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掌の眼  作者: 瑠璃雀
楽しい夏休み!
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夏祭りと浴衣

 夏休みも終わりが近づき、その日も七海たちは朝から篁邸に集まっていた。

「宿題おわったーーーーー!!」

 小学生達が思わず大声を上げてしまい、慌てて口を閉じる。

「大丈夫!私たちももう明日には終わりそうだよ!」

 茜がそう言って笑いかけると、小学生たちも嬉しそうに笑った。兄世代は来る日もあれば、来ない日もあった。地元友達と久々に会って出かけていることもあるようで、今日はさくらだけが来てくれている。


「ルミ姉!今日もテニス行く!?」

 すっかりテニスの魅力にハマった小学生たちは、日焼けして逞しくなっていた。小学生達の適応力はすごいもので、その上達の早さには驚かされるばかりだ。とはいえ、同じように連日テニスに明け暮れている七海達も負けていない。最近ではショートラリーからロングラリーまで、ずいぶん安定して打ち合えるまでに成長している。


「あー今日はね、午後からみんなで買い物なんだ!そういえば、お祭りには来るの?」

「「「「行くよーーー!!!」」」」

 元気に答える小学生達に、流水も笑っている。

「人多いしさ、俺らも引率で行く予定。」

 既に宿題を終え、自習をしていた道明が笑顔でそう言った。

「兄ちゃんも夜には来るかな?」

 遊馬もあとプリント1枚を残すのみとなっていて、ご機嫌な様子だ。兄の司は塾の夏期講習に通っているらしく、ここ数日は姿を見せていなかった。


「よーしじゃあテニス行くぞー!!」

 遊馬の弟、涼がそう声をかけると、小学生達は「またねー!」と手を振ってぞろぞろと出て行った。

「さて、じゃあ俺らも行こうか!」

「またなー!」

 道明と遊馬が手を振って出て行き、茜も母のケーキ屋を手伝いに行くと行って出て行った。


「ふふ、急に静かになりましたね。」

 連日来てくれているさくらが、にこにこと笑いかけてくれる。

「何か毎日がお祭りみたいで楽しかったなー!」

「うん!夏休みももうすぐ終わっちゃうのか・・」

 流水と七海が言いながら空を見上げる。晩夏の日差しに目を細め、再び始まる学校へと意識が向いた。

「さくらちゃんと一緒にお祭り行きたいなー!」

 流水がにこにこしながら声をかけると、さくらも頷いた。

「これからね、浴衣を買いに行くんだ!一緒に行かない?」

 七海もそう言って誘う。

「そうですね。でも、ご両親と一緒に行かれるんですよね?」

「うん!でもさくらちゃん一緒だったらお父さんもお母さんも喜ぶよ!」

 心配そうなさくらをよそに、七海と流水はさくらも連れ、そのまま自宅へと一緒に帰宅した。


 帰宅すると両親と霧江が出迎えてくれた。鷹也も来ていたので、七海はつい笑顔になってしまう。

「鷹兄も一緒に行くの?」

「いや、俺はこのあと大学行くから。」

 家族で出かける時に兄が一緒に行くことは殆どない。

「え!?じゃあお祭りは!?ね、さくらちゃんも一緒だし、行こうよー!」

「まあ俺のことは気にせずに楽しんできな。今日中にやらなきゃいけないことが出来たから、悪いな。」

 すげなく断られてしまい、七海はしょんぼりと肩を落とす。

「鷹兄、明日は来る?」

 流水が尋ねると鷹也は首を振った。

「教授に呼び出されていてね‥どうだろ?バスケもあるし。何かあるか?」

「何にもなくても来て欲しいのー!でも忙しいなら無理しなくていいよ?」

 流水がそう言って笑うと、鷹也も笑って頷いた。

「いってらー。」


「すみません、ご一緒させて頂いても大丈夫ですか?」

 さくらが遠慮がちに声をかけると、蒼介も雅も笑顔で頷いた。

「おお!さくらちゃんも一緒!?それは嬉しいなあ!」

「大歓迎よ!!」

 蒼介と雅、霧江とさくら、七海と流水が車に乗り込むと、鷹也は皆を見送って篁邸へと歩いて行った。



 昼食は近所のファミリーレストランで済ませ、6人は大型ショッピングモールへと向かう。夏休みということもあり、家族連れで賑わっていた。

「わ、この浴衣可愛い!」

「これさくらちゃんに似合いそう!」

 娘二人がきゃあきゃあはしゃぎながら選んでいるのを、蒼介が笑顔で眺めている。

「わ!!」

 鮮やかな青に惹かれて立ち止まった七海は、浴衣を手に取りじっくりと眺める。目の覚めるような青に星空が描かれており、一瞬で心を奪われていた。

「それは七海ちゃん似合いますね!」

「うん!おねーちゃんぽい!!」

 さくらと流水に褒められ、七海は照れながら早速試着する。お店の人が帯を見繕ってくれ、銀地に様々な色の混じったきれいな帯を持ってきてくれた。

「わ!!これにする!!」

 一目で気に入った七海は即決し、お店の人に勧められるまま小物も決定した。

「私はこれにしたの!」

 明るい水色に赤い金魚がかわいい浴衣を流水は気に入ったらしい。金魚の色に合わせた赤い帯が可愛く似合っている。そしてさくらは白地に薄墨の水墨画のような柄を気に入ったらしい。落ち着いたさくらの雰囲気と相まって、非常に似合っていた。

