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夢と現実の狭間で君を待つ(仮)  作者: 鹿安 


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2/5

変化

体育館の裏の方、部室のあたりだった。女の子、おそらく同じクラスの女子だろう、自己紹介で見たのを覚えている。残りは同じ部の先輩だろうか、三人で一人を囲んで何か話している。一人の先輩が同じクラスの女子の目の前まで近づき、頬を殴った。殴られた頬は赤く腫れあがり、男の自分からしても痛々しい様子だった。

 もう一人の先輩が自分に気づくと、続いて残りの先輩らもこちらに気づいたようで、舌打ちをして体育館に戻っていった。

 三人が体育館に戻った後、下を向きうずくまった女の子に近づくと、鼻をすするような音が聞こえ、その子は立ち上がって僕を一瞥して言った。

「まじさいあく....同じクラスの......なみ...くん。ごめん今のは忘れて.... 」

そう言うと彼女は、僕が返事をする前に泣いていた顔を隠すよう振り向き体育館の方へと走っていった。

 校門へ戻るとカギはすでに用務員によってあけられた後だった。自分のロッカーまで歩き、一年二組、25番のロッカーを開け外靴を脱ぎ、中においてある上靴と入れ替えて履く。どうやらこの学校にはスリッパを履くという文化はなく、奇麗であれば外靴を履いてもよいという割と自由な校風が売りらしい。靴をしっかり履き替え、右足のつま先を床に二度ほど突く。その後自分の教室へ向かう。階段を上り、三階にある自分の教室へと向かう。周りに人はおらず、部活の朝錬の声だけが遠くから聞こえてくるくらいに静かだった。

 自分の席に座り、机に顔を伏せながらさっきのことを思い出していた。あの女の子の名前は渚 奏(なぎさ かなで)たしか女子バスケットボール部に所属していたと自己紹介の時に話していたのをうっすらと覚えていた。しかし、名前と部活しか知らない自分が、彼女になんて声をかければいいか分からなかった。腰を椅子に深くいれ何をすべきだったかを考える。





 教室の真ん中の席で目が覚める、目の前には砂嵐のように白黒ザラザラしているモニター。自分の座席は廊下側だったはず。座った席が違う。つまりあの空間に来たというわけだ。

 昨日会った女の子はいるだろうか。また一人だけの空間になったのだろうか。恐る恐る後ろを振り向くとそこには昨日の女の子が後ろの席に座っていた。

「よっ、タロ」

 彼女は右手を軽く挙げ話しかけてきた。

 たろ?聞き覚えのない名称に思わず聞き返してしまった。

「コタロウだから、タロ。いい感じのあだ名じゃない?」

 一度上を向いて考えた後満面の笑みを浮かべながらこちらに問いかけてきた。

 最近の自分にはこんなにフレンドリーに接してくれる人はいなかったため、言葉に詰まり、沈黙の時間が流れる。少しして僕は彼女に問いかける。

「君は、なぜこんなところに」

 少し疑ったような問いかけに対して、彼女はあきれたように答えた。

「昨日も言ったけど、気づいたらここにいたの。ほんとよ?」

気づいたら、か。ある意味僕と同じ症状なのかもしれない。彼女と僕との共通点が分かればこの不思議な空間にも説明がつくんじゃないか、しかし、僕は春ごろからこの調子であるため昨日突然現れた彼女とは違う条件ではないのか。根拠のない空論に花を咲かせると、頭に軽い衝撃が走る。

「考え事しないの!せっかく人が目の前にいるんだから」

 何事かと彼女を見ると、ムスッとした表情で僕の頭にチョップをした後だった。この人は暇なのか?記憶が正しければ僕は7時くらいに学校に来てから眠りについた。寝ることがこの空間に来るトリガーなのだろうから、彼女もまだ寝ている状態なのだろう。7時なって起きないのは生活に余裕のある人くらいだ。

「今、馬鹿にしたでしょ?」

 なかなかに鋭い観察眼を持っているようで、思いついた考えはすぐに暴かれてしまった。

「いいから、なんかお話しして」

 こちらの事情を把握したような振る舞いと言動。彼女は僕の何を知っているのだろうか。頭の回転がうまくいかずに思考が生き詰まる。とりあえず気になったことを知ろうと、口を開く。

