蹴速の悩み。
フ・ズィからの連絡。
「特盛は見事、成し遂げたらしいな」
「ふん。当たり前だ。私の部下だぞ」
「そうか」
神無は笑いを堪えた。梅の頬が、笑みを堪えようとしているのを見て。たまに梅は、フ・ズィの方を見る事が有る。己黄の影響であろうか。嬉しければ笑えば良いのだ。特盛は部下かも知れないが、コウチの同胞だぞ。その成果、両手を上げて喜んで何が悪い。
「いつ帰すのだ」
「分からん。やつを活かせる戦場を、思いつかない」
「戦場など。いくらでも用意出来るではないか」
「・・外海か」
「うむ」
神無の南海制圧。あれは、遊びに行ったのではない。二神当主を、連なる一族を必要とした遠征。
そこに特盛を放り込むだと。3名家は、まだ動かしたくない。
「考えておこう」
「ただ、シロや蹴速と鍛錬させるだけでも、強くなると思うがな」
「まあ、な」
フ・ズィに連絡。特盛、熊大将の任務を解く。褒賞を与えるので、とっとと帰って来い。ヤマトに礼状を送る。フ・ズィは既にコウチのもの。それを見事援助して頂いた事、感謝する。フ・ズィにも特盛と熊大将の世話を感謝。両国とも、そのまま属国としての分を完遂するように。
手紙を受け取ったヤマトは、文を握り潰し火を点け燃やした後、何事も無かったように、丁寧な返答をしたためた。
フ・ズィ、三完林は、苦笑してから、部下を大事にする事を勧める文章を書いて寄越した。
蹴速、超騎士、ジン、亜意はカフェで一息ついていた。
「おもち、も一個ちょーだい。お茶も」
従業員の平均年齢が60代を超えているだけの、ごく普通のカフェだ。
「コーヒー頼む」
「おれも」
「私は、ミルクティーを」
イギリスの片田舎。率直に言えば、超騎士の田舎だ。
「参りましたね。両親は、畑とは」
「まあ、そのうち帰ってくるやろう」
「そのまま、どこかへ、繰り出さなければ良いのですが」
「流石に畑仕事したら、風呂入りに帰るやろ。心配せんでいいと思う」
ジンと亜意に異存は無い。というより。暇過ぎて、超騎士の両親の顔を拝むだけでも、暇つぶしにはなるのだ。
「私のおごりです。おはぎでも、ぜんざいでも、何でも注文してください」
「もう、食えねえよ」
ここに来てから1時間。ずっと食って飲んで、待っているのだ。
「超騎士のお父さんとお母さんは、農家なの?」
「本業というわけではなく、引退してからの余生の過ごし方、ですね」
「へええ」
「代々騎士よな」
「はい。そして代々の騎士長です」
「すげえな」
「実力の賜物。当然の結果です」
「言い忘れた。すげえ自負だ」
「全く。おれの大好きな超騎士よ」
「ふふふ」
「おれもおれも!蹴速の次に強いよ!」
ギロオ
亜意と超騎士の貫くような視線を感じたのは、蹴速だけのようだ。ジンは意に介していない。
「それで。偉い超騎士様は、偉いご両親様を何故見に来たんだ?」
「最後の顔見せ、かもしれないので」
「え」
「私は、イギリスを消すかもしれない。私と夫のために。両親は元騎士として阻むでしょう。そして、私に殺される」
「?お父さんとお母さんを連れて逃げれば、良いんじゃないの?」
「父も母も逃げません。この国を守ると、誓ったのです」
「面倒なものだな」
「それが、私の両親なのです」
「ふむ」
蹴速には選択枝が有った。力づくで超騎士の両親をさらい、イギリス消滅後、合流。まさか切腹はするまい。黙って、もしもの時はやる気だった。超騎士が睨もうが何だろうが。知ったことではない。嫁の親も守れず、最強などと。寝言をほざくな。
やってみせろ、対魔蹴速。
「私事です。蹴速の気にする事では」
「お前はおれのものや。お前の家族も、おれに属する。何とかしてみるわ」
「本当に、気になどしないでください」
あの両親が、考えを変えるなど。
