支えるために
さくら達が食事を終えて部屋で寛いでいると、雅が戻って来て顔を覗かせてくれる。
「あら、夕飯はここで食べていたのね、良かったわ。蒼介さんも心配していたから顔を見に来たの。」
その言葉に茜が立ち上がった。
「わたし、お母さんの傍にいたいので‥良かったらここにお父さんも呼んで、ご家族でお話してください。」
「私もちょっと兄の所に行って来ないといけませんし。‥どうぞ?」
さくらも立ち上がる。
「‥ごめんなさい。かえって気を遣わせてしまったかしら?」
雅が申し訳なさそうに言うが、さくらと茜は笑顔で首を振った。
「いいえ、お父様もお母様も心配でしたでしょうし、彼女たちもご両親になら素直に甘えられると思いますし。‥ゆっくりなさって下さい。」
「私もお母さんの様子気になるから!だから、ゆっくりしてください!」
そう口々に言い、身の回り品を持って二人は部屋を出て行った。
「さくらさん!丁度よかった。‥鷹也がどこの部屋なのか、知っている?」
そう囁くように尋ねて来たのは恭平だ。道明も一緒である。
「‥ええと‥?」
突然の質問に、さくらが面食らい、どうこたえようか迷っていると、道明が口を開いた。
「俺たち、父さんから色々聞いたんだ。それで‥鷹兄にも話を聞きたい。もしかしたら、七海がショックを受けるかもしれないし。‥だから、その‥フォローをするためにも、ちゃんと聞きたいんだよ。」
その言葉に茜が即座に反応する。一瞬、声を出しかけ、慌てて小声になった。
「ナナがショックを受けるかも‥って?どういう?」
さくらは唇に人差し指を当て、「しー」と仕草で三人に静かにするよう伝える。
「‥こちらに。茜ちゃん?お母さんの様子は?」
その言葉に軽く頷いて隣の部屋に入り、再び戻って来た。
「完全に熟睡しているみたいだから、そのまま休んでいてもらいます。」
さくらは兄に連絡して合流した後、エレベーターで上階へと移動した。人けの少ない廊下を歩き、角部屋の前で立ち止まる。
ドアが開けられ、一歩踏み入れると応接間のような空間が広がっていた。
「は!?スイートルームか!?なんで特別扱いされてんの?」
思わず智樹がツッコミを入れる。
「へ?人けのない静かな個室ってリクエストしたらここになった。自腹だからな?」
鷹也はそう言って椅子に座る。
智樹はそれ以上突っ込むのをやめ、本題に入った。
「さて、俺と智琉は一部始終を見ていた。まあ、瘴気の濃度が濃すぎて詳細までは見えなかったが。‥何が起きたのか、お前とさくらから話を聞きたい。」
その後、恭平が口を開く。
「俺と道明は、親父からある程度の話は聞いた。でもきちんと知っておきたいし‥お前の話を聞きたい。」
「俺はね?話を聞いて、七海が心配になったんだ。俺らには知らされないかもしれない、でもさ、みんなあっちこっちで噂話してるんだよ。あいつがショックを受けたとき、的外れなフォローをしないために聞いておきたいと思った。」
道明がそう言った後、茜も心配そうに鷹也を見やる。
「私はナナが心配。だからちゃんと聞いて、そのうえでナナを支えたいの。最近やっと少しずつ立ち直ってきたけど、それでもまだ選考会のこと‥引きずってるんだよ。だから、鷹兄!お願い!!」
鷹也はしばらく考えている様子だった。さすがに少し慎重になっているようだと道明は思う。ルームサービスが来て、飲み物を置いて部屋を出た後、ようやく鷹也は口を開く。
「‥絶対に他には漏らすなよ?知っているのは重鎮だけだ。」
その言葉に全員が居住まいを正し、鷹也を見やった。
「おそらく大規模瘴気災害だと言い渡される。皆が倒れた原因が瘴気なのは、間違いない。」
智樹と智琉は大きく頷いた。さくらも皆を見て頷く。
