始まり
もともとこんなに根暗だったわけじゃない。小学校はよく外で遊んだけど、中学校はよく覚えてない。人と話すことも好きだったし、勉強もある程度出来ていた気もする。
でも高校生になって、今まで自分が当たり前にしてきたことができなくなった。クラスという小さな社会で生き残る術だけを残し、残りは元々持って無かったかのように失ってしまった。新学期が始まった頃は笑えていた気もするが、今はもう自分が笑えているのかすら分からない。
休み時間、教卓の周りに集まり、数学がああだの、先生がどうだの、他愛ない話で盛り上がってる奴らに目が行った。きっと休み時間にクラスの人気者の周りに自然と人が集まるヤツだろう。今はあの輪の中に混ざりたいとか、気になるとかは無かった。ただ、大きな声で話しているので自然に会話が耳に入ってくる。イヤホンはつけない。今までどんな音楽に興味があったのか突然のようにわからなくなってしまった。休み時間の喧しい教室の中でただ顔を机に伏せ、寝ているフリをする。あと五分くらいで休み時間は終わりだろうか。チャイムが鳴るまでの間ただ、耳に入る言葉を頭の中で文字に起こす。
最後の授業が終了し帰路につく。教室を出て、校門をでる。電車に乗り一時間、規則的に揺れる箱の中つり革を握り目的の駅が放送されるまでただ外を眺める。都会から田舎へと風景が様変わりしていくのをただ眺める。
「自分はこのままでいいのだろうか」
時々、考える。レトロ映画のように白黒にザラザラした低いフレームレートの中にこの言葉だけがはっきりと映り、まるで自分を諭すかのように、自分のなかにあるモニターに映し出される。
その瞬間、心臓が締め付けられるように強く鼓動を鳴らし、血流が早くなるのを感じる。息が苦しくなり胸を抑える。目を強く瞑りゆっくりと深呼吸する。
目的地への到達を知らせる放送が鳴り、電車が進行を停止する。胸を押さえながら電車を降り、改札を出てアパートを目指して早歩きする。歩いているうちに胸の痛みは落ち着き、だんだんと早歩きも通常の速さへと戻る。
駅から約二十分歩いた末に家に着く。リュックから鍵を取り出し鍵穴に差し、家の玄関へと入る。振り返りドアを施錠し靴を脱ぎ、そのままリビングのソファへと倒れる。両親は海外赴任、お金だけを毎月振込み、自分には基本干渉してこない。家はいつも自分ひとり。寂しいと思ったこともあったが今はどうでもいい。ソファに顔を埋めながらズボンのポケットからスマホを取り出す。時間は18時46分。この後は特にやることもないので寝れるだけ寝ようと思う。テーブルの上に置いているジップロックからいつもの薬を取り出しキッチンに行き、水とともに飲みこむ。もう一度ソファに戻り全身をゆだねる。部屋にかけてある時計が規則的に秒針を刻む音をただひたすらに聞き流す。
自分は教室の真ん中のほうの席に吸ってる。周りには空席しかなく自分ひとり。目の前には黒板と同じサイズのモニターがあり、そこに今自分がするべきことが映し出されるような感覚。今日、電車の中で起きたような文字だけが投影されるような。自分でもうまく説明ができない。ただ、そこにはいつも自分ひとり、ほかにも席はあるのに、自分だけがそこにいる。机の中は空っぽ。リュックは掛けてあるけど中身はない。
席にすわりモニターを見る、いつものごとくモニターは白黒でフレームレートが低くザラザラとしていた。ただ時間だけが流れていく。これは夢なのだろうか。でも夢にしては出来過ぎている。
「ほんと不思議だよね」
いつも観ている夢のような感覚の場所、そこには自分ひとり、のはずだった。今日、この日までは。
「でさ、この教室?なんだと思う?不思議だよね。気づいたらここにいたんだもん」