超騎士も蹴速と一緒に生きられるだけあって、かなりおかしい人間だったが、まだまともだった。説得でもするのだろう、と。まさか、かっさらって、後は適当に。そこまで適当ぶっちぎってる人間が夫とは。考えないようにしていた、かもしれない。
亜意とジンは、蹴速の思考を読んでいた。絶対力づくで、何とかするんだな、と。
秋。皆が忙しそうな季節に、一行は、だらだら過ごしていた。
「次はジンが両親に会って、それから仕事か」
「こっちの仕事ってどんなんだ」
「向こうと、あんまり変わりはないな」
ほぼ同じだ。このイギリスの地を襲った怪物達。ああいうのを排除したり、ボディガードだったり。腕力を必要とする仕事に駆り出され、それで金銭を稼ぐ。誰より早く怪物に突っ込むので、死傷の確率もでかいが、名を売るチャンスも無数に有る。自分次第だ。一般に馬鹿向きの仕事とされるが、それは間違っている。馬鹿にしか出来ない仕事だ。正体不明、弱点不明、攻撃不明に、自分から突っかかるキチガイでなければ、務まらん。喜び勇んで戦い勝ち残ってきたのが、蹴速達に代表される兵達だ。
お昼。カフェで、うつらうつらし始めたジンを抱いた蹴速は、超騎士の両親の姿を認めた。
「来たぞ」
「ええ」
昼食に帰って来たのだろうか。
「おお。帰っていたのか」
「おかえりなさい」
「はい。顔を見に来ました。では」
スタスタと来た道を戻る超騎士。
「え?な、何で」
「先行っちょれ」
「おう」
亜意はジンを引き連れ、超騎士に付いて行く。
蹴速は超騎士の両親と向き合う。
「娘さんは、おれがもらいました。必ず幸せにします」
「おお・・・・・・おお!!????」
「はい。よろしくお願いしますね」
ぺこり
愕然呆然唖然とした父親、そして母親と挨拶を交わし蹴速も皆に追いつく。
「良いのか」
「ああ。仲良うしましょうって、前持ちかけた事は有る。厳しいんよ、あいつんち」
「へえー」
ジンは自分の両親なら、絶対そんな事は無いな、と思った。
在前御徳は、悩んでいた。
給料が1月前の10倍になった。死の危険も10倍。前線で適当に魔物をぶち殺して回って、体にガタが来たら引退。そんな考えとも言えない考えしか持っていなかった。
戦争に参加。殺して殺して殺した。殺されかけた。将軍に抜擢された。世界を転戦。まさか最果て、鮭川まで付いて行くとは。3当主の覚えもめでたく、出世は叶った。良い、人生だ。
在前御徳は、悩んでいる。
このままでは、死ぬ。3名家総出の必要の有る戦場、そんなものに関わって、いつまでも生きていられるわけがない。
田舎にこもって、畑でも。最初は何も出来ないんだけど、近所の方々に教えてもらったり、試行錯誤してるウチに、何とか形になって。それで、仲良くさせてもらってる近所の人に可愛い娘さんが居たり。あれやこれやで、良い仲になっちゃって。そんな、そういうのも、良いなあ。
死にたく、ないなあ。
それでも、在前御徳は、将軍位に居る。戦中の処置かと思っていたが、本部に部屋も用意された。3名家も忙しい時期は寝泊りする、由緒正しい要人用の部屋だ。まあ、忙しいんだから、時間の無駄無く働け、という意味の部屋だが。
給料は上がった。好きなものを遠慮なく買える。良い家も車も、何でも。運良く生きながらえられれば、叶う。手が届く。
金は欲しい。金が有れば、贅沢が出来る。良い武具を買える。私生活で鍛錬を積んだ後、薬も治癒も使い放題だ。包帯やサポーターも、いくら使っても懐は痛まない。金が有れば。
在前御徳は、忘れていない。
魔神シロに、指一本触れず、一太刀も浴びせれず敗退した事を。敵にすら、してもらえなかった。ただ、道を歩くのに、草が邪魔だった。そういうレベルだった。自分は。
何故、最前線に居続けた。何故、必ず結果を出してきた。
それは、もっと強くなるため。
魔神シロは、今やコウチの敵ではない。
そんな事は、どうでもいい!
