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蹴速、己黄を連れ帰る。

 平特盛は死にかけていた。


「ひゅーっ、ひゅーっ、しゅー」


 魔神シロに稽古を付けてもらっているのだが。


「特盛よ。本気を出しても、良いのじゃぞ」 


ゴオ


 垂れ下がっていた剣に、握る手に力が戻った。


「カアアアアアア!!」


 ブチ殺す。一挙手一投足の全てに無駄を失くし、全てに威力を込め、ただ斬る。


「見事」


 魔神には擦り傷1つ付いてはいない。が。


 その肌には、押し当てた跡が。


「これからトドメよぉっ!」


 特盛は死の淵で何とか生き残った。魔神の手ずからの治癒を受け、助かる。


「ふいいい。助かったあ。ありがとな」


「ふ。良い良い。アカちゃんも蹴速も居らんしの。遊んでくれる相手は大事にせんとな」


「シロよお。お前、蹴速とどっちが強いんだ?」


「んん?わしじゃろうなあ」


「はー。お前らの戦い、見てたけどさあ」


「おお。確かに居ったの」


「お前、力押しばっかじゃん。蹴速もアレだけど、お前よりは考えてるっぽいし。強いのは分かるけど、おれが真似出来ねえんだよなあ」


「ほう」


「梅さんの神隠しとか、真似しようって方がどうかしてるしよ」


「なるほどのお。目標を見失った、か」


「ああ。どーすっかなあ」


 寝転がる特盛。難しいことを考えては、ない。ただ空を見上げているだけだ。シロも側に座る。


「ふーむ」


「わりーな。こんな愚痴に付き合わせて」


「子育ての予行演習として悪くない。気にするでない」


 言葉通り、穏やかなシロ。


「おれのスタイルだと有我さんが近いっちゃ近い、んだけど」


「しっくりは来ぬか」


「おう。あれは有我さんにだけ出来る動き。まあ、それを言うと、3名家全員そうなんだけどなー」


ごろごろ


「ぬしはぬしのスタイルを身に付けるが良い」


「そーだけどさー」


 それが、分からん。


「マシロ達は祝寝と己黄が見てくれておる。相手は出来るぞよ」


「悩むより慣れろ。おれにはそれしかないか!」


 特盛はとりあえず、魔神に斬りかかる。魔神はこれでも1児の母親なのだが。そしてその母親は特盛に現実の理不尽さをこれでもか、と味わせ、治し、教育する。


 海の国、入国。


「海王とかを見てみるか」


「出来れば、話もしてみたい」


 蹴速、海鶴を先頭に街に入る。でかい生き物の宝庫かと思いきや、そうでもない。人間サイズのタコや、サンゴ、その他生き物も普通に居た。


「これなら、さほど目立ちもしないな」


「ああ」


 亜意と蹴速の会話。確かにサイズは問題ではないが。


 一行は目立つ王城を目指す。


「王様がいきなり会ってくれるかな」


「さあなあ」


「図書館にでも行くか?」


 意外にも人間の街のような風景。誰が使うのか、公衆電話らしきものも設置されている。


「蹴速。私のために無理はするな」


「ん?いやそんな気は全く」


 実際、海鶴が見たいのなら、というだけだ。自分も多少興味はあった。そして、面倒なので、海の国ごと消すつもりで来た。東京ダモクレスランドには、また行くつもりなのだから。邪魔なものには消えてもらう。後腐れないよう、皆殺しにする。


「蹴速君、悪いこと考えてる。おれも混ぜて!」


「おお。一緒にやるか」


「私もお供します」


「心強いぜ」


 道行くイカやタコにじろじろ見られながらも、チョウチンアンコウは、王城に着いた。


「正面から突破するか」


「面会を願い出てみては。武力はそれからでも遅くありません」


 超騎士としては、無駄に戦うのは嫌だった。海の国の住人を心配したのではなく、本当に無駄な争いは非効率的で嫌いだった。だから蹴速の、敵対したものを消滅させる戦略は好きだった。それに則り、母国が敵対するようなら、消す。ことにしていた。


