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シロ、見守る。

 トクシマは戦力の98パーセントを消失した所で降伏を許された。それまで、使者は来る度、斬られていた。コウチの死者50名、怪我人2000名。トクシマ死者20万、怪我人0名。国としての形を取り続ける事の困難なトクシマは、コウチの街の1つになった。


「コウチから修復の業者を呼び、協力して補修に当たらせろ。墓地を丁寧に作れ。遺族の心の拠り所を分かりやすく示せ」


 戦争は終わった。


「乱暴狼藉を働いた者は、厳しく罰せよ」


 三鬼梅は、神無に代わりトクシマ支配を進めていた。


「我々は、心優しき、善い支配者なのだ。そう印象付けろ。隊長格は笑顔を振りまき、金をバラまけ」


 駐留軍は1万。これまでトクシマ軍本部が行っていた魔物への対処を引き受ける。トクシマの生き残りと、協調しつつ。駐留は1月交代。半年変え続ける。


「これは今後のコウチの覇道を占う、大事な前哨戦だ。気を抜くことは適わん」


 戦争に勝っても、その後、反乱でも起こされればどうしようもない。それこそ民衆を1人残らず殺し、ゴーストタウンを手に入れるより他なくなってしまう。出来るなら、賑やかな、活きた街を手に入れたい。


 敵軍はどれだけ生き残らせるのが妥当なのか?支配の方法としてより良い方法はないのか?将軍には考える事がいくらでもあった。


「1月後に祭りを行う。大々的に祝う。可能な限り、トクシマと親和せよ」


 3名家はコウチのためにある家だ。ためにならぬなら、自軍兵であろうと、容赦なく切り捨てる。隊長格には、それが伝わった。


「今回の戦争の事実を広く喧伝せよ。コウチに降らぬものに何が起こるか、知らしめよ」


 1つの戦争は終わり、新たな時代が始まった。


 大海を飲み干すは、コウチ。


 梅はしばらく帰れない。治癒のため家に帰って来た神無に伝えられる。


「そうなんか。怪我はしてないんやな」


「ああ!全く、完璧に神隠しを使いこなしている!あれが敵だったなら勝てんぞ!」


 神無は満面の笑みで、梅を褒め称えた。コウチの戦力を削らず、勝利。たかが、同大陸同士の争いで消耗していては、海を越えられない。ここが終着ではない。これからだ。


「本当に、怪我しないでね。皆」


 祝寝は心配そうだ。はっきり言って、蹴速の心配は長くしていなかった。魔神との戦いまで、蹴速は絶対の存在だったのだ。今の神無や梅、有我は12、3の頃の蹴速を思い起こさせる。危なっかしいのだ。実力にも心にも不足は無いのに、負ける可能性、死の可能性が1パーセント有るだけで、家から出したくない。それが戦うという言葉の意味であっても、嫌なものは嫌だ!


「ああ!俺達は3名家だ!何も心配など要らないさ!」


「ふん!」


「ふっ!そう心配そうな顔をするな!どうやってでも帰ってくるからな!」


「ぬう!」


「安心した?素直なやつめ!」


 いつも通りの神無と己黄のやり取りに、微笑む祝寝と海鶴であった。


「晩ご飯食べたら、ボクと稽古ねー」


「おお」


「おれも、おれも」


「おお」


「・・・わしは?」


「んー。お前とやりすぎて、全然進歩してない気分なんだよ。たまには人間と戦いたい」


「がーん」


「私と手合わせ願えますか?」


「ふむ?新鮮じゃの。良いぞ」


 超騎士対魔神。蹴速も気になる組み合わせだが。


「はいはい。ボクからだよ」


「分かっちゅう」


 蹴速達は裏庭に出た。山まで数百メートルは自由に使って良い、極上の修行場だ。


 蹴速は有我と向き合う。特盛は見学だ。真剣に見ている。


「また強くなったんだよ」


「ほう」


「かなりのレベルの人間を、4人食べたからね」


「ほう」


「そ。これが、ボクの、一一人の能力」


 一一人は人間を食う。より正確に言えば、強いものを取り込み成長出来る。代々の一一人の後継者は技の継承が終わり次第、先代を斬り、食う。それにより、正式な一一人としての力を継承する。3名家で最も強く、最も恐れられる一一人。


「ボクが蹴速君より強くなったら、きっと食べるよ」


「怖い。だから、おれは有我よりずっと強いままで居よう」


「そういうトコ、嫌いだけど、好きだよ」


 有我は笑ったような、しかめたような顔で、斬りかかった。特盛には初動が見えなかった。そこそこ距離を取って見学しているのに。斬った、後。蹴速の拳の装甲に当たった後に気付いた。蹴速に当てた!