三鬼梅でも、擦り傷一つ付けられなかった?知るか!
おれは、在前御徳だ!劣っていようと!勝てなかろうと!
悔しい!!!
在前御徳は、毎日、繰り返し、思い出していた。蹴速と魔神の戦いを、見ているだけの自分を。
強さには、自信が有った。3名家には及ばずとも、それなりに強い。そう、思っていた。三鬼梅と知己を得たが、全てで負けていたわけではない。スピードでは、完全に優っていた。勝負になれば、敗色濃厚だが、相手は3名家だ。そういう、負けても問題の無い現実も、有った。
ヌルかった。
蹴速を担いで山を下りた日。あの日から、治癒を前提にして、以前の3倍の稽古を自分に義務付けた。腕が動かなくなった。痙攣すら起こさなくなったり。足が何度も変な方向に曲がった。たまに、自分の速さに足が保たず、ちぎれかけたり。量猟にも、何度も稽古に付き合ってもらった。何度も撃ってもらった。間違いなく、コウチで最も砲弾を浴びた男として、記録が出来ただろう。
今。三鬼梅から、通達が来ている。多分、いや間違いなく、栄達、そして地獄巡りのお知らせだ。
田舎で、畑をつついて、可愛い嫁をもらっても、良い。それも幸せだ。
でも。
毎日、頭から離れない。魔神シロに、勝てずとも、一矢報いる。そうでなければ、前に進めない。嫁なんて、もらってる場合じゃない。
開ける。それが自分の、最後の場所であっても。今よりは強くなれるのだから。
在前御徳は、進む。
ジンは両親と再会。
「ただいま!」
「おかえり!」
「ジン、元気だった?」
小さな子供を抱えた夫婦。ジンは、その小さな子にも挨拶している。
「お姉ちゃん帰ったよー」
「うん!」
「妹居たのか」
「ああ。血は繋がってないけどな。ある意味、ジンは己黄と同じ。一種一体」
「ふーん」
「しかし」
そう。あの仲の良さそうな様子に、そんなものは、意味を持たない。
「また蹴速と遊んでくるよ!今度は子供も出来てるかも!じゃあ行って来るね!」
「行ってらっしゃい!」
「健康に気を付けてね!」
元気にお別れ。妹も手を振ってくれている。
「じゃ、お仕事お仕事」
「おめえの親は」
「う」
蹴速の両親は行方知れず。もちろん聞けば、誰か知っている者も居るだろうが。
「挨拶は良いのかよ」
「うーん」
結婚の報告は一応した。おめでと、とは返って来たが。
「ま、まあ、そのうちな」
「ふん」
亜意は蹴速のこういう部分が嫌いだった。何でも出来る力を持っているのに。苦手なら、殺せば良い。
亜意の心を察した蹴速は、とりあえず手を握って、茶を濁した。
それを見たジンが、空いている手を握り、超騎士が蹴速の服の裾をつまんだ。
これが、自業自得。
蹴速は全員を抱いて跳んだ。仕事でもして、気分転換を。
最寄りの日本本部へ。
「何か有る?」
「はい。3つ有ります」
蹴速は、言うまでもなく有名人だ。専用のお仕事が見繕われている。
「まず、ロシア森林に、化け物。現在、軽兵が相手取り、ロシア、ヨーロッパ、アジアからも増援。しかし、現在膠着状態」
「次。謎の飛来物。宇宙からの隕石だが、何かおかしいとの事。アフリカでの調査物件です」
「最後。イギリスへ、再侵攻の兆候。以前超騎士が防いだアレが、起きる、かも。原因は地下。ボーリングは必ず妨害を受け、進んでいません」
「ふむ。2つ目は、後回しで良いか。ロシアのそれを倒してくるわ。その後イギリスに直行する」
「ええ」
「分かりました。これで安心です」
言うまでもないが、ロシアから日本は、然程離れていないのだ。
超騎士も、イギリスの名を聞いて強ばっていたが、安堵したようだ。
「化け物か、楽しめそうだな」
「うーん。すまんな。おれが直ぐに倒す」
「ちっ。まあ良い。見物だけでも我慢してやる」
「ああ」
ジンは自分の出番は有るのかどうか、考えていた。
ロシアまで蹴速の適当な速度で、ざっと1時間か。