「ぎょぎょぎょ(こんにちわ)」


「ギョギョギョ(いい日和ですね)」 


「ぎょぎょ(お城への見学は出来ますか?)」


「ギョギー(構いませんよ)。ギョ(お静かに願いますね)」


 海鶴の交渉により一行は城に潜入出来た。


「殺すのは忍びないな」


「うむ」


 どうも当たりが良かった。門番の人当たりの良さから、かなり教育が行き届いていると察するが。ならば、あの尖兵はいったい。


 城内は、落ち着いていた。色とりどりの装飾などはない。それでも各所に様々な形の石や貝殻が飾られている。だが、硬質だ。妙な緊迫感。


「変だな」


「んー。使用人が居ないね」


 人に会ってない。人というか生き物というか。質素な。


 大扉の前に出た。


「玉座じゃないの」


「やな。門番無しとは」


 質素にも程がある。魔神城もそうだったが、あれは魔神だからこそ。


とんとん


「はーい」


 返事があった。


「中の掃除でもしてるのかな」


 軽い声だ。流石にここには人を置いているのだろう。


「ま、入ろうぜ」


「だねー」


 入室。


「見学していっても良いですか」


 蹴速が話しかける。


「どうぞどうぞ」


 玉座に腰掛け、耳かきをしている女が許可を下す。


「んー。あれが海王?」


「うん」


 ジンの声が聞こえたらしい。


「お話を伺ってもよろしいか」


「良いよ」


 海鶴にもお許しが。


「こちらは海の国。あなたは海王」


「そそ。久しぶりの外の人。緊張しちゃうね」


 海王デミコラーゲンクラーゲン。その容姿は、頭部4つ、胴体部5つ。全ての胴体が違うリズムで脈動している。手足合計100本は超えているだろう。体長は20メートルか。見た目は怪物だが、魔神シロに比べれば、大人しく可愛らしいものだ。


「海王は何をしておられる。海の国は陸を侵すおつもりか」


「うーん。ワタシはどうでもいいんだけどね」


「ふむ」


「陸に上がれないしさ、ワタシ。だから興味ないんだけど、若い子は好奇心旺盛だしさ。だから好き勝手やっていいよって言ってあるんだ」


「その、若い子を3匹ほど殺した。邪魔だったのでな」


 蹴速が話に割り込む。


「ふうん。殺されたいのかな?」


「やめちょけ。それより、おれに従え。命までは取らん。陸には興味ないがやろう?海底で大人しくしよれ」


「はいそうですかって言うと思う?」


「この場で返事を聞く。おれの気次第で、海の国の歴史は今日終わる」


「えー。冗談ぽくないよそれ」


「おお。真面目に聞いてくれて嬉しいぞ」


「マジかよー」


 海王は悩んでいる。蹴速は海王の聡明さに驚いた。さっきの番人に会って、殺したくないと思ってはいたが、交渉の結果次第では申し訳ないが全員死んでもらう。よく考えてくれた。


 アカ、ジンは蹴速の交渉の上手さに感動していた。亜意、超騎士は海王の辛抱強さに感動していた。海鶴は、


「こちらには、海神はいるか。海竜は」


「ん。知らないなあ」


「そうか。教えてくれて、ありがとう」


 聞きたいことは聞けた。


 もう用は無い。


「んー。良し。分かった。陸からは手を引く」


「おお。すまんな」


「いいよ。その代わり。海の国に手出し無用だよ」


「おお。了解した」


「全く。侵略してほしかったり、止めろって言ったり、勝手だよ、陸の人間は」


「ほう。日本を攻めてくれ、と言われたのか」


 他国の人間か?


「だよ。ワタシは興味ないんだけどね。若い子に火が点いちゃってねえ」


「なるほど」


「そう言えば。そいつ君を知ってたよ」


「ほお」


 ますます濃厚に。対魔蹴速狙いで、日本攻撃か。


「いきなり現れてね。今日の君達みたいに。陸を攻め、強い奴を倒していけば、ワタシ達の天下だって。その強い人間の1人に、君みたいなのが出てきたよ。年若いけど、化け物だって」


「ふうん」


 何者か。


「そいつの姿形は分かる?」


「雰囲気は、そこの人みたいな」


 亜意、アカを指す。


 魔王?


