一度、生きて会えた。本当に死ぬかと思った。そして蹴速の馬鹿は、何故ここに居て、おれを褒めないのか。おれを抱かないのか。全く気の利かない男め。


「良くやってくれた!熊大将壱日!貴様の勇名、クマモトにもさぞ轟いた事だろう!」


「いえ。自分は、平特盛の後塵を拝したに過ぎませぬ」


「実に謙虚!貴様らしい!」


 神無に、コウチナンバーツーに、そうまで大仰に褒められる事か?とは思ったが。恐らく、次代のコウチを背負って立つ特盛のためのパフォーマンスなのだろう。ならば、とやかくは言うまい。自分もまた、あの者の行く先を、見てみたいのだから。


 特盛としては、本当に熊大将に守っていてもらわねば、あっという間に死んでいた、という自覚が有ったので、それを素直に報告しただけだ。それを聞いた神無もまた、素直に熊大将を褒めた。それだけなのだが。


「まーまー。お仕事はそこまで。飲んで食べて!」


 アカが料理をどんどん運んでくる。外テーブルで食べているのだが、山のように食べ物、飲み物が並んでいる。


 料理は祝寝、クロがメイン。それをモモ、キ、アカが手伝う。配膳はアオミドリと子供達。シロは、味見だ。クロに何もしなくて良いと言われたのだ。少しばかりの疎外感を味わうが、魔神が配膳も無いなあ、と思い従っている。そんな事を言えば、ゲームもダメなのだが、あれは外には見られていないので、クロ的にはセーフだ。イメージというのは、大事なのだ。


 祝寝は食事前に、神無と一緒に海鶴、己黄に会いに行った。食事を運びに。


「大丈夫?」


「ああ。何。病気では無い。心配するな」


 海鶴はずっと卵を抱いている。室温を一定にしているので、居心地が悪い事は無いだろうが。


 初めての子育て。何もかもが手探りだ。


 祝寝は、卵生を全て頭に叩き込み海鶴のサポートを行っているが、それでも経験は、無い。人魚の産卵など。どれだけ出来ているか、海鶴よりも、むしろ不安を抱いていた。


「祝寝。お前の心配、伝わってくるぞ。その気持ちをだけ、もらっておこう」


 祝寝は、自分の頭をコツンと叩き、退室した。


 海鶴は、祝寝を、その態度を嬉しく思った。気にかけてくれている。とても。それで、良い。それだけで、充分。この子には蹴速の血が流れている。人に優しさをもらって、蔑ろにするなど。有り得ん。だから、祝寝。気に病むな。


コトリ


「お前も心配か。母の姉が」


 脈動する卵。無事、出てきてほしい。自分と蹴速を結んだ、縁の証明。陸での子育てに、一抹の不安は有るが、一緒に不安になってくれる者も、居る。何ともならなくとも、後悔はあるまい。皆が動いてくれている。出来る事をやるだけだ。


「(己黄・・)」


 心で話しかける。己黄は卵と共に眠っている。神無は妹の静かな戦いを応援した。


 持ってきた食事は、一度持ち帰りラップをかけて、部屋のテーブルに置いておく。


 己黄は夢を見ていた。


 大空を自由に飛ぶ、黄金龍たる己。その横を飛ぶ小さな龍。そして。黄金龍より巨きな、存在、も共に跳んでいる。自分の背には、神無も祝寝も海鶴も居る。何者にも縛られず、己の意のままに、飛ぶ。