到着した頃には、兵共の疲弊した姿。こちらには、治癒の技術は、無いのだ。
「蹴速!こっちに居たのか!」
「おお。生きちょったか」
軽兵は生きていた。怪我もしていなさそうだ。
「なんや。さぼりか」
「馬鹿を言うな。あんなのに、真正面から行けるか。時間稼ぎに徹していたのよ」
化け物。全高50メートル。ちょっと大きいビル程度。そう大したものにも見えないが。
「どうした。あんなのに」
「攻撃してみろ」
言われるまま、蹴速は蹴ってみた。
粉々に弾け飛ぶ化け物。文字通り、弾け、飛んだ。音速で飛び散らす破片。触れれば、人間は、死ぬ。
蹴速は向かってきた破片を掴み、潰した。
「お。握り潰すと、散らんぞ」
軽兵に新しい情報を与える。
「化け物かよ」
「何を今更」
化け物は、いつの間にやら再生している。蹴速が潰しただけは、少なくなっていようが。
「面倒なやつ」
「私がやりましょうか」
「いや。試してみたい」
「本気でやるなよ」
亜意からの注意。蹴速が魔神に入れた一撃。あれが、もし外れたなら、流れ弾として地球に入ったら、地球は粉々に砕け散る。
遊園地が、消えてしまう。
「大丈夫。ちゃんと手加減する」
おごり、ではない。正しい現実認識だ。
蹴速が手加減をせずに済む相手は、魔神のみ。それ以外は、敵ではない。訓練相手とザコしか居ない世界。
それでも命のやり取りをするのは、刺激的だ。磨かれる。油断をすれば、蹴速とて死ぬ。今の蹴速は油断をしなければ、死なないだろうが。
蹴速は、目前の敵に近付き、周囲を跳び回り、一斉に蹴り込んでみた。弾け飛ぶまでの、一瞬に、数千の蹴りを。弾け飛び、逃げられないよう。
敵は消滅した。弾け飛ぶ端から、自分の破片にぶつかり、散り散りとなった。
「うん。前より速くなっちゅうな」
以前の蹴速より。
魔神シロとの訓練では、どうしてもテンションが上がりきり、普段の実力より上のものが出てしまう。今は普通のテンション。これでこれだけの動きが出来れば、まあ良いだろう。
亜意、ジンの目には、蹴速が一瞬、何人にも見えた。化け物の周囲に何百人の蹴速が。その後、化け物は消滅した。
超騎士には、何となく見えた。確かに、蹴速は強くなった。以前の蹴速の本気での全力が、今は普通に出せるようになっている。なんと頼もしい夫だろう。
それは奇しくも、超騎士の母が結婚前の夫に抱いた思いと同じだった。
「美味しいとこ、持って行きやがるぜ」
軽兵は驚きもせず、蹴速の手柄を羨ましく思った。
「取り分半分で、後処理と見張り、どう?」
「受けた!」
「良し」
蹴速と軽兵は手を組んだ。
「じゃ、ちょっとイギリス行って来るわ」
「また儲け話か!また今度組もうぜ」
「おお。死ぬなよ」
「そういうのはな、死にかけても戦うやつに言ってやれ」
「一本取られたな」
あはは
仲良さそうな軽兵と蹴速。わずかに嫉妬するのは、ジン。
先程と同じく3人を抱え、イギリスに跳ぶ。今度はちょっと遠い。3時間はかかる。
「あれでも生きてる場合が有るのか」
亜意が聞く。魔族の場合、完全に糧にする時も有るので、逆に復活するのが分からない。再生力の異常なものも、取り込めば当然、回復などしない。
「たまにな。大抵、火山に突っ込んだり、氷河に落とすと、終わりやけど」
完全な不死身とは、シロ以外戦った事は、無い。
今も雪だるまになって永劫を過ごす化け物が居るはずだ。
イギリス到着。イギリス本部を目指す。
「で、詳しい話、あたしだけ知らねえぞ」
「ああ。そうやったな」
以前のイギリス襲来。蹴速、ジン、超騎士は当事者だ。
「んー。と。怪物が、地中深くから、湧いて出てきた。正確に言えば、海底か。そいつら、総数数千万か、の怪物共がイギリスに大挙して押し寄せてきた。んで、超騎士は、それを完全に防ぎ切り、おれらは怪物を殺し尽くした。そういう話やね」
