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掌の眼  作者: 瑠璃雀
神楽祭
78/114

支えるために

 さくら達が食事を終えて部屋で寛いでいると、雅が戻って来て顔を覗かせてくれる。

「あら、夕飯はここで食べていたのね、良かったわ。蒼介さんも心配していたから顔を見に来たの。」

 その言葉に茜が立ち上がった。

「わたし、お母さんの傍にいたいので‥良かったらここにお父さんも呼んで、ご家族でお話してください。」

「私もちょっと兄の所に行って来ないといけませんし。‥どうぞ?」

 さくらも立ち上がる。

「‥ごめんなさい。かえって気を遣わせてしまったかしら?」

 雅が申し訳なさそうに言うが、さくらと茜は笑顔で首を振った。

「いいえ、お父様もお母様も心配でしたでしょうし、彼女たちもご両親になら素直に甘えられると思いますし。‥ゆっくりなさって下さい。」

「私もお母さんの様子気になるから!だから、ゆっくりしてください!」

 そう口々に言い、身の回り品を持って二人は部屋を出て行った。



「さくらさん!丁度よかった。‥鷹也がどこの部屋なのか、知っている?」

 そう囁くように尋ねて来たのは恭平だ。道明も一緒である。

「‥ええと‥?」

 突然の質問に、さくらが面食らい、どうこたえようか迷っていると、道明が口を開いた。

「俺たち、父さんから色々聞いたんだ。それで‥鷹兄にも話を聞きたい。もしかしたら、七海がショックを受けるかもしれないし。‥だから、その‥フォローをするためにも、ちゃんと聞きたいんだよ。」

 その言葉に茜が即座に反応する。一瞬、声を出しかけ、慌てて小声になった。

「ナナがショックを受けるかも‥って?どういう?」

 さくらは唇に人差し指を当て、「しー」と仕草で三人に静かにするよう伝える。

「‥こちらに。茜ちゃん?お母さんの様子は?」

 その言葉に軽く頷いて隣の部屋に入り、再び戻って来た。

「完全に熟睡しているみたいだから、そのまま休んでいてもらいます。」


 さくらは兄に連絡して合流した後、エレベーターで上階へと移動した。人けの少ない廊下を歩き、角部屋の前で立ち止まる。

 ドアが開けられ、一歩踏み入れると応接間のような空間が広がっていた。

「は!?スイートルームか!?なんで特別扱いされてんの?」

 思わず智樹がツッコミを入れる。

「へ?人けのない静かな個室ってリクエストしたらここになった。自腹だからな?」

 鷹也はそう言って椅子に座る。


 智樹はそれ以上突っ込むのをやめ、本題に入った。

「さて、俺と智琉は一部始終を見ていた。まあ、瘴気の濃度が濃すぎて詳細までは見えなかったが。‥何が起きたのか、お前とさくらから話を聞きたい。」

 その後、恭平が口を開く。

「俺と道明は、親父からある程度の話は聞いた。でもきちんと知っておきたいし‥お前の話を聞きたい。」

「俺はね?話を聞いて、七海が心配になったんだ。俺らには知らされないかもしれない、でもさ、みんなあっちこっちで噂話してるんだよ。あいつがショックを受けたとき、的外れなフォローをしないために聞いておきたいと思った。」

 道明がそう言った後、茜も心配そうに鷹也を見やる。

「私はナナが心配。だからちゃんと聞いて、そのうえでナナを支えたいの。最近やっと少しずつ立ち直ってきたけど、それでもまだ選考会のこと‥引きずってるんだよ。だから、鷹兄!お願い!!」


