夏祭り
準備を整えた一行は、早速近所の神社へと歩いて行った。家族全員が浴衣姿なのは珍しいらしく、人目を引く。
「ナナ!わあー!すっごいきれいな浴衣!!青似合うよね!」
褒められると、顔が熱くなってしまう。
「そっ‥そんなこと‥それより茜の浴衣も可愛い!やっぱり赤似合うよね!」
二人は照れながら笑い合う。母の立夏と弟の融は普段着、灯が同じく赤系の浴衣を着ていた。
「ルミ姉の浴衣もかわいい!」
「えへへ!ありがと!灯ちゃんも可愛いよ!?」
そんな会話をしながら、屋台をのぞいていく。定番の綿菓子からりんご飴、流水はチョコバナナの出店に張り付いている。
「おー!みんなお揃いか!?」
「浴衣着てきたのか!なんかいいな!!」
道明と遊馬がそれぞれ妹と弟を連れて歩いて来た。男子二人はさくらの浴衣姿を見て、ほんのりと顔を赤くしている。きれいなお姉さんには弱いのかも知れない。
「今度浴衣パーティしようかって話もしててね!?」
七海の言葉に、道明達も乗ってきた。
「俺も浴衣はあるんだけど、わざわざ着てくるまでもないかなーと。」
「たこ焼きのソース落として怒られたからなー!」
道明と遊馬が言いながら笑っている。
「食べやすくて美味しいごはんを準備しないとダメね!」
妙に霧江が張り切っており、さくらと二人で再び真剣に協議を始めた。
「あ!ステーキ串だ!!」
遊馬が早速屋台に引きつけられる。涼も一緒になって「ステーキ!!」とテンション爆上げで並び始めた。
「‥なんかさ、妖たちがけっこういるんだねえ。神社って住みやすいのかな?」
周囲に生えている大木の枝に、妖たちが並んで座っていたりする。流水があちらこちら、視線を向ける先に妖たちはいた。
「神社に住んでいる子は多いようですね。自然が多く残っているのと、普段は人が少ないですから。」
さくらが同じように木を見上げて静かに教えてくれる。妖たちを見る目は優しげで、流水も思わず笑顔になってしまう。
「やっぱり自然が多い所が好きなんだねえ‥」
妖たちもこちらの視線に気づいたのか、手を振ってくれる。
それから蒼介に促され、同級生達と一度別れて七海達は社に向かう石段を上がって行った。さほど長い石段ではないのだが、一段一段上がるにつれ、下の喧騒が徐々に遠のいていく。何となく空気も変わっているように思う。
「あれ?お祖父ちゃん達だ。」
石段を上がり切った先で、篁と環が神社の人たちと笑顔で話しているのを見かけ、思わず流水が声をあげる。
「ああ、お祭りだからご挨拶に来たのね。」
雅はそう言って説明してくれた。七海達が普段行く社は、一族の者しか入ることが出来ない。一般の参拝者はいないが、周囲の寺社とは交流もあり、時折、相談を受けることもあるのだという。
「‥しかし、こちら側には何の異変もありませんでしたな。その後は落ち着いたようで何より。」
白衣に袴姿の男性が穏やかに話しているのが聞こえる。
「心配をかけてすまなんだ。大事には至らなかったが、念のため伝えておかねばと思っていたのでな。あれから日数は経っているが、現時点でも異変はない。儂も安心しておるよ。」
篁の言葉に男性は穏やかな表情で頷いている。
「左様でしたか。それは何より。何か異変があれば、我らも必ずご連絡致します。」
「うむ。互いにこの地を護る者同士、今後とも宜しく頼む。」
「こちらこそ宜しくお願い致します。」
そんな会話が聞こえて来て、七海達はなんのことだろうと不思議に思った。
「‥おや?蒼介!?久しぶりだな!」
男性はこちらを向き、途端に笑顔になった。
「ご無沙汰してます。夏休みで帰省してましてね。今日は家族で来ました。娘の流水と七海です。」
雅と霧江のことは既知のようで、互いに会釈を交わしている。
「おお、大きくなったなあ。私はこの神社の宮司を務めていてね、君たちがまだ小さい頃に何度か会っているんだ。」
七海と流水は全く覚えておらず、自己紹介をしてお辞儀をする。
「神楽祭での出来事についてな、改めて報告と現在の状況を伝えていたんだよ。」
篁がそう教えてくれる。
「はは、不思議かい?お仕えする神様は違っていても、地域の安全を願う心は同じだ。情報交換もすれば交流もあるんだよ。」
宮司はそう言って微笑んでくれる。穏やかで優しげな表情は、どこか安心感があった。
「ご無沙汰しております。また近いうちに祖父がお邪魔すると言っておりました。」
さくらがそう言って頭を下げると、宮司は眩しそうにさくらを見つめた。
「‥よかったなあ、さくらちゃん。」
左右異なる瞳の色を隠すため、幼い頃から髪で目を隠していたことを、この宮司も知っている。
「‥はい。」
短い返事の中に、どれほどの想いが込められているのかを悟り、宮司は目を細めてうんうんと頷いた。もう髪でその目を隠す必要がなくなったこと、それが何より嬉しかったのだ。
その後霧江とも挨拶を交わした後、蒼介が再び前に出た。
「俺もあと一年くらいで単身赴任は終わる予定なんで、その時にはまた改めてご挨拶に伺いますよ。」