「ふーん。なんか、似たようなものだな。ほんとに」
言われてみると。蹴速も向こうを思い出した。初めてアオミドリと会った時。軍勢を率いていた?アオミドリ。
すると、あいつらも率いられていたのか。当時、そんな事は思いもよらなかった。デカいイナゴ、で結論付けたのだった。
「亜意の言う事、一理有るなあ」
「その確認をしようとして、失敗しているようですね」
「ああ」
地中への探索は、妨害を受け続けている。出てきた怪物は、付いている兵が排除出来ているが。
「今回の侵攻が収まったら、おれが行ってみても良いな」
怪物を率いているモノ。何だろう。ワクワクする。機械に操られているとか、普通に悪の親玉とか。
「置いてくなよ」
「そうそう」
「お供します」
「心強いけどよ」
泥まみれの埃まみれだぞ、多分。と、思ったが、そんな事を気にするメンバーでは無かった。あれで、海鶴も己黄も綺麗好きなのだ。祝寝に教わった陸の美容を試していたりする。可愛いものだ。
「ここや」
巨大な城。コウチも日本も、本部建物はそこまで大きくない。むしろ演習場やらの屋外にスペースが取られている。武器庫も大きい。こちらは、それらを内在させたタイプだろう。
超騎士の登場に、一斉に人が集まる。彼女は、イギリスナンバーワンなのだ。
「話を、聞きます」
その場の全員が静まり返り、代表して本部付きの職員が話し始めた。
「侵攻の予兆有り、との事。3つの掘削現場。そのうち2つが撤退を決めました。怪物の出現量が、20倍になったようです」
「ふむ」
周囲の人間も聞き及んでいる事だが、超騎士と共に耳を澄ます。
「各地に兵を散らばらせた所、上陸しているものも発見されました。幸い人的被害は皆無。我々は、これをアレの再来と判断。警戒を開始、備えを始めています」
具体的には、各国の兵をかき集めている。全世界に向けて情報を公開。
「分かりました。私も警戒、守護に立ちます」
おおおおおおお
沸き起こる歓声。現実に一度、本当にイギリスを救った人間の発言だ。勢いだけの言葉、ではない。
「ありがとうございます!」
「いえ。騎士団は、健在ですか」
「はい」
「では、得物はアックスを選ぶように」
「伝えます」
騎士団の主要兵装は、アックス、ソード、スピア。敵によって使い分けるのだが。今回は一撃で殺させ続けた方が良いだろう。一個の強敵相手なら、ソードとシールドだが、今回は物量戦。スピアは戦列が整っていればこそ。騎士団は閉じこもっているわけにはいかない。
このような事、言う必要も無いのだが。超騎士が鍛え込んだ騎士達だ。だが、同じ結論に達している事を伝え、自分達の判断に安心感、信用を持たせる。自分を信じて良い。
超騎士は、結界を極薄く小さくイギリス全土に張り巡らせる。敵数、150。全て近くの兵が対応している。さらにその付近の地中に伸ばす。
居る。無数に。10万からは、もう数え切れない。
「再来を、私も信じます。決して油断しないよう。私もあの時より強くなりました。敵に同じ事が有っても、不思議は無い、のです」
「はい」
神妙に聞く全員。
「おれはどうする?」
「そうですね。その、敵が湧いてくる場所。直近で構いません。そこに行き、敵に向かって突き進んでください。上手く行けば、どうにかなるかも知れません」
「ふむ」
先程の、か。
「良し。超騎士は、ここに居るんやな?」
「はい。結界に全力を注ぎます。自身の守りは、誰かにしてもらいます」
「おれが残るよ」
「ジン」
「亜意は、蹴速に」
万が一が、有るのか。ジンらしからぬ、慎重策。
「良いんじゃねえか。バランスは取れた」
確かに。蹴速を何時でも移動、治癒させられる亜意。超騎士を守りぬくに充分な実力者ジン。
「じゃあ行って来る。亜意、離れるなよ」
「おお」
「行ってらっしゃい!」
「お気を付けて」
「ああ」
