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掌の眼  作者: 瑠璃雀
神楽祭
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余暇の過ごし方

 朝食のバイキングに行き、食堂に入った途端、一斉に視線が集まって来て、その圧にさくらはじりっと後ずさる。歩くたびに視線が自分を追ってきているようで、どうにも落ち着かない。

そこへ智樹と智琉が颯爽と現れ、皆を席に誘導してくれた。さくらの両サイドに兄が立ち、周囲に視線を送っている。


「‥さくら、午前中はどうやって過ごすつもりだ?」

 席につくなり、智樹がそう質問してくる。

「え?‥ええと、特に決めてはいないのですが。」

 兄たちのおかげで視線の圧は少し減ったが、それでもこちらを盗み見るような視線や、ひそひそと話しているような雰囲気は拭えない。この中で食事を取るのかと思うと気が滅入りそうだった。


「これは‥いったいなんなのでしょう?」

 さくらが困ったように呟くと、兄達は困ったように笑う。

「そりゃ、式たちから通達きたからな。‥すげーじゃん!ここで話すわけにもいかないだろうから‥みんな寄ってきそうだしな!いやーでもお疲れ様!疲れはないの?」

 恭平がまるで何も聞いていないかのように声をかけてくれる。遊馬や七海など、深い事情を知らない相手へのけん制にもなった。

「ああ‥そういう。‥なんか居心地悪いですね‥」

 消え入りそうな声で俯いてしまうさくらに、兄二人がついて来るよう促した。


「ちょっとここだとさくらも落ち着かないだろうから。‥別の場所に避難してもらうよ。」

 智琉がそう言って皆に声をかけ、三人は食堂を出て行った。


「すっげ、超、有名人じゃん。俺だったら嬉しいけどな~!」

 遊馬が目を輝かせて言うと、司がつついた。

「お前と一緒にするな?あれだけ注目されたら俺だって‥あれ?‥いや、嬉しいな?」

 司が否定しきれずに遊馬と同意見になったことで、恭平と道明が笑い出す。

「やっぱ兄弟だわ!!」

「あははは!一緒にするな?じゃ、ねえんだわ。一緒じゃねえか!」

 その掛け合いに流水や茜も笑い出す。七海だけは笑顔に見える表情を貼り付けたような、どこかぎこちない表情をしている。

「ナナ!席も確保したし、ご飯もらいにいこ?!流水ちゃんも!!」

「いこー!今日は昨日とまた違うおかずがあるのかな!?」

 三人は連れ立って食事を取りに行った。



 さくらは兄二人に連れられ、エレベーターで階上へ移動した。そして昨夜も来た鷹也の部屋へと入っていく。

「よ、頼んであるからもうすぐ来るよ。」

 さくらを席に着かせて双子はため息をついた。

「全く!ああいう形で通達するなら、事前に伝えておいて欲しいんだが?」

 智樹がそう愚痴ると鷹也も苦笑いを浮かべる。

「俺も聞いてなかったからな‥。おかげで部屋から出られる気がしないわ。まあ暑いから出ないんだけど。」

 直後にドアがノックされ、ワゴンに載せた大量の料理が運び込まれる。

「気兼ねなく食べてくれ。ここなら誰も来ないしな。」

 さくらは、ようやくなぜここに連れて来られたのかを理解した。兄達が気を利かせて鷹也に連絡を取り、ここで落ち着いて食事が出来るよう、ルームサービスまで手配してくれていたのだ。

「お前らは?食わないの?」

 鷹也に声をかけられたが、二人はニヤッと笑う。

「さすがに三人抜けたらね?俺らはあいつらと一緒にいるよ。」

「さくら、部屋から出るときは連絡しろよ?迎えに来るから。」

 そう言って双子は部屋を後にし、食堂へと戻った。



 朝食が終わると、この後どうするか?という話題になった。

「半日じゃ観光もきついしなあ。」

 そんな中、流水が「はーい」と手を上げる。

「流水ちゃん、だっけ?どうぞ!」

 智樹がにこやかに声をかけると、流水は嬉しそうに笑った。

「ここ、プールが併設されてるみたいなので、プールに行きたいでーす!暑いし!!」

「「「「すっかり忘れてた!!」」」」

 兄達も水着は持って来ているらしい。そのままプールに行こうという話で盛り上がった。

「じゃあ後ほど、プールで会おう!!」


「プール!!」

 流水がくるくるしながらはしゃぐのを見て、七海も笑顔になる。幼い頃からプールが好きで、二人は蒼介に連れられて泳ぎまくったものだ。元水泳部のコーチを受けていることもあり、二人とも四泳法は完璧にマスターしている。

