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掌の眼  作者: 瑠璃雀
楽しい夏休み!
99/117

夏休みの終わりとテニス

 長期休みを取っていた蒼介も、いよいよ赴任先へ戻る日が近づいた。とはいえ蒼介もずっと家でのんびりしていたわけではなく、会社にも行っている。雅も出社のために家を空ける日は多かった。


「今日はさ、家族でテニスしないか?」

 蒼介がそう言って七海と流水、雅と霧江を誘う。最近では試合のルールも教わり、サーブの練習もするようになっていた。

「うん!お父さんとラリーしたいー!」

「私も!」

「わたしもー!!」

 流水と七海、雅が笑いながら賛同した。蒼介は駿にメッセージを送り、そのまま五十嵐邸へと歩いていく。

「鷹兄は来られないの?」

 聞きたくても聞けなかったことを流水が聞いてくれて、七海は安心する。


「うん、あいつは午前中大学の研究室で、午後はバスケらしい。夜はアルバイトが入ってるって。」

 蒼介の言葉に流水がほっぺたを膨らませる。

「もー!いっつもいないんだから!」

 がっかりしたのは七海も同じだったが、流水の表情が可愛くてつい笑ってしまう。

「仕方ないよー!たまにふらっと現れたら勝負しよ?」

 自分にも言い聞かせるように七海は言い、流水に笑いかける。

「うん!そのときは霧江さんも一緒に討伐しようね!?」

「えー私も呼んで?私も鷹にゃん討伐するの!!」

 流水が霧江に言うと、雅が混じって来る。皆で笑い合いながら五十嵐邸へと到着し、駿と沙織が出迎えてくれた。


「今日は息子たち出かけているの。夫婦でテニス勝負しようと思っていたのよ!空いているコート好きに使ってちょうだい!」

 沙織に言われ、雅と霧江は笑顔で頷いた。

「じゃ、姉さん?姉妹対決しましょう?」

 霧江が不敵に笑い、雅がにこやかに頷く。

「よーし!頑張るんだから!」

 室内コートは五十嵐夫妻に使ってもらい、七海達は外のコート2面を使わせてもらう。


「よーし、それじゃあ七海と流水のダブルスと、俺とで打ち合いだな!」

 蒼介が反対側に走ってゆき、さっそく打ち始める。

「えーい!」

 流水がしっかりと打ち返す。フォームも安定していて、連日のテニスレッスンがかなり実を結んでいた。

「おおー!ナイスボール!」

 少し短かったが、蒼介は難なく追いついて打ち返す。

「はい!」

 七海も確実にボールを捉え、良い音を響かせて打ち返した。

「おおー!これまたナイスボールだな!!」

 ドライブのかかった打球がきれいにコート内へと落ちる。初心者チームの中では文句なしのトップレベルだが、蒼介はそうとは言わない。


(何せ鷹也のプレイを見てるからな‥)

 ラケットのグリップ、ボールの捉え方、フォロースルー、全てを見て自分の身体に落とし込み、再現する。自分と全く同じことをやっている息子に笑ってしまった。

(身体の使い方・重心・間合い・力の通し方、そういった鍛錬を体術で徹底的に叩き込まれたからなあ。俺もあいつも。)

 