蹴速移動。聞いた場所まで、数分。現場では兵が頑張っている。
「邪魔をするぞ」
「ああ?・・・蹴速か」
「おお。んじゃ」
蹴速は掘削現場に突っ込む。ひと蹴りで50メートル、怪物ごと、掘る。敵が湧いてくる穴を視認。
「どうするかな」
考えつつ。蹴り塞ぐ。
「おい」
「ん?」
「何時までこのままなんだ」
「嫌か?」
「そうじゃ、ねえけど」
亜意は蹴速が抱きかかえたままだった。何時でも蹴速を癒せるし、移動も即行える。最も合理的なポジションだ。
問題無さそうなので、そのままで地下1キロ程を掘ってみる。出てきた怪物は数千体。まだ、そこまでの数じゃない。穴を見つけ次第塞いでいるので、出現も穏やかだ。
「んー。何処から来ているのか、分からん」
「ああ。方向が特定しにくい」
あらゆる方向から出てくる。アリのように。巣は、何処だ。
地面の特定方向を蹴り固め、それ以外を掘り進む。適当に、掘って掘って、20キロ。まだ変化は無い。超騎士からの連絡も無い。
200キロ。空間に出た。
「お」
「おお」
整然とした空間。道路すら有る。
「来たか」
「だな」
超騎士のケーブルを引っ張る。
「空間に出た。突っついてみる。そっちに漏れ出したらすまん」
「いえ。好きなようにやってみてください。防衛戦を張り続けるのは、非効率です」
超騎士のお許しが出たので、進んでみる。
「お。ありがとうな」
「仕事だからな」
亜意が癒してくれた。疲労が消えた。汗をかく一歩手前位は疲れていたのだ。
通路を進んでみる。大きなトンネルだ。人間の作ったものに、見劣りしない。流石にスベスベの表面ではないが。これを怪物が?であれば、怪物が地上に出る、このような綺麗なトンネルを作ってない理由が無い。別物と判断する。では、何だこれは。
怪物の出現がピタリと止んだ。一切出ない。
「やばくねえか」
「ふむ」
危険な感じはしない。だが、亜意の気持ちも分かる。怪物をコントロールしている何かは、間違いなく居る。虫除けの薬を撒いたように、このトンネルに近付かない。何かが意図的にやっているのだ。現在正体不明戦力不明。故に亜意は警戒した。
「光か」
「おお」
今までは、亜意の魔力光で照らしていたのだが、他の光が。
明るい。
陽光。
地上?出てしまったのか?
「ここは、地上か?」
「いや。ずっと重力に従ってた。まだ、地球の裏側には届かんぜ」
「じゃあ、ここは、地中には違いないのか」
「多分、な」
蹴速も亜意も、戸惑っている。地の底に有るのは、マグマだけではないのか。
魔界の地の底を掘った事は、亜意もない。だから、何とも言えない。
てくてく散歩。怪物の姿はない。ただの野山だ。なんだこの世界は。
怪物の生産工場が有る。巣が有る。そういう想像しかしていなかった。
鳥の鳴き声がする。もしや、斜めに掘り抜いてしまったのか。蹴速は、自分のルートを疑い始めた。
「いや。あたしも斜めに来たんだと思って思い出してみたが、お前の言う通り、落ちて来たはずだぜ」
「うーん」
分からん。分からんので、進んでみる。
本当に明るい。イギリス時間に合わせた時計で、今、午後6時。
そろそろ何かに出会いたいものだが。
街に出た。
「人間が居る?」
「地底人やろうか」
街と言っても、人間の住んでいるような、細かい作りではない。アリ塚が点々としているというか、住居であろう、と想像されるものが、所々にある。
「何故、住人が居らん」
「逃げたか、捨てたか」
ここは、既に放棄された跡なのか。
ぎいぎい
「ん?」
「さっきまでのと、違うな」
怪物。だが小さい。先程まで湧いていたのは大きくて3メートル。小さくて1、5メートル。目の前のは、50センチ。子供だろうか。
襲って、来ない。
「キを連れて来ちょったら良かったな」
「だな」
キなら通訳が出来る。
ぎぎ
「んー」
蹴速は無抵抗の怪物を殺した。
