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掌の眼  作者: 瑠璃雀
楽しい夏休み!
88/115

兄達の悩み?

 昼には、環とさくらたちの祖母である桔梗(ききょう)がそうめんとおにぎりを準備してくれた。恐縮していた兄達だったが、そこに篁と賢一も加わり賑やかな昼食となる。

「いやあ賑やかでいいな!」

「普段は夫婦だけですものねえ。」

 やはり夏の暑い時期に食べるそうめんは格別だ。醤油出汁ベースのつゆと、胡麻味噌ベースのつゆがあるために、ついつい箸が進んでしまう。

「この鶏、すっごい柔らかーい!」

 祖母たちはきちんと栄養バランスを考えてくれていて、蒸し鶏やきゅうりの塩もみ、よく冷えたナスの煮びたし、トマトと玉ねぎのマリネなど、副菜も充実している。

「なすうめーーーー!!」

「なんか地元に帰って来た感じがするよなあ!やっぱ、野菜の味が濃いし!」

 恭平や智樹たちも嬉しそうだ。


「そうめんも手軽だから食うんだけどね。何か違うんだよなあ。」

「そりゃマンションに縁側ないからな!」

「スイカもたまに食うけど、スーパーのカットすいかだし!」

 恭平と双子がそれぞれ言いながら庭を眺める。

「「「何よりこんなでかい庭ないしな!!」」」

 三人が完全にハモり、直後に笑い出す。賢一や桔梗も喜んでくれ、大勢でテーブルを囲みながら雑談で盛り上がった。農家さんからの頂きものだというスイカも切り分けてもらうと、兄達が嬉しそうにむしゃぶりつく。しゃくしゃくと小気味いい音を響かせながら塩の効いたスイカを堪能した。


「何かこれが当たり前だと思ってたけど、上京するとこういうのが珍しい?」

 思わず七海が尋ねると、兄達は笑顔で頷いた。

「何せ水も不味いしね。仕方ないとは思うけどさ。あとやっぱり空気が悪い!」

 智琉がそう言って苦笑いを浮かべる。

「それな!こっちに慣れてるとそれはめっちゃある!」

「まあ、東京に慣れると、こっちのコンビニの少なさには絶望するけどな!」

 三人は上京した後に驚いたことや、困ったことを話して聞かせてくれた。茜も行先が関西の中心地であるために、おそらく似たような境遇になりそうだ、と興味深く話を聞いている。

「まあ俺は地元だから、そういう場所は知らないままだね!」

 道明は明るく言い、それでも兄達の話を聞いて一緒に笑ったのだった。



「よ。」

 午後、恭平が待ちわびていた鷹也がやって来た。皆が手を振ったり、笑顔を向けたり、挨拶を返す中、七海は何も言えずに俯いてしまう。

 恭平がさっそく質問攻めをし始めたために、鷹也はため息をついた。

「はぁ‥んじゃ、分別するか。」

「分別はないだろー!ゴミじゃねえ!」

「あーじゃあ隔離。」

「言い方!!」

 恭平と鷹也の会話に皆笑っているが、七海はどうすることも出来ずにいた。顔を見てホッとしたのは確かだ。けれど、兄が余りに普段通り過ぎて、困っているのは自分だけかと考えると、どうにも釈然としない。



 鷹也は司も手招きし、中学生たちをさくらに託して兄達を別の部屋へと連れ出して行った。

「‥やべえ‥うちの兄貴がいなくなったら、一瞬で静かになった‥」

 道明の一言で、茜が吹き出した。

「えー!でも賑やかで面白いおにいちゃんじゃん!」

 そういう流水もくすくす笑っている。

「鷹兄への良いツッコミ役だよなー!面白いわー!」

 遊馬の発言に、さくらも笑いながら頷いており、皆同じことを思っていたらしい。

(‥私に声すらかけてくれなかった‥)

