神無、攻める。
一一人有我はこの国の最高戦力だ。故に会議会談にも出向く必要が、極めて稀に有る。
「神無ちゃんどう?」
「行けるぞ!」
もちろん有我1人では心許ないので、二神太郎花八郎神無に声をかけ、同道を願った。それに護衛として青嵐亜意。つまり元魔王アイだ。
「何の用件なんだよ」
亜意は詳しくは聞いてない。ただ、朝食を取っていたら来てと請われたので、暇つぶしに来ただけだ。
「4ヵ国会談だよ。このまま仲良くしましょうねってだけ」
「お前が?」
「うん。ほんとはボクの仕事じゃないんだけど、国境を越えるの、メンドウだからね」
「そういうことだ!何!心配は無い!」
「ま、何でもいいさ。この前の深海は面白かった。他国ってのも楽しめそうだ」
「うむ!」
神無はこの中では、最も世間知に長けている。この中では。
「ボクは飾りだからね。よろしく神無」
「任せろ!何とかしてみせよう!」
「お手並み拝見っと」
どっしり構えていれば良い有我。本当にただ、見物に来ただけの亜意。神無が頑張るしかない。
3人は神無の運転するオープンカーで、会談の地、カガワへ。
カガワ。4ヵ国で、最も小さく最も強い国。一一人を以ってしても切り崩す自信はコウチには無かった。その他の2国の力関係も影響し、魔族との兼ね合いもあり。4ヵ国は均衡を保っていた。
「いい風だ」
「潮風だな!」
「ロマンドライブ街道かー。蹴速君と来たいなー」
「それは、またの機会だな!」
移動中の車上で剣を振るう有我。当然魔物は出る。
3人は気ままな会話を楽しみつつ、カガワ首都に到着。本部に向かう。
会場には、最後に到着したようだ。メンバーが揃っている。
「ようこそ、一一人、二神の方。良き同胞よ」
「うむ!しばらくだな、カガワの方よ!」
神無は何度か、こういう場に出ていて顔見知りも多い。有我はあまり経験が無い。だから、黙りこくっている。亜意も同様、じろじろ周囲を見渡しつつ。
他国も各々トップを揃えている。ナンバー1は間違いなく居る。多少亜意は血の気が湧いた。
「今回、目玉はコウチの方だ。出来れば協力願いたい」
「ふむ。話を聞こう!」
神無が話を進める。
「魔族と友誼を結んだ、とは事実か」
「うむ!間違いない!」
秘してはいない。だが、耳の早い事だ。もちろんコウチだって他国に事有れば、走らせるに決まっている。人の事は言えないが。
「そしてコウチには魔族の被害が、めっきり失せたとか」
「それも間違いない」
「その情報を頂きたい。出来れば」
魔族との友誼までは求めない。最低限をもらう。
「すまぬな。個人的に協力してもらっているのだ。国として助力を得ているのではない」
「ほう。個人的に、魔族と」
「うむ!」
少し目が厳しくなってきたか。有我、亜意ともにどこ吹く風だが。神無も落ち着いている。この場に、蹴速より強い物は居ないのだから。
「そちら。コウチトップ、一一人の者とお見受けする。気にはならないか、個人的な魔族との付き合いとやら」
トクシマトップからの言葉。有我は。
「どうでもいいかな。コウチに得になる内は。そうでないなら、問題だけどね」
「鷹揚であられる」
「ふふん」
受け流す有我。神無としては、魔神シロに雑用をさせる訳にはいかなかった。故にこの話、へし折る必要が有る。
「御3国は問題ないかな!」
絶妙な会話運び。
「問題はない。コウチに遅れを取りそうな事以外は」
「同じく」
「同感」
あまり、会話は弾んでいないようだ。