「君はまるで僕のことを知っているかのような口ぶり、どこかであったっけ?」

 正直な話、僕は彼女に会った記憶がない。同じ中学または小学なのだろうか。

「.........いや....違うよ。てか私の方が年上なんだけど」

 少しの沈黙のあと、しっかりとした否定が入る。すぐに否定が入らないあたりどこかで会ったことはあるのだろうか。まあ本人がないと言っているのでそこを尊重しようと思う。とりあえず、何か話してほし気にこちらを見ている、何か他愛のない話はないだろうか。自分の中の会話ボックスをしていると、朝の出来事を思い出した。朝の日差しがまだ柔らかなとき、体育館に走っていく女の子を。

「じゃあ...先輩..相談なんですけど」

 朝の出来事を僕は彼女に話した。彼女は黙って話を聞きながら、時々相槌を挟みながら。他人の話をこんなにも真剣に聞く人はそうないだろうと思いながら事を話した。

 僕が話し終えた後、彼女は話を聞くために閉じていた唇を開いた。

「タロは、どうすればよかったと思う?」

 彼女の問いに、僕は正直に答える。

「分からない。何を言っても僕の自己満足にしかならないし......」

 言葉に詰まる。何か行動を起こすべきだったのかもしれない。でも渚さんは忘れてくれと言った。それを無視して首を突っ込むことは彼女の邪魔になるのではないだろうか。

 言い淀む僕をみて彼女は、優しい表情で口を開いた。

「でも、なにかしてあげたいと、思ったんでしょ?」

 その通りかもしれない。ついさっきのことかもしれないけど、確かに僕の記憶に深く残ってしまった気がしている。

 誰でも言いそうなことを、悠々と語った彼女の顔も、僕の記憶の深くに刻まれてしまった。





「誰か、波君起こしてあげて。一限始まるわよ」

「おい、波、始まるぞ、起きろ。」

 朦朧とした意識が波打つように覚醒へと向かう。クラスの人が体をさすってくれているようだ。昨日は早く寝たのに、なんでこんなに眠いんだ。目蓋をこすり意識を確かにする。もう朝の会も終わって一限が始まろうとしていた。僕を起こした生徒は何事もなかったように自分の席に戻り準備をしていた。教科書とルーズリーフをリュックから取り出し机に並べる。授業は真面目に受けているが、最近は頭に入ってこない。留年さえしなければよいのだから、最低限がんばろう。

 「はい、じゃあ教科書29ページね..................」

 授業が始まり、皆が静かに先生の話を聞き始める。部活に力を入れていても本質は勉学であるがゆえに、不真面目な生徒はごく少数のようだ。自分も最低限を守れるようノートはしっかりとっておこう。

 四十分ほど経った時だった。授業も終盤になり、先生がプリントを回すようにと声をかけ、前の席からプリントが流れてきた。その時プリントと一緒に小さな紙も流れてきていた。ノートの切れ端だろうか、不思議に思いプリントを回してきた人を見ると、顎で指すように離れた席の渚を示していた。

『余計なことしないでね』

 ノートの切れ端にはこのように書いてあった。正直どうしていいかわからなくなった。先輩には行動しろと言われたような気がしたし、でも本人はかかわらないでほしいことを伝えてきた。やはり朝のことは忘れるべきだったのだろうか。

 そんなことを考える間に学校は下校の時刻を迎えていた。



 風呂から上がりリビングに置いておいたカバンから今日の朝に買ったパンとジュースを取り出し食べ始める。食べながら何気なくスマホを開くと、話題のニュースの欄に目が行った。『全国常連の女子バスケ部にOO中学で全国優勝に大きく貢献した渚奏なぎさ かなで選手が入学、期待の新人にインタビュー』というのが内容だった。やはり運動部が強いようでインタビューも日常茶飯事のようだ。ほかのニュースの欄に他の選手についても記述されている。世間の期待もあるのか、あまり大事にしたくないのだろう。今日はいろんなことが起きすぎて疲れたので寝ようと思う。

