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掌の眼  作者: 瑠璃雀
神楽祭
73/113

温泉組とリハーサル組

 自由時間を終え、夕方からの神楽祭に向けて温泉へと向かう。かなり汗もかいているので、社に行く前にきちんと身を清めておきたい。

 七海と茜、流水、さくらは4人で着替えを持ち温泉へと向かう。

「なんかドキドキしてきたー!ね、さくらちゃんは神楽祭、見たことあるんだよね?」

 流水の問いに、さくらは微笑んだ。

「ええ。あの時は火の社でしたから、夜の開催でしたね。篝火が設置されて、すごく幻想的でしたよ。」

 その言葉に3人が食いつく。社によって開催時間や社の設備が変わるらしいことに驚いたのだ。本来、今年は月影家で出席するのは祖父母だけの予定だったらしい。

「毎回、300人ほど集まるそうですよ。開眼者と未開眼者の皆さん、総勢で。」

 エレベーターを待ちながら、そう話してくれる。

「確かに、昨夜もたくさん来てたもんね。‥一族の人たちってたくさんいるの!?」

 茜が思わず尋ねる。

「ええ。一族全員となると‥千人は超えると思いますよ。なので、神楽祭は招待制なんです。七海ちゃん達は選考会にも参加していたから招待されたんですね。」

 3人は頷き合い、そういえば一族のことを何も知らないと改めて思ったのだった。


「強制ではないので、来られない方もけっこうおられます。おかげで空きができまして、私たちも参加することになったんですよ。兄たちが来年以降、しばらく参加出来そうになくて。」

 さくらはそう言って穏やかに微笑む。そんな話をしているうちに、浴場に到着した。



「はー‥極楽だーー!」

 温泉に浸かった流水がお湯の中でぐだーっと伸びている。

「おばあちゃんじゃないんだからー!」

 七海がそう言って笑いかける。

「ここの温泉て、匂いもないし普通のお湯っぽいよね。」

 さらりとした無色透明なお湯は、地元の温泉とは全く違った。白く濁った、卵の腐ったような匂い。それが七海達のイメージする温泉だったのだ。

「‥塩化物泉ですから、しょっぱいかもしれませんね?でも、肌がさらさらになる感じがします。」

 さくらが入って来てそう言うと、茜も湯に入るなり顔をしかめる。

「何か滲みると思ったらそのせい?‥さっきちょっと紙で切っちゃった。」

「あーそれは滲みるねえ‥」

 七海も顔をしかめ、2人は笑いあった。


 大浴場は大きなガラス張りになっており、遠目に海が見える。

「はー‥海を見ながら温泉って‥何かすごく贅沢だなー」

「ふふ。私たちが普段行く温泉は、山のほうですものね。‥海を見ながらって新鮮です。」

 流水の無邪気な言葉に、さくらも楽しそうだ。



 その頃、遊馬と道明は社に到着し、案内役から話を聞いていた。案内役は30代くらいの男性で、優しそうな印象だ。

「待機場所がこちらになります。」

 よく通る声で、神楽殿に隣接する、18畳ほどの広間に案内される。

「ここで列を作って待機して頂きます。入場は渡り廊下側の扉から。木階段を降りて前庭へ向かってください。」

 実際に案内されてみると、控えの間から渡り廊下へ出て、そのまま前庭へ降りられるようになっていた。

 道明たちは列を作るよう指示を受け、呼ばれたままに並んでいく。そして案内役が実際の経路を歩き、その後をぞろぞろとついて行った。

「神楽は神楽殿の目の前、ここの前庭で舞います。砂利の上の青い線が見えますか?」

 庭園には雪のように白い細かな砂利が敷き詰められている。これは道明達の地元である、水の社も同じだ。その砂利の上に、うっすらと輝く青い線が描かれていた。


「‥きれいだなあ‥」

 砂利に溝を掘って線にしているわけではない。レーザーの光を砂利の上に当てているようにも見え、道明が実際に足元の砂利を少しばかり崩してみた。青い線は砂利に触れているはずなのに、光だけが浮いているようにも見えるのだ。

