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掌の眼  作者: 瑠璃雀
神楽祭
79/113

翌朝 報告と連絡と

災害から一夜明けて、早朝から筆頭三家の当主たちが式場に集結した。

「皆、体調の方はどうかの?」

 篁が全員の顔を見渡しながら尋ねると、全員から「問題ない」と返ってくる。

「では先に昨夜の状況について、各社からの報告を共有しておきたい。第一区から順に報告を頼む。」

 水澤家が第一区の代表家であるために、篁が報告をすることになる。この代表家は区司(くじ)と言われる。


「第一区、水の社。こちらにも瘴気の発生あり。第一相程度。但し、穢れ自体の浸食はなく、瘴気の祓いのみで終息した。人的被害はなし。以上だ。」

 篁の報告の後、続けて区司たちが立ち上がって報告をしていく。第二区と第三区は水の社と同様であった。しかし、第四区、火の社では穢れの浸食が確認され、瘴気は第二相。

 今回災害の起きた社以外にも穢れの浸食があったと聞き、場がざわつく。

 さらに災害の発端である第五区、日月社では穢れの融合が起きた。瘴気には第一相から第五相までの段階があり、今回の日月社は第四相と判断されたのだ。


「篁の浄化がなかったら、人的被害は軽度で済まなかったかもしれんな‥」

 一人の当主が呟くと、複数の当主から同意の声が上がった。篁の浄化の力は一族内でも突出しており、これにより瘴気症状が驚異的に回復するのだ。

「‥ふむ。まあ‥それなら何よりだが。あー‥そんなことはいい。それより、その後の様子は?」

 褒められると調子が狂うらしく、篁は適当に流して話を戻す。


 各社共に、現在では異変も異常も見られず、神様たちにも確認は取ったらしい。日月社でも同様で、災害直後及び今朝方の確認でも異変はなく、神々とも話をした結果、神楽奉納の儀を執り行うことに問題はないとのことだった。

 当主達は安心したように顔を見合わせる。

「第五区の当主達とも話をしたのだが、本日、午後より神楽奉納の儀を執り行おうと思う。」

 篁がそう宣言すると、特に反対する者もなく、拍手により賛成の意が示された。


「ときに、今回の件は何が原因だったのだ?」

 第二区の当主がそう疑問を投げかける。それが聞きたかった、とばかりに身を乗り出す当主達に、篁は苦笑いを浮かべた。

「‥分からんよ。神の話ではあるが、過去に浄化しきれなかった穢れと、地脈の乱れにより地中に引き込まれた穢れ、これが長期にわたって熟成したのでは?という見解だった。」

 篁の言葉に一人の当主がため息をつく。

「熟成するのは、せいぜい美味い酒ぐらいにして欲しいものだ。」

 その呟きに場が和んだ。

「ははは‥確かにそうだな。地中に潜り込んでおったのは間違いなさそうだ。そして瘴気と共に、社と現世の境界から吹き出したものらしい。」

 篁の言葉に当主達は再びざわめいた。これまで、このようなケースは聞いたことがなかったからだ。


「‥で?第四相の瘴気の中、そんな融合体をどうやって祓った?まともに動ける者などおらんだろうが?俺にも無理だぞ。」

 そう言ったのは第三区の当主だ。数名が同意し、再び場がざわめく。

「祓いは水澤家の鷹也さんと、月影家のさくらさんですわ!」

 スッと立ち上がった月星家の当主、梨乃が起きたことを皆に話して聞かせる。鷹也の即興剣舞からさくらの即興演奏について、微に入り細を穿った説明を始めたために、篁はそっとため息をついた。


「‥まあ篁は分かる。が、あいつの結界、そこまでか。」

「水と月の二系譜だからかもしれんな?」

「まあ何にせよ、その二人がいなかったら祓えなかったのだろう?」

 当主達はそれぞれ思うことを口にし、場が騒然となる。篁も嬉しいような、あまり騒いで欲しくないような、複雑な面持ちでそれをただ聞いていた。


「それで、何をどこまで伝えるべきか、ですが。」

 月星家の梨乃が再び口を開く。その言葉で再び場は静まった。

「災害の詳細の記録は筆頭三家で共有すること。他の当主達には、社に及びかねない災害と。一般の者たちには大規模な瘴気災害と。但し、他の社でも守りをしておりましたので、社同士を繋ぐ“道”に沿って瘴気が及んでしまったことは、関係者には伝えるべきかと。」

 凛とした声でそう告げた後に、各区司を見やった。内容について検討され、その方針で進むことが決定した。


「それと、今回の祓いを誰が行ったか。これは公表して良いと思うがどうか?」

 そう告げたのは、日乃下家の当主、喜朗である。

「‥総代の世代交代の発表もある。その際に鷹也が次期総代の参謀役と指名されるわけだからな。年齢が年齢だ、公表することで説得力も増すだろうよ。」

 涼風家の泉州がそう話すと、その場にいた全員が頷いた。これについては満場一致で反対する者は誰もいなかった。

 更に話し合いが進み、全てが終わったのは更に一時間ほど経過した後だ。議事録を作成していた者が、最終確認として内容を読み上げて間違いがないことを確認し合う。

 神楽奉納の儀は、本日午後から開始とし、その後式場へと流れて閉会式に移っていく。


「それでは、この内容で式たちに指示を出す。皆、朝早くからご苦労だった。」

 篁がそう締めくくり、会議は解散となったのだった。



 七海達が朝起きて身支度をしていると、それぞれの式たちが顕現した。七海の式であるユキが肩にちょこんと乗り、ふわふわのしっぽが首元をくすぐる。茜の式であるイグニスやさくらの式であるノワールも顕現しており、流水が式たちをキラキラした目で眺めていた。