 それだけで、止まる有我ではない。腕が見えない!全身も小刻みに揺れているからだろう、特盛の目には有我がブレているように見えた。およそ数百の斬撃を装甲に与え、切り裂くつもりなのだが。


 当然斬れない。


 蹴速の目論見としては、有我との訓練で装甲を馴染ませておく事。着脱に時間がかかり、かさばり、威力は、無い。そんな具足であるが、たった1つ長所が有った。絶対に壊れない。流石にシロに本気で取り扱わせてはいないが。蹴速の全力行動であってもついてくる。魔神戦でシロを何度殴ろうと、魔神の肉体に触れようと、壊れなかった。是非使いこなしたい。故に有我との訓練では、これを多用したい。下手にシロとの訓練で使うと壊れそうなので、使いたくない。技量を持ち、シロよりは火力が低い。有我は打って付けだ。


 蹴速は拳を剣に当てていく。軽く、ただ当てるだけ。重みは入れず触る。それでも有我の剣は、どんどん刃こぼれを起こし、ヒビが入っていく。


 剣を離し、素手で装甲の蹴速に突っ込む有我。その度胸にゾクゾクする蹴速、特盛。


 流石、有我さん。おれなら、カウンター一発で死ぬから、どうする?強敵、現時点での勝目ゼロ。そんなやつが、蹴速のようなやつが現れてしまったら、おれならどうする。


 特盛は見学していた。


 蹴速は、有我が死なないよう、心から手加減しつつ、有我の攻撃をさばいていた。


 有我は蹴速の装甲を殴る度、違和感を感じていた。痛いことは痛い。だが、本気の蹴速なら、殴った瞬間の反動のみでこちらの手を砕くのは容易いだろう。厳しすぎない訓練。


 これは真剣勝負ではない。だが、心躍った特盛との訓練を思い出す。


 有我は蹴速の手技をさばき、前蹴り。蹴速は下がり避ける、が有我は前蹴りの勢いのまま前に出る!蹴った足で、かかと落とし!蹴速の腕は下がっている、止められない!


 有我は転んだ。


 簡単な話だ。有我のかかと落としのモーションの最頂点。その時に蹴速は体を前に入れてきた。有我のかかとは蹴速の肩にピタリと当たり、かかと落としはそのまま作動。かかとを起点に、有我の体はズリッと落ちていった。


「技量で超えられていると、悔しいね」


「たまたまよ。丁度良いタイミングやった」


「次、特盛君だね」


「あ、はい」


 有我の後に連続でやると、自分の未熟さが浮き彫りで恥ずかしいな、と思った。


「ふうううう・・・」


 特盛は溜める。蹴速は待つ。実戦ならともかく、これは訓練なのだ。


「アアアアアアアア!!!」


 蹴速と向き合って、初めの初めに、最高の一撃。訓練最初に全身全霊をブチ込む。


 これが平特盛。


 蹴速は慎重に装甲で受け止めた。受けた手が、5ミリ下がった。それを感じた特盛は、回り込み、斬りかかる。足を斬りつけに行き、足甲で防がれ、頭部を斬りに行き、手甲で弾かれ、優しく腹を殴られた。100メートル程吹っ飛んだが、すぐさま舞い戻り助走の勢いのまま跳び、斬る。刃渡り1メートルの実体剣が、小枝のようにそっと押し曲げられた。剣を捨て、蹴る!前蹴り!と、見せて軸足で腹を狙う、横腹を突き抜く!