 いつも就寝に利用するソファではなく、本当の自分のベットに横たわった。いつぶりだろうか、自分のベッドを使うのは。ここしばらくはソファで寝泊まりしてた。

 固くひんやりと冷たい枕に頭を捨て、全身をゆだねる。そのようにして眠りにつく。


 体育館中に響く掛け声、館内の気温は外に比べ高く、運動部員たちの熱気がこもっていた。バスケ部、バドミントン部、卓球部、新体操部、様々な部活動の中僕は僕はバレー部のコート横に立っていた。

「マネ!部室からコーン持ってきてくれ!ああ....あと、ついでに飲み物、作ってきてくれ!」

「はい、今行きます」

 初日にして、いいように扱われる事に少し苛立ちを覚えたが、自分よりは頑張っている人たちだ。大目に見よう。体育館を出て、部室棟の階段をのぼりながら、今日の出来事を思い出す。



 お昼の休み時間、昼食のために取られている長めの時間に僕は職員室に呼び出されていた。担任の先生から呼び出されるなんてよっぽどのことなのだろう。もしかして、昨日のことが明るみになったのだろうか。

「今度男子バレー部の合宿があるんだが、マネージャーが足りなくてだな..お前さ、部活に所属してなかったよな。費用のことは気にしなくていいから、手伝ってくれないか?」

淡い期待に胸を膨らませていたが、安全ピンで刺されたように淡い期待は飛んで行ってしまった。期間はゴールデンウィーク、特にやることもないし、断る理由も見つからない。

「分かりました、行きます」

「じゃあ、あいつらに挨拶したいからさ、今日来てくれない?」

「分かりました。授業が終わったらすぐ行きます」

先生は""悪意の笑顔""という言葉が似合うような笑みで僕が職員室から出るのを見送った。僕にはそのとき、それが""悪意の笑顔""だったということに気づくほどの先生との友好関係はなかった。




 そして今に至るというわけだ。まあ合宿明けたらすぐにやめよう。今は自分を見つめなおすことが大事な気がする。昨日の夜はあの空間に行くことは出来ずに眠ってしまい、起きたら朝になっていた。寝ることがトリガーと思っていたが、何か違いはあっただろうか。また、彼女と話すことはできるだろうか。話せたなら、今度は名前を聞こう。”先輩”なんて他人行儀じゃなく、同じ空間を共有する仲間として話がしたい。

「えぇっと、コーン入れは.......あった」

 カラーコーンの入ったプラスチックのカゴを両手で持ち部室を出る。部室棟二階から一階へ降りるために廊下を歩いている時だった。二階廊下から近くの水道の一端が見えた。あそこで飲み物を作ればよいのだろう。とりあえずコーンを置いてこようと廊下を進んだとき、水道の全容が見え、一人の女の子が見えた。何かを洗っているようだ....よく見ると渚さんが布のようなものを洗っていた。

 よくない妄想をしてしまった。あの布はジャージで落書きでもされたんじゃないだろうか。階段を下りて水道に行く。


『でも、なにかしてあげたいと、思ったんでしょ?』


頭の中でフラッシュバックした彼女の言葉。誰もいない空間に現れた彼女、彼女が現れてからまだ2日しかたってないけど、確かに僕は、変わり始めていた。

 渚さんのすぐ隣に立ち、水道の底を見つめる。

「それは、きっとよくないことだよ」

 話しかけの第一声にしては変だろうか。かまわない。それを見過ごせなかったから。

 やはりジャージだった。水道水によって水浸しになったジャージからは黒のインクがにじみ出し、透明な水道水の色を変色させていた。

 彼女は動揺しながらこちらに振り向いた。どうごまかそうか、彼女の目からはそんなことが伝わってきた。

「なんで、いじめられてるの?」

単純な疑問だった。今の時代いじめはちゃんと処罰される。ああでも配慮の足りない言葉だっただろうか。

「私が、一年でレギュラーの枠をとったからだと思う」

二度も見られて誤魔化しは効かないと思ったのかすんなり話してくれた。

「誰かに、相談しないの?」

「しない、これでもし、部活中止にでもなったら、先輩たちに迷惑かけるから」

 この人はきっと優しいんだ。でもその優しさを自分に向けることができていない。僕は自分のジャージの上着を脱ぎ、渚さんに渡した。落書きされていたのは上着、幸いこれからの一週間熱くなる予報なので上着は使わないだろう。だが一応。

