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掌の眼  作者: 瑠璃雀
楽しい夏休み!
92/113

七海の期待?

 室内テニスコートに着くと、小学生と流水がきゃあきゃあ言いながら走り回っている。ラケットに振り回されながらボールを追う姿は、まるで子犬のようだ。

「うわ、何かすっげー楽しそうだなー!」

「テニスというよりボール遊びっぽいけどね!」

 流水の真新しいラケットとテニスシューズはピカピカで、七海と茜、雅とも色違いのお揃いだ。

「あ、おねーちゃん!!」

 七海達に気付いた流水が手を振ってくれ、他の弟妹達も気づいて手を振っている。

「どう?上達した!?」

 茜が笑顔で尋ねると、小学生たちは笑顔のまま頷いた。

「分かんないけど楽しい!!」

「テニス面白いー!!」

 ずっと走りっぱなしだったのか、皆、汗をびっしょりかいており、息も上がっている。


「みんな日陰で休憩。それと水分補給だ!タオル持って来てるよな?」

 道明がそう声をかけると、小学生たちは一斉に「持ってるー」と声を上げて東屋に走って行った。七海達もラケットを持ち、早速ボールリフティングからスタートだ。

「だいぶ出来るようになってきた!」

 茜が嬉しそうに声を上げる。連日の練習の成果と、弟妹達と共に、自宅の庭でもボールリフティングの練習だけはしているらしい。裏表両面を使ったボールリフティングは、時折不安定になることもあるが、それでも初日と比べれば雲泥の差だ。

「茜っちすげーじゃん!ずいぶん上手くなったな!」

 遊馬にも褒められ、ピースをしながら一生懸命ボールに集中している。


「やあ、みんな!今日も頑張ってるなあ!」

 蒼介と雅、立夏がやって来た。

「え!?お母さん!?」

「うふふ、今日は霧江ちゃんがお店に入ってくれてね。楽しんでいらっしゃいって!」

 茜が嬉しそうに笑うと、弟妹達もやってきて一緒になってはしゃいでいる。

「立夏ちゃんもテニス部だったのよね?」

「そこまで本格的じゃないわよー!素人に毛が生えたようなものね。」

 七海・茜・道明・立夏・雅のグループと小学生グループとに分かれ、涼と遊馬が球出しをしてのボール打ち練習になった。

 蒼介が近くについてコーチをしてくれ、それぞれに的確なアドバイスをしてくれる。ここ数日でかなり上達しており、フォアハンドは的確にボールを打てるようになっていた。



 その後、兄達世代が合流する。

「あ、さくらちゃん!こっちこっち!」

 七海たちが手を振ると、さくらもラケットを持って合流する。さくらも初心者で、腕前としては雅とどっこいどっこいだ。走るのは速いが、運動は苦手らしい。


「おやあ?我が家の息子も参戦か?というかお前、テニス出来るの?」

「いや?やったことない。帰ろうとしたら連行されてさ‥」

 蒼介に問われ、鷹也が面倒そうに答える。兄世代達は心なしか楽しそうだ。

「父さんが手取り足取り教えてやろうか?」

「イラネ。」

「冷たっ!おまえー!そういうとこだぞ!?」

 そんな父子のやり取りに兄達は笑っている。


(もしかして、一歩リードしている私が鷹兄に教えてあげられるかも!?)

 そんな期待で練習にも熱が入る。蒼介の言葉を聞き、フォームのチェックまでしてもらいながら熱心にボール打ちに励んだ。

「七海は筋がいいなあ。道明くんも安定しているから、二人でラリーをやってみてもいいかもしれないよ。」

 蒼介が提案すると、智樹と智琉がそれを聞いて「一緒にやろう」と誘ってくれた。皆で外のコートへと移動してさっそく組み分けをする。

「七海ちゃんは俺と、道明は恭平とやるか?」

「そうだね!」

 智樹がそう声をかけると、道明は嬉しそうに即答した。恭平も笑顔で頷いている。


「鷹也先輩、テニスやったことないんすか?」

 家に数本置いてあるうちの一本のラケットを鷹也に渡しながら司は尋ねた。マイラケットを手にする前の七海達も借りたものだ。

「うん。ラケットの持ち方だけ教えて?司もけっこう上手いのか?」

「まあ子供の頃から親に教わってるっすからねえ。トモさんもサトさんも、キョウさんも上手いっすよ。」

 早速司がレクチャーしてくれようとしたが、鷹也はそれを断る。

「双子の片割れと司で打ち合いしててよ。とりあえず見てるわ、俺。」

 そう言いながらラケットの握り方だけ教わり、ボールを一つラケットの上に置いた。フォアハンドとバックハンド、それぞれのグリップで面にボールを置き、ころころとボールを転がす。


「ふうん‥」

 そのままラケットを軽く上下に振って、そのままボールリフティングへと移行する。跳ね上げるボールの高さを低い位置から高い位置へ、再び低い位置へと調整し、最後は面の上でボールを転がす。

(うわ‥これ何か分析入ってるやつ!?こわ!!)