 七海も身体能力はかなり高い。同じ道場に通わせていたら、テニスの上達も更に早かったかもしれない、と蒼介は思う。

「にゃーーーーー!!」

 流水には少し強い球だったらしい。何とか追いつきはしたが振り遅れてしまい、あらぬ方向へと球が飛んでいってしまう。

「あーごめんな?」

「うー‥やさしい球じゃないと打てませーん!」

 素直にそう伝えてくる流水に、蒼介はつい笑ってしまう。

「ごめんごめん!もうちょっとやさしくするな?」

「うん!!」

 流水はふわりと上がった球をしっかりと捉えて打ち返してきた。打ち合いをしながら七海へ返す球と流水へ返す球を打ち分ける。これは蒼介にとっても良い練習になった。


「七海はもう少し強く打っても大丈夫そうだな!?」

「うん!!」

 しっかりとドライブをかけて叩く、が、七海はそれをしっかりと打ち返してきた。

「おー!すごいな!」

「えへへー!」

 想像以上に七海が上達していたために、蒼介もつい力が入る。どこまで対応出来るのか、試したくなってきたのもあった。


「流水!ちょっと七海と勝負したいんだけど、少し見学していてくれないか?」

 蒼介が声をかけると、流水は「うん!」と言ってコートを出た。

「飲み物持ってくるねー!」

 そう声をかけて東屋のほうへと走っていく。つい先日もスポーツドリンクを寄付したので、まだたくさんあるはずだ。


「試合形式でやってみないか?」

「え!?やってみたい!!」

 七海が目を輝かせたので、蒼介は頷き、「サーブは七海からな!」と、ボールを2個七海に向かって渡す。

「サーブ!入るかな!?」

 ボールをトスし、ラケットで叩く。その瞬間に蒼介は動いた。

「ナイスサー!」

 バックハンドの嫌な場所に落ちたボールを拾い、強い球で打ち返す。

「りゃあっ!!」

 しっかりと追いつき打ち返す七海に、蒼介はニヤッと笑う。

「もう一回!!」

 更に速い打球で打ち返すと、当たりはしたものの完全に振り遅れたためにボールはネットを超えることが出来なかった。

「あー!!」

「0-15な!」


 七海は頷き、再びトスを上げる、が、一打目はネットに引っかかりフォルト。二打目はサービスラインを超えてしまい、再びフォルトとなって蒼介の点になる。

「0-30!」

「今度こそ!!」

 バシンッっと当たり損ないのサーブだったが、それが幸いした。ネットを超えないだろうという蒼介の予測に反してネットを超える。

「え!?マジか!!」

 慌ててダッシュするも、ネット際でもあり追いつけなかった。

「わ!!ラッキーー!!!」

「やったー!おねーちゃんすごい!!」

 七海は大はしゃぎで笑い声をあげ、ベンチに座っていた流水も大声で叫んでいる。

「こりゃ、一本取られたな。15-30!」


 蒼介は七海にストップをかけて東屋を見やった。人の気配を感じたので見てみると、恭平が立ち寄ったらしい。恭平は蒼介が見ていたことには気づかず、コートの様子を見て背を向ける。