「可哀相やったな」
「気にするなよ。っていうか気にしてたのか」
「おれも、敵でないものを殺すのは心が痛むぜ」
「ふーん」
「人間に取っての害虫と信じるが、よ」
「どうでもいいじゃねえか。気に入らねえものは殺せば」
「同感やけどよ」
少し気落ちした蹴速は、亜意に慰めてもらいながら進む。
以降、怪物の姿は、見えなかった。
30分経つまでは。
敵総数100億。それが蹴速目掛けて、襲いかかってきている。
「敵が減らんぜ」
「全く」
敵が視界に入るなり、殺し尽くし、100万は殺したはずだが。
「面倒やな」
「狭すぎるな」
以前蹴速が戦っていたのは、空中。自由自在に場所を変える事が出来た。今は、空間が限られ、敵の死骸で更に埋まる。もちろん、適度に掘り、空間を確保しているのだが。何も考えず戦えるわけではない。
千万を殺した所で、蹴速は飽きてきた。時間もそれなり。
「晩飯にしよう」
「まさか・・・」
「ああ。食べさせてくれ」
「恥ずかしいだろ!」
「仕方ない。おれの両手は、使いゆう」
現在、普通に戦っているのだ。
「リュックに入っちゅうけ、取ってくれ」
「おお・・」
どういう状況であっても数日分の保存食は持っている。連戦の可能性はいつだって有る。
亜意は渋々、蹴速にご飯を差し出し、食べさせてやった。これは、もしや、新婚夫婦がやるあれなのか、と思いながら。
「美味い」
「そりゃ良かった」
「嫁に食べさせてもらうと、よりな」
「・・・そうかよ」
このうるさい男を黙らせてやった後、自分も食べ始める。
自分を抱いている人間の化け物っぷりが、良く分かる。亜意は今、おむすびを食べている。米粒が、ポロリと落ちそうだが、落ちない。少しの揺れで落ちるのに。そう、少しも亜意は揺れていない。蹴速のひと蹴りで、甚大な被害が敵に出ているのに。亜意はその余波を、空気からしか感じていない。自分は一切揺れていない。ただ、抱かれているだけ。
怪物はどちらなのか。今、殺し尽くされている方か。殺し尽くしている方か。
亜意は、蹴速をもっと好きになった。この怪物の子を産める事を幸せに思った。きっとゾクゾク出来る日々だ。これからも。生まれた瞬間父親に戦いを挑むような子であって欲しい。そんな子を強く育てたい。
熱を持った亜意の体を眠気か、と思った蹴速は更に安定性を優先した。数は多いが、全く弱い。半分眠りながらでも、どうにかなるだろう。
1億程殺した所で、超騎士に連絡を入れる。蹴速はかなりの速度で動き回っているのだが、超騎士のケーブルは切れていない。すごいものだ。
「そろそろ休憩に入りたい。ジンは働いた?」
「いえ。本部は平和なものです」
「ジンと代わりたいけど、大丈夫か」
「大丈夫だよー!」
「おお」
ケーブルにジンの声も。蹴速はすぐに、帰った。怪物の速度は、時速50キロ。蹴速は時速1万キロ以上。差はつく。
「ジンを待つのか」
「おお。出入り口で待ちよる。ここをジンに塞いでもらえば、おれらあは休憩。また明日や」
「来たよー」
ジンが来た。蹴速が地上に戻るのと、ほぼ同時。
「じゃあ、おれらあは眠りよる。任せたぞ」
「うん!ゆっくり休んでね」
「任せた」
蹴速、亜意は本部へ。ジンは穴の真正面に陣取る。周辺の兵は、交代交代の監視だ。
「蹴速の代わりは、おれにしか務まらない。フフ」
1人悦に入るジン。それを聞いているが、何も言わない超騎士。
ジンはこの後、蹴速の起きる6時間後まで、2千万を殺した。
「ん」
「起きたか」
本部に1室を借りた蹴速と亜意。同じベッドで眠っていたが、亜意のが目覚めが早かった。
顔を洗い朝飯を食い歯を磨き、ジンの下へ。
「おはよう」
「おはよう!」
夜を徹して動いているにも関わらず、ジンは動きが鈍っていなかった。向かってくる怪物を次から次へと倒している。