「これ、使っていいよ、これから暑くなるみたいだししばらくは上着いらないだろうけど」

「いや...でも...」

「上着切れないのバレたらそれこそ迷惑がかかるんじゃないかな?」

僕は半ば強引に上着を彼女に押し付けその場を後にした。


「コーン持ってきました。ここ置いときます」

「おそいぞ、マネ...ってドリンクは?」

「すみません忘れてました」

急いでジャグを持ち水道に向かう。さっきの水道にはいかない方がよさそうだ。こうしてバレー部のマネージャーが、合宿が終わるまでの間始まってしまった。 


 部活動も終わりの時間を迎え、片づけをしていた。ネットのたたみ方、ポールをしまう場所など、とても一日で覚えられる内容じゃない。引き受けてしまった以上仕方ないのだから、経験と思って覚えておこう。それにしても運動部の人たちの体力には驚かされる。時計を見ると時刻は十九時二十分、部活は十六時に始まったのだが、その前にもちらほら自主練しているがいた。正直こんなに何かに真剣に取り組めるのはかっこいいことだと思い、改めて尊敬しようと思う。僕にはできそうにもない。

 部室に戻ると、部屋は男臭い熱気と汗拭きシートの匂いであふれていた。部屋のキャパを明らかにオーバーした人数が室内で騒いでいた。今日の練習に使ったカラーコーンをもとの位置に戻そうと、汗臭い群衆をかき分けて部室の最奥へと進む。おそらく定位置であろう棚にカラーコーンの入ったカゴをしまおうとしたとき。近くで座りながら靴下を履き替えている、立っていてもわかる高身長の先輩に「それ、合宿で使うから置いておいていいぞ」と声をかけられる。コクリとうなずいてカゴを椅子の隣に置いておく。      着替えを終えた先輩は立ち上がって僕を見ていた。先輩の名前はたしか山田沢(やまだ たく)。顧問で担任の谷先生が紹介してくれた。男子バレー部の副部長で実質的エースらしい。

「お前、良いやつだよな」

突然の誉め言葉に疑問が浮かぶ、もう一人の先輩も近づいてきた。遠くからでもわかる髪の毛の少なさ、吉岡部長だ。(坊主)

「おい、サワ。新マネ困ってるだろ、いじめんなよ」

「いじめられてないですよ、部長。コーン置く場所教えてもらってただけです」

「そうだったのか。サワ、ごめんな」

「気にしてない。俺は弱小の男バレ(うち)になんでマネージャーが入ったのか気になっただけ」

サワ。どうやら沢先輩のあだ名らしい。訓読みとはなんと安直なのだろう。一瞬疑問気にこちらを見た吉岡部長だったが、思い出したようにこちらを見直した。

「たしかに、気になるな、しかも男だし!どうせ来るなら女子がよかったな。そうだ!波!お前今から女になれ!」

「嫌ですよっ!てか女子ならだれでもいいんですかっ?」

「なーはっは!確かに!!俺は頑張ってる子がタイプだ!」

堂々とした態度で清々しく、他の話を聞いていた部員の笑いを奪い、部室は笑い声で満ちていた。

 一瞬吉岡部長のボケに、ツッコンでしまった自分が脳裏によぎった。何やってんだろ僕。今も渚さんはいじめに耐えているのに。

 部室の熱気とは逆に自分の心どこまでも冷えていくような気がした。

「大丈夫か、顔。引きつってるぞ。本当に辛かったら辞めてもいいからな。大方、谷ちゃん先生のむちゃぶりだろ?」

部室が喧しくなる中、沢先輩が気を遣うように話しかけてきた。この人の観察眼に驚いたが、視野が広いからバレーボールもうまいのだろうか。表情を作り直し平静を装う。

「大丈夫です。それと、僕もサワって呼んでいいですか?」

「先輩だぞ?俺」

「分かりました、サワちゃん先輩」

会話を聞いていた吉岡部長が「それ、なんかの映画に出てなかったか?」と沢先輩を茶化し、部室がまた騒がしくなった時、いよいよ谷先生が部室に入ってきて「そろそろ帰れよー」と帰宅を催促させた。








大学も相まって忙しいのなんの!でも文書いてるとき意外と生き生きしてるかも。ただ、もっと静かな環境に移りたい!雑音が多いかも

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