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特盛、立つ。

 海鶴、己黄、出産。幸い、元気な子達だった。祝勝会の翌日に生まれたので、さらなる祝賀会が、落ち着いてから催される事に。


 海鶴の子が、1個。己黄の子が、1個。卵として生まれた。今、2人は卵を温め続けている。魔王陣も、子供達の面倒を積極的に見たり家事に関わったりで、2人を卵に集中させていた。


「わしがついておる。心配は、要らぬよ」


 蹴速は、仕事に出るつもりだったが、2人を置いて行けなくなっていた。


「おお」


「おぬしはおぬしの心のままに在れば良い。皆、そう望んでおる」


「この家を、頼む。祝寝と協力してくれ」


「蹴速に頼まれては、仕方があるまい」


 蹴速は、ジン、超騎士を連れて、元の世界で仕事をする。いい加減、実戦の感覚が鈍る。戦い続けなければ、弱くなってしまう。こちらの戦争は終わった。いざとなれば、跳んで行くつもりだったが。必要無かった。


「良いのですか。あなたに負担がかかり過ぎる」


「私は戦ってないしね。これ位は、頑張るよ」


 毎日毎日飽きもせず家事をしてくれているのを、無為に思う者は居なかった。祝寝には頭が上がらない。


「すぐに帰りますから」


「うん。気を付けてねジン」


「はい!」


「行ってくるぜ」


「うん。ありがとね亜意」


「あたしの好物を、用意しておけ。忘れたなんて言いやがったら怒るぜ」


「はいはい」


 必ず亜意だけが、飲む飲み物。冷蔵庫のストックがそろそろ切れる。


「入れとくから、早く帰りなさい」


「おう」


 蹴速、超騎士、ジン、亜意は向こうで出稼ぎ。


 戦争は終わった。


 鮭川との話し合いはあっさりと終わった。住民に危害を加えない条件で、コウチに配慮した交易を行う。ただし、魔物退治にコウチから人員を回す。


 御都、刀農は大人しくしている。戦力の大半を保持している刀農が恐ろしかったが、問題無いようだ。御都は将軍を全て失い、戦機は無いが、戦意は有るはずだ。しかし、これもまた、大人しいという報告が。どちらもこれからも軽く監視していくしかない。


 有我は神無に相談し、中つ国の後継者を探した。結局、二神ふたがみ 次郎実じろうじつ九郎くろう神朗かみおを用意する。彼女は神無の親戚になる。二神の分家になるのだが、幼少時から神無と共に訓練し神無が目をかけてきた者だ。以前神無が南海に赴いた時も、神無自ら、万が一の時のため、コウチに残すと決定した、言うなれば神無のスペアだ。この子飼いの部下を使う。分家の者は神化を使えたり使えなかったりするのだが、神朗はもちろん使える。


 神朗に、神朗の親を付け、さらに三鬼華虎にも出向を願う。がっちり固める。二神の血統、神の血筋を主張しつつ、腕利きのボディガードを付ける。


「しばらく頼むぞ神朗!」


「はい。神無様の支配下の国として、恥ずかしくない統治を致します」


「うむ!だが、気を抜け。気を張った状態では、お前の能力がどれほど高かろうと意味を為さない。叔父や三鬼の親父にも助けてもらいつつ、やるのだ。分かるな」


「はい。思い上がらず、張り詰めすぎず。いつも神無様に言われた事です」


「お前を選んだのは、次代の二神にコウチに、お前が必要だからだ。沢山勉強して来い」


「はい!」


 有我、神無、神朗、神朗の親、三鬼華虎で中つ国へ。


 神族会議を招集。全員をその場で斬殺。謀反の罪により、中つ国のトップはコウチの二神が継ぐと発表。二神の祖先が、中つ国から流れてきた事、神化を使える、正当な神族である事を公表。


