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掌の眼  作者: 瑠璃雀
神楽祭
77/113

それぞれの夜

 篁の指示を受けた重鎮やベテランたちが連携を取りながらフォローに回ったため、終息は早かった。浄化の効果が高かったからだろう、気怠さを訴える者はいたが、寝込むほどの不調を訴える者が出なかったのだ。


「大丈夫だったか?」

 式場に戻ると智樹と智琉がいて、心配そうに声をかけてくれる。

「お前らは先に戻ってたのか、さくらさんは大丈夫なのか?」

 恭平がそう声をかけると双子は頷いた。

「それより、お前、足元がふらついているな?‥気になる症状はないか?」

 智樹が恭平を見てさらに問いかける。

「怠さが残ってるのと、少しばかり頭がボーっとしているだけだ。お前らは?」

 恭平が気遣わし気に双子を見るが、二人はどうやら大丈夫そうだ。

「まあ双子の特性と、月系譜は結界がわりと得意だからね。‥まあ結界維持だけで何も出来なかったが。」

 双子は立夏と状態について言葉を交わし、七海達全員の様子を見てくれたらしい。

「あとは部屋でゆっくり休むといいよ。‥俺らはここで皆の様子を見てから戻る。」

 智琉がそう言って笑顔で見送ってくれたので、七海達は着替えのために更衣室へと行く。


 更衣室は人で溢れていた。皆どこか疲れた顔をしていて、あちこちで気遣う声や家族を探す声が飛び交っている。ざわめきが耳にまとわりつき、少し息苦しく感じた。

「七海!流水!‥立夏ちゃん!!」

 私服姿の雅が慌てた様子でやって来て、ホッとしたように吐息をついた。

「立夏ちゃん、この子たちをお願いしていいかしら。あなたも戻って休んで?あとは私がこっちで少し手伝いをしていくわ。蒼介さんたちも更衣室の外にいるから!一緒の方が安心でしょう?」

 その申し出に立夏は嬉しそうに頷いた。やはりまだ顔色は優れず、気怠そうに見える。

「‥ありがとうミヤちゃん、ありがたくそうさせてもらうわね?」

 雅はにこりと笑って頷き、七海と流水に声をかけて足早に離れて行った。


 更衣室を出ると、蒼介と駿、着替えを終えた道明・遊馬・恭平・司が待っていてくれた。

「皆さん、無事でよかった。ひと休み入れなくて大丈夫ですか?」

 蒼介が穏やかに問いかけると、立夏は疲れた表情に、それでも笑顔を浮かべる。

「ホテルの部屋でゆっくり休んだ方がいいと思います。‥大丈夫よね?」

 立夏にそう声をかけられ、全員が頷いて、ゆっくりと歩き出した。



 ホテルのロビーには多くの人がおり、混雑を縫うように進む。立夏が何度も会釈をしていたので、おそらく一族の人たちなのだろう。どんな様子かをうかがう余裕もなく、部屋までの距離が異様に長く感じて、着いた途端に七海は畳の上に寝転がる。

「何かホッとしたせいかドッと疲れた感じ。」

「そうだね、今日は早めに休んだ方がいいかも?」

 茜と七海が話していると、流水も頷いた。

「あれって何だったんだろうねえ‥」

 さくらはまだ向こうにいるのだろうか。少し心配ではあったが、皆、ただ黙ってぼんやりとした時間をすごした。


 恭平が「寝る」と言って部屋に引きこもり、道明と遊馬、司も部屋に入って寝転がっていた。

「‥何があったかは分からないけど、神楽祭どうなるんだろうな?」

 開始直前!という所で、あの黒い靄が湧き出した。おかげで出鼻を挫かれた気分だ。

「明日朝には連絡が来るらしいし。少し落ち着いたら温泉行くかな。」

 道明がそう言って遊馬を見やり、司も便乗して温泉へ行くことにしたのだった。



 鷹也は目を覚まして起き上がる。

「あれ…?さくら、帰って休んでて良かったのに。」

 思い切り伸びをして立ち上がる。

「守ってくれた人を置いて勝手に休むなんて、出来ませんよ。」

「俺は補佐してくれた人を置いて勝手に寝たけどな?」

 相変わらずの軽口に、さくらはホッとしたように笑みをこぼす。つられるように鷹也も笑った。

「‥あれ?さくらが着替えさせてくれた?」

 自分の服装を見て不思議そうな顔をしている鷹也に、さくらは照れたように横を向く。

「篁さんです。‥私も少しお手伝いしましたが。」

「ありがとな。瘴気の影響はないか?」

 さくらが頷くのを見て取り、鷹也は社の方へと歩き出す。

「あの‥どちらへ?」

「確認、かな。この服装で行ったら神さんに怒られるかなー?すぐ戻るよ。」


 社に近づくと、神楽殿には月星と日乃下の当主夫妻がいた。

「鷹也さん、この度はありがとうございました。‥身体は大丈夫ですか?」

「祓えて良かった。俺は大丈夫だよ。一応気になってね?確認に来た。」

 その言葉を聞いて安心したようで場所を空けてくれる。鷹也は神楽殿へと上がり、床に掌を当て、目を閉じて集中する。


「‥あの嫌な感じはないな。ブラン!」

 白銀の大鷹が頭上に顕現した瞬間、四人の空気が変わった。白銀の羽毛、鮮やかで深い青の瞳、精悍な顔つき。結界の力を目の当たりにした後では、その姿はただ美しいというより、畏怖を抱かせるものに近い。喋れば幼子のように愛らしいのだが、それを聞ける者は鷹也以外にいないため、彼らにはただ圧倒的な存在として映っていた。

