総力戦と水澤家の普通
蒼介&恭平コンビの敗北後に立ち上がった勇者がいた。
「兄貴、仇を取りに行ってくるわ!」
道明がそう言うと、遊馬と茜、七海の4人がコートに入る。
「‥え?今度は4対1なの?」
遊馬がそれぞれ指示を飛ばし、茜と遊馬が前衛、七海と道明を後衛に置く。
「んじゃ、行くね?ボール2個で行くから頑張れよ?」
楽しそうに遊馬がボールを出した後、七海もボールを打った。
「はい?いや、ちょっと待て!!」
鷹也は即座に走り出し、それぞれのボールに対応する。
「いよっと!!」
掛け声と共に遊馬がすかさずボレーする。鷹也はそれをノーバウンドで返した後、即座に七海の返球へと対応する。
「マジかー」
2球を追いかけることになり、さすがに余裕がない。そして七海も道明も茜も、コントロールがし切れないだけに、ボールのコースを予測するのも難しかった。
「どーこーにーうーとーうーかーなー!」
遊馬がそんなことを呟きながら、鷹也の位置と狙うコースを眺める。後衛の七海たちがどこに打つかも予測しつつ、パンッと小気味良い音を立ててボールを叩いた。
「嫌な位置狙うねえ。」
そうは言いながらもノーバウンドでボールを弾き返す。狙いは茜のバックハンド側だ。
「わわっ!」
茜は何とかラケットにボールを当てたものの、ネットを超えることが出来ずにミスショットとなってしまった。
「うわぁ‥鷹兄意地悪だ~!まだバックハンド慣れてないのにぃ~!」
口を尖らせて抗議する茜に、鷹也はニヤッと笑いかける。
「慣れてないからこそ、練習も必要だよな?」
そして道明が大きな山なりのボールを返球する。しかし鷹也は一歩も動くこと無く見送った。
「‥すごいな。二球を受けているのに、全く危なげない。アウトの見極め早いしなあ‥」
「反射神経の良さかしら。コースの読みが正確なのもあるわねえ。」
駿と沙織が分析しながら感心したように話している。
「遊馬!もっと前後左右に振れ!」
「走らせろーー!!」
智樹と智琉が大声を上げて注文をつける。
「七海!!」
帰ってきたボールに七海が打ち返そうと構えた。兄はちょうど茜からのボールを返球する瞬間だ。
(一か八か!ストレートに!!)
パコン!と良い音を響かせ、ネットギリギリの高さにボールが向かう。そしてガツッとネット上端に当たり、相手コートへと落ちる。
「うわマジか。」
スピンがかかり、バウンドした直後にグンッと伸びる。ギリギリで拾い上げるが、茜がそれをボレーで落とた。それを見た遊馬は、ボレーに引っかからないよう、山なりのロブをエンドラインギリギリへと打ち返す。
「よっし!!」
さすがにこれには対応出来ないだろうと、遊馬がしてやったり!の笑顔になる。が、鷹也は茜のボレーを拾って、茜の真横を抜けるように落とし、そのままエンドライン方向に走った後、トンッと踏み切ってジャンプした。そのジャンプの高さに、大人たちも子どもたちも、驚きに目を見張る。
パコンッ!という気持ちの良い音と同時に、スマッシュを叩き込まれた。茜の横を抜けたボレーに道明は追いつけず、4人のド真ん中に叩きつけたスマッシュには誰も反応出来なかった。
4人はその場で呆然とし、顔を見合わせる。
「「「「ええええええ!?」」」」
ようやく何が起きたのかを理解した直後、全員が同じ叫び声を上げていた。
「うへえ‥あれ捌くのかよ。あいつ、おかしいだろ!!」
「「すっげーーー!!かっけーーー!」」
「「やばいーー!!」」
蒼介が叫んだ直後に子供たちの歓声が上がる。立夏や雅までもが拍手して大喜びだ。
「もーーーーーー!!」
「うそでしょーーーー!?」
七海と茜も悔しげに声を上げる。こちらがあと一回ミスしたら負けだ。遊馬と七海は頷き合い、同時に別方向へとボールを出す。が、どうやらそれすら予測されていたらしい。遊馬の出したボールを山なりに道明のバックハンド側へ、七海の出したボールを遊馬の逆サイドに打ち分け、そのまま出方を窺っている。
「うおりゃー!」
遊馬が気合一閃、クロス方向サイドラインギリギリを狙ってボレーに入るが、鷹也はネット際まで走り、ボレーをボレーで返す。遊馬と茜の間を抜け、七海が必死に走ってなんとか追いついた。
「ナーイス。」