「魔族?こっちには居ないと思っておったが」


「居ないでしょ。魔界無いし」


「魔神の野郎が何かしたか」


 魔神シロの信用が。


「雰囲気似てるってだけだよ。そっくり同じじゃ、ないね」


「ほう。まあ色々参考になったぜ。ありがとうな」


「どういたしまして」


 バイバイと手を振る海王。蹴速達も振り返す。平和的に上手く行って良かった。


 帰りは簡単だ。海面まで浮上。超騎士の結界で繋がっているので、蹴速がそのまま跳べば、全員が飛べる。


 海岸でゲートを開く。


「案外面白かったな、海底」


「ああ。海も広い」


 良い機嫌の亜意。続々ゲートに入り込む仲間。監視する影。捕らえるアカ。


「こんにちわ」


「・・・」


「ちょっと素直になってもらうか」


「面倒い。シロに頼もう。連れてきてくれ」


「はーい」


 ジンがシロを呼びに。黙りこくる監視者。


「話してくれたら、手荒な真似はせんで済む」


 嘘。シロに洗いざらい覗いてもらう。その後は、海の栄養にでも。


「蹴速君は優しいなあ」


「そうでもないが」


 本当にそうでもないので、蹴速はさらっとしたものだ。


「呼んだか亭主よ」


「おお。呼んだぜ、妻よ」


 ここに居る全員が妻だが、それはさておき。


 こいつを覗いて欲しい。

 ラジャーじゃ。

 助かるぜ。

 なになに。


 小声で了承を取り付ける蹴速。


「ふむふむ。分かったぞ」


「生かしておいた方が良いか」


「いや?価値は無い。家族持ちかあ。お子さんは可哀相じゃのお」


「全くよ」


 取りあえず蹴速が殺し、海に蹴り捨てる。これにより粉々になり、問題は無くなる。


「お子さんは施設にでも送るか」


「どちらの国か分かりますか」


「ん。家族はちゃんとおるようじゃ。わしらが世話を焼く必要は無いじゃろ」


「なるほど。なら良いか。あいつの持ってた情報を詳しく頼む」


「どうやら邪神の部下のようじゃの。わしらを見張っておったようじゃ」


「邪神?」


「数百年ほど前に喧嘩を吹っかけてきた新興神じゃ。生かしておいたが、成長したもんじゃ」


「ほほう。そいつが、海の国をそそのかした、か?」


「じゃろうな。その情報も持っておった」


「何処に居る」


「さて。転居を繰り返しておるな。1つのアジトを数ヶ月で移る」


「今は分かるか」


「オーストラリア。地中深くに居を構えておる」


「モグラ野郎が」


 亜意は怒っている。


「どした。亜意」


「魔神から命辛々生き延びたザコの分際が、危うく遊園地を台無しにする所だったんだぞ!」


 好きか、遊園地。


「ああ。はしゃぎよったなあ」


「うむ。わしも初めて見る亜意の姿よ」


 キャラクターの帽子を被り、子供達に走っては転ぶと注意された亜意。蹴速は邪神を倒す決意を固めるのであった。


「それでこそ、わしらの夫」


「照れるな」


 素晴らしい家族の姿がそこに有った。


「明日、行くか」


「うん!」


「またわしは留守番かの」


「お前が子供達を守りよってくれるけ、安心できる。シロ」


 シロを抱きしめる蹴速。


「ふひゅひゅひゅ。うむ!わしが家族を守ろう!」


 蹴速以外の満場一致で、魔神はこんな軽いのか、という感想がシロには流れ込んだが、どうでもよかった。蹴速は本気で思っているのだから!


 家に帰り、晩ご飯をかき込む。初めての深海散歩を話題に話は尽きなかった。


 翌日。オーストラリア侵攻チーム編成。蹴速、シロ、キ、有我、己黄。

 

 この5名で行くことになった。昨日愚痴をこぼした魔神シロ。それを聞いたアカが気を使ったのだ。自分達が残るから、行ってくればどうかと。超騎士は居てくれれば心強いが、昨日のは負担になっているはずだ。恐らく初めての試みであっただろうし。そして、己黄の冒険にも丁度良い。蹴速とシロが居て苦戦する敵は、間違いなく存在しない。邪神とやらを見物してからぶちのめし、魔神のおやつにでも。そしてキも運動不足かもしれないので、連れてきた。


「うむ!」


「うむ。良い天気じゃ。子供達を日向ぼっこさせたいの」


「やってくれておる。心配はないぜ」


「その通り。祝寝が居る。あいつがアオミドリ達をまとめてくれるから、何とかなるだろ」


 キの評価は蹴速とは、少々異なる。より魔王達をよく知っているからだろうか。


「子供の名前、考えてくれてる?」


「ああ。一応な。後ですり合わせるにしても、全員分考えちゅう」


「よしよし。パパはちゃんと待ってくれてるからねー」


 有我は自分の腹を撫でながら声をかける。まだ膨らんではない。キ、シロは微笑みを浮かべている。己黄は真面目な顔だ。


「蹴速。我の子は、龍になるのか」


「さあ?産まれてみんと、分からん。龍になりたいかどうかも分からん」


「ふん!」


「急くな。皆で考えたら何とかなる」


 現在の己黄は幸せいっぱいとは言えない。まだ、慣れない。自由気まま、風任せの龍生。家族を持ち、家を持ち、固定した生活。慣れない。


 それも嫌ではない、が。


「己黄。何がどうであれ、必ず、祝寝と、海鶴と、神無には、話をせえよ」


「うむ!」


 今日の、こんな気晴らしでも、気分良くなってくれれば良いが。


 蹴速が有我とキを、シロが己黄を抱え、行く。


「もう少しなら速くても良いぞ」


「そうか?まあ急ぎでもない。ゆっくり行こう」

 