 前蹴りをスウェー、横腹への蹴りを、直撃で受ける。


 特盛は蹴りが入った瞬間、心の底から震えた。尋常ではない。魔神シロに剣が当たった時と、さほど変わらない。蹴速は人間なのに、


 絶対に、勝てない。


 特盛は初めての絶望を味わいつつ、上体をフルに使い、蹴速の首を折りに行った。しかし、蹴速に締めている腕を折られ、失敗。折られていない腕で肘打ち、弾かれ、肩関節が壊れる。膝蹴り、股関節を痛める。最後に残った左足で転がりながら、蹴る。掴まれ、頭部を蹴られ、気絶。


 特盛はこんな事を毎日毎回繰り返していた。


「特盛はすごい。ああまで挑むのは、おれには出来んかった」


「うん。あれは一種才能かもね」


「おれらあには出来んという意味なら、確かに才能か」


 特盛はすぐさま亜意に癒される。蹴速達の訓練中、亜意は本を読みながら側に居る。


「行きます」


「うむ」


 超騎士が魔神に挑む。


 結界を全力で発動。1兆8千万枚の結界を全身に張り巡らせ、斧を手に持つ。超騎士の得物は取りあえず有る物、備品でまかなう事が多い。結界任せで押し潰せば良いのだから。それでも、やはり素体の能力も関係するのだ。蹴速やシロを相手にすると、良く分かる。今回の斧はイギリス騎士団も愛用する、オールアウトドアアックス。薪作りから妖魔退治まで何でもお任せのベストセラー商品だ。価格は598万円(税込)。これを持っていると、ちょっと自慢できる。


 ちなみに地球上で利用されている最もポピュラーな最硬物質で作られている。世界中の一流の兵が持っているのは、全てこれで出来ていると言っていい。


 魔神を斬っても、刃こぼれしない。もちろん結界でコーティングしてあるが、以前蹴速に鎧がへこまされたように、結界にも限界は有る。斧自体が一流品である証明だ。


 超騎士の戦術は単純明快。結界で身を守りつつ敵を結界で捕縛。反撃逃走を無効化しつつ、一方的に攻撃。奇襲不意打ちは無意味。横槍も入らない。自分でもつまらない戦いだと思う。こんな女を、蹴速は呼んでくれた。報いたい。


 シロは自身にかけられた結界を殴り壊し、超騎士の斧を手で受け止め握り潰し、超騎士を吹っ飛ばした。


 1メートル程後ずさった超騎士は、それでも結界を両方に張る。魔神の進行方向に向けて制限をかける。言わば、水中を歩くかのように。超騎士にとって都合の良いように、速度を下げさせ、封じ、叩き潰す。


 それでもシロには通じない。深海1億メートルに居るのと変わりない圧力の中で、スキップしながら超騎士の鎧を叩いた。


 死ぬかと思った。1兆の結界が触れただけで消失、残り8千万枚はほんの少しシロが力を入れると、粉々に砕けた。それでも砕かれる端から再構成、結界の間に挟み込むように、シロの動きを制限しようとする。


 どうしようもなく、力の入れやすい方向は存在する。例えば足で前に蹴るのは簡単でも、後ろに蹴る芸当は難しい。同じ力が出せるわけはない。そのような構造をしていないのだ。魔神であろうと肉体を持つ。理屈はそのはずだが。


 止められない。魔神という言葉。その意味を改めて知る超騎士。


 蹴速より強い者。


 それでも諦めない。横で自分よりはるかに弱い者が意地を見せた。強き者である自分が、簡単に諦められるか!


 結界を複数同時出現。魔神の進行方向の特定位置に結界を「張らない」。それ以外を結界で埋め、自然にそちらに体が流されるようにする。そしてそのポイントに到達したシロを完全に結界で包み込み、斧で切り裂く。自らの結界は切る瞬間に解除。


