特盛、友を得る。
竜の肉で、バーベキュー。フ・ズィの人間も多数来てくれた。三完林の姿も。
「まさか。本当に倒すとは、思っていませんでした」
「どうってことないっすよ!コウチの強者なら、楽勝っすよ!」
熊大将は、こいつは、まだ死にそうな気がして、独り立ちを勧めたのを少し悔いた。
ただ、多分に外交的な発言だろう。三鬼梅が言っていた、コウチにとっては造作もない、という内容に合わせているはずだ。こいつが、三鬼梅の言葉を蔑ろにするとは、思えない。
「竜の肉を、普通食べますか。驚き桃の木山椒の木です」
「ああ。それは、おれの発想じゃないんですよ。前、ウチで同じく竜肉のバーベキューやった事が有って。それで、美味いんだなって覚えていて」
う、と熊大将は心でつんのめったが、顔には出さなかった。
「美味しいです。確かに」
「食ってください!野菜とか調味料とかは、全部フ・ズィの持ち出しですからね、ガンガン食ってください」
「遠慮はしませんよ。ものすごいものです、全く。三鬼の方の言っていた事が、まさか事実とは」
「?梅さん、何か、言ってたんですか?」
「コウチにとっての庭先でしかない、とか」
「はあ」
?
熊大将は、特盛の評価を下げて上げた。思ったよりも賢くない。そして天才。何も考えずとも、良い方向に転がるなら、それは間違いなく天賦の才。
特盛は、梅の言葉を忘れたわけではない。ただ、腹心とか選んだとかが嬉しすぎて、そればかりを繰り返し想っていた。強く強く、心に刻んだ。
竜肉は、集まった数百人で食べても、まだ余る。
「焼くだけ焼いて保存、で良いんじゃないですかね」
「ですかね」
明日は竜肉おにぎり、竜肉サンドウィッチが、出回るのか。
「今日は大変良い余興でした」
「出来れば、もっとやりたいですね。週ごと、月ごとで。もちろん竜でなくて、猪とかで良いんですけど」
「ええ。楽しそうですね」
堅そうな、フ・ズィ代表と、垣根なく会話を。これが、平特盛の人徳。
「どうすか。やっぱり熊大将としては、熊肉も良いものですか?」
これが、平特盛の良さであり、愚かさ。
「うむ。熊も美味いな」
普通に好きだから、問題無いが。
楽しい。楽しいから、特盛は、フ・ズィを好きになった。
食うだけ食って、寝転がる。今日の魔物退治は、これでオシマイ。
「良い日だな」
「はい」
鳥が、鳴いている。
いや、鳴き過ぎだ。
「なんだあ?」
「また、竜か?」
動物が、人里に向けて逃げてくる。只事では、ない。
「特盛さん」
「うっす。何事ですかね。これは」
「私は、考え違いをしていました。あの竜が、不進林の主だと」
「へえ」
あれが、雑兵だと?
「不味い」
熊大将は、感じていた。火焔流と同じ、いやそれ以上の圧力。
「逃がさせろ!時間は稼ぐ!」
「はい!」
三完林は、熊大将の指示に従い、部下に避難を指示。
「三完殿?」
「私も多少の術式の心得は、有ります」
フ・ズィ代表が、多少なわけは無いが。
「3人!精鋭!勝てるっぜ!」
特盛は吠える。
「そう、だな!」
「ええ!」
来る!
大地そのもの!
表面を緑が、木が覆い、その下に茶色、土か?全長およそ、数十キロ。救いは、動きの遅さ。動物達が、逃げきれる速度でしかない。ただ、これを、どうやって斬る。特盛の斬場刀ですら、18メートル。スケールが違いすぎる!
「トロい!的が来やがったぞ!細切れにしてやっからよお!」
特盛は、即飛び込んだ。熊大将が続く。
切り刻む!さっきの竜に比べれば硬いが、誤差に過ぎん!斬場刀の前では、特盛の前では!
熊大将が巧みにカバーしつつ反撃を許さない。
敵の攻撃は、自由に動く木。大木から小枝までが、自在に襲ってくる。さらに振動すれば、石が弾丸になる。
その全てを、特盛は斬る。それでもくぐり抜け来る襲雨を熊大将は、弾ききる。
超騎士の結界と同じく、三完の結界は、人里に行きにくく、不進林に行きやすく設定されている。ここからは行かせない!
主にも多少の傷は増えた、が、大きすぎる!
