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掌の