「実際は、この社の下で複数の穢れが融合し、巨大化していた。原因はわからないが‥ここは火山活動も活発な場所だったし‥地脈の乱れも多かったんじゃないか?」
鷹也がそう言って道明と恭平を見やる。
「‥そういうことか。‥なんか落ち着かないというか‥暑さとセミのせいかと思ってたな。」
「確かに。言われてみると‥不安定なまま安定している‥みたいな‥気がする?」
恭平と道明が感じたことをそのまま皆に伝えた。「異変」や「違和感」とまではいかず、指摘されて初めて、「あれ?そういえば」という気持ちになったらしい。
「‥まあその巨大な穢れが、この社の境界にゆらぎをもたらして現れた。まー正直あれほどの瘴気を吹き出したのは想定外だよ。」
その言葉に全員が息をのむ。
「待て、もしかして神楽祭の開催地点を変更したのは‥?」
智樹がそう問いかけると鷹也は頷いた。
「じっちゃんが違和感があるってね。事前調査もしていたけど、ここまで大事になるとは思わなかった。」
「おい!お前は‥いつから関与してるんだよ?!」
鷹也の言葉に恭平が語気を荒げる。挑むような、悔し気な、そんな表情を浮かべていた。
「事前調査からだよ。感知持ちだから駆り出された。」
好きで関与した訳ではないとでも言いたげに鷹也は言う。
「‥それで?その穢れをおまえとさくらで祓った。重鎮たちですら、あの瘴気でまともに動けなかったんだぞ?なぜお前は動けた?さくらが動けたのもお前の結界だからだろ?」
智樹は一息に言い、睨むように鷹也を見る。
「俺ら月の系譜はさ、結界を得意としてるんだよ。俺と兄貴は一卵性双生児でね?その特性もある。それでも動けなかったんだ。」
智琉もそう言って鷹也を見やった。
「理由は二つ。一つ、神力の高い者に瘴気が集中した。もう一つは俺の式が、結界に関してはバグってるんだ。」
鷹也はそう言ってコーヒーに口をつける。
「式依存ってこと、なのか?」
恭平の言葉に鷹也は頷いた。
「式にも得意不得意があるから、互いにそれを分かっていると、緊急時の動き方も見えてくるかもな?」
そう言われて恭平は素直に「そうなのか」と頷いた。
「それにしても、だ。さくらにまでも結界を張っていたよな?普通では考えられないんだが?」
智樹が更に突っ込んだ。
「単独での祓いはキツい。それに‥」
「それに?」
一瞬言い淀んだ鷹也に、智樹が更に突っ込む。
「婚約者をスルーするってどうよ?‥ブランはね、俺の感知を少しでも和らげようと、結界でどうにか出来ないか、ずっと努力し続けてくれたんだ。その結果があの強力な結界だ。‥俺の力じゃない。」
困ったように言い、ついっと目を逸らす。双子は顔を見合わせて笑い合い、さくらは頬を染めて俯いた。
「うがーー!!なんかムカつく!!」
恭平の叫び声で、皆、笑い出した。
「‥鷹兄?そんなのを祓うって‥それって‥凄いことなんじゃないの!?だって、融合したでっかいやつ、なんだよね!?」
少し落ち着いたところで茜が不安そうに聞いてくる。
「そうだね。さくらの旋律と、じっちゃんが用意してくれた湧水がなかったら‥相当追い込まれてたかな。ギリギリ祓えてもしばらく寝込んでたんじゃない?」
鷹也は微かに笑みを浮かべて言う。
「ネコが寝込むのか‥」
再び緊迫した空気の中、智樹の一言に全員が固まり、直後、笑いの渦が起きる。
「にーちゃん…ちょ…このタイミングで…それは…反…則…」
智琉が笑いながら突っ込んだことで、更に笑いが広がる。
「鷹也さん。」
場が落ち着いたところで、さくらが呼びかける。
「どうせ皆さん、後で聞くのですし、先に伝えておいては?」
さくらの表情で何を伝えようとしているのか、鷹也は察して気まずそうな顔になる。