 神朗は正式に中つ国トップとなる。


「親父殿。出張らせて申し訳ないな!」


「ふふん。腕前が鈍って、迷惑をかけやしないか。心配だよ、おれは」


「笑える冗談だ!蹴速の攻撃を躱した事、聞いているぞ!」


「相手にも、されやしねえ。息子になったが、たまらんぜ、あのガキ」


「俺の夫でもあるからな!その程度でなければな!」


「まあ。神朗は任せな。現役としては、ぼちぼち最後の仕事だ。きっちりやらせてもらう」


「ああ!あなたに任せられて安心だ!」


 神朗達とも挨拶を交わす。


「こちらは、二神の影響濃くなるでしょうが」


「構わん。有我の疑念を育てる事を警戒しているのだろうが。俺は有我になら、斬られても構わん。有我と梅になら。やつらが俺を斬る判断をしたならば、それは必ずコウチのためになるのだ。有我を。梅を。信じろ。俺を信じるように。俺が死んだ後は、有我と梅に従うのだ」


「・・はっ!」


「神朗をよろしく頼む」


「はい!」


「そのうち会いに来る。またな」


「コウチの声を待っております」


「ああ!」


 有我と神無はコウチに帰っていった。


「聞こえてたよ」


「聞かせたら、わざとらしいな!」


「神無ちゃんを斬る日は来ない。ボクが、その日こそを斬るから」


「有我ならではの言葉だな」


「梅ちゃんも同じだよ。3名家揃ってこそコウチのために働ける。それに、誰かが居なくなったら、皆、泣くじゃない」


「泣いて、くれるのか?」


「少なくとも、ボクが泣く」


 世界統一。成し遂げた者達は、固い絆で結ばれていた。絆などという目に見えぬあやふやなものを、しかし大事にした者達が、目に見える結果を出した。


 特盛は不進林を刈り取っていた。


「おおらあっ!この!コウチの!平特盛!止められるなら!止めてみろああっ!」


 全開だった。


 背後を守る熊大将が居なければ、あっさり死んでいただろうが。それでも正面戦力は全て特盛が斬っていた。


 ここに来て1週間。斬った魔族、1万超。9千は特盛だ。


 それは問題無い。実に順調だ。


 問題は、理由有って不進林だった土地から、森林が消えていく事。


 三完林は、黙認していた。あの者達なら、あるいは、アレを殺すかもしれない。もしダメでも、本部には何重もの結界が有る。前言通り、コウチの者の死に責任は無い。自由にさせておく。