 現在マッハ30。以前の蹴速なら息切れを起こし始めるスピードだが。魔神戦を経て、限界を超えた。リハビリ後間もないはずだが、快調でしょうがない。邪神とやらを倒して、早く帰ってシロと戦いたい。


 蹴速の横を飛ぶシロは、ニヤケが止まらず、ヨダレが滴り始めた。故にクロが現れ、シロの頬を拭いて帰った。


「クロはほんとにすごいな。あの感知能力」


「ふむ。ま、繋がっておるからの」


「おれ達も詳しくは知らなかったな。どういう意味なのだ魔神様」


「んー。まあ、ある種の一心同体とでも言うか。メンドーじゃから、説明は抜きじゃ!」


「ふふふ」


「うむ!」


「己黄は分かってくれるんじゃな!うむ!」


 愉快な一行は、楽しくオーストラリアに到着した。その辺のカンガルーに話を聞く。


「邪神とやらを聞いたことがないか?」


「ガル(いえ。申し訳ありませんが、寡聞にして知りません)」


「そうか。いやすまなかったな。所で異変などは無かったかな」


「ガーウ(そうですね。有ると言えば有ったのでしょうか。あれは昨日の晩のことでした。ここから私の足で1日向こうに走った場所です。そこに光放つものが降りたのです。きっとUFOですよ)」


「おお。それは有用な情報だ。強く感謝する」


「ガウ(いえいえ。袖すりあうも他生の縁。楽しい旅を)」


「ああ。君もな」


 カンガルーに手を振って別れたキから話を聞き、一行はその場に向かう。


「すごいなキ。あんな特技が」


「下級魔族を動かす仕事は、おれが一番上手かった。昔取ったなんとやらさ」


「キーちゃんは真面目じゃからな」


 ちなみに運用は、アオミドリはお願いして。アカは見せしめに幾つかを殺して。亜意は1人で。モモは出動したことはない。守備のみだ。


 神無の両親が死んだ戦場を作ったのは、アカだが、それを知る者は誰も居ない。誰も知らなくて良い。


「この辺かな」


「じゃの」


 魔神シロは一帯を押し潰し、直径1キロのクレーターを作った。悲鳴が聞こえた気がする。


 飛び出る影!


「こいつか?」


 蹴速が即座に捕まえる。


「放せっ!」


 抵抗しようとするが、ことごとく力をいなされる。


「久しぶりじゃな。わしじゃ、慈愛魔神シロじゃ」


「知っているっ!私は!ずっとお前の命を狙っていたのだっ!」


「ほう」


 魔神シロは笑んだ。気持ちの悪い顔だったが、最近蹴速のよくやる顔だったので、この場の妻達に違和感を覚えた者は居なかった。


「ふむ・・」


「放せ!こうなれば仕方ない。貴様ら全員地獄に送ってやる!」


「ほほう」


 シロは目を見開き、己黄に耳打ちした。聞いた己黄は一瞬硬直した後、邪神の腹をブチ抜いた。


「かは・・・」


 邪神はおそらく絶命した。


「どうした」


 蹴速としては、ある程度話を聞いて、通じそうになければこうするつもりだったが。事情が分からない。


 己黄は、邪神の内臓を食い始める。


「おい。邪神なんて食べて、腹を壊さないのか」


 蹴速は心配げにシロに尋ねる。


「仇討ちじゃ。どうも奴が龍を殺したらしいの」


「おお」


 蹴速は言葉もない。こんな所に、己黄の親の仇が。邪神と言うからには、やはり強かったのか。世界移動まで出来るし。


 有我も目を見張っている。有我にとっても冗談ではない行状。


「わしを超えるために、まず龍を殺し、強さを吸収する。理に適ったやり方ではある」


「ふむ」


「しかし、龍を殺せるレベルには、見えませんでしたが」


「ま、蹴速に捕まっておったしの。わしも多少己黄のサポートをした。キ、ぬしもじゃろ」


「はい。それは確かに」


「一番の原因は、蹴速を見慣れすぎたから、じゃろうの。邪神の奴も多少は強くなったかもしれんが、蹴速を見ているわしらには、の」


「なるほど。納得しました」


「すごく分かりやすいね」


「いよいよ戦う相手に不足するのお、蹴速」


 猫撫で声で、蹴速に擦り寄るシロ。蹴速はじっと己黄を見ている。口を尖らせるが、我慢するシロ。我慢したシロと、手を繋ぐ。イイ笑顔になったシロを、置いて己黄に近付く。


 己黄は食べ終わった。


「満腹か」


「うむ。強い肉体だった」


「そうか」


「ふう」


 虚空を見つめる己黄。そして訪れる変化。


きいやああああああ


 甲高い音。いや声!