蒼介がそう言うと、宮司は穏やかに微笑んだまま頷いた。
「篁さん、また近いうちに神職同士の集まりがあるから、その時にはお声がけしますよ。蒼介もまだこっちにいるならぜひ!」
そう言って宮司は全員に会釈をして社へと戻って行った。
「普通の神社とも、交流があったんだ‥」
七海が驚いたように呟くと、環がにこやかに頷く。
「あの方の家はね、この近辺の神社を複数掛け持ちしているの。いつもここにいるわけではないけれど、お会いしたらご挨拶はしてね?」
そう言われ、七海と流水は頷いた。こんな風に紹介してもらえたのも少し嬉しかった。
「あの、お祖父ちゃん?」
七海は思い切って尋ねてみることにする。篁は「うん?」と、こちらを見る。
「その‥私たち、神楽祭のときにも特に一族の人たちにご挨拶はしなかったじゃない?‥その‥何か‥それで良かったのかなって。きちんとご挨拶すべきだったかと‥。」
事前に環に気にしなくて良いと言われてはいた。しかし、兄があれほど多くの人と係わっていると知ってしまった以上、このままではいけない気がしてならなかったのだ。
「少しずつ交流を持てば良いからなあ。あまり最初のうちから一族との交流を深めてしまうと、一般の人たちと接する機会が減ってしまう恐れがある。だから今は、色々な人たちと係わって欲しいんだよ。」
篁にそう言われ、七海は静かに頷いた。
(けど‥鷹兄は一族の人とあんなに交流していたのに。どうして私は断られるんだろう。)
それ以上のことは何も言えず、七海は聞くのを諦めた。何となく、兄のことを質問すると、祖父母は答えにくそうにすることが多い気がするせいだ。
「さて!付き合わせてしまって悪かったな、七海、流水。宮司さんに挨拶をしておきたかったのと、改めて紹介しておきたくてね!さ、出店に行こう!もうすぐ花火も始まるしな!」
蒼介はそう言って明るく笑い、皆を促す。
「わーい!おねえちゃん、なに買う!?」
「‥え?あ、うーん‥なにがいいかな‥」
七海と流水が手を繋いで歩いて行く様子を眺め、蒼介と雅は楽しそうに笑った。
「仲がいいわよねえ、あの子たち。喧嘩することもないみたい。」
「本当になあ。そして何と言っても可愛いだろ!!」
親バカ発言の応酬をしながら、二人も娘たちの後をゆっくりと追っていった。
出店で食べ歩きをしていると、道明や遊馬、茜と再び合流出来た。人も多く、花火を見るのに良さそうな場所へと移動することにした。遊馬が先頭に立って歩き、弟妹たちがちょこちょこと後に続く。流水は、道明と茜の妹と左右それぞれ手を繋いで歩いていた。
「俺的オススメスポットはここかな!」
遊馬が案内してくれた場所は、人混みから少し離れた少し高台になっている場所だった。
「おー!遊馬くんと俺のオススメスポットが一緒とは!」
蒼介が嬉しそうに言い、二人はニヤッと笑い合った。夜になると少し空気がひんやりしてきて、汗ばんだ肌に風が心地よい。
破裂音と共に、夜空に大輪の花が咲く。
「「「おお~!!」」」
赤や緑、青色の花火が次々と打ち上げられ、空を見上げてしばし無言になる。小学生たちは花火が打ち上がる度にキャーキャー声を上げていたが。
(‥来年の夏も、こうしてみんなで花火が見られたらいいな‥。)
もうすぐ終わりを迎える夏休みと共に、夏も終わりを迎えてしまう。楽しくて充実していただけに、この時間が終わっていくのが寂しいと思ってしまうのだ。
「しだれやなぎだー!!」
流水が嬉しそうに声を上げてうっとりと見入った。
「あーいいよな!俺も好き!」
遊馬もそう言って、長く尾を引いて落ちるさまをいつまでも眺めている。
「意外だなあ、何か色とりどりの花火が、パンパン弾ける系が好きかと思ったのに!」
道明が笑いながら呟くと、遊馬は楽しそうに笑った。
「あはは!花火は全部好きなんだけどね!なんてーの?夏って短いじゃん?少しでも空に留まっていたいなーみたいなさ、ちょっと往生際が悪い感じ?気持ちわかるわー!って思うんだよ!」
そんな表現に流水は笑ってしまう。
「往生際が悪いは初めて聞いた感想だー!なんかこう余韻を楽しむ感じっていうか!物悲しい感じというか!‥そういう感じだと思ってた!」
遊馬と流水は「あははははは!」と笑っており、道明と茜もつられて笑っている。
(こんな風に笑い合う時間ってあとどのくらいあるんだろう‥)
何となく淋しい気分になって、ふと横を見ると、さくらが心配そうに自分を見つめていることに気づいた。七海は少しばかりバツが悪くなり、何とか笑顔を浮かべる。黒と金色の虹彩は、こうして近くで見てみると一層神秘的だった。
さくらはそっと七海の肩に手を置いて優しく笑ってくれる。不安な気持ちや寂しい気持ちを察して、元気づけてくれているように思う。
(‥さくらちゃん、本当のお姉ちゃんみたい‥)
今度こそちゃんとした笑顔を浮かべる。そして皆と一緒に花火を見て、笑顔でお喋りしながら楽しい時間を過ごした。
七海浴衣姿
流水浴衣姿
さくら浴衣姿
※画像はAIによるイメージです