「問題無ければ会は終わりだ!良い会だった!」
「もう少し、ゆるりとしては?」
「そうそう。積もる話も有りましょう」
「話を聞きたい」
神無は、悩んでいた。有我は決めた。亜意は有我の態度に気付き、ニヤけた。
「神無ちゃん。コウチの、最終目的は?」
「・・・」
「準備は出来てるぜ」
有我と亜意の言葉に、他国の人間は、少し警戒を始める。
「コウチの最終目的は、世界統一。目標は、支配!征服!」
有我は斬りかかった。護身用の小刀しか持っていないが、カガワナンバー2、それにトクシマナンバー2以外を一瞬で斬り殺した。残り、6名。カガワナンバー1は亜意を攻撃し、ダメージを与えたが、亜意は意に介さず反撃、殺害に成功。残り5。傷を負った亜意を狙いカガワナンバー3が動くが、一瞬それだけに気を取られたため、有我に横から斬られる。残り4名。トクシマナンバー2は神無と戦っていたが、押し込まれ、潰される。残り3。エヒメは攻撃を仕掛けて来なかった。小刀をしまう有我。傷を癒す亜意。
「コウチの属国になりましょう」
エヒメナンバー1からの提案。
「受けた。コウチの最初の支配国としての栄誉を賜られよ」
神無がまとめる。
「いい汗かいたね。いい仕事も出来た。100点だったでしょ、ボク?」
「ああ!流石有我!200点だ!亜意もな!よく働いてくれた!」
「へへへ。面白くなってきたじゃねえか。こういうのは大歓迎だ!」
事実上、この地はコウチが支配した。カガワの関係者に向けてトップ3を皆殺しにしたことを伝え、服従を勧める。議論の時間を要求されたので、関係者集合後、10分を与える。返答無しで殺し、否定で殺す、という事は、もちろん教えてあげた。この場で全面戦争になろうと問題ない。最も危険な人間達は、先程消した。
10分後。カガワはコウチの下に付く。トクシマの関係者はトクシマに走っている。明日中に返答が得られない場合攻め入り、トクシマを灰にする事は伝えている。他2国は賢明な判断をした事を言い含め、帰らせた。
「さて、帰るか」
「そだねー」
「良いお出かけだったなあ」
帰り道、3人はそれは楽しそうだった。
亜意を呼んだ理由。治癒は元より、襲撃奇襲に失敗した時、逃げおおせるため、というのは全員が気付いていた。初めから、想定していた事態の1つだった。
帰国。本部に情報伝達。戦陣が組まれ、トクシマへの制圧準備が整えられる。カガワへはこちら側の人員を派遣。エヒメへも。
そして3人は家に帰り着く。
平特盛は鍛えていた。最近は仕事もせず、ずっと家にこもりきりだ。というかクビになってるはず。
梅にくっついていた頃は、お仕事として認められていただろうが、今はただのプーだ。少し、肩身が狭い。祝寝からお茶碗を受け取るたび心が痛む。その心の痛みも、もう慣れてしまって、今度は優しさが辛い。だが何故か梅にも誰にもお小言を頂戴しない。それを良い事に更に修行に惚けている。
今日も特盛は、専業主婦でもないおれって・・と思いながら鍛錬に励んでいたのだが。
来客有り。
山の方から。
「誰だ」
山から来た時点で常人ではない。迷い人の風体でもない。強さも見える。
「カガワナンバー4。仇討ちに来た。ついては、死んでもらう」
「はあ?」
特盛は相手が何を言っているのか、さっぱり分からなかった。だが、敵っぽいので、構えた。
フカシか?切り込んでこない。まさかナンバー4が、おれを相手に削られるかもと思ってる?