 鷹也はしばらく考えている様子だった。さすがに少し慎重になっているようだと道明は思う。ルームサービスが来て、飲み物を置いて部屋を出た後、ようやく鷹也は口を開く。

「‥絶対に他には漏らすなよ?知っているのは重鎮だけだ。」

 その言葉に全員が居住まいを正し、鷹也を見やった。

「おそらく大規模瘴気災害だと言い渡される。皆が倒れた原因が瘴気なのは、間違いない。」

 智樹と智琉は大きく頷いた。さくらも皆を見て頷く。


「実際は、この社の下で複数の穢れが融合し、巨大化していた。原因はわからないが‥ここは火山活動も活発な場所だったし‥地脈の乱れも多かったんじゃないか?」

 鷹也がそう言って道明と恭平を見やる。

「‥そういうことか。‥なんか落ち着かないというか‥暑さとセミのせいかと思ってたな。」

「確かに。言われてみると‥不安定なまま安定している‥みたいな‥気がする?」

 恭平と道明が感じたことをそのまま皆に伝えた。「異変」や「違和感」とまではいかず、指摘されて初めて、「あれ?そういえば」という気持ちになったらしい。


「‥まあその巨大な穢れが、この社の境界にゆらぎをもたらして現れた。まー正直あれほどの瘴気を吹き出したのは想定外だよ。」

 その言葉に全員が息をのむ。


「待て、もしかして神楽祭の開催地点を変更したのは‥?」

 智樹がそう問いかけると鷹也は頷いた。

「じっちゃんが違和感があるってね。事前調査もしていたけど、ここまで大事になるとは思わなかった。」

「おい!お前は‥いつから関与してるんだよ?!」

 鷹也の言葉に恭平が語気を荒げる。挑むような、悔し気な、そんな表情を浮かべていた。

「事前調査からだよ。感知持ちだから駆り出された。」

 好きで関与した訳ではないとでも言いたげに鷹也は言う。


「‥それで?その穢れをおまえとさくらで祓った。重鎮たちですら、あの瘴気でまともに動けなかったんだぞ?なぜお前は動けた?さくらが動けたのもお前の結界だからだろ?」

 智樹は一息に言い、睨むように鷹也を見る。

「俺ら月の系譜はさ、結界を得意としてるんだよ。俺と兄貴は一卵性双生児でね?その特性もある。それでも動けなかったんだ。」

 智琉もそう言って鷹也を見やった。



「理由は二つ。一つ、神力の高い者に瘴気が集中した。もう一つは俺の式が、結界に関してはバグってるんだ。」

 鷹也はそう言ってコーヒーに口をつける。

「式依存ってこと、なのか?」

 恭平の言葉に鷹也は頷いた。

「式にも得意不得意があるから、互いにそれを分かっていると、緊急時の動き方も見えてくるかもな?」

 そう言われて恭平は素直に「そうなのか」と頷いた。

「それにしても、だ。さくらにまでも結界を張っていたよな?普通では考えられないんだが?」

 智樹が更に突っ込んだ。

「単独での祓いはキツい。それに‥」

「それに?」

 一瞬言い淀んだ鷹也に、智樹が更に突っ込む。

「婚約者をスルーするってどうよ?‥ブランはね、俺の感知を少しでも和らげようと、結界でどうにか出来ないか、ずっと努力し続けてくれたんだ。その結果があの強力な結界だ。‥俺の力じゃない。」