「うわぁ‥すごくお姉さんって感じ!さくらちゃんキレイ‥」

「うん!大人っぽくてすっごいきれい!」

 試着したさくらに、流水と七海がうっとりと見入っている。霧江と雅も穏やかに微笑みながら頷いていた。


折角だからと、雅と霧江も浴衣を新調し、蒼介までもが買った。

「あー‥ワンタッチなんていうのもあるんだな。」

 蒼介は手軽に着られる浴衣を何着かついでに購入する。

「単身赴任先でお世話になっている人がいるからさ、お子さんもいるし、浴衣は喜んでくれそうな気がするんだよね。」

 蒼介はそう言いながら七海や流水にも相談しながら追加で数着を購入する。

「わ。‥ねえこれ、鷹兄にめっちゃ似合いそうなんだけど!」

そう言いながら七海が指さしたのは、黒地に雨のような細い銀の線が入っている浴衣だった。

「あー確かに!鷹兄、神楽祭の時の羽織姿も似合ってたもんねえ。」

 流水と七海が話していると、雅と蒼介も笑いながら頷いた。

「でも鷹兄来ないなら‥もったいないか。」

 七海が残念そうに呟いたのを、蒼介が即座にフォローする。

「じゃあ夏休み終わりに、父さんのところで浴衣パーティでもやろうか。夕方から集まって、花火やってもいいしね。」

 蒼介のそんな提案に、七海達は大喜びだ。

「それにこの先だって着られるんだ。せっかくだから買っていこう。」


「バーベキューもいいけど、浴衣に匂いが移っちゃいそうだし、冷めても美味しく食べられるお料理を準備しようかしらね。」

 霧江がそう呟くと、流水とさくらが笑顔でお手伝いの立候補をする。

「あ、ええと!丸いパンで半分に切ると具を入れられるやつ!」

「あ、ピタパンかな?確かにいいかもしれません。こぼれにくいですし。」

「いいじゃない!自分たちで好きな具を詰めて食べるのも楽しいわね!」

 流水の提案から、さくらと霧江が盛り上がり、三人が一緒になって料理談義に花を咲かせる。


「‥私たちは美味しく食べましょうね、ナナちゃん!」

 料理苦手な雅が、七海の肩に手を置いて言い聞かせるように告げる。

「あはは!うん、美味しく食べる係、重要だもんね!」

 七海もそんなふうに答えて、二人は仲良く笑った。

(そのうち料理は練習するけど。‥でも苦手だからダメってことではないの、かな?)

 母が言葉にせずともそう言ってくれている気がして、少し安心できたのだった。



 夕方になると、七海達は早速浴衣を着る。霧江と雅は着物の着付けも出来るので、教わりながら二人は浴衣を身に付けた。

「「やっぱり可愛い!!」」

 雅と霧江が二人で絶賛しつつ写真を撮りまくる。

「今月から待受はこれにしようかしら。あ、どうせなら鷹ちゃんとのスリーショットがいいわー!」

 うふふふと幸せそうに笑いながら、雅が今撮ったばかりの写真を眺めている。

「おかーさん、その写真わたしとおねーちゃんにも送ってー?」

 流水にせがまれ、雅と霧江はそれぞれベストショットを家族メッセに送ってくれる。

「わーい!おねーちゃんとのツーショット!家族写真も欲しいな!!」

 七海も写真を見てついついニヤけてしまう。流水が可愛い。いや可愛すぎる。むしろ尊い。


「‥鷹兄とのスリーショット‥」

 思わず呟いたあとで、ここに兄が入ることを想像して時が止まった。

「ん?どうしたのおねーちゃん?」

「この写真の背後に鷹兄が立って写ってたら‥その‥不審者っぽくならないかなって‥」

 思わず呟いた七海に、流水と霧江、雅が吹き出した。蒼介は爆笑している。

「事案‥」

 けらけら笑いながら流水が言い、雅が目を輝かせる。

「浴衣も黒地だし、黒猫さんになってもらえばいいのよ!!」

 名案だわ!といった雅の発言に全員が撃沈した。

「‥あの、お母さん。‥えっとね‥怪しさが増すだけ‥」

 涙をにじませながら七海が言い、流水も笑いの発作が止まらなくなっている。霧江は後ろを向いているが背中が震えているので笑っているのだろう。

 浴衣での家族写真をリビングや家の前で撮り、家族メッセにそれぞれが貼っていく。流水も、両親が手を繋いで歩く後ろ姿を写真に収めた。

「これさ、お父さんとお母さんが見慣れた場所で写ってるのって、いいよね。これが当たり前みたいな感じがする。」

 流水の言葉に、七海も頷いた。

(そうか‥もう少ししたら、またお父さんもお母さんも、家から離れちゃうんだ‥)

 夏の終わりの物寂しさと相まって、心の奥がキュッと痛む。神楽祭のときも、父は自分に寄り添ってくれたし、気にかけてくれているのが伝わってくる。


「お父さんとお母さんが一緒にいられるうちに、楽しい思い出いっぱい作ろー!!」

 流水がそう言って七海の腕にしがみつく。

「‥うん、そうだね!」

 目の奥がツンとしてきたのを堪え、七海はにっこりと微笑んだ。



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