「おーーい!!」

 立ち去ろうとする恭平を呼び止め、蒼介はコートを離れて走った。

「あ、蒼介さん。こんにちは!」

「今日は一人かい?」

 恭平を促してコートの方へと一緒に歩く。

「友達と約束してたんですけどね、都合が悪くなったそうで。ここに来たら誰かいるかなと。」

「なんだ、それなら一緒にやろうよ。」

 蒼介が人懐こい笑みを浮かべて誘うと、恭平も笑顔を向ける。

「いやー家族で楽しみたいかなーと。邪魔したら悪いし。」

「そんなことないって!」

「うん!一緒にあそぼー!」

 蒼介がそう言うと、流水もそれに続く。そして少し疲れた様子の雅と、余裕そうな霧江が歩いてきた。


「あらー恭平君!一人なの?一緒にテニスしましょ?」

「丁度良かった。姉さんでは物足りなくて!」

 霧江に言われて雅が口を尖らせる。

「霧ちゃんひどいんだから!流水ちゃん、お母さんとまったりテニスやりましょう?」

「うん!!まったりがいいー!」

 雅と流水がにこにこしながら位置につき、霧江がにっこり微笑んだ。

「七海と蒼介さんがそっちで試合中なので、私とラリー勝負お願い!」

「あはは!じゃあお言葉に甘えてお邪魔します!あ、ラケット借りてきますね。家に置いてきちゃったんで。」

 そう言って室内コートの方へと向かう。

「七海ちゃーん!中断させちゃってごめんなー!」

 大声でそう呼びかけると、七海はラケットを置いて両手で手を振った。



 七海はフッと息を吐き出し、再びサーブに入る。

「りゃー!」

 一打目がラインギリギリに入り、蒼介がレシーブだ。速い球ではあるが、七海が追い付けるであろう位置を狙う。

「やーー!!」

 蒼介から歯を食いしばらずに声を出した方がいいよ、と言われて打つ瞬間に声を上げる癖がついている。確かにこの方が変に力が入らず、スムーズに打てる気がするのだ。

 時折、隣のコートから「にゃーーー!!」と声がするのは、流水と雅らしい。これは打つ瞬間のかけ声ではなく打ち損じや、追いつけないときについ出てしまうようだ。妙に可愛い声で、聞こえるとつい笑ってしまう。


 蒼介は速い球を打ち続けるが、コースはそこまで攻めない。さすがに両方を駆使しては、いくら七海でも対応できないはずと考えてのことだ。勝負であっても娘には甘い。

 しかし七海はコースを的確に攻めてくる。

「うわ!‥やるなぁ!七海!!」

 振り遅れや当たり損ないがあるために、コースは読めてもボールの落下地点までは読み切れない。蒼介は何とか追いつき、ボールを返す。

「えいっ!!」

「あーー!!やられた!!」

 何とか上げたボールを、狙いすましたようにコースを狙われた。これは追いつけないな、と蒼介は追うのを諦めた。

「やったーー!!」

「やられたな!30-30!二本連続で取ったほうの勝ちな!」

 七海が立て続けにサーブをミスしたため30-40となってしまい、後がなくなる。


「やー!!」

「残念、フォルト!さて、攻めに来るか、確実に入れに来るか、どっちだ!?」

 一打目をミスしてしまい、後がなくなる。

(うー‥どうしよう‥もう一度ミスったら終わっちゃう‥)

 二打目のトスを上げた七海は、迷った挙句に確実に入れにいく、はずだった。

「あ‥」

 ボールはネットを超えることが出来ずにダブルフォルトとなり、蒼介のポイントとなる。

「迷ったな!‥このゲームは俺の勝ちだ。次は俺のサーブね。」

「はい!」

(うー‥結局、どっちつかずになっちゃった‥こういうとき、どっちにするのが正解!?みんなはどう判断するの!?)


「七海、この一本は本気で打つよ!」

 蒼介がボールをポンポンと地面にバウンドさせながら言う。

「うん!!お願いします!!」

 トスを上げ、蒼介の身体が弓のようにしなる。パコォン!と良い音を響かせたサーブは、サービスライン内で落ちた後、七海の横を一瞬で通り過ぎた。

(え‥うそ、一歩も動けなかった‥)

 七海は呆然としてその場に立ち尽くした。これほどまでに速い球を見たのは初めてだ。

「すごい‥」

「あははは!ごめんな、ついカッコいいとこ見せたくって!!これがサービスエースってやつ!名前もカッコイイだろ!?」

 蒼介が笑いながら言うと、七海も笑顔になった。

「うん!なんかめっちゃカッコいい!!」


 その後のサーブは、七海が取れるよう調整してくれた。球速で勝てないことを悟り、頑張ってコースを狙うのだが、蒼介は不思議と追いついてしまう。

(なんで!?全く別方向へ打ってるのに!ボールが落ちる時にはそこにいる感じ。)

 蒼介が取れないのは、ボールの当たる位置が悪かったときだ。とはいえ狙ってそんなことが出来るわけもなく、七海がポイントを奪えたのは運良く当たり損ねがコートインしたときだけだった。

 2ゲーム目もあっさり蒼介に取られた。

「あーー!負けたーー!」

「はははは!それでも十分上手くなったよ、七海。また勝負しような?」

 父との対戦が楽しくて、七海は笑顔で頷いた。そして次までにはもっと上手くなりたいと思う。



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