テニス!テニス!
休憩後、コートへと戻って練習を再開する。
「ラケットの面をうまく使う練習でね、リフティングの練習もいいよ。」
涼は言いながら表面だけでボールをぽんぽんと跳ね上げて見せる。
「きゃーー!」
「まってえーー!」
茜と流水、雅が悲鳴を上げながらボールを追いかけまわっている。
「最初は慣れないから、そんなに高くあげなくていいよー。」
涼は笑いながら表面・裏面を切り替えつつ、立ったりしゃがんだりしながら安定したリフティングを披露してくれた。
「両面使うのは難しいね!」
「‥面が不安定になるせいだなあ。」
七海と道明は両面を使ってのリフティングにチャレンジしていた。ボールを上げる高さにバラつきが出てしまい、安定して続けるのは難しい。
「‥姉さん、ボールに遊ばれてるけど大丈夫?」
霧江が笑いながら寄って来て、悪戦苦闘中の雅に声を掛けてくる。
「本当に!完全に私、遊ばれてるんだけど!?」
必死でボールを追いかけながら雅は既に汗だくだった。
「いい運動になりそうね?」
言いながら霧江も器用にボールリフティングを始める。
「もー!?霧ちゃんもテニス経験者だったのね!?マイラケットまで持ってるなんて!!」
「マイシューズもね?」
そう言って笑いながら、雅と流水、茜に丁寧にレクチャーしてくれる。
「霧ちゃん!俺が代わるから打っておいでよ!」
蒼介が交代を申し出てくれ、今ひとつ上手く出来ない三人のコーチへ立候補してくれた。
「ありがとう、蒼介さん。じゃ、お言葉に甘えるわ!」
霧江はそう言って外のコートへと小走りに向かっていく。
「じゃあ道明と七海は、俺と涼でペアになろう。」
ネットを挟んで向かい合い、ノーバウンドでボールを打ち合うらしい。遊馬と涼がお手本を見せてくれる。
「ボレーラリーってね、こうやってボールをノーバウンドで返すんだ。面でボールを捉える練習になるよ!」
普段は教わる立場の涼は、コーチを出来るのが本当に嬉しいらしい。それは楽しそうに丁寧に教えてくれるのだ。
七海と道明は上手くボールを捉えてしっかりと返す。たまにあらぬ方向へ飛ぶこともあるが、遊馬も涼もきちんとリカバリーしてくれた。
「よーし!連続で30回続けようぜ!」
遊馬の号令でそれぞれカウントしながらボールを返す。
「あーーーー!19回までいったのにー!」
そう七海が悔しそうに声を上げれば、「うわ!21回だったのに!」 と、道明も叫ぶ。何度かチャレンジを続け、先に七海&涼のペアが30回連続を達成し、直後に遊馬&道明ペアも達成した。
「「やったーー!!」」
道明と七海はハイタッチを交わし、ペアの遊馬や涼ともハイタッチで喜びを爆発させた。
「じゃあ次はショートラリーな!」
遊馬と涼がサービスラインあたりに立ち、小さく山なりに球を打つ。
「これが安定するとね、ラリーも安定するんだって!」
涼が言いながら遊馬と二人、お手本を見せてくれる。
「こんな感じ!それじゃあこのままのペアでやってみよう!」
道明と遊馬、涼と七海が再びペアになってショートラリーを始める。
「ぎゃーーー!ごめーん!!」
「うわ!!わりい!!」
時折打ち損じた七海と道明の声が上がる。4人とも走り回り、笑い声を上げっぱなしだ。
「はぁ‥はぁ‥いやしかしあっつい!!」
「でも楽しいよね!!」
道明と七海も汗だくになりながら必死にボールを追い、たまにホームランを打つ。
「いやー飛んだなーー!」
「すげーーーー!!」
遊馬も涼も二人の打球に前後左右へと走り回されながらも楽しそうだ。
「ちょい休憩しようぜ!」
遊馬が声をかけ、昼を食べた東屋まで移動する。大きなクーラーボックスにはスポーツドリンクやらお茶やらが入っており、それぞれ好きな飲み物を取って早速口を付けた。
「暑いけど、やっぱり身体動かしてると気持ちいいね!」
「冷たいポカリがしみるーーーー!!」
七海と道明が良く冷えたポカリを飲んで、流れる汗を拭う。動いている間は気にならなかったが、こうして飲み物を口にすると喉が乾いたのだと実感した。
「テニスラケットとシューズ買おうかなあ。やってみるとけっこう面白い!」
道明がそう言うと、七海も目を輝かせた。
「遊馬の家にお邪魔させてもらえるならいつでも出来‥」
言いかけて止まってしまう。
「七海?」
道明が怪訝そうに声をかけると、七海は困惑したような笑顔を見せた。
「‥ほら、来年には私、ここにいないし。‥だから‥」
「夏休みや冬休みは帰省するだろ?別にあったっていいんじゃね?」
遊馬がこともなげに言い、道明も笑顔を向けた。
「ナナ姉ちゃん、東京行くの!?すっげーーー!!兄ちゃんも一緒なんだろ!?ならいいじゃん!」
涼が無邪気に笑いながら言ってくれたことで、七海の気持ちが少し楽になった。
「あはは、そうだよね。」
最近、ちょっとしたことで気持ちが沈みがちになっている気がする。テニスもこんなに楽しいのに、何か物足りない気がしてならないのだ。
「ふー!俺らも休憩!喉乾いた!!」
恭平と智琉がやって来て、クーラーボックスからお茶を選んで一気飲みした。
「「あーーーー!!」」
半分ほど飲んだ所で同時に声を上げる。流れ落ちる汗を拭いながら、智琉はペットボトルから数本飲み物を取り、室内へと向かって行った。
「ああ、年長者の皆さんに飲み物持っていったのか。‥流石だなあ。」
恭平が感心したように言うと、遊馬が立ち上がった。
「じゃ、俺は外コートのみんなに渡してくるわ!」
「俺も行くーー!!」
涼と手分けして飲み物を持ち、コートに向かって走っていった。
「そういえば七海ちゃん、鷹也ってテニス出来るの?」
突然恭平に聞かれ、七海は固まった。
「え‥その‥どうだろう?分からない、です。」
七海の慌てっぷりに恭平は内心でため息をついた。
(こいつはまた‥相当に気に病んでんじゃねえか。放置すんなよ、クソネコ!!)