 困ったように言い、ついっと目を逸らす。双子は顔を見合わせて笑い合い、さくらは頬を染めて俯いた。

「うがーー!!なんかムカつく!!」

 恭平の叫び声で、皆、笑い出した。


「‥鷹兄?そんなのを祓うって‥それって‥凄いことなんじゃないの!?だって、融合したでっかいやつ、なんだよね!?」

 少し落ち着いたところで茜が不安そうに聞いてくる。

「そうだね。さくらの旋律と、じっちゃんが用意してくれた湧水がなかったら‥相当追い込まれてたかな。ギリギリ祓えてもしばらく寝込んでたんじゃない?」

 鷹也は微かに笑みを浮かべて言う。

「ネコが寝込むのか‥」

 再び緊迫した空気の中、智樹の一言に全員が固まり、直後、笑いの渦が起きる。


「にーちゃん…ちょ…このタイミングで…それは…反…則…」

 智琉が笑いながら突っ込んだことで、更に笑いが広がる。


「鷹也さん。」

 場が落ち着いたところで、さくらが呼びかける。

「どうせ皆さん、後で聞くのですし、先に伝えておいては?」

 さくらの表情で何を伝えようとしているのか、鷹也は察して気まずそうな顔になる。

「何だ?白状しろ!今なら許してやるから吐け!!」

「にーちゃん、犯人に自白を促してるわけじゃないんだからさ‥」

 智樹が立ち上がらんばかりの勢いで鷹也に詰め寄り、智琉がツッコミを入れた。二人の掛け合いに、再び緊張してきた場の空気が緩む。


 鷹也は盛大にため息を吐き、渋々口を開いた。

「総代の世代交代がある。正式には三年後に交代になるが、次期総代の発表はされる。」

 瞬間、部屋の空気が止まった。

 その言葉に恭平が勢いよく立ち上がる。

「まさか!?‥お前!?次期総代‥‥!?」

「アホか、んなわけねえだろ。向いてねーし、適性ねーし!‥ただ、参謀役に指名されてる。」

 誰もすぐには言葉を返せなかった。意味を飲み込みきれないまま固まる一同を見て、智樹と智琉が参謀役について説明を入れる。


「‥まじかよ。それ、七海が聞いたら‥」

「うわあ‥これ、教えてもらって良かったー!ありがとう、さくらちゃん!なにも知らないままだったら、ナナのフォローどころじゃなかった!ありがとう、鷹兄!私とミチくんでフォローするから!」

 道明と茜がそう言い、二人は頷き合った。

「ナナ、来年から上京するし‥何で私たちがこんなに心配してるのか、聞いてもらっていい?」

 茜がそう言い出し、道明も補足しながら七海のことを打ち明けた。


「‥同級生がそんな立場になるってことで、俺もめっちゃショックなんだけど。これまでの話を聞く限り、妹さんは尚更だろうね。」

 ぽつりと恭平がこぼした。

「やっぱりね、眼が閉じていること、ナナにとっては辛いんだよ。一族での集まりで、眼を見せる場面が来たらどうしようって、いつもビクビクしてるの。」

「だから鷹兄を手伝って、自分も役に立ってると証明したいのかもなあ…」

 茜と道明がそう話すと、恭平が辛そうに顔をしかめた。

「うわぁ‥すげえ身に滲みるわ‥俺で出来ることなら、喜んで力になるからな?」

 そう言う恭平を、鷹也が意外そうな表情で見つめている。


「本当に困った奴だな!少なからずその気持ちは分かるんだよ。お前に足りない部分、それは俺たちがサポートしてやる。‥ムカつくけどな!!」

 智樹が言い放つと、鷹也は少しばかり困ったような表情になる。

「‥ありがとね。言われた通り、俺には足りない部分が多いんだろうし。正直、良く分からんけど。だから‥助かるよ。」

 智琉が固まり、恭平が照れたようにそっぽを向き、智樹が舌打ちをする。

「ちっ!だからムカつくんだよ!!」

 そう言いながらも口元は緩み、嬉しそうにすら見える。

「絶対に討伐してやるからな!!」

 智琉もムキになって言うが、やはり嬉しそうだ。

「‥覚えとけよ!!」

 恭平もそう言いながら、やはりちょっと嬉しそうだ。


 聞けることは聞いた、と立ち上がり部屋を出て行く。道明と茜が笑顔で手を振ったので、鷹也も手を振り返した。



 智樹たちは部屋に戻り、布団に寝転がった。

「なあ、そんな重荷を背負わされるのか?‥羨ましいってより、大丈夫なのか、あいつ?」

 恭平がポツリと零す。

「幸い、なのか‥不幸なのか。その手の感覚が鈍すぎるからなあ‥」

「それな!まあ大丈夫だって!俺らは俺らが出来ることをやる。それでいいだろ?」

 智樹と智琉がそう続け、三人は笑った。


「そうだな!‥というか、トモもサトも‥ツンデレか?つっかかるわりに面倒見いいよな?」

 恭平の言葉に双子は揃って嫌そうな顔を浮かべる。

「‥そりゃー‥妹が人質になってるし?」

「ムカつくけど、放っておけないというか‥」

 双子がそれぞれ言い訳じみたことを言い始めたので、恭平は笑ってしまう。

「要するに可愛い義弟の面倒をみてやろうってことか!!」

「「違うわっ!!」」

 双子が完全にハモったので恭平は笑い転げ、双子も困ったように笑った。


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