何百メートルという単位で、特盛がぶった切ったのに、尻尾の1つも、斬れていない。足指を1本斬ったかどうか。
主は怒っているのか、泣いているのか、それすら分からん。変化も感じ取れない。
「こちらの体力が、先に切れる!三完!治癒を使えるか!」
「無論!しかし、傷病を癒すのが主目的!」
「良いっすよ!おれ達ならあ!充分!」
「行け特盛!少しなら保たせる!」
「おお!」
斬場刀を、敵を大地ごと貫きその場に縫いとめ、三完の下へ。
「頼む!」
「はい!」
回復。ブチブチにちぎれていた筋組織、敵の行動範囲に居たせいで、どうしようもなく負っていた怪我、それら全てが治る。全快まで、5分。特盛は、2分で切り上げる。
「良し!行って来るぜ!」
「気を付けて!」
2分、場を保たせた熊大将は、ギリギリだった。腕と足の肉が抉れている。出血が、不味い。
「行け!」
「ああ!任せる!」
熊大将は急いで三完に癒してもらう。生きてさえいれば、血液も作れる。ただ、急いで作られた血液量に、体がびっくりする。それを抑え込むのは、本人の意思だけだ。
「・・ふっ・・ふっ」
「ゆっくりで構いません。特盛さんは、上手くやっています」
「・・ああ」
特盛は、斬りまくっていた。
ここに来てから、体が軽い。家庭内で、おれだけ働いてないストレスから開放されたためか!と思っていたが、違う。訓練中付けといてくれ、と蹴速に頼んだウェイトが、外れきっているからだ。全身に80キロ付けて訓練を行っていた。
おかげで1週間、ずっと調子が良い。
「待たせた!」
「ああ!何とかなりそうだぜ!」
敵の体力は、恐らく尽きない。だが、こちらも三完の精神の保つ限り、倒れない。それまでに、倒す!
だが!
敵の、腕に当たる部位が、盛り上がり、崩れる!
土砂崩れが起きた!
「ちい!」
三完を下がらせる。熊大将は全速で三完を抱きかかえ退避。目の端でそれを捉えた特盛は、数十トンの土砂を、跳ね返す!
完全に目をかっ広げ、全開の一撃。
「舐めんぬあ!斬場刀をおお!」
大量の土砂を敵、頭部と思われる部位に弾き飛ばす!敵は目を閉じた。ならば!勝機!
「オオオオオオオオオオッ!!!」
斬場刀を上段に構え、溜め、斬る!
全力!
斬った!感触有り!
「特盛!下がれ!」
意味不明!だが、従順に下がる!
ごおおおおおおお
土砂崩れ!それも、先程のものとは比べ物にならない量!
「逃げろ!飲まれる!」
熊大将は完全に尻尾を巻いて逃げる、三完を抱いて。
特盛は、逃げない!一緒に逃げたら、三完が死ぬ!
「おおおおらあっ!来いやあっ!!」
ぐ、うううううりいいいいいいい
斬場刀を大地にめり込ませ、咄嗟の壁とする!岩盤をえぐり、地層を剥き出させ、出来た土山を駆け登る!
跳ぶ!
振り下ろす!!
ぶった切る!!!
「死ねあ!!」
敵、頭部に直撃!
させ、られない!腕に防がれた!
「クソがっ!」
速い。馬鹿な。敵の速度は、既に記憶している。あんなスピードで、動くわけが。
腕が、腕じゃない。
特盛はとくと見た。敵腕部を構成するもの。表面は確かに木、土。だが、真の内側は。キノコ。菌類。あれが、とんでもない速度で増幅増殖変化を起こしている。あの速度の理由は、これか!そして、特盛が熊大将が付けた傷が、癒えている。
「キノコの、化け物が。人間、舐めてんじゃ、ねえぞ」
特盛の気が充実していく。この、化け物を目の前にして。軽い傘のように斬場刀を片手に、特盛は、主に近付く。
消えた。
上!特盛は跳んだ!そして空中で3度振った!
敵、腕部は近いポイントを3度ぶった切られ、ちぎれかけだった。キノコの増殖スピードを以ってしても、まだ表面がくっついているだけ。
行ける!
「お お」
特盛、最集中の一撃。
敵、腕部はちぎれた!直径3キロほど、数百トンのものが、ズシンと落ちる。
だが、特盛の体力もキツい。三完は後方に居る。が、そこまで下がれば、三完が危ない。熊大将はこちらに来てくれている、しかし、足場が悪すぎる。数秒が、足りない。目の前に、襲い来る、無数の木、石。避けきる体力が、無い。
「クソが」
それが、平特盛、最後の言葉になる所だった。
「よお」
「あ?」
救援!木も石も、全て弾く!