心の中で毒づいた後、道明を見やる。
(俺に振るなよ、兄貴!!)
「ってか、鷹兄とは俺も話してないんだよなあ。昨日も知らないうちに帰ってたみたいだし。俺らが集中してたから気を遣ってくれたのかもしれないけど、声くらい掛けてくれりゃ良かったのに。」
仕方無く七海が乗りそうな会話を仕掛けてみる。
「そうだよね!?何か余所余所しいっていうか!家にも来てくれてないんだよ!?恭平さん、何か話したんですか?」
七海が食いつき、そのまま恭平に質問をぶつける。
「あはは!そんな丁寧語じゃなくていいよ。そういや昨日、昨夜帰ってきたって言ってたね。篁さんに連れ回されていたのかもな。‥その間、部活もストップしてただろうし。今頃絞られてるんじゃね?」
笑いながら返すと、七海も微かに笑顔を浮かべた。
「‥そっか。」
「何か悪かったなー。俺が数学でめちゃくちゃ焦ってたから、話すタイミング作れなくって!」
恭平がそう声をかけると、七海は慌てて首を振った。
「いえ!私たちはさくらちゃんに教えて貰って進められたけど!大学の数学難しそうだし‥。」
「マジで助かったんだよー!でも何かムカつくから、テニスで討伐したくてさー!」
恭平がそう言うと、道明が笑い出す。
「また返り討ちに会うんじゃねえ?」
「うるせえ!だから経験者かどうかを聞いたんだろうが!!」
土門兄弟のやりとりに、七海はつい笑い出した。
「もう無理ーー!!死にそうー!」
言いながら流水達が帰ってきた。雅と茜も疲労困憊といった様子だ。スポーツドリンクを飲みながら、汗を拭い、椅子に座り込んでしまう。
「あははは!まあ打てるようになったら楽しいぞ?」
蒼介が爽やかに笑いながら冷たい水をあおる。
「すっごく疲れたけど!蒼介さんとテニスしたいから頑張る!」
雅も疲れた様子でありながら、それでも健気に言い放った。
「いいなー!夫婦でテニス!親父たちも夫婦で楽し‥いやちょっと殺伐としてたけど‥まあ、楽しそうだったと思うし!」
途中からペアが交代し、篁と環が一騎討ちのような様相で打ち合っていたらしい。
「ナナちゃん!ルミちゃん!後でお揃いのシューズとラケット買いに行きましょ!茜ちゃんもどうかしら?」
雅の提案に、茜が目を輝かせた。
「行くー!来年から私は関西に行っちゃうけど、テニスのために帰省するんだ!あっくん、連絡したらテニスコートって借りられるの!?」
ちょうど戻ってきた遊馬と涼に、茜が声をかける。
「もっちろん!父ちゃんも母ちゃんも喜ぶよ!」
「俺も嬉しい!一緒にやろー!」
遊馬にも涼にも歓迎され、茜と流水が嬉しそうに笑った。
(‥そっか‥テニスのために、帰省。‥ううん、こうしてみんなで楽しむため、かも。)
使う頻度が少ないから買うのは無駄かもしれないと思っていた七海だったが、そんなふうに考えられる茜を眩しく感じる。
「融くんとか灯ちゃんと美園ちゃんは?一緒にやらないかな?」
流水がそう尋ねると、涼は目を輝かせた。
「うん、誘ってみるよ!」
その後、もう少しだけ練習をした後、明日もまた勉強会とテニスの約束をして、五十嵐家の両親と篁夫婦に挨拶をした。霧江や兄世代も、もうしばらくテニスを楽しむらしい。
「霧ちゃーん!楽しんで来てねー!」
「ありがとう姉さん、また後で!」
霧江と雅が手を振り合い、七海たちは一足先に五十嵐邸を後にする。
「よし!それじゃあ早速買い物に行くとするか!」
蒼介と雅が先頭に立ち、七海と流水、茜が並んで歩く。初めてのテニスの感想を話しながら自宅へと帰り、蒼介の運転で買い物へと出かけたのだった。




