第五の罪源2
「やれよ愚図がっ! テメェのせいで俺がどれだけめんどくせえことになったか、分かってんのか!? ああ!!?」
モニカの耳にその言葉が届くと、彼女の意識は肉体と乖離してしまった。
「ざざす、ざざす、なさたなだ、ざざす」
ひとりでに口が動く、モニカの意思ではなかった。
――カインが命令したから、従わないとまた怖い事をされるから……
だが、彼女の意思ではなかったとしても、彼女はその詠唱に相反する意思は持っていなかった。
いつものように脅され、無理矢理に強要される魔法の詠唱。それはカインのパーティに居るときに、何度となくあった光景だった。
体内の魔力が渦を巻きはじめて、ただカインの怒声に従うだけの意識がそれに飲み込まれていく。
――テメェ、もし失敗したらどうなるか、分かってんだろうな?
それはニールが抜けた後、魔法の調子を落としたモニカに、カインが投げかけた言葉だった。
その言葉は、身動きできない彼女の意識に絡みつき、荒れ狂う魔力の水底へと沈めていく。
失敗するわけには行かない。
また怒鳴られるのはいやだ。
従わないともっと怖い事になる。
彼女の中から染み出したそれらの感情は、意識をさらに鈍化させ、荒れ狂う魔力の制御すら手放そうとしていた。
――モニカは失敗しても大丈夫だ。俺がどうにかする。
不意に、柔らかな言葉が頭に響く。
一瞬、ほんの少しだが、意識を縛る言葉が緩んだような気がした。それは、その言葉が彼女にとっての救いだったからに他ならない。
そう、彼女はその言葉で、何度も救われてきた。
失敗するたびに罵声を浴びせられ、泣くしかできなかった彼女にとって、その言葉は重責から解放してくれる。唯一の救いだった。
失敗してもいい。
きっとあの人は何とかしてくれる。
もっと役に立って、あの人の喜ぶ顔が見たい。
彼女がそう願うと、急速に魔力の荒波が凪いで、身体が浮いていくのを感じる。
彼女を雁字搦めにしていた言葉の数々は、急速に強度を失い、霧が晴れるように消えてしまった。
「……」
モニカの目には、何かを必死で訴えるニールとユナ、そして赤く輝く怪鳥を従えたカインが映る。
「きたれ、いかづち」
彼女は、誰を攻撃すべきか分かっていた。二人の訴えを聞くまでもなく、敵が誰か理解していた。
「雷帝降臨」
虹色に輝く靄がカインの頭上に現れ、怪鳥へ向けて極大の稲妻が殺到した。