「何だ?白状しろ!今なら許してやるから吐け!!」
「にーちゃん、犯人に自白を促してるわけじゃないんだからさ‥」
智樹が立ち上がらんばかりの勢いで鷹也に詰め寄り、智琉がツッコミを入れた。二人の掛け合いに、再び緊張してきた場の空気が緩む。
鷹也は盛大にため息を吐き、渋々口を開いた。
「総代の世代交代がある。正式には三年後に交代になるが、次期総代の発表はされる。」
瞬間、部屋の空気が止まった。
その言葉に恭平が勢いよく立ち上がる。
「まさか!?‥お前!?次期総代‥‥!?」
「アホか、んなわけねえだろ。向いてねーし、適性ねーし!‥ただ、参謀役に指名されてる。」
誰もすぐには言葉を返せなかった。意味を飲み込みきれないまま固まる一同を見て、智樹と智琉が参謀役について説明を入れる。
「‥まじかよ。それ、七海が聞いたら‥」
「うわあ‥これ、教えてもらって良かったー!ありがとう、さくらちゃん!なにも知らないままだったら、ナナのフォローどころじゃなかった!ありがとう、鷹兄!私とミチくんでフォローするから!」
道明と茜がそう言い、二人は頷き合った。
「ナナ、来年から上京するし‥何で私たちがこんなに心配してるのか、聞いてもらっていい?」
茜がそう言い出し、道明も補足しながら七海のことを打ち明けた。
「‥同級生がそんな立場になるってことで、俺もめっちゃショックなんだけど。これまでの話を聞く限り、妹さんは尚更だろうね。」
ぽつりと恭平がこぼした。
「やっぱりね、眼が閉じていること、ナナにとっては辛いんだよ。一族での集まりで、眼を見せる場面が来たらどうしようって、いつもビクビクしてるの。」
「だから鷹兄を手伝って、自分も役に立ってると証明したいのかもなあ…」
茜と道明がそう話すと、恭平が辛そうに顔をしかめた。
「うわぁ‥すげえ身に滲みるわ‥俺で出来ることなら、喜んで力になるからな?」
そう言う恭平を、鷹也が意外そうな表情で見つめている。
「本当に困った奴だな!少なからずその気持ちは分かるんだよ。お前に足りない部分、それは俺たちがサポートしてやる。‥ムカつくけどな!!」
智樹が言い放つと、鷹也は少しばかり困ったような表情になる。
「‥ありがとね。言われた通り、俺には足りない部分が多いんだろうし。正直、良く分からんけど。だから‥助かるよ。」
智琉が固まり、恭平が照れたようにそっぽを向き、智樹が舌打ちをする。
「ちっ!だからムカつくんだよ!!」
そう言いながらも口元は緩み、嬉しそうにすら見える。
「絶対に討伐してやるからな!!」
智琉もムキになって言うが、やはり嬉しそうだ。
「‥覚えとけよ!!」
恭平もそう言いながら、やはりちょっと嬉しそうだ。
聞けることは聞いた、と立ち上がり部屋を出て行く。道明と茜が笑顔で手を振ったので、鷹也も手を振り返した。
智樹たちは部屋に戻り、布団に寝転がった。
「なあ、そんな重荷を背負わされるのか?‥羨ましいってより、大丈夫なのか、あいつ?」
恭平がポツリと零す。
「幸い、なのか‥不幸なのか。その手の感覚が鈍すぎるからなあ‥」
「それな!まあ大丈夫だって!俺らは俺らが出来ることをやる。それでいいだろ?」
智樹と智琉がそう続け、三人は笑った。
「そうだな!‥というか、トモもサトも‥ツンデレか?つっかかるわりに面倒見いいよな?」
恭平の言葉に双子は揃って嫌そうな顔を浮かべる。
「‥そりゃー‥妹が人質になってるし?」
「ムカつくけど、放っておけないというか‥」
双子がそれぞれ言い訳じみたことを言い始めたので、恭平は笑ってしまう。
「要するに可愛い義弟の面倒をみてやろうってことか!!」
「「違うわっ!!」」
双子が完全にハモったので恭平は笑い転げ、双子も困ったように笑った。