鷹也は再びジャンプして七海が元いた位置、コーナーギリギリへと返球し、そのまま道明が打ち返したボールへと走ると、ラケットを持ち替えて七海が向かったコーナーへと打ち返す。
「ぎゃーーーーーー!!」
二球連続に七海は悲鳴を上げ、一球は何とか打ち返したものの、もう一球にまでは及ばない。
「うっわ!!鬼だー悪魔だー!鷹兄サイテー!!」
茜が笑いながら言うと、道明と遊馬までが一緒になって囃し立てる。
「ちょ、4対1の挙句にボール2個出してきた相手に言われたくないんだけどなー?」
汗だくになりながら鷹也も笑って言い返す。
「すっげーな鷹兄!!」
「めっちゃかっけーーー!!」
小学生男子二人は鷹也ファンになったらしい。自分たちの相手をしろとせがむ。
「いやあのな?ちょっと休ませて?」
智樹が悔し紛れにポカリを投げつけるが、これも難なくキャッチして「サンキュー」と言いながらガブ飲みしている。
「いやあ‥しかしすごいなあ。ぜひとも対戦したいのだが?」
「私と主人のペアとでぜひ!!」
五十嵐夫妻が食い気味に詰め寄り、小学生たちも対戦しようと詰め寄ってくる。
「‥まじか。」
結局、小学生4人と対戦し、その後、五十嵐夫妻とも対戦。そして智樹&智琉とも対戦した。連戦に継ぐ連戦にも関わらず、孤立無援状態の中、やり切った。
小学生4人には圧勝、五十嵐夫妻とは度重なるジュースの末、辛勝した。そして智樹&智琉にも何とか勝利した。
「あっづい。」
走りっぱなしでさすがに疲れたらしい。頭から水道の水をザバザバかぶり、スポーツドリンクをガブ飲みしている。
「この初心者詐欺め‥」
「何で普通に打てるんだよ!?」
智樹と智琉も悔しそうだ。
「何でって言われてもなー‥」
智樹にホースで水をかけられているのに、何となく嬉しそうなのが腹立たしい。
負けてしまった七海たちもラリーの練習を繰り返し、蒼介や司のコーチを受けて少しずつ、しかし確実にレベルアップしていった。
「とりあえずの目標は4人対戦で鷹兄に勝つこと、だな。」
遊馬の一声に、他の三人も一斉に頷く。
「よーし、じゃ、鷹兄を倒すぞーーー!!」
「「「おー!!!」」」
そして七海は夏休みの間に、兄と一対一での打ち合いをするぞ!と、心に決めたのだった。
「‥あっつー!テニスはもういいや‥とりあえずプール行かねえ?」
鷹也が蒼介に声をかけると、途端に蒼介の目が輝いた!
「いいな!!軽く流すか!!」
「「私たちも行く!!」」
七海と流水も一緒になって声を上げた。
「ミヤちゃんも行く?」
「…いいえ。私はさくらちゃんともう少し練習するわ。好きなだけ泳いでいらっしゃい?」
蒼介が雅を誘ったが、あえなく断られた。
「プールいいなー!いっつもどのくらい泳ぐんだ?」
何の気なしに遊馬が尋ねる。
「うん?私と流水は2千か3千くらいかな?」
七海がにこやかに答えると、その場にいた全員の時が止まった。
「は?‥え?‥今、なんて?」
「2千から3千くらいだよー!平泳ぎと~クロールと~バタフライと~背泳ぎを25mずつで100mでしょ?10本泳いだら休憩して、2,3セット泳ぐの!あ、でもおとーさんと鷹兄は5セットくらい?」
流水がにこにこしながら答えると、蒼介と鷹也は「そんなもんだよね」と軽く頷いている。
「これも水の系譜だからなのかしらね‥。私は浮き輪なしには泳げないもの。」
深いため息をつきながら雅が呆れたように呟く。
「待って?三千って三キロだよね?まじで!?」
思わず恭平が突っ込むが、七海と流水は「それが何か?」といった表情で頷いた。
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんもそれくらいは泳ぐよね?」
「ねー!」
妹二人が楽しそうに言い合うのを見て、その場にいた全員が「水澤家やべえ」と認識したのだった。
「よし!じゃあ今日もお邪魔しました!明日も午後はお邪魔します!」
蒼介が元気よく挨拶すると、駿は若干引き気味で「お、おう‥」と返事をする。蒼介・鷹也・七海・流水はプールがよほど嬉しいらしく、楽しそうに手を振って帰って行ったのだった。
「‥魚類かよ。」
ぼそりと智樹が呟くと、たまらず智琉が吹き出した。そしてその笑いは徐々に周りを侵食し、その場にいた全員が笑い出したことを、七海達は知らなかった。




