第五の罪源3
「っ……」
八咫烏へ落ちた雷属性の魔法は、周囲に肉の焦げる匂いと共に、凄まじい量の煙を発生させた。
氷竜によって冷やされていた大気が、電熱により急速に膨張した結果、大量の水蒸気や泥、八咫烏の肉が焼かれた煙が周囲にまき散らされたのだ。
それらが徐々に収まり、視界が開けてくると、俺の目に飛び込んできたのは、爛れた肉塊と化している八咫烏と、左腕を抑えたカインの姿だった。
「ちっ……おいモニカ! 何やってんだ、俺に撃ってどうなるか、分かってんだろうな!? ああ!!?」
カインが声を張り上げる。モニカは身を竦めるが、それでもはっきりとした口調で答えた。
「知ってる……けどっ! 言うとおりにした方がもっとやだっ!」
「テメェッ!! モニカの癖に口答えするんじゃねえっ!!」
その答えを聞き、カインはその表情を怒りにゆがめ、さらに怒声を浴びせる。
「……」
一方で俺は、焦げ付いた肉塊となった魔物に視線を向けていた。
八咫烏は金等級の魔物だ。雷帝降臨程度でたおせる筈が無い。そう思っていると、肉塊がにわかに泡立ち始めた。
「えっ、ちょ、ちょっとニール、なんなの、あれ!?」
ユナが驚いた様子で声を上げるのと同時に、八咫烏の肉体から炎が吹きあがり、その炎から八咫烏が復活する。
「ははっ、前の仲間どもよりよっぽどお前の方が『使える』ぜ、八咫烏」
「……まだもうひと踏ん張り必要だって事だよ」
モニカやサーシャたちへの侮蔑を吐きながら、カインは八咫烏を撫でる。その姿を見て、俺はナイフを鞘から抜いた。
「おい、やる気かよニール。支援職風情が俺に勝てると思ってんのか?」
「やるさ、罪源職に就いたならな」
――罪源職
傲慢者をはじめとした、人間の悪徳を体現する職業、それが罪源職だ。
職ごとに能力は異なるものの、共通しているのは魔物従属能力を持っているという事。
修道院にて再教育を施せば人間に戻ることはできるが、それを拒否した場合、どうなるかは分からない。一説には、彼らのなれの果てが開拓者ともいわれている。
「ここにいるってことは、更生するつもりも無いんだろう?」
「はっ……俺がだぞ? そもそも更生する必要もないだろ」
俺の言葉に、カインは鼻を鳴らして笑う。恐らく、彼がまともな人間として生きることは、もう不可能だろう。
――なら、殺すしかない。人間の体裁を保っているうちに。
「……行くぞ」
あのパーティに居た頃、楽しい思い出が無かったわけではない。カインもどうしようもない外道ではなかった。
もしかすると、この村で再び全員が集まって、和解して、開拓を手伝って、平和に暮らす未来があったかもしれない。
「加速――」
だが、その未来は完全に閉ざされた。俺は自分の中にある甘い想像図を踏み潰すように強く、地面を蹴ってカインへと突進する。
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