その教室はいつも自分ひとりだった。何をするでもなく、時間が流れるのを待つようような場所。なのに、今話しかけられた。振り返ると、女の子が一人、自分の後ろの席に座ってた。凛々しい表情でこちらを見つめる女の子。髪は茶髪のショートで制服を着ていた。自分と同じくらいの年齢だろうか。目が合った時、微笑んで見つめ返してきた。いったいなぜ、自分ひとりだったこの空間に突然女の子が現れたのだろう。夢でも見ているのだろうか、そもそも夢のような場所なのだから人間の一人、いても不思議ではないのだろうが。
まとまらない思考に脳のリソースを割く。
「ねぇ、きいてるの?きいてないよね?」
この会話の感じは確かに同じ人間に思えた。
「ごめん、驚いてて.... 」
動揺を隠せないままに返事をしてしまった。初めての感覚に脳も体も追いつかない。
「あなたはいつからココにいるの?私は今日初めてなんだけど」
彼女からの問いに、冷静を装い答えた。
「随分前からかな、」
まっすぐ見つめてくる女の子に対し僕は思わず目を逸らしてしまった。最近人との接触が極端に減らしていたため、彼女のまっすぐな目に視線負けしてしまった。
少し恥じらう僕を見て、少し笑いながら一間おいてから、自分に訪ねてきた。
「ふーん...まぁいいや。名前!おしえて!」
彼女の問いに対してうそをつく理由はない思い、正直に答える。
「波 コタロウ、君は?」
正直に答えた僕に対して彼女はニコッと笑顔を作り僕に答えた。
「私?教えなーい」
ふふっといたずら気に笑顔を見せた彼女は、きれいな夕日のようだった。一瞬見惚れてしまった時、体に衝撃が走り、意識が朦朧としてきて手足の感覚が薄くなり始めた。もうすぐ夢は終わりだということに気づき女の子のほうを見る。彼女は物事を悟ったかのようにこちらを見ているような見ていないような目で見つめていた。
僕は今日、自分だけの虚無な一人ぼっちの空間に、初めて人が現れて少し興奮していた。
「また、会えるかな」
意識した途端ふと、言葉が自然に出ていた。最近は特にできなかったこと。人の顔色をうかがいながら楽しいを装い続けていた自分が、久しぶりに元に戻った気がした。
今の発言に、自分でも少し動揺していた時、彼女は笑顔で答えた。
「きっとそう遠くないうちに会えるかもね」
目が覚めると、そこはいつもの天井だった。いつも通りに洗面台へ行き身支度を済ませる。昨日は風呂に入るのを忘れていたため、シャワーも浴びた。制服を着て家をでる。家の鍵を閉めアパートを後にする。駅まで行く途中でコンビニに寄り、栄養が考えられているパンと野菜ジュース購入した。電車に乗りつり革をつかむ。朝の電車にしてはやけに空いている気もしたが、昨日の夢について考えを巡らせていた。
昨日はなぜあの女の子がいたのだろうか。いつも見るあの夢は教室に自分以外はいなくて目の前のモニターを眺めて夢が終わるの待つ、というのがすべてだった。人がいるなんてことは今まで一度もなかった。彼女は制服を着ていた。つまり自分と同じくらいの年齢だろう。そしてなぜ、名前を教えてくれなかったのだろうか。不思議なことが起こりすぎて訳が分からなかった。でも、あの夢に行ければまた会えるのではないだろうか。
規則的に揺れる箱の中ふと、いつもの無力感が薄いことに気づいた。不思議だった。高校に入ってからの五月病のような状態を一瞬抜け出せたような気がした。
電車を降りて学校まで行って初めて気づいた。時刻は6時50分。学校が開くにはまだ20分近くあった。仕方なく校門の前で時間をつぶしていると、体育館の方から声が聞こえてきた。
「まじでこいつ腹立つんだけど!! 」
そういえばこの高校運動部が結構活発と聞いたことを思い出した。この時、憂鬱な自分が変わり始めたことには、後になって気づいた。
聞こえるのは女性が怒っているような声だった。
初めて書いてみたのですが、自己満足重視みたいなとこあるので、更新頻度は遅いかも。