「とっとと治してもらってこい。ここはヤマトが引き受けた」
「お、おお」
特盛は三完の下に向かう。途中、熊大将が、指を立てて褒めてくれた。
「久しぶりだな」
「誰?」
「てめえ・・。ま、コウチの人間に、おれ達ヤマトレベルの知性を期待するのは、酷だったなあ」
「んだとお」
「はいはい。喧嘩は後にしてください。こちらは、ヤマトからわざわざ来てくれた方々ですよ」
「はー・・あ!お前はナンバーツーかスリー!」
「ツーかスリーってなあ。おれはナンバーツー、十言 充言。戦ってるやつがナンバースリー、九重 九連」
ヤマトに連絡が来たのが、20分前。それからこいつらは、フ・ズィまで駆け通した。車では、遅い。時速300キロ超で走ってきた。フ・ズィ周辺国の約定に則り。御都は、まだガタガタで人員が出せない。ヤマトにはナンバーワンが残っている。
よく見れば汗をかいている。息も切れている。有我並みの能力を持っているやつらが。
特盛は、感じ入るものが有った。こいつらはこいつらなりに。任務に殉じている。死ぬかもしれない仕事に、息せき切って。コウチの、潜在的な敵かもしれない。それでも。
治療は終わった。
「良し!行って来る」
「今回は、共闘だな」
「ああ・・・」
特盛、十言、九重、熊大将が並ぶ。
特盛が、吠える。
「てめえらの!命!おれが預かるあ!生かして!返してやるぜぁ!」
「何で、てめえが指揮ってんだあ?舐めんなよ」
「クマモトトップだったか、よろしく頼む」
「ああ。心強いぞ」
4人は、一見バラバラで、どうしようもない人間達にしか見えないが、仕事は全員がきっちりしていた。
援軍は強かった。どちらも神無以上のレベル。有我並みというのは誇張表現では無かった。
3人が削り、囮になって、特盛の攻撃機会を増やす。黙ってそう結論づけられ、全員が即興の最高チームワークを発揮していた。
常人なら、特盛に巻き込まれて死んでる。全員きっちり距離を取っていた。それでいて、お互いの援護をし合える距離を外さない。強者の見本だった。
だが、それでも、敵は化け物だった。先程ちぎった腕が回復を繰り返している。特盛が幾度か、更にぶった切っているのに。
「おい!こいつは、死ぬのか!」
「知るかよお!」
「使えねえ!」
「ああ!?死ぬまでやりゃ!死ぬだろうがあ!馬鹿がっ!」
誰も特盛だけには、言われたくなかったが、それが正答だった。
敵が鈍らない。元より鈍いので、気付きにくいのも有るだろうが、有我クラス2名を擁していて、突破口が、無い。
治癒を済ませた熊大将が復帰。次は特盛が回復に。
「どうですか」
「楽勝っすよ」
言葉通りの顔色ではない。敵がピンピンしているのも、そうだが。三完の疲労がやばい。このメンバーで三完が唯一、働き通しだった。
治癒を何時まで使える。特盛はそう聞くべきだった。
「私なら、大丈夫。存分に剣を振ってください」
「いや。でも」
「フ・ズィが終われば、周辺諸国も飲まれます。この怪物に」
「はい」
「ここで、仕留めてください」
「はい!」
クソが。自らの口先だけに、憤りを止められなかった。この怒り、全て敵にぶつける。
特盛復帰。次は十言。
「昼寝でもして来いや!」
「そうさせてもらうぜ!」
十言は時を無駄にせず、速やかに三完に治癒してもらう。
「大丈夫ですか。治癒が切れれば、おれ達も終わりです。具体的に、何時まで保ちます」
「ええ・・。後、1時間続ければ、厳しいかと」
「そうですか・・。もうしばらく、踏ん張ってください。何とかしてみせます」
「はい」
十言復帰。情報を味方に伝える。次は九重。
「行って来い!」
「ああ!」
九重も同じく。とっとと治癒をしてもらう。
「増援が無いと、キツいかもです。この辺に強者は、居ない、ですよね」
「はい。正将軍も今は亡く」
「ですよね」
コウチのクソ野郎共が。御都の事なので怒りは無いが、面倒な事を!
「熊大将!行ってくれ!」
「ああ!」
熊大将離脱。九重は三十鬼を呼ぶ事を味方に相談。
「ヤマトナンバーワン?呼べ!来れねえ役立たづなのか、そいつあ!」
「うるせえ!!」
トップクラスを国から離すのは、怖い。3名家をコウチから離すのを恐れたように。三十鬼が居てくれれば、本国はどうとでもなる。そういう安心感も有る。
熊大将復帰。まだ怪我を負った者は居ない。しばらく4名で戦える。
「全員が戦えるウチに、呼ぶべきだと思う」
「うむ」
「悩むな!呼べ!周辺も飲み込むっつってたぞ!」
「分かってんだよクソが!」
特盛も、何故呼ばないのか、何故来ていないのか、それぐらい分かっていた。しかし、今ここで食い止めねば、話にならん!