「どういう仕組みなんだろう?」

 遊馬も道明も首を傾げつつ、案内に従ってそれぞれに立ち位置についた。


「あ、控えの間からその位置まで、式には御幣(ごへい)になって頂きます。御幣から武具へと変容してもらいますので、それも練習をして下さいね!」

 案内役は式を顕現させ、御幣へと変容させた。柄の先に紙垂のついた神具である。今回初めて選ばれた人も多く、皆、式を顕現させては御幣への変容をお願いしている。

 道明も式であるロードを呼ぶ。

「御幣になってもらえる?」

『‥ほう。了解した。』

 身体の大きな黄金猪が、黄金の柄に白い紙垂のついた御幣へと変容してくれる。

「ありがとう、ロード。これを持って移動した後、この状態から武具へはなれる?」

 返事の代わりなのか、一度紙垂が淡く輝き、道明の両手を包み込んだ。

「おおー!確かにこの方が儀式っぽいなー!」

 道明は一回で成功したことに満足し、ロードを労った。


 一方、遊馬もウサ吉を顕現させる。

「ぴるーーーーーー!!」

 いつものハイテンションぶりと、皆に聞こえる鳴き声?を上げるウサ吉に、皆が注目する。

「ウサ吉、御幣になれるか?」

「ぴるっ!!」

 そして変容したのは、少し焦げ目のついた、やけに食欲をそそられる非常に美味しそうな‥

「五平餅じゃねえかよっ!!」

ウサ吉のボケにより、緊張で硬くなった空気が、少し解れる。


「御幣!頼むよー!ウサ吉!!」

 そして次の瞬間、五平餅は消え、立派な御幣へと変容した。立派だ、非常に立派である。なんと皆が持っている御幣の三倍はあるほどに立派だ。

 見ていた者達が「ブフーーッ!」と吹き出し、案内役は爆笑している。

「あははは!!面白い!たまにいるんだよねー!愉快な式!!」

 神楽殿にいた重鎮たちも手を叩いて笑っており、道明も腹を抱えて笑っていた。

「よっしゃー!ウサ吉!さすが俺の相棒!!そのまま通常サイズに戻ろうぜ!!」

 その言葉に御幣はようやく通常サイズになってくれた。紙垂もちゃんと白い。柄が黄金なのはきっと目立ちたいからに違いない。

「ウサ吉ありがとー!そのまま弓になってくれる?」

 今度は通常サイズの弓へと変容してくれた。やはり眩しい黄金である。

「いいね、アガるわ!」

 遊馬の言葉に答えるように、弓が一瞬輝いた。



「それでは皆さん、場所を覚えて下さいね!控えの間から入場し、配置につくまでを何度か練習しますよ!列の順番が分かれば迷うことはないと思います!式とも一緒に練習してもらって大丈夫ですからね。」

 そう声をかけられ、控えの間に戻って列を作る。

「本番では、ここの扉は閉まってます。式次第での案内後に扉が開かれ、鈴の音で合図をします。そうしたらゆっくりと移動をお願いしますね。」

案内役の説明を聞き、本番と同じ流れで入場の練習が始まった。


「神楽奉納の儀」

 その声と共に、扉が解放される。

シャン!

 鈴の音が鳴り響くと、先頭から順にしずしずと移動を開始する。道明と遊馬も御幣を両手で掲げるように持ち、一定の速度で歩いた。指定位置への移動では多少もたついたものの、案内役の指示のおかげで混乱はなく、数度の練習で流れるように配置につけるようになった。


「今の感じでお願いします!それではいったん休憩を挟みますね!」

 そうして列がほどけ、道明と遊馬もホッとして置いてあるベンチに腰掛けた。

「きみの式、面白いなー!!」 

「五平餅になる式は初めて見たぞ!」

「いや、緊張がほぐれた!」

 遊馬の周りに様々な年代の人たちが集まって来ては、口々に話しかけてくる。

「ウサ吉!褒められたぞ!」

 遊馬の呼びかけで、御幣になっていたウサ吉が顕現する。

「ぴるるる!ぴるー!!」

 ウサ吉はご機嫌で、その場でくるりとバック宙をした後、腰に手を当ててドヤってみせる。


「なんでこの式、鳴くんだ?しかも俺にも聞こえるし。」

「そうだよな‥不思議な式だ。」

 通常、式の声が届くのはパートナーだけだ。

「えっと、ウサ吉が“せっかくの大舞台!みんなで楽しむぞー!”って言ってる。」

 遊馬の通訳に満足したのか、ウサ吉は大きく頷いた後、「ぴるっ!」と声を上げた。

「なるほど、鳴き声と意思の疎通は別か。」

「しかし面白い!」 

「アイドル枠だなー!」

 そんな声を掛けられ、ウサ吉は嬉しそうだ。遊馬が撫でると嬉しそうに耳をぴょこぴょこし、目を細める。ちなみに今日のウサ吉の毛色は純白である。


 リハーサルの合間にも、多くの一族たちがあちらこちらと歩き回り、忙しく働いていた。団体神楽を囲うように台が並べられ、木製のベンチが設置される。

 そんな様子を眺めていると、道明の父である孝之介や茜の母である立夏、鷹也の姿も見かけた。皆、他の一族達と話しながら、足早に動き回っている。

「‥やっぱり一大イベントなんだな。」

「それなー!水の社でやるときは、俺らも手伝いに駆り出されるんだろうなあ。」

 しみじみ呟いた道明に、遊馬もいずれ開催されるであろう水の社での神楽祭に、思いを馳せている。

「何年後か分からないけどな。」

「‥うん。」

 その頃には知り合いも増えて、一族との繋がりも、もっと深くなるのかもしれない。



 休憩が終わると、再び案内役が声を張り上げた。

「それではもう一度、控えの間からお願いします。今度は配置についた後、演奏付きで一度だけ通して舞って頂きます。最初の鈴で御幣を武具へ、次の鈴で演奏開始です。よろしくお願いします!」

 舞い手たちは再び控えの間へと進み、列を作って並ぶ。


「神楽奉納の儀」

 扉が開き、鈴の音が響いた後、舞い手たちは両手に御幣を掲げ、しずしずと配置について行く。流れるように、静かに。

 奏者の方は、神楽殿中央に設置された衝立の奥から、やはり両手で御幣を掲げ、毛氈に座りこむ。

「シャン!」

 御幣が一斉に楽器や武具へと変容する。式同士でタイミングを測っているのか、見事なまでに揃っている。

「シャン」

神楽鈴の音と共に演奏が始まり、三十六名が一斉に舞いはじめる。

 始まってしまえば、いつもの神楽だ。道明は重心を低く、大きく堂々と。対して遊馬は流れに乗るように、軽やかに舞った。


(緊張するけど‥こういう舞台で舞うっていうのも、何かいいなあ!)

 道明はさりげなく周囲を見回し、色とりどりの羽織が揺れるのを嬉しそうに眺める。

(うっわ!これ、マジでアガるね!!最高!)

 遊馬は心から楽しそうに、周囲の流れを感じながら舞った。




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