「二人のプールは本格的過ぎるから!本当に水遊びだと思うけど!?」

 茜に釘を刺されるが、それでもプールで遊べるのは二人にとって最高の癒しでもあるのだ。



「浜辺ならビーチバレーも出来たのにな‥」

 硬いタイル張りの床を見て、恭平が残念そうにぼやく。

「リゾートに来てまで部活やめろ!」

「どんだけバレーバカなの?」

 双子にからかわれて恭平は笑い出し、道明や遊馬も一緒になって笑う。

「お水ー!」

 流水が楽しそうに水に入り、ちゃぷちゃぷした後、きれいなフォームですいすいと泳ぎ出す。

「私も!!」

 七海もプールに入って同じようにすいすいと泳ぎ回り始めた。


「‥あの子たち、魚?」

 司がその様子を見て思わずぼやくと、茜が吹き出した。

「水系譜だからなのか、水澤家だからなのか。あの家、泳ぐことに関してはおかしいから!」

「それな!軽く1500くらい泳いでくる!って聞いたときはマジ笑った!」

「鷹兄も今日は3000しか泳げなかった‥とか意味の分からないこと言ってたしな!」

 茜、遊馬、道明の証言に兄達も笑い出してしまう。


「‥え?やっぱり泳ぐなら5000くらいはねえ?」

 その声に振り返ると、蒼介が爽やかな笑顔を浮かべて立っていた。

「「「「「蒼介さん!?」」」」」

 兄達が一斉に声を上げる。

「やあ!温泉だけだと物足りなくてねえ。けどここは泳ぐって感じじゃないんだなあ。気の済むまで泳ぐのは帰宅してからだね!」

 この人が気の済むまで泳ぐというのが、どれほどなのかを考えると卒倒しそうになる。

「ま、水の中で、ビーチボールで遊ぶくらいかな!」


 皆でプールの中へ入り、ビーチボールでトス回しをして遊ぶ。恭平が本気スパイクを打とうとして、智樹に怒られたり、司が思い切りジャンプして水しぶきを大量に撒き散らして智樹に怒られたり。

「‥智樹ってさ、お袋っぽいよな?」

 恭平にぼそりと言われ、智琉が盛大に吹き出した。

「なっ!?何を言ってんだ、恭平!?」

「あははははは!‥やっば‥ツボった!‥確かに!!かーちゃんぽいっすね!!!」

 司までが笑い出し、道明と遊馬もつられて笑い出した。

「‥智ママか。」

 蒼介の呟きに、たまらず全員が笑い出す。智琉に至っては呼吸困難に陥っていた。

「‥くっ!!智ママは!!智ママは無理だーー!」

 笑いながら水中追いかけっこが始まり、なぜかタッチをしなくてもボールを当てたら鬼が移るという、変則ルールまで追加になったのだった。


「‥はぁ」

 プールサイドで一休み中、七海は浮かない顔でため息を漏らした。一緒に遊んでいて楽しいのに、空虚さに襲われてしまう。皆が遊んでいるのを遠目で眺めながらぼんやりしていた。

「どうしたどうした?幸せが逃げていくぞー!」

 蒼介が気づいて声をかける。

「何でもないよ。」

 七海はそう言って無理やり笑顔を浮かべようとする。

「‥無理して笑わなくていいんだぞ?」

 蒼介はそう声をかけ、隣に腰を下ろした。


「‥鷹兄‥すごいよね。」

 ぽつりと七海の言葉が零れ落ちる。

「‥そうだな、あいつは凄いよ。」

 蒼介もプールの水面を見ながらぽつりと零した。

(お父さんも、やっぱり鷹兄をすごいと思ってるんだ‥)

「弟を思い出すな‥」

 蒼介はそう言って微かに口元を緩める。

「おとう‥と?お父さんの?」

「ああ。父さんには、弟と妹がいる。俺と違って開眼していて‥弟は婿入りしてね、その家の当主になっているよ。」

 七海は目を見開いて父の横顔を見つめた。

「‥仲違いしたわけじゃないんだよ。お互い、居た堪れなくてね。縁遠くなってしまった。妹ともね。」

 そう言って蒼介は七海を見て笑顔を浮かべる。

「兄弟に対して嫉妬や羨望、あって当然だと思うよ。‥そういう気持ちと上手く付き合うのには時間もかかるさ。」

 七海は目を閉じ、再び深い吐息を吐く。


「弟はね、蒼太っていうんだ。親父に良く言われたな。“お前は蒼太とは違う”とね。この意味を本当に理解するのに何年かかったことやら。」

 蒼介はそう言って笑った。

「今は、その‥本当の意味、分かる‥の?」

 七海がおずおずと聞くと、蒼介は爽やかに笑っている。

「親父に確かめたことはないからな!でも俺は、自分でこうだと思ったのを正解にした!」

 その迷いのない答えを、七海は羨ましいと思った。きっと自分なら正解は何かを探し続け、聞き続けるだろうと思う。


「その‥仲直りというか‥そういうのは‥?」

 聞いてもいいのかどうか迷いながら七海が口にすると、蒼介は笑顔のまま頷いた。

「今は海外赴任ばかりだからね。もう少ししたらそれも終わる。それからかな!」

 明るく宣言する蒼介に、七海もふっと笑った。

(そっか‥お父さんも‥辛くて、悩んでたこともあったんだ。)


「よし!七海!もうちょっとだけ遊んでいこう!」

 七海は頷き、再び皆と一緒に追いかけっこをして楽しんだ。少しだけ気持ちが落ち着いたような気がした。





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