『なーにー?』

「一応、確認してくれる?俺には感じ取れなかったけど、念のため。」

『タカヤが分からなかったら、ボクには分からないとおもうけどなー?』

 そう言いながらもすいっと飛び立ち、白銀の粒子を撒き散らしながら社内を探索してくれる。


『何もなかったよー』

「そうか、ありがとね?」

『タカヤなでてー』

「はいよ」

 頭から首筋、背中を撫でてやると満足したのか消えた。


「しかし‥凄い式だな。格が違うというか‥あの結界はとにかく凄まじいものだ。」

「ブランは元々結界が得意なだけだよ。」

 鷹也はそう言ってもう一度周囲を見やった。以前の調査の時に見たような異変はない。

「‥一応一通り見てみたけど、やっぱり違和感はない。明日の朝、もう一度見に来る。」

 鷹也の言葉に二家は安心したようだった。

「ありがとう。君もゆっくり休んでくれ。」

 軽く手を上げて挨拶し、さくらの元へと走る。


「どうやら大丈夫そうだね。ありがとな、さくら。」

「私の方こそありがとうございました。」

 二人は社を後にし、式場へと戻る。

「「さくら!!」」

 さくらの姿を見た、智樹と智琉が慌てて走って来た。

「大丈夫だったか!?」

「‥はい、兄さん達も。結界維持できてたのですね。さすが、です。」

 心配そうに声をかけてくれた兄達に、さくらが笑顔で答える。お互い、無事を確認し合えたことで安心したようだ。

「そいつらがいれば大丈夫そうだな?‥んじゃ、先戻るわ。」

 鷹也はさくらを兄達に託し、欠伸をしながらてくてくと歩き去ろうとする。

「いや、待て!まだ話が!」

 智樹がそう声をかけたが、鷹也は「また後で」と振り返ることなく立ち去った。

「兄さんたち‥一部始終を見てたんですよね?話はのちほど。鷹也さんの部屋で。」

 一族も多くおり、視線も耳もある。ここで話すべきではないと、さくらが言外に述べたことで二人は頷いた。

「ま、昔から言うもんな。壁にミリタリー障子にメアリーってさ。」

 くだらない智琉の言葉につい笑ってしまうさくらだった。しばらくその場で様子を見ていたが、どうやら問題もなさそうだ。


「おお、お前たちが対応してくれていたか。」

 賢一が現れてそう声をかけてくれる。

「お祖父さま!‥お祖母さまは?大丈夫でしたか?」

 さくらが心配そうに声をかけると、賢一は頷いた。祖父母は月星家に招待されており、そちらに宿泊している。

「かなり影響を受けたようだが、問題はない。‥お前たちも大丈夫そうだな?」

 三人が頷くと、賢一は穏やかに笑い、さくらの肩を軽く叩く。その仕草が、祓いに対しての労いなのだろうと、さくらは笑顔で頷いた。

「もう大丈夫だろう。お前たちも戻って休みなさい。‥お疲れさん。」

 賢一がそう言ってくれたので、三人はホテルに戻ることにした。



「さくらちゃん!!」

 部屋に戻ると、七海と流水、茜が嬉しそうに顔を上げる。

「皆さんも、無事でよかったです。」

 さくらが微笑むと、七海達も嬉しそうに笑った。

「ねえ、さくらちゃん!さっきのあれ!なんだったの!?」

 七海がさっそく質問をぶつけて来る。茜と流水も疑問だったのだろう、興味深げにこちらを見ている。


「‥私も詳しくは‥明日の朝には連絡が来るでしょうし。それより‥」

 さくらが少し困ったような顔をしたので、三人も心配そうな眼差しになる。

「‥そろそろお夕飯の時間なんですよね。‥お腹すいちゃいました。」

「「「えっ!?もうそんな時間!?」」」

 色々なことが起き過ぎて、時間の感覚が全く分からなくなっていた。とはいえ、大勢の人がいる場所へ行くのが億劫でもある。ホテル側に聞いてみると、食事をお部屋まで運んでもらえるとのことだった。その厚意に甘え、食事は部屋でゆっくり取ることにしたのだった。



「「「「いただきまーす!!」」」」


「うーん、やっぱり温かいご飯は最高〜!!」

 ご飯を口にした流水が幸せそうに言う。

「何かホッと落ち着くね?」

「トンカツ食べたの、お昼だよね?すごい昔のことみたいだよ。」

「幸せですねえ。」

 4人の表情が緩み、和やかな空気に包まれる。やはり温かな食事は大切なのだと身に染みつつ、料理に舌鼓を打つのだった。



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