「引き受ける。午後6時に交代で、どうな?」
「良いよー。もっと短くてもね」
「休んで、買い物とかもしておけ」
「分かったー」
ジンは帰って行った。
「買い物?」
「あいつに足りんのは常識。適当に慣れていったら良いんよ」
「く、ふはははっ!お前に常識を説かれるとは!はははははっ!」
「ええー・・・。その反応は、ショック・・」
言葉通り、蹴速は精神にダメージを負いながらも、昨日の地点まで突き進んだ。道中も昨日と同じ。更に言うなら、以前の来襲と同じ。まるで問題無い。
8時間経過。10億程か。蹴速も亜意も、もちろん数えていない。終わりは必ず有る。相手は、魔神シロではないのだ。
「あたしは、必要なのか?」
「誰がおれにメシを食わせる」
「ジンは、どうしてるんだ」
「我慢してもらっちゅう。やけ、長い休憩で芯から回復してもらう」
「ふん」
「おれらあ、なら大丈夫やろ?」
「それは。当然だ」
亜意に言い聞かせた蹴速は、ジンの来るまで、無事合計15億を潰し、交代。
その後、6日をかけて、100億の敵は総滅した。
今回の蹴速の取り分は、10年分の生活費に相当する。超騎士は待機していただけだが、1年分の生活費相当はもらった。もちろん、生活必需品である、木こり斧分は、もらった。ジンは儲けの半分を家族に送っている。
「原因は掴めず。しかし、道は開けましたか」
「ああ。開けたというのも、言い過ぎかも知れんが」
「正式に調査隊を送りましょう」
「ああ。頼む」
とんでもない物量ではあるが、それは確認出来たのだ。兵のラインを作り交代出来るようにすれば、何とかなるだろう。人手が足りないからと言って無双双児を加えなければ。やつらが来れば、敵は倒せるが、イギリスもひどい目に会うぞ。
「それじゃ、アフリカやな。それで向こうに帰ろうぜ」
「ああ」
亜意が居るにも関わらず、蹴速達はあちらに一時帰宅していなかった。理由としては、緊張感を途切れさせたくない。という最もらしいものが有ったが、本当の理由は、殺伐とした己を、子供達に見せられない。敵を殺すにためらいは無い。だが、それを子供の前で語るのは、今の蹴速では、出来なかったのだ。
この悩み、誰にも話していない。亜意にも建前を話しただけ。
無論、何か悩んでいるな位、嫁全員が気付いている。
亜意は自分が側に居れば、どんな事を考えていようと、問題無いと思った。超騎士は蹴速の外敵を蹴速より速く排除し、蹴速の心労を和らげようと考えた。ジンは。
「蹴速。何を考えている」
ストレートであった。
「何、とは」
「なんで、家に帰らない。そして、疲れた顔をする」
「いやまあ。敵も多かったし」
「あれの1万倍来たら、それは疲れるだろう。でも、蹴速があれぐらいで疲れるわけないだろ」
「・・良い信頼や」
「言え。言うまで、離さない」
「ふ。だから、言うたろ亜意」
「あたしもジンに賛同する」
「私もです」
「参ったな」
ジンはずっと蹴速を見ている。一度も視線を離さない。
「おれは殺し回った」
「うん」
「どんな仕事をしてきたのか、子供に聞かれるのが、怖い」
「?地上を守るお仕事、で間違ってないじゃない」
「おお。そう、なんやけど」
「めんどくせえな。獲物を屠って報酬を得ている、で良いじゃねえか」
「うん」
「私と二人三脚、イギリスを守った、と言う事で」
超騎士をジンと亜意が睨むのと同時、蹴速は吹き出した。
「ふっ。すまんな」
涙もこぼれた。
これほど見事な嫁達をもらっておきながら、子供達に合わせる顔が、無いだと?ここに、有るだろうが!
「アフリカを解決したなら。すぐさま帰って、子供らと、遊ぶか」
「うん!」
「仕方ねえな」
「はい」
蹴速は、心からの幸せを感じた。支えてくれる人が居る。それも、こんなに沢山。
必ず、おれが、全員幸せにしてみせる。蹴速の嫁で良かったと思わせる。力づくで。