 7日目終了。フ・ズィ本部の部屋を間借りしている2人は、風呂を上がって、特盛の部屋に居た。


「相変わらず、可愛いパジャマっすね」


「一着やろうか。同じデザインの物を集めた店が有る」


「え、あ、あの、お願いします!」


「ああ」


 熊大将は少し嬉しそうだった。愛らしい熊デザインの寝巻きを褒められて。もちろんナイトキャップも熊柄だ。


「お前、本当に新兵か。三鬼殿にはそう言われたが」


「そうっすよ。ここに来るまで、魔物斬った回数は、両手で数えられるんじゃないですかね」


「そんなに少ないのか!」


「う。気にしてるんですよ」


「ああ。すまん。天才なのか?そんな場数で、あの強さは」


「うーん。実戦は、知りませんけど、訓練は積んでます。普通よりは、多分」


 3名家より、とはとても言えないので、多分と付けた。


「うーむ。すごいものだな」


「まあ、それでも。梅さんや、熊大将さんよりは、全然弱いんですけどね」


 少し、項垂れる特盛。


「そのような事は」


 どう、なのか。熊大将壱日。クマモトトップ。並の兵では、もちろん相手にならぬ強者。それでも、特盛の火力の正面に立つ自信は無い。


 だがそれを、素直に話すと、目の前のこいつは、簡単に死にそうな気がする。


「これからの精進次第よ。梅殿も、おれも、皆が積み重ねてきたのだ」


「うっす!!」


 それから、特盛が既に既婚者である事等を話していたら、就寝の時間に。


「また明日。おやすみ」


「おやすみなさい」


 特盛は横になった。


 おれ。強くなってるのかなあ。魔物1匹殺すのに、ヒヤヒヤしてた頃。あの時に比べれば、なあ。でも、そんなの。どんぐりの背比べなんだよな。


「蹴速。もっとお前と戦いたい」


 もっと強くなりたい。胸を張って。梅の横に立ちたい。


 クマモトトップ、か。


 熊大将壱日は、まだ寝れていなかった。


 疲労は有る。前線に出るのは、久しぶりだった。早く寝て、特盛の面倒を見てやらねば。


 クマモトの子供達は、元気だろうか。自らの子、ではない。友の、部下の子らは。あの子らの親を失ったのは、コウチのせいでは無い。戦う決断を下した、おれのせい。おれは、大将だったのに。守れなかった。おれが、守るべきものを。


 今、何の因果か、未熟なる子を見ている。コウチの子を。


 守ってやらねば。


 熊大将は、どこまで行っても、大将だった。


 翌日。いつもと同じく剣の手入れを済ませ、不進林に入る2人。


 だが、轟音。


「・・・なんだ」


「竜?」


 熊大将は気付いた。この声は!


「気を付けろ!死ぬぞ!」


「はい!」


 敵は、何処だ!


 木だ!


「なんだあ!」


「構えよ!」


 特盛の剣を這うように、竜は側を横切る。


 熊大将は通り抜け際、斬ってみたが、大したダメージになってない。


「なんすか!こいつ!」


「竜だ!自然の化身!ひたすらに、強いぞ!」


 例えばクマモトの火焔流。あれは人間では勝てない。命を捧げ、眠ってもらうしかなかった。


「自然の化身んん?斬って良いんすか!」


「ああ!だが、逃げた方が・・」


「早く言ってくださいよ!」


 特盛は全力で振り下ろした!


 27トンに体重と勢いと腕力を重ね、落とす。2700トンまでは跳ね上げられる!


 竜は片足を斬られ、身悶える。


「すごい!竜を!」


「トドメはまだ!これから!」


 特盛は快速の踏み込みを見せるが、竜は、逃げる。


「舐めてんのかっ!」


 特盛は剣をぶん投げた。


 竜は胴体部を大地にくくりつけられた!


「オオオオオオオオ!」


 大地に縫い付けられた斬場刀は、しかし、特盛が握れば、筆立の鉛筆のように抜けた!


 力づく!そのまま!ぶった切る!斬る!切る!斬って!斬って!切り刻むあ!


 竜のサイコロステーキ焼く前、が出来上がった。


「はあ、はあ、はあ・・・」


 鬼神。熊大将の胸によぎった言葉だ。


「お前の、勝ちだ。特盛!」


「・・・へへっ!はい!!!」


 これで、梅に自慢出来る。


「おれが!三鬼梅、1番の部下!平特盛よお!」


 不進林で吠える特盛。


 だが、


「違うな。今から、お前は鬼神を名乗れ」


「は?」


 何を言っているのだ。


「お前は、強い。独り立ちしろ」


「あ、え?」


「鬼神。平特盛」


「・・おお」


 何故か、しっくり来た。


「おれが、コウチを守る、鬼神」


「うむ。そして、最早コウチだけでは無いぞ。この広い世界、全てコウチは支配したのだ。そこに住む者全てを暴虐から守る、鬼神。それが、お前だ」


「おれが、守る。全てを!」


「おれはクマモトを守る。お前は」


「おれが!クマモトも!コウチも!全て!面倒見てやるあ!」


「ああ!それが!お前だ!」


 鬼神、平特盛、誕生。


 クマモトトップ、熊大将壱日は、再び、その胸に火を灯した。火を点けたのは。


「おれだ!」

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