「おはよう、ユキ。‥連絡事項かな?」

『おはよう七海。まずは昨夜のあの出来事から。あれはね、大規模な瘴気災害だったんだ。具合が悪くなったのは、瘴気のせいだよ。』

 七海は昨夜のあのときのことを思い出す。めまいや寒気、頭痛‥気持ち悪さもあり、最悪だった。

「あれは‥瘴気のせいなんだ‥え、でも吸い込んじゃったかも!?大丈夫なの?」

『水澤篁が大浄化をしているから。篁の浄化は、一族でも群を抜いて高いから、もう影響はないはずだよ。』

 言われてみると、気怠さもすっかり抜けて身体が軽い。確かに影響はなさそうだ。

「そうだったんだ。‥やっぱりお祖父ちゃん、すごい人なんだね‥」

 七海はそう言ってため息をついた。そこまでの力があるからこその総代なのだと、改めて実感したのだ。

『それと、今日午後2時から神楽奉納の儀になった。集合は30分前で、終わり次第、式場で閉会式になる。』

 ユキはそう言って七海のことをじっと見つめている。

「うん、わかった。ありがとうね?ユキ。‥他にもまだなにか?」

『今回、瘴気と穢れを祓ったのは、七海のお兄さん鷹也と、月影さくら。その二名だよ。』

 七海は「え?」と、短い声を漏らした。

『報告と連絡事項はこれで終わり。じゃあね。』

 ユキのしっぽが七海の頬をふわりと撫でて消えてしまった。

「え!?待って‥ユキ!?」

 思わず呼びかけるが、ユキが答えてくれることはない。七海はその場に呆然と立ち尽くした。

(鷹兄とさくらちゃんが‥?‥でもさくらちゃん、昨夜はそんなこと一言も‥)

 自分が何も出来ずに倒れている間、兄とさくらはあの場に立ち、祓いをしていた。その事実が爪のように心を何度もなぞり、疵となって痛みを伴う。七海は思わず胸に手をあてる。自身を苛む爪を止めたい、無意識にそう思ったのかもしれない。


「‥おねーちゃん?えっと‥どうしたの?」

 気づけば流水がそこにいて、不思議そうにこちらを見ていた。

「えっと‥昨夜のこととか‥神楽奉納の儀が今日の午後からとか‥その‥」

 うまく言葉が出て来ない。何をどう伝えたらよいかを迷っていると、さくらが声をかけてくれた。

「ちょっと座ってお話ししましょうか。流水ちゃんにも伝えないといけませんし。」

 さくらは穏やかに言い、茜が七海の背中に手を回して一緒に座る。


「まず昨夜の出来事は、大規模な瘴気災害だそうです。‥みなさん、今日はもう大丈夫ですか?体調が優れないとか、頭痛や気持ち悪いとかもありませんか?」

 さくらは心配そうに七海と茜、流水の表情を見つめる。

「大丈夫!昨夜ちょっとだるかったけど、今日は超げんき!!‥あれが瘴気ってやつなんだ!?」

「私も!身体が軽い気もする!」

 流水が真っ先に報告し、茜もそれに続く。

「‥あ、わたしも。大丈夫。」

 七海がそれに続いて報告した。


「そうですね、あれが“瘴気”です。皆さんが今日、元気なのは、篁さんが浄化をしてくれたから。‥あの方はやはり凄いですね‥。」

 さくらがそう感想を述べると、流水が目を輝かせた。

「やっぱり、お祖父ちゃんすごいんだ!!‥わたしも見たかったなー!!瘴気のやつー!あれがなかったら見られたのに!」

「なかったら、浄化もなかったよー?」

 流水が残念そうに言ったのち、茜が笑いながら突っ込みをいれた。流水は「あ、そうか」と舌を出し、えへへと笑っている。


「それと昨夜途中で中止になってしまった、神楽奉納の儀は、今日の午後2時からになりました。集合は30分前ですので、一緒に行きましょうね?」

 さくらがそう言うと流水が笑顔で頷いた。

「あ、そのさ、瘴気って‥浄化だけ?祓い?だっけ?それはいらなかったの?」

 流水が核心をつき、茜とさくらは思わず顔を見合わせる。


「‥ええと、その祓いを鷹也さんと私がやりました。私は琴を弾いていただけで、実際に動いたのは鷹也さんです。」

 さくらがそう告げると流水は目を輝かせた。

「すごーい!!それも見たかったーー!!ねえねえ、どうしたら瘴気に囲まれても動けるの?私にも出来るようになる!?」

 流水の無邪気な問いかけに、七海が反応した。

「耐性?それとも、何か技術みたいなもの?」

 七海もそういえば、と疑問を口にする。


「ええとですね‥式の能力次第、になります。瘴気を防ぐには結界が有効なのですが、その力は本人より、式が得意かどうかに左右されるんです。鷹也さんの式はその力がとても強くて、傍にいたわたしも守られていました。動ければ祓いは出来ますからね。」

 さくらはそう言って微笑んだ。





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