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掌の眼  作者: 瑠璃雀
楽しい夏休み!
100/118

勝ちたい理由

「じゃあ次は俺と勝負するかい?」

 恭平がポカリを持って来てくれて、霧江と蒼介、七海にも渡してくれる。

「え?はい!お願いします!!」

 七海の言葉に恭平が爽やかな笑顔で頷いた。

「お?霧ちゃん、恭平君とはどうだった?」

 蒼介に尋ねられ、汗を拭きながら霧江も楽しそうに笑っている。

「さすがに上手いわね!ゲームやったら勝てるかどうかって感じかしら。」

「後で3ゲームマッチをやってみるかい?」

「そうね、短いから緊張感があっていいかもしれないわ!」

 霧江と蒼介がラリー勝負と言って、流水と雅がラリーをしているコートへと行き、七海と恭平はミニゲームをすることになった。



「あの、恭平さん。」

 少しためらうように七海は声をかける。

「‥うん?」

 言おうかどうしようか迷っているようにも見え、恭平は黙ったまま七海の様子を見つめた。強い日差しが地面に降り注ぎ、反射熱で上からも下からも炙られているような気さえする。

「あの、本気でやってもらえませんか?‥私は一本も取れないかもしれないけど、それでいいんです。」

 余りに真剣な眼差しに少し迷った恭平だったが、それでも頷いた。

「‥本当にいいの?」

「‥はい。お願いします!」

 その様子を蒼介がラリーを続けながら眺めていた。会話の内容までは分からなかったが、七海が何か真剣な様子だったのが気にかかったからだ。


 そして七海のサーブから始まった真剣勝負。

「やー!!」

 一本目から狙い通りのコースに飛んだが、恭平は難なくサーブを返す。球速を控えめに、コースを狙っての返球だ。

「りゃ!!」

 何とか追いついて再びコースを狙うが、恭平はネット前につき、ボレーで対応する。これには七海も反応出来ずに恭平のポイントとなった。

「0-15」

 七海はそう呟き、サーブも徹底して攻めた。ダブルフォルトになることも厭わず、コースを狙い、掛け声と共に強打する。

「あー!!」

 結果、ダブルフォルトとなってしまい、更に恭平に加点された。

「‥0-30!りゃああ!!」

 次は狙い通りのコースへとサーブが通る。しかしそれにも恭平は反応し、コースを狙ったレシーブを返した。

(‥七海ちゃんは、何だってこんなに必死なんだ‥?)

 恭平は疑問に思いながらも、強打よりコース重視で返球を続ける。七海は必死に走りながらボールに食らい付き、力任せに叩きつける。

(そんなんじゃすぐにスタミナ切れるだろうに‥)

 七海の様子を観察しながら、恭平はコースと回転を駆使して対応し続けた。



 それから数十分後、あっけなく勝負はついた。七海は1ポイントすら取ることが出来ずに負け、ふらふらになりながらコートの上にしゃがみ込む。

「ここじゃ暑いから、東屋へ行こう。歩けるか?」

「‥う、はい。」

 ぜいぜい言いながら何とか歩き出した七海を、恭平が東屋までエスコートした。

「はい、まずは水分補給。それとね、さっき水で濡らしたタオルも冷やしておいたから、まずは身体を拭いて。」

 そう言いながら冷たいタオルを差し出すと、七海は礼を言ってタオルで首筋を冷やし、スポーツドリンクをがぶ飲みした。


「‥七海ちゃんはさ、何か目標があるの?‥何かすごく気合入ってたじゃん?」

 少し落ち着いたのを見計らい、恭平は穏やかに言葉をかけた。

「‥鷹兄に、勝ちたいの‥」

 七海はそう言って悔しそうに俯いた。

(それであんなにムキになってたのか‥)

 理由は分かったが、なぜそこまでこだわるのかが恭平には分からない。

「うーん‥さすがに女子中学生と男子大学生じゃ難しい、かな。せめて性別が一緒か、学年が一緒なら太刀打ち出来るかもしれないけど。」

 恭平がそう呟くと、七海は顔を上げて縋るように見てくる。

「‥鷹兄、まだテニスは一回しかやってないよ?私は毎日、一生懸命練習してるよ?それでも無理?」

 どう答えるべきか逡巡していると、蒼介がやって来た。


「恭平くん、霧ちゃんがゲームしたいそうだ!ついでにミヤちゃんと流水にもスポドリ渡してやってくれないか?」

 蒼介はそう言って冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出し、恭平に渡しつつ自らも手に取った。

「え?‥あ、はい!それじゃ、行ってきます!」

(蒼介さんが助け舟を出してくれた?‥あとは任せろってことかな?)