止めるのは今!ならば!止めるのは、平特盛!
「援護!」
「答えてねえウチに走るんじゃねえ!」
抗議しつつ、全員で特盛の動きやすいように仕込む。
「頭は!何処だ!」
緑と茶色の迷彩。さらに増幅増殖を繰り返すキノコによる変化のおかげで、そして巨大過ぎて、1回見失うともう分からない。
「右だ!!」
九重が教えてくれる。誰かは、必ず見ていてくれる。
悔しいが!頼れる仲間よ!
「オオオオオオオオオオオオ!!!!」
全身全霊。先程の回復から、意図的に剣をあまり振っていなかった。そしてその事に、残り3名全員が気付いていた。やる気だと。
頭部にぶち当てる。ダメージは入っているはずだが。頭部直径およそ15キロメートル。とても、一撃で、どうにかなるサイズではない。
う、おおおおおおおおお!
それでも、それなら、おれが!何とかする!
鬼神だってんだろお!おれはあ!
鬼神、平特盛は、今付けた切り口から、侵入。斬場刀でさらに広げつつ、敵体内に潜り込む。
「馬鹿が!敵に入りやがった!!」
信じられないキチガイだ!取り込まれるだろうが!あの回復力を目にしているのに!
「特盛なら、やる!おれ達は、時間を稼ぐ!保たせるぞ!」
「畜生!やってやるかよ!」
「熊大将、行って来い!」
「ああ!」
繰り返し。回復し戦い、回復。致命傷を負わないよう、怪我を癒しても消えぬ痛みに集中力を持っていかれないように。常時気を使いつつ。決して諦めない。ただ、己の出来る事をやるだけ。
各国のトップクラスが、ただの時間稼ぎに徹して、腐らない。これが1流。淡々と自分の仕事をする。
特盛は侵入した目的を持っていなかった。ただ、外部からの攻撃でどうにもならないなら、内部から切り刻んでやる。それだけ思っていた。
心臓のようなものが有るのか?キノコが動くエネルギー源は。
手当たり次第斬りながら、突き進む鬼神。
ぽっかり空いている場所に出た。食道?
「くせえ」
実は、植物の良い匂いしか、今までしていなかった。だが、ここで変わった。何か違うのか。
見えた。アチコチに核が。こいつが、魔力を維持し続けている。だからキノコがあれほど自在に動き回れるのだ。そして自在に動くキノコが外部から魔力を取り入れ、核を維持する。良く出来たものだ。
特盛は即座に斬った。斬れた。体内に防御機構は、無いようだ。安心した特盛は駆け抜けた。体内数十キロ、総数およそ400個だろうか。
そろそろ限界に達した特盛は、適当に外部への切り込みを入れ、脱出。現在地に迷いつつ、怪物周辺を走り回って仲間に合流。
「ガンガン崩れてるぞ!やりやがったなてめえ!」
「当然の事だろうが!おれが!行ったんだからな!」
治癒を終えた特盛も攻撃に参加。3名も順次回復に。三完もそろそろ限界だった。魔力切れが近く、体が辛い。それは、味方の前では見せないようにしていたが。
化け物の肉体は、崩壊を起こしていた。頭部は半分、手足は、完全に落ちていた。胴体部が、7割ほど残っているか。
今までは完全回復されてたので、最早勝ったも同然。
3名で胴体を削りまくる。特盛は頭部を徹底的に叩き潰す。
特盛の最後の一撃で、完全に終わった。
「ふうううう・・・・・・・・」
「はあ」
「終わった」
「良く、勝てたものだ」
終わった。皆、敵残骸を前にし、復活するなと願いながら、見張っていた。
復活は、無かった。もちろん特盛は見ている。あの構造、いつかまた復活するに違いない。
だが、今は、終わったのだ。
「勝ったああああああああ!!!勝ったぞおおおおおお!!!!」
「うるせえよ!」
「ふふっ。確かに、勝ったな!」
「ああ!完全勝利だ!」
誰1人失っていない。何も損ねていない。完全勝利だ。
最も疲れ果てた三完を本部の部屋に連れて行き、休ませる。三完は皆を癒やし続けたが、自身は全く働き続けだったのだ。処理は戻って来てくれた人員に任せる。
祝勝会。竜肉の残りが、丁度良い事に、有る。
ヤマトの2名も、見張り継続という名目を作らせ、参加させる。
実に楽しい一時。
特盛は、新たな友を得た。
鬼神、平特盛の伝説。その幕が、開けた。