 直撃したのに、傷が、無い。


 超騎士は確かに攻撃は不得手だ。だが、それでも。


 そしてシロは超騎士の鎧をコツンとつつき、血反吐を吐かせる。


「オ、ァ」


ぼたぼた


「生きてるな?」


 亜意が走ってきてくれた。身を守っていた結界までも解除して捕縛に回していた。この結果は当然だが。


 生身で、死ななかった。


 シロは感嘆していた。魔王級なら分かる。しかし、蹴速であっても、もろに行けば骨の一本や二本は砕ける。今のはそういうタイミングだった。頑丈な人間よ。シロは超騎士を認めた。結界も、かなり動きにくいと感じていた。サイズの少し小さな服を着たときのように。簡単に破れるが、その隙を蹴速にでも付け入られたら不味い。使える、と認識した。


 翌日。


「次は何処だ」


「ナインラインかな」


「ふむ。中つ国でも良いと思うが。近いしな」


「うん。それは正しいよ。でも端から行った方が楽じゃない」


「そういうものか」


「ま、どっちでも良いよ」


「ふむ」


「ナインラインを先に平らげておきたい理由は、結束される前に倒したいから、というのもあるよ。どっちでも同じなんだけどね」


「なるほど。純粋に数で言えば中つ国より多いな」


「そそ。でも、意外かも。神無ちゃんなら、いきなりヤマトを落とす!とか言いそうだもん」


「はっはっは!俺もそこまで無謀ではないぞ!神化がもっと有効であれば、やるがな!」


「ボクもねえ。1人で落とせるのは1国が限界かな。どうしても兵数が必要だねえ」


「ああ。梅の働きによって兵を損なわず済んだ。次は頼む。まだ、俺は動けない」


「ダイジョブダイジョブ。任せて。守備は蹴速君にお願いだね」


「ああ。俺達の都合に付き合わせるのは、心苦しいがな」


「良いじゃん。ヘンな所、遠慮しいなんだから」


「ふっ!」


「ふふ」


「エヒメは従うと思うか?」


「ある程度なら。見せかけの兵力だね、今はまだ」


「カガワは後継者を決めた」


「ナンバー6だっけ?」


「ああ。実力と忠誠心、愛国心に秀でている。国を焼かれぬために、働いてくれるだろう」


「良い人材だね」


「堅物だぞ。俺が昔会った時も、ニコリともしなかったな」


「顔見知りかあ」


「ああ。当時はナンバー2に付いてたな」


「そんなの、良く覚えてられるねえ」


「強そうなのは大体な!」


「ナンバー5は?」


「反抗的だったのでな。稽古して、実力不足と断じ、訓練を命じた」


「優しいなあ」


「流石に、日常的に意味なく腕力を振るっていては、誰も付いて来なくなる。稽古まで持ち込むのが良いだろう」


「ふうん」


「ま、俺のやり方だ。有我には有我のやり方が有るだろう!」


「難しいなあ・・・」


「ははは!」


 蹴速亭の縁側の、ほのぼのとした会話だ。


「なあなあ。おれも行っていい?」


「んー?言うこと聞く?」


「聞く聞く!同じ嫁同士じゃん!」


「なら良いよ」


「良し!」


 魔王アカ参戦。


「あ!でも、今出てって、マアカがおれのこと忘れたら、どうしよう・・・」


 単身赴任する親の悩み。


「まさか連れていけないし、なあ」


「どうしよう・・・」


 マアカは親の顔を見て、キョトンとしている。


「可愛いよう」


 マアカに頬ずりするアカ。


「しかし、血が足りないのは事実。亜意にも出てもらって、毎日夜はこちらで過ごせば良いのではないか」


 キの指摘。


「おお!えーと、アイ。お・ね・が・い」


「その言い方やめろ」


「お願いします!」


「まあ良いぜ。アタシも、子育ての時は手伝ってもらうしな」


「わーい!マアカああ」


 子供を抱き転がるアカ。まあ良いぜ、以降は聞いていない。亜意はアカのみを蹴り飛ばした。


「ご、ごめん」


「分かりゃあ良い」


「シロ。お前に治癒を全部頼む事になるけど、良いんか」


「ふむ。行って来ると良い」


 魔神シロには思惑が有った。魔王達が、自主性を発揮している。親になった事がきっかけか。この先も見てみたい。我が子らが、親になった。感慨も、有る。


 シロの目の優しさに、見たものは気付いた。家族は気付いていた。心など読めずとも。

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