 神無は眠る己黄に、ヒゲが生えているのに気付いた。人間の男性のヒゲではない。猫、の。いや、龍のヒゲなのか。


 起きた時にでも聞くか。そう思い、部屋を出る。


 祝寝と神無は、廊下で顔を合わせる。


「海鶴に、心配かけちゃった。ダメね」


「そんな事は無い。心配を掛け合うのが、家族。それで良いのだ」


「ふふ。己黄はどうだった?」


「寝ていた。故に食事を置いてきたのだが、ヒゲが生えていた」


「ヒゲ?己黄は毛深い方じゃないよね」


「ああ。多分、人間の肉体由来ではない。龍のヒゲだ」


「へえー。大人になってきたって事なのかな」


「さてな。己黄が起きている時にでも、聞こうと思っている。そうすれば、良く分かるからな」


「確かにね」


「俺達も、外でメシだ。行こう」


「うん」


 特盛の帰還祝勝会には、それなりに外からも人が来ている。在前ざいぜん 御徳ごとく金甲かねがね 量猟りょうら。


「お帰り。特盛君。あっという間に強者の仲間入りだな」


「いやいや!在前さんに比べりゃあ全然ですよ!」


うわははは


 特盛は、ちょっと調子に乗っていた。


 御徳は馬鹿みたいに明るい特盛を見て、聞くだけでもかなりキツい戦場だったろうに、と特盛の精神のタフさを高く評価した。


「お帰りなさい。すごい活躍だったそうですね」


「まあな!在前さんと戦場を駆け回ってるお前らに、差、付けられてたからなあ。何とかおれもやってきたぜ」


 平特盛と金甲量猟はフォーデス山脈での見回り仲間ではあるが、然程仲良しでも無かった。ただ、お互い魔王戦をくぐり抜け、魔神戦から尻尾を巻いて逃げた仲なので、なんとなく連帯感は有った。一緒に戦った仲ではあるし。


 量猟は御徳指揮下で、仕事を積み重ねてきた。兵の使い方も身近で学んできた。これは、特盛は積んでいないものだ。ただ、絶対的な強敵と1対1をかますような真似はした事が無い。御徳相手の稽古位か。御徳は部下を捨石にはしなかったので、理不尽な程の窮地も味わっていない。


「では、一つお知らせが有る」


 梅の言葉に、皆が口を閉じる。食べてはいる。


「コウチは世界征服に成功した。次は外海を目指す」


「外海?」


「ああ。前に神無が制圧に向かったような地域だ。ここから、ナインラインや鮭川も比べ物にならぬ程、遠く離れた場所になる。コウチは、それら地域も、獲る」


おおお


「我々が、全て支配する。全て獲る。逆らう者は殺し、従う者は生かし、私達の世界を作る」


 自分で言っていて、震えが来る。


 これらの言葉を、3名家以外に話したのは、初めてだ。


 野心が有る。力が有る。奪える世界が有る。


 この世全て、コウチにしてやる。


 全て。支配してやるぞ。


「皆、心に留めておいてくれ。我々は、全てを獲る」


 新たな時代、ではない。新たな世界が、始まる。


 会が終わった後。家族でのくつろぎの時。


「打算は多分に有る。魔王達が、黙っていてもコウチを守ってくれるだろう、そういう計算がな」


「まあ、な。今更、ここを引き払い魔界に帰るのも、面倒だ」


「蹴速君を待ってなきゃいけないしね!」


「んー。僕としても、甘い汁を吸うのは大好きだから、異論は無いよ」


「私も、皆がそれで良いなら、特に問題は」


 シロ、クロは言う事も無く、ゴロゴロしている。


「皆に、殊更の迷惑をかけるつもりは無い。これまで通りの生活で良い。ただ、もしもの時、ついでにコウチも守ってほしい」


「それぐらい、何の問題も無いぞ」


「うん」


「片手間で済むだろうし。全然オッケーだよ」


「そうか。それは有り難い」


 梅、神無、有我はほっとした。実家に帰らせて頂きます!という展開になれば、流石に外海は諦めざるを得ない。今の世界征服が、3名家の限界。この家の力で、外海をも奪う事が出来る。魔王を上手く、守護として使う。それが安全な道。