 ぱちりとウインクしてくれた蒼介に、笑顔を向けて恭平は小走りにコートへと走った。


「‥ごめんな?話が聞こえてしまったよ。」

 蒼介はそう言って七海に笑顔を向ける。が、七海の方は何も言えずに黙ったままだ。蒼介はコート脇のベンチで休憩している雅と流水を見やった。

「あの二人はのんびりマイペースだなあ‥」

 蒼介はそう呟く。七海もついそちらを見やると、雅と流水が笑いながら話しているのが目に入った。


「お父さんは‥流水のほうがのんびりしていて可愛いって思うの?‥お母さんも同じタイプだもんね。」

「何言ってんだー!鷹也も七海も流水も、それぞれ可愛いところがあるんだから、比較なんて出来るわけないだろ!?」

 寂しそうに言った七海に、蒼介は即座に言い返す。

「えっと‥鷹兄にも可愛いって?」

「当たり前だろ?全員腹を痛めて産んだ子だぞ!?‥あ、俺は痛めてないか。」

 七海はくすっと笑ってしまい、もう一度タオルで顔をごしごし擦った。この暑さのために、既に冷たさは殆ど残っていなかったが、それでも少しだけスッキリした気がする。


「七海はさ、どうしてそんなに鷹也に勝ちたいんだい?」

 蒼介が問いかけると、七海はため息を落とす。

「だって、勝てるものが何もないんだもの。」

 それを聞いて蒼介は笑い出した。父の笑い声に七海がムッとして反論しようと口を開きかける。

「七海!あいつに勝ちたいのに、どうしてあいつのフィールドで勝負しようとするんだよ!」

 笑い続ける蒼介に、七海はぽかんとして父を見た。

「あいつの、フィールド‥?」


 蒼介はひとしきり笑った後、七海に向かってニヤッと笑いかけた。

「勝ちたいなら、自分が有利な方法で勝負を挑む。どうしてもテニスで勝ちたいっていうなら、せめてハンデをつける。七海の正々堂々と勝負したいって気持ちはね、すごく良いと思うよ。けど体格差や筋力差、スタミナ、これはもうどうしようもないだろう?」

 七海は黙ったままだ。言われていることは分かる。けれど、そういうことじゃない。

「でも!普通のハンデじゃ勝てないもん。‥結局自分が勝てるだけのハンデをつけたら、ただ自分が惨めになるだけじゃん!」

 思わず大声を上げてしまうが、蒼介は穏やかに笑っている。

「‥じゃあ七海、もう一回聞こうか。本当に七海は鷹也に勝ちたいだけか?」

 そう問われ、七海は固まった。さっき自身が言ったことなのに、改めて問われると素直に肯定することが出来ない。


「まあ、勝負云々は置いといてな、七海が鷹也にテニスやりたいって誘えばいいんじゃないか?」

 そう言われ、七海は唖然として父を見つめた。

「‥え?」

「神楽祭の時も、その後も、あいつとは殆どまともに喋っていないんだろ?」

 言われてみると確かにそうだ。姿は見ているのに、のんびり話す機会すらなかったことに今更ながらに気付いてしまった。

「‥うそ‥え?‥わたし、鷹兄と話したかっただけ‥?」

「俺にはそう見えるけどね。」

 蒼介に笑顔で言われ、七海は何も言えなくなってしまう。否定することすら出来ない自分が腹立たしい。


 そんな話をした後、蒼介は流水と、七海は雅と、まったりラリーを楽しんだ。

(勝負にばっかり気を取られていたけど、こんな風に笑いながら楽しく続けるの、楽しいじゃん。)

 神楽祭の時も、今も、普段いない父がこうしてきちんと自分を見て話をしてくれたことが嬉しかった。

(‥そっか、鷹兄とこうしてテニス出来たら嬉しいかも。何で勝負したかったんだろう?)

 熱くなっていた頭が冷えたおかげなのか、恭平にムキになって向かっていった自分が少し恥ずかしくなった。

(恭平さん、どう思っただろう‥)

 想像してカーっと顔が熱くなる。

(これが黒歴史ってやつーーーーー!?)

 まったりテニスとは裏腹に、頭の中は大忙しの七海だった。



 休憩のタイミングが合ったとき、七海は恭平の所へ行ってぺこりと頭を下げる。

「えっと、さっきはごめんなさい。‥なんかすっごいムキになってて‥その‥」

 七海の言葉に恭平は笑いながら「気にするなよ」と、軽く言ってくれる。

「で、少しはおちついた?」

 そう声をかけられて七海は「うん」と頷く。

「‥鷹兄と遊びたかっただけ、なのかな。でもさ、勝ちたいのは本当なんだけど、お父さんにね、あいつのフィールドで勝負するなって言われたの。」

「あははは!確かに。勝ち負けにこだわるなら確実に自分が勝てる勝負をしないとね!」

 朗らかに笑う恭平に、七海もふふっと笑った。

「恭平さんだったら、何で勝負する?」

「俺!?どうだろうなあ、何だったらあいつに勝てるのかが分からん!カラオケなら勝てるのかな?」

「え!?恭平さん、歌上手いの!?めっちゃ聞いてみたい!!」


「おー!いいねえカラオケ!この後みんなで紅白対抗歌合戦やるか!?」

 いつの間にやら来ていた蒼介がニヤッと笑って提案する。

「え!?やりたいやりたーい!!」

 流水も来ていて話を聞いていたらしい。ぴょんぴょん飛び跳ねながら大興奮だ。そして勢いのままに紅白対抗歌合戦が催されることになったのだった。




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