 七海はしょんぼりしながらプリントに目を落とした。とにかく今は宿題に集中しよう、と何とか気持ちを切り替える。


 流水が必死になってワークを進め、茜も眉間にシワを寄せながら理科と数学のワークに励む。

「さくらちゃん、英語のプリントで英訳があってね?‥これなんだけど。」

 七海が席を立つと、道明も一緒について行く。同じところで詰まったため、さくら先生の所へ行って質問する。

「日本語と文法が違うから悩みますよね。‥これはね?‥」

 さくらは教科書と辞書を開きながら構文の説明をしてくれる。

「‥要するに定型文みたいな感じ?」

 七海がそう質問すると、さくらが笑顔で頷く。


「定型文‥それってことわざみたいなやつ?英語にもあるの?」

 流水が首を傾げて呟くと、さくらは笑顔を浮かべる。

「構文とことわざはちょっと違うかな?でも英語にもことわざはありますよ。日本語とニュアンスが違うのもあります。」

「へえー!“井の中の蛙、飛び込む水の音”とか、あるんだ!?」

 道明がブフォっと吹いた。

「流水‥まぜちゃだめ!」

 思いもよらない一撃に、七海もつい笑ってしまい、茜も下を向いて震えている。

「やべえ‥違和感なさすぎて、受け入れてたわ、俺‥」

 遊馬も一瞬ぽかんとした後に笑い出した。



 一方、隣の部屋では。

「数学がマジで意味わからん!」

 という恭平の質問責めを受けながら、鷹也が丁寧に解説していた。

「さくらも同じようなところで詰まってたなあ‥」

「え!?さくらさんも?」

 学校は違うが、恭平もさくらも同じ経済学科である。昼に雑談をしていたときに、専攻が同じと聞いて話が盛り上がったのだ。

「てことは何!?さくらさん、分からないことがあったらいつでもお前に聞けるわけ!?」

「‥あー‥まあそうなるかな?」

「ずりーーー!おい、メッセ!スマホ出せー!俺の質問にも答えろーー!!」

 恭平は半ば強引に鷹也のスマートフォンを奪い、連絡先を登録する。

「‥まあ、いいけど。」

 押し切られた形で連絡先の交換をさせられたが、断る理由もない。まず自分から誰かと連絡先を交換しようと思うことがなかっただけに、恭平の行動に少し驚いただけだ。


「鷹也先輩、俺もいいすか?数学と英語と理科なんすけど。」

 司は分かる所から進めて行き、困った所に付箋をつけておいたらしい。

「いいよー。これ数学ってか、数的処理とか判断推理みたいなやつか。」

「そもそも何で水を入れながら水を抜くんすか!?資源を無駄にするなって話じゃないすか!」

 司の言葉に、双子たちが笑い出す。

「問題はそこじゃねえwあれか、仕事算か!そこいらは面白いよな!」

 智樹の言葉に、司は憮然としてため息をついた。

「それを面白い扱いしちゃう時点で、俺的には変態っすよー!」

 砕けた調子の「ですます調」を使いながらも毒舌な司に、兄達も笑っている。それなのに不思議と憎めない雰囲気があった。つい構いたくなってしまう。

 鷹也に図で説明してもらいながら、真剣に考え、自分なりの解釈で質問をし、再び説明を受けて納得する。そんな姿勢にも好感が持てた。



「‥おい鷹也。」

 司の質問の嵐がやんだのを見計らい、智樹が眼鏡の縁を指先でスッとあげながら、厳しい視線を送る。

「ん?」

「お前、神楽祭後、七海ちゃんとは話したのか?」

 その問いに鷹也は「いや?」と呟く。

「は?お前、あれから喋ってないの?帰ってから二日も経ってるのに?」

 恭平もツッコミをいれ、智琉も呆れたように鷹也を見やる。

「え?マジっすか、鷹也先輩。七海ちゃん、えらく落ち込んでたみたいなのに?」

 深い事情を知らない司だったが、帰りも共に行動していたために気にはなっていたのだ。


「俺が帰ってきたの、昨夜だし。俺から声をかけるより、七海が話しかけてくるのを待つ方がいいかな。」

 鷹也の言葉に智樹はため息をついて恭平を見やる。

「どう思う?恭平。」

「‥フォローしてやった方がいいんじゃねえか、とも思うし。七海ちゃんから話しかけて来るまで待った方が良いのかなとも思う。‥どっちが正解か分からん。」

 恭平の言葉に智琉と司も頷いた。

「難しいっすねえ。‥鷹也先輩の名前が出た瞬間、固まってましたし。俺なら声かけちゃうかな?」

 司はそう言ってペットボトルのジュースに口をつけた。

「でも、鷹也先輩のほうが七海ちゃんをよく見てるっすよね。なんで、口を出したいわけじゃないっす。鷹也先輩が少し時間を置くって考えなら、それはそれでいいと思うっすよ!」

 司はそう言って笑顔を向けてくる。

「ありがとね、司。‥ま、とりあえず今は気にしないでくれ。俺は普段通りを徹底するつもりだから。」

 鷹也はそう言うと、鳴り出したスマホを面倒そうに手に取った。勉強の邪魔になるからだろうか、スマホを耳に当てて足早に部屋を出て、何やら話している。


「わり。ちょっと呼び出し食らったんで行ってくる。またな!」

 戻って来た直後、鷹也はそれだけ言い捨てて再び部屋を出て行った。

「あらら‥。そのまま行っちゃったっすかねえ。」

「何か急いでるようだったしな?」

 司の呟きに智琉が反応した。

「おいいいい!せめて七海ちゃんたちに声かけてから行けよなー!」

 恭平がもどかしそうに声を上げて身じろぎをする。

「そういう気の利いたことが出来ないのが、あいつの弱点な!」

 智樹はそう言って苦笑いを浮かべ、兄達は大いにため息をついたのだった。



 そうして夕方まで勉強会は進められ、中学生チームも高・大学生チームも成果を上げることが出来た。

 鷹也は恭平と司の数学を見た後、用があるからと帰ったらしい。七海は話すことが出来ないままだ。

(どうして‥?一言、声かけてくれたっていいのに!私のことなんて心配じゃないの!?)

 どうにも腑に落ちず、苛ついてしまう。そんな七海の様子を、恭平たち兄世代が黙って見つめている。そして茜も七海の苛立ちには気づいていた。


「明日はさ、午前中ここで勉強して、午後から家でテニスやろうぜ!勉強ばっかりでも、嫌になるしさ!」

 遊馬からそんな提案があった。

「お!いいな!テニスは俺も一応やったことあるし。七海ちゃん、運動神経いいから楽しいんじゃないかな?」

「あー確かに!走るのも早かったしね!一緒にやろうよ!」

 智樹と智琉がそう言って笑顔を向けると、七海は困ったような嬉しそうな表情を浮かべる。

「身体動かすのは最高っすよね!受験のこととか、余計なこと考えなくてすむっす!」

「あー分かるわー!俺もレポートまだ残ってるけど、ずーっと頭に残ってるのうざい!空っぽにしたい気分だからいいな、それ!」

 司と恭平もそう言って笑いかけてくれる。


(ナナの様子、お兄さん達が気づいてくれてるんだ。すっごいさりげなくフォローしてくれてる?)

 茜は自分とはまた違う対応をしてくれる兄達世代に、嬉しくなった。あの神楽祭後の夜、事情を話したことで気にしてくれているらしい。

 そして明日も朝から篁邸に集合となったのだった。


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