腰抜けが。
特盛は大胆にずかずか歩み寄り、斬り捨てた。抵抗は有った気がするが、防御しようとしたのか、反撃しようとしたのか、区別がつかなかった。敵の構えごと斬り捨てたために。
「フカシか。びびらせやがって」
ナンバー4ということは、こちらで言う在前御徳以上になる。実戦で敵するには怖すぎる。今戦ったのはただのザコだ。ラッキー。
もちろん、今のが正真正銘のカガワ現最強だった者だ。魔神シロという、現在宇宙最強の存在と組手を行っている特盛の感覚は、狂っていた。梅や神無、有我が尚も特盛より強い事も、拍車をかけていた。
梅とまともに戦える人間は居ない。神無と正面から戦うと、力負けする。有我には歯が立たない。客観的に見て特盛は、自分自身を弱いと思っているが、3名家の人間と剣を交えている時点で、そして生き残っている時点で、オカシイことに、もちろん気付いていない。シロは心を読んで知っているが、害は無いので、放っている。梅も気に病んでいなさそうなので、フォローはそこそこにしておいた。
何より、特盛はまだ蹴速とまともに戦えないのは事実だ。梅も自分が強いなどとは思えなかったので、特盛のフォローを完璧には出来ていなかった。
そして出張していた3名の帰宅。
特盛も死体の処理(本部へ不審者の通報及びアカへ、これ食う?と聞くこと)を終えて出迎える。
「おかえりなさい!お疲れ様です!」
「うん。ただいま」
「ただいま!」
「おーっす」
「お疲れの所悪いんですけど、不審者入ってきましたよ」
「それは怖いね」
「警備を強化するか」
「どこのバカだよ」
「さあ。カガワナンバー4を名乗ってたバカでしたけど。まあ弱かったんで、騙りですね。でも子供達は気をつけた方が良いですよ」
神無と有我は目を見合わせた。神無の頭にはカガワナンバー4はカガワ内に居ない情報が有る。どこぞに出ているはず。有我は特盛の話を鵜呑みにした。上で、神無に情報の研鑽を求めた。
「そうか!ご苦労!一緒におやつにするか!」
「はい!ちょうど休憩しようと思ってたんで」
特盛は知らない。対魔蹴速亭主任警備員という肩書きを自分が持っていることを。給料日まで知ることはない。
家の全員に、神無から、この国は戦乱を求める事、この空の下の全てを我々のものとする事を伝えられた。
「ふむん」
「うむ!シロ!お前は手を出さなくて、良い!」
「物分りが良くて助かるぞい。この家に手出しあらば、そやつの国の1つや2つ焼いても良い。が、人の争い如きに興味は、ない」
「で、あろう!今のままで良い。お前との鍛錬は恐ろしく役に立つ。既に利用させてもらっているのだ!」
「ふふ。わしもぬしらと稽古するのは楽しくての」
穏やかに、シロを刺激せず、済んだ。彼女は蹴速の嫁の1人であって、この国に縁は無い。不興を買うのは、不味すぎる。
そんな事を思考している神無を見つめるシロの目は、変わらず穏やかだった。
「神無、梅、有我。困ったときは呼んでくれ」
「遠慮せず使わせてもらうよ。でも君を簡単に数に入れるのは、この国の国力計算が面倒になるから、あまり呼ばない、と思う」
「そうか。ならおれはシロと子供達と遊びよろうかな」
それ以外に、あちらで活動して、実戦から遠ざかるのを避けようと思っていた。
「おれは、ついて行って良いんですか」
「居てくれれば助かる。もう戦力として数えられる。しかし、まだ使い道はないんだ。私達もな」
「そう、ですか」
「特盛もわしと遊ぶか」
「おう!」
「ボクらも、出張る必要が有るのは、しばらく神無ちゃんだけだよ。だから、シロ。よろしくね」
「どんとこい、じゃ」
翌日、神無は本部に詰めていた。梅も。トクシマ側からの使者は来ない。
「戦闘だ!」
コウチ10万の軍勢が神無指揮の下、トクシマ目掛け出陣した。
峠。コウチとトクシマを隔てる要所。トクシマ2万は守備を固めていた。この道を通らなければ、山道を魔物と戦いながら行くハメになる。そこを塞がれている。
「隊長格以上は皆殺してくる」
「ああ。2分後突撃する」
梅が出る。1分後、トクシマの兵の騒然が聞こえてきた。2分後。
「行け!コウチの兵よ!世界を覇する争乱の一番槍は、我々だ!」
神無号令の下、コウチ10万は駆け抜け、トクシマ2万を散り散りに蹴散らした。捕虜は100名。コウチの負傷者は50名。全員治癒出来た。死者は0。まあまあの戦果だ。
「このまま攻め落とす!行くぞ!」
オオオオオオオ!
「梅、行けるか」
「余裕だ。私も、家で寝ていただけではないぞ」
「そうだな。お互いに」
神無にとっても久しぶりの実戦。勘の鈍りは致命的だが、魔神シロに助けられている。何度も死にかけた稽古だった。有我以外に、ああもしてやられるとは。
トクシマ首都は厳戒態勢だった。物見を走らせる。
「敵、本陣は首都正面。周囲もぐるりと配置してある模様」
「ご苦労」
戦陣本部。居るのは大将軍神無、将軍梅、そして隊長格50名。
「作戦を伝える。正面粉砕。トクシマ戦力を消滅させる。周囲からの援護にだけ気を付けろ」
「了解!!」
「梅。敵将軍格に手出し出来るか」
「可能だ」
「頼む。やはり5分後に突撃する」
トクシマの絶対的戦力は既に亡い。昨日殺した。この正面に在るものが、全てだ。
敵、わずかに動き有り。梅が上手くやったか。
「ふう。流石にヒヤヒヤした」
「大丈夫か」
「ああ。将軍を斬るのは容易かったが、近衛がそれなりに優秀だった。私を三鬼梅と知っていても、その場の全員が取り囲んできた。全員斬ったが」
梅には擦り傷1つ無い。だが、それは梅の能力の高さによるもの。もしも、敵側にこちらの知らぬ戦力、例えばこちらのシロのような、そんなものが居れば、梅は危なかった。それを分かっている神無は、梅の肩を抱き労う。
「よくやってくれた。休んでくれ」
「ああ。甘えさせてもらおう」
梅の活躍はもちろん超常的なものだが、こうしている間も一般兵は休んでなどいない。
「突撃!」
神無号令。コウチ10万はトクシマを潰しにかかった。指揮系統のわずかな乱れ。最奥の指揮官が抵抗も出来ず殺害された情報は伝達されただろう。不安が現れている。
「押し込め!」
順調だ。敵は全力を出せていない。普段からこうも楽な相手なら、コウチはとっくに世界を覇している。梅のおかげだ。
「増援!右が濃い!」
「俺が出る!左には在前隊を回せ!梅、正面は頼む」
「ああ。全て出してこい」
「ああ・・・!」
二神太郎花八郎神無が出る!最前線、敵は3万。・・・少ない!いける!
「オ オ オ」
神無の体が変化する。神化。二神の血族の業。通常時の千倍の力を発揮出来るが、やれば1月、使い物にならなくなる。絶対奥義だ。
神無が駆ける。敵先頭100名は触れただけで、粉々になった。部隊を数個潰し、道筋を変える。剣を振るだけで、千の兵がちぎれ飛ぶ。3万を3分で消滅させた後、トクシマ首都に少し切れ目を入れておく。正面本隊の目をこちらに向ける。そして突撃。砲撃兵の弾を真正面から弾きつつ、叩き潰す。10万程は神無1人で殺した。
「グ!」
神無の動きが止まった。梅が神無の側に現れ、戦陣本部に連れ帰る。
「お疲れ様だ」
「はは。面目ない!」
神無の神化は10分保たない。絶対的な火力ではある。だが、戦場でやれば、神無は死ぬ。いかなる雑兵であろうと、今の神無では抵抗出来ない。今回は梅が居たから、出来た。
「在前隊、左戦力を粉砕!掃討にかかっている!」
「流石は在前御徳」
「知り合いか」
「ああ。やつを何処かの支配者に置きたいと思っていた。もしくは将軍に据えたい」
「ほう。そこまで使えるのか。良いな」
「ああ。だが、やつの部下も使える者だったはず。将軍が適任か」
「確かに。それだけの戦力。睨みだけに使うのは惜しい」
「そういうことだ」
在前御徳は、生き残れてラッキー、と思っていた所、最前線送りになり、推薦者の名を見て自分の宿命を嘆いたという。金甲量猟の言葉によると。