 己黄が!輝きを放ちながら、大きくなっていく!


「己黄!」


「これは、龍になるんか!」


「そのようじゃ」


「どうなる!?」


「どうにもならんよ。己黄は己黄の在るべき姿に戻るだけじゃ」


 己黄は巨大な龍になった。黄金の、龍。


 龍は、蹴速達を襲う!


「おいおい。在るべき姿とかなんとか」


「初めてかの?理性はないな。意識を探っても見えぬ。現在の意識が、無い」


「己黄に傷を付けると」


「うむ。あちらの世界にもひびが入る」


「どうするかなあ」


 喋りながらも、蹴速とシロは己黄の周囲を跳び回り、気を引きつけていた。ここから目立つ場所に出られるのは不味い。己黄を守るために世界を敵に回す羽目に。買い物が出来なくなるのは、痛い。そんな事態は避けるため、蹴速とシロは最善を尽くしていた。


「どうすればいい!」


 有我を抱えたキが叫ぶ。叫んだキを狙う己黄。


ばっ


 キとて、魔王。成り立ての龍に簡単にやられはしない。しかし、


「時間切れとか、有るんか」


「無い。在るべき姿と言ったじゃろう?あのままで、ずっと居るのじゃ」


「ふうむ」


 蹴速は少し悩んだが。決めた。


 己黄を殴った。


「蹴速!!!!」


 キが全力で怒った!


「目を覚まさせる」


「そ、そうか」


 キは落ち着いた。


「蹴速。全力を出さなければ、わしが治そう。己黄の目を覚まさせてやる。わしも協力するぞ」


「おお。キ、離れておれ。そして、己黄に合力を」


「良いのか」


「ああ。己黄を殺したくはないぜ、おれも」


「分かった。己黄を全力で守る!」


「頑張って、キ!」


 有我は己黄を殺すだけなら出来るが、加減していると有我が危険だ。


 魔王キの能力は合力ごうりき。他者の能力を少しだけ底上げ出来る。ただ、人数制限はないので、軍団数十万に一気にかける事も可能だ。


 魔王クラスへの少しだけ、は洒落になっていない実力アップだが、蹴速には通用しなかった。今度こそ!己黄を守ってみせる!


きいやあああああ


 吠える己黄。真っ向から受け止める蹴速。


「神無が悲しむぜ」


 ぽつりと呟いた言葉で、己黄の動きが止まる。


「帰るぜ、己黄」


「うむ!」


 龍の姿からであっても、力強い返事が!そして龍はみるみるうちに、人間の姿へ。


 元に戻った!


「必要は、無かったな」


「いや。お前が居ってくれたけ、心強かった。助かったぜキ。勿論シロもな」


 満更でもないキ。そしてシロ。


「ボクは?」


「う、うん。心強かったぜ有我」


「今回は良いとこ無かったなー。分かってますよーだ」


「うむ!」


 素っ裸で、胸を張る己黄。


「構わん。帰るぜ」


「しかし!」


「お前はおれの妻や。何も問題ない。おれがお前を受け止めれんとでも、思いよったか?」


「ぬう!」


「蹴速が良いと言っている。それで良いじゃないか」


 キが諭す。


「己黄。ぬしの力、きっと蹴速の役に立とう。わしはそう見る」


 魔神シロの言葉。


「帰ろう己黄」


 有我の呼びかけ。


「帰って、神無にも祝寝にも海鶴にも。話をせにゃあよ」


「う、ん!」


 己黄は、涙をボロボロこぼした。顔を隠すこともなく。つっ立ったまま、泣いた。


 泣き続ける己黄を蹴速は抱え、跳ぶ。


「ボクら、お邪魔?」


「そーでもない。家族じゃし」


「そういう事だろう」


 有我、シロ、キも一緒に帰る。


 帰り着いた己黄は今日のことを皆に話し、また泣き、その日は家族で一緒に寝ることになる。


 終わり良ければ、全て良し。

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