 これを魔神シロの前で思う事が、誠意の表れ。


 シロには文句は無かった。蹴速が居てくれれば、問題は無い。なんなら2人で気晴らしに国の1つや2つ、攻めても良い。夫婦の共同作業は、愛を深めてくれるのだ。


 クロはシロに従うのみ。マクロの教育にも、外海を見せる価値は、有る。


 外海遠征まで1月。それまで、各自修行を積むように。それで、会はお開き。特盛は久しぶりに家で寝る。家は、良い。


 仮に、このナインライン、中つ国、4ヵ国、ヤマト、フ・ズィ、御都、刀農、鮭川、これら世界を、ダイコウチとしよう。


 ダイコウチの人間には、幾つかの指示が出された。コウチから。


 道路を作れ。コウチに繋がる、コウチから何処へでも行ける陸路、海路を。いさかい、争いをするな。平和が一番。富をコウチへ集約せよ。他国を蔑ろにせよと言うのではない。最もコウチが富めば、それで良いのだ。無理など、言わん。


 たったこれだけの、簡単な指示が出された。現在、逆らう気力を持った国は、無かった。


 エヒメには出兵の命令が。ナンバーワンを出せ、と。


「これは、無論人質。しかし、コウチには、まだ睨まれていないようですね」


「何故ですか?」


「私なら、トップクラス全てを招集。何がしかの口実を付けて処断。一気にエヒメを恐怖で包みます。実力による抵抗も、不可能にします。私ならば」


「それは、既にカガワ、トクシマでやっているのでは」


「ええ。ですが、エヒメにやらぬ道理が有りません。先に従う姿勢を見せた、と言う所でしょうが」


 そして中つ国からの誘いも、すぐさまコウチに伝えた。あれが効いている、のか。


「私に何が有ろうと、決してコウチとは事を構えぬように。必ずや、それを口実として、コウチはエヒメを攻めます。あちらが欲しいのは、自分達の大義名分。大国、強国、覇を唱える国としてのメンツです。それを満たしてやれば、決して襲われる事は有りません。自分で自分の顔に泥を塗る事になりますから」


「しかし、我々だけでは・・」


「だからこそ、コウチの庇護を願うのです。コウチはエヒメを、属する国を救わねばならない、と言う大義が発生します。知らぬふりは、あまりにも情けない。そのような事、3名家が許さないでしょう。弱者で在るのです。決して戦ってはいけません。お願いしますよ」


「はい」


「エヒメが消えなければ。強くたくましい若者が、育てば。いつか再起の時も有りましょう。消えなければ、何とかなるでしょう。諦めぬ事、自棄にならぬ事です」


「はい」


「私も頑張ってきます。後はあなた達に委ねます。皆で仲良くするのですよ」


「はい!行ってらっしゃいませ!」


「はい。行ってきます」


 エヒメナンバーワン、一飲涙いのり 美乗利みのり、出る。


 三十鬼みとい 三問みといは出陣の準備をしていた。


 ヤマトにもナンバーワンを差し出せ、との命令が来た。もしくは、ナンバーツー、ナンバースリーを揃って差し出すか。数の利を失うのは、痛い。それに、対魔蹴速を間近で見てみたい。