 司は心の中で呟き、そのまま智琉を誘ってコート内へと入って行った。

「あれ?あいつに教えなくていいの?」

「見てるからいいって断られたっす。‥見てるだけでトレースされたら怖いんすけど!?」

「いやいや、まさか!‥え、ないよな、そんなこと!?」

 二人はラケットの上でボールを転がしている鷹也をみやりながら、苦笑いを交わし、それぞれの位置へと散って行った。


「それじゃ、行くっすよ!!」

「よーし来い!!」

 司がエンドラインから強烈なサーブを叩き込む。

「うは!ナイッサー!!」

 智琉は何とか追いつき、しっかりとレシーブする。少しショートになってしまったため、司は走って追いつき打ち返した後、ボレーで構えた。

「走れ走れー!!」

 智琉が山なりのロブで返球したために、司は走り出して何とか追いつく。

「お返しっす!!」

 言いながら智琉とは逆方向に打ち込んだ。

「うっわまじか!!」

 さすがに追いつけず、悔しそうに天を仰ぐ智琉に司は汗を拭って笑いかけた。そこから勝負は白熱し、二人は打ち合いに集中する。そしてコートの外から、その様子を静かに観察しつつラケットを動かす鷹也の存在を完全に忘れ去っていた。



 七海と道明は初めてのロングラリーに何とかついていっていた。ボールが逸れても上手く打ち返してくれるうえに、打ちやすいボールで返球してくれるからだ。

「道明ー!次はバックいくぞー!!」

「七海ちゃん、バックもちゃんと打ててるな!上手いよ!」

 恭平と智樹がそんな声かけをしながら二人を乗せている。道明も七海も楽しそうにボールを追っては打ち返していた。

(‥鷹兄、やらないのかな?見てるだけ?)

 やはり気になってしまい、七海はついつい兄の方を見てしまう。何となく独りポツンとしているようにも見えて、申し訳ない気持ちにもなってしまうのだ。

(智樹さんくらい上手くなったら、私もこんなふうに鷹兄に声かけしてあげながら出来るかも!?)

普段は教わってばかりなだけに、こんな時に兄を教える立場になれたら嬉しい。そのためにも七海は走り回り、丁寧にボールを打ち続けた。

(私が上手くリードしてあげながら!一緒に楽しむんだ!!)

 七海はそんな様子を想像しながら、つい笑顔になってしまう。

(七海ちゃん、楽しんでくれてるのかな?それならいいんだけど。)

 智樹もそんな笑顔を見ながら、楽しそうにラリーを続けていたのだった。


「楽しかったー!けどやっぱりけっこう疲れるね!?」

「俺は走るのが遅いからなあ。けど、急停止や急制動も多いからいいトレーニングになりそうだ。」

 七海と道明は汗だくになって休憩に入った。

「お疲れー!二人とも上手いじゃんか。」

 鷹也に声をかけられ、二人は笑顔でピースサインを送る。


「おい、お前も見てないで参加しろ!」

 智樹に声をかけられ、仕方なく鷹也はコートに向かって行った。

「あれ?鷹兄経験者?」

「いやー?全くの初心者~。」

 道明とそんな応酬をしながら智樹の指定する位置に付くと、早速ボールが飛んでくる。

「手加減しろよなー!」

 言いながらも的確に打ち返す。

「「はい?」」

 眺めていた道明と七海が思わず声を上げた。初心者と言っていたはずだが、普通にしっかりと打ち返している。しかも智樹は七海にボール出ししたときとは別人のように、ボールを散らしているのだ。そのくせトップスピードで走っているわけではなく、飛んで来た位置に入って余裕で打ち返している。


「おまえええ!!何で普通に打ち返して来やがるんだ!!」

 智樹が心の底から嫌そうな顔で返球する。時折スピンをかけてみるが、どうやらこれも効果はないらしい。

「‥えーっと。司とサトのラリーが参考になったかなあ?」

 ネット際近くまで走って打ち返した後、智樹からの打球をボレーで返す。

「この初心者詐欺がーーーーー!!」

「詐欺じゃねーし‥」

 徐々に智樹がムキになっていくが、少しずつ対応していく。最初は当たり損ねもあったが、芯で捉えて打ち返して来るのだ。そしてギリギリで追いつく、という様子が全くない。

「‥あれ、インパクトの瞬間にもう移動始めてるな‥」

 道明が智樹と鷹也の動きを見て、何やら分析を始めた。

「あー‥バレーボールと一緒か。‥なるほど、確かにそうすれば俺でももう少し動ける‥」

 ぶつぶつ呟いている道明に七海が思わず尋ねると、道明は「ああ」と我に返った。


「いや、やっぱ鷹兄は武道系なんだよ。バスケもバレーもそうだけど、ラケットにボールが当たった瞬間、身体の向きや面の角度から、ボールが飛ぶ位置をほぼ正確に把握してんの。だからあれだけボールを散らされても余裕で追いついてるだろ?」

「待って?そもそも初心者なのに、なんでまともにボール打ててるわけ?‥おかしくない!?」

 道明の解説に、七海が思わず反論する。そもそもボールを打つ練習すらしていないのに、ちゃんと打ち返せていることがおかしいはずだ。


「‥うーん。鷹兄だからかなー?」

「理由になってなーーーい!!鷹兄のバカーーーー!!」

 コーチになれるかも!という淡い期待は粉々に砕かれ、七海は大きなため息をついたのだった。




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