「おれ達が行った方が良いんじゃないのか。選択枝が有るなら。お前を失うのは、痛いぜ」


「ふん。心にも無い事を」


「へっ。間違っちゃいないが、よ。お前の座は、いつか頂くつもりだったが。それは、このおれの実力によってだ。こんな形でじゃない」


「甘いんだよ。チャンスと捉えろ。おれの死を願う位で、良い」


 九重、十言も見送りに。


「このおれを。ヤマトの安定より、自らの立身出世を願う程度のものと、思ってんのか」


「だから。お前が、三十鬼より、良いヤマトにするって言え。だからダメなんだよ、お前は」


「ちっ」


 甘さを、美学を捨てきれない。いや、むしろ肥大化させている。だからこそ、頼れる奴らでもあるのだが。


「ま、対魔蹴速の顔を拝んでくる。邪馬様すら、傷一つ付けられなかったと言う化物を」


「ついでに斬って来いよ」


「馬鹿が」


 冗談で言っているから、見逃すが。本気なら、この場でナンバースリーを失う所だ。ヤマトを滅ぼすきっかけになりうるのだから。


「そういう事は、表では絶対に言うな。つけ込まれる」


「へいへい」


 以前の挑発もギリギリだった。幸い、あちらもメンツを優先。嬉々として、反乱の芽として斬られる事は無かった。運が良かっただけだがな。


「特盛によろしくな」


「誰だ」


「ほら。フ・ズィで共闘したやつだよ。今まで見た中で、一番狂ってたやつだ。あんなキチガイが嫁に欲しいよな」


「お前も女だろうが」


「言葉の綾だよ」


 結婚願望の無い三十鬼には、分からない感覚だ。


 ミヤザキ代表、巨鬼きき 咲黄さきの元には感謝状が。日頃の情報収集へのねぎらい、及びこれからの活躍への期待。


「ふん。えらく信用されたものだ」


「そうなのですか?」


「監視が付いているとは言え、誤魔化すのは、然程難しくもない。コウチは何を考えている」


「暴走、後、鎮圧。やはりコウチによる直接支配に勝るもの無し・・・との喧伝でしょうか」


「それは、もう意味が無い。既にやっている事だ。ミヤザキはナインライン、中つ国、4ヵ国を見回っている。当然、その情報を悪用しようと思えば出来るのだ。今の監視は、緩すぎる」


「コウチの脇の甘さ、ですか」


「分からん。何かを狙っていても、おかしくは無いが。ただ、我らは隙を見せるな。他国の二の舞は、ゴメンだ。我らは、コウチの忠実な犬。それで良いのだ。事実、恩人でも、ある。それを忘れれば、ミヤザキの恥よ」


「我々の代では、ですね」


「・・・ふん」


 ミヤザキにも無論、野心は有る。空兵を開発したのは、散歩のためでは無い。仁義をわきまえつつ、実力を増やす。出来れば、100年後のミヤザキの版図が増えているように。


 中つ国、神朗は、二神にコウチに忠実にあれる若者を選りすぐっていた。それらに、二神レベルの訓練を、基礎から叩き込む。さらに、影のように付いていてくれる三鬼華虎を、コウチでは一兵卒でもこのレベルなのだ!と紹介して、慢心を諌めていたりした。そして華虎には、身内のみの席で謝る。


「悪くないぜ」


「許しも得ず、先走り、申し訳ありません」


「今のお前は、神無の代行。おれより偉いんだ。堂々としておけ」


「そうは言われましても」


「先に言ったが、悪くない。コウチへの敵愾心は、憧れへと変わりつつある。お前の手腕だ。無茶無理をせず、二神のお前らしく振る舞えば、恐らく問題無いぜ」


「はい。そのお言葉に、安心出来ます」


「これほどの大役、神無も梅も、もちろんおれだって、やった事はねえ。誇っていいぜ、神朗」


「はい。心して、頑張ります」


 ちと、真面目過ぎるか。華虎は、神朗の息抜きを神朗の親に相談する事を決めた。神無と一緒に訓練でもすれば、リラックス出来そうだが。


 神無の視察を提案してみるか。諸国漫遊。その中で、中つ国に立ち寄った際、神朗のリフレッシュを図る。ふむ。我ながら妙案。


 神無に手紙を送る。妙案の礼として、コウチの肴を送る事も通達。見せかけは神朗の配下なので、こちらで人の目の有る所では、贅沢を出来ないのだ。


 三完さんかん ふたぎは、ホクホクしていた。


 4名の実力者が打ち倒した、不進林の主の死骸からは、秘薬の元となる植物、虫、キノコがいくらでも手に入った。さらに蓄えられた魔力が、フ・ズィを中心に開放。これで、更なる循環が期待出来る。


 特盛から聞いた主の特徴については、そこまで心配していない。あれほどの図体になるまで、最低でも数十年は手出ししていなかったのだ。何年かごとに狩れば、恐らく無害と言える。


 フ・ズィの懐が温まり、資金に余裕が出来れば、絶対に、フ・ズィ・テーマパークを作る!三完林の夢だ。フ・ズィを、ただの魔境では終わらせない。人々が、戦士ではない普通の人が、フ・ズィを好きになれるように。


 三完林もまた、野心を秘めていた。


 御都は後継者を決めかねていた。正将軍の後を継げる者が、居ない。5将軍の後釜は、何とか決まったが。


「我らの、道は」


「無い。先代正将軍は、実力、統率力共に申し分無しのお方。あの方を以ってしても、コウチを止める事は、適わなかった。更に言えば、ヤマトも力を残している。最早、打って出るのは、危険を通り越して、自滅と言えよう」


「むうう」


「戦はしなかったはずの刀農も、頭を変えられてしまっている。今、御都は動くべきではない。それは5将軍で、統一しておきたい」


「仕方あるまい」


「同意する」


「うむ」


「・・・分かった」


「良し。だが、再起の時は必ず来る。ここは御都。我ら以外に世を統べる者無し。今はただ、臥薪嘗胆よ」


「おお」


「その通りだ」


 御都は伏して待つ。その時を。


「どーすんの、これ」


「どーするもこーするも」


「ないよねえ」


「コウチに従っとこうぜ。やべえよあいつら」


「皆殺しとか、ねーよ。なあ?」


「ありえねー。頭オカシイって絶対」


「関わりたくねー」


「もう適当に言う事聞いて、それでオッケー?」


「オッケー」


「それで良いよ、もう。こえーもん」


「だよなー」


「コウチには、ペコペコ路線!決まり!」


 刀農は以上だ。


 鮭川では、コウチ用の輸出が増産されていた。食物、植物、動物、魚介類、あらゆる鮭川由来のものが運ばれていく。無論、鮭川へも収入は発生するが、コウチの意のままなので、そこまで愉快な仕事でも無かった。ただ、コウチから魔族対策の兵は置かれたので、前より安全にはなった。


 逆らう術を持たぬ鮭川の鬱憤は、少しずつ溜まっていく。


 熊大将くまだいしょう 壱日いちかには、選択枝が与えられた。クマモトに帰って、そのままナインライン情勢安定に寄与しても良い。それとも、コウチの覇道、その最先鋒に加わっても良い。


 分からぬ。特盛との魔物退治は、久しぶりに血が騒いだ。自ら剣を持ち、最前線で戦った。先代が逝ってから、初めて。しかし、今のクマモトを放っておいて良いのか。後進は育ち始めている。だが当然、あの日消えた最精鋭レベルは、まだ居ない。


 分からぬから、相談しに行った。


「はじめまして、になるな。おれはクマモトナンバーワン、熊大将壱日」


「おお。私はミヤザキ代表、巨鬼咲黄。では、もう綺羅きら ざとう殿は」


「ああ。火焔流の元へ。そして、その火焔流もコウチの者に一蹴されてしまった」


「そうか。ナインラインにあって、数える程の猛者であったが」


「おれは、どうすれば良いのか。悩んでいる」


「ほお。それをミヤザキの私に聞く意味。理解しているのか」


「そう聞き返してくれる貴方だからこそ、聞いているのだ」


「ふん」


 巨鬼の側近がクスリと笑うのを、2人は認識した。が、放っておいた。


「悩んでいる、とは」


「もう一花、咲かせるか。クマモトに、ナインラインに尽力するか」


「ふむ」


「どちらも、おれの全てを捧げるに相応しい仕事だろう。おれは、どう死にたいのか、悩んでいる」


「ふん。私に話を聞いて欲しいだけか」


「む」


「クマモトと、比較する程の事か。ならばもう、それしかあるまい」


 元々の、それ以外無かった事。それと比べられる程に大きく育った大望。最早、悩むのは時間の無駄。


「行け。私に取っては、クマモトの国力が削がれるのは、願ったり叶ったりよ」


「ありがとう」


「異な事を」


「本心であろうが。しかし、背を押してもらった。ありがとう。返礼は、より強く大きくなったクマモトを見せる事としよう」


「ふん」


 今度は大笑した側近。熊大将も、堂々と笑っている。笑っていないのは、巨鬼だけだ。


「クマモトは、必ずナインラインを押し上げる原動力となろう」


「そうであれば、良いがな」


「おれは、コウチに与する。戦場を、駆ける。おれには最も似合っているのだと思う」


「・・・率直に、正直に言うと。羨ましい。私は、既にピークを過ぎた。間違いなく歴史に残る、否、歴史を今、創っているコウチと共に行けるのは、兵の本懐。踏み出す一挙手一投足が、歴史なのだ。その真っ只中を行く貴様が、羨ましいぞ」


「すまんな。おれが美味しい所をもらって」


「ふん。気付かぬ間にミヤザキの勢力は増えているはずだ。私達も手抜き等しない」


「そうでなければ、ナインラインの同胞として、張り合いが無いと言うもの。巨鬼咲黄。いつか、ナインラインは、」


「言うな」


「ん?」


「その先を、聞くわけには、いかん。ミヤザキは、コウチに救われたのだ。私達は、服従を誓っている」


「そうか。有難う」


「話の腰を折っただけ。礼を言われる筋合いなど、無い」


ふっはっはっはっは


「笑いすぎだぞ。礼を欠くだろう」


「申し訳ありませぬ」


「いや。元気で良い。年は幾つだ」


「19です」


「若いな。その年で、巨鬼殿の側近か」


「一回りも変わらぬでしょう、熊大将様も」


「まあな。だが、おれには家柄も有った」


「それを言えば、コウチの3名家など、全て家柄だぞ」


「なんだ。服従を誓ったのでは無いのか」


「物事を正確に述べているだけよ」


くははっはは


 なし崩しに宴会。クマモトとミヤザキは、これまでより円滑に交流を図る事に。


「お前、本当に初対面か。その顔、見覚えが有るぞ」


「ふ。数回、顔を見せただけだ。ナンバーツー、あるいはそれ以下として、綺羅様に付いて来た時だ。話したのは、本当に初めてだ」


「ふん。道理でな」


 強い顔だ。見覚えが有るわけよ。


「泊まっていけ。そしてコウチに行け。同胞として、骨は拾ってやる」


「ああ。行って来る。熊大将の、クマモトの、ナインラインの名。轟かせて見せよう」


「調子に乗って死ぬなよ」


「有りうる。恥ずかしながら、子供のようにワクワクしている。この世界は、コウチはどうなってゆくのか。おれの目で、それが見れるのだ」


「ふん。私達も見逃しはせぬ。ミヤザキの監視網。潜り抜ける事は適わぬ」


「ふっ」


 翌日。


「また、会おう」


「生きて帰れ。骨を拾うのは、面倒だ」


「そうしよう」


 熊大将、コウチに向かう。戦場に飛び込む。そして、ミヤザキは。


「行きたければ、構わんぞ」


「私が、そのような子供染みた」


「否定は、せぬのだな」


「・・・」


「やっとお前をやり込めた。行って来い。学んで来い。相手は、今正に、世界を覇した王。見るべきものは、幾らでも有るだろう」


「しかし、今が、ミヤザキの正念場では」


「自惚れるな。見くびるな。お前1人で揺らぐような、柔な国と思っていたのか」


「いえ」


「仕事だ。行って来い」


「はっ!」


 ミヤザキ代表の側近、南刀なんとう 仮要明がいあ、コウチに出立。


 三鬼梅は、友人を訪ねていた。


「土産だ」


「わーい!・・・多いよ!」


 鮭の丸ごとと、フ・ズィ特産の茶葉一袋、それとヤマトの酒一樽。


 こう 歯牙しが、1人で食べきれる量ではない。


「そうか。大喜びか。では占え」


「話が早くないかな!?」


「蹴速の嫁は、既に15人。蹴速の寿命について聞きたい」


「あ、話進んじゃうんだ」


「聞いてやるから、言え」


「強引なんだから。ふー・・にゅあ・さーにゅあ・みーにゅあ」


 蹴りたい。


「視えた!蹴速君の寿命は150年!」


「そうか。ありがとう」


 席を立つ梅。


「ちょちょちょ。それは、早すぎでしょ」


「用は済んだ」


「親交を温め合おうよお」


「何を薄気味悪い事を」


「麗しい友情でしょうが!」


 梅の用事は、本当に済んでいた。蹴速が生きているなら、自分達も息災に違いない。蹴速が居て、私達を見過ごすはずが無い。


「ふん。大事ないか」


「うん」


「じゃあな」


「待って!!」


 歯牙は、梅を強く引き止める。


「どうした。らしくもない」


「いやー、梅の態度も大概、人として、ありえないって言うか」


「?」


「心底不思議そうな顔はもういいから!」


 梅はしっかりと椅子に腰を下ろし、茶菓子を食べ始めた。


「言え」


「うーん」


ぼりぼり


 梅がせんべいを食べ終わり、チョコに手を出し始めた頃。


「私もね、そっちに嫁入りするんだけどさあ」


「なるほど。それを阻止してくれと」


「違うよ!・・うーん。嫁の数が、もうちょっと増えて、私の知らない人も増えて、その後」


「うむ」


「みんな居なくなるんだよ」


「ふむ」


「死ぬのか、引っ越すのか、それは分からない。でも、今の家には、誰も居なかったよ」


「お前は、寿命は変わっていないのだな?」


「うん。健康優良」


「引っ越す、か」


「魔界にも行けるんでしょ?コウチが焼け野原になって、皆で移住とか」


「ふ、ん」


 梅は考えた。魔神シロは積極的には動かない。それでも家の近くに、何がしかの脅威が迫って尚動かないものか?


 シロと蹴速は、津波を打ち消す位は、してのける。どういうレベルの災害が起きればそのような事になるのだ。


 梅の脅威としての想定に、敵というものは無かった。シロ、蹴速、魔王。さらに3名家を擁する、我が家を動かす程の、敵。有り得ない。絶対に。


 もしやダイコウチ消失レベルか。


「繰り返すが、誰の寿命にも変わりは無いのだな」


「うん。流石に、知らない人のは視てないし、魔神の寿命も視えないよ」


「分かった。有益かどうかは、ともかく。心に留めておこう」


「まあねー。原因も解決策も、無いし」


「礼はいつものように。ただし、半額だ」


「ええー!」


「お前が言い出してくれた事だな。お前の良心、親切心に払ってやる金だ」


「ええい・・・ん?仕事より安い!?」


「当たり前だ。お前の先行きも、かかっているのだろうが」


「ふむ・・・そう言えば!」


 今度こそ梅は帰る。帰って、部屋を一つ、掃除する必要が有る。


 歯牙は確かに、変化を視ていない。しかし、蹴速の寿命はブレ続けている。少し前に、今すぐ死ぬ、と出た事も有った。何気なく遊びに行ったら、魔神シロとの稽古の後だった。なるほど!めんどくせえ!


 蹴速の寿命は基本150年。たまに振り切れて、シロと同じく視えなくなったりする。そして、即死の線も視える。


 梅には言わない。シロに近付かないように、などと言うアドバイスは不可能。戦いから遠ざかる選択枝もシロの不興を買うだろう。ナシだ。


 なるようになれば良いさー。どーでもいいさ。


 梅に知られれば、痙攣以外の身動きを許されなくなる心根だが。


 嫁入りしたら、対魔歯牙とか、すげーカッコイイ名前になるな!ぐらいの事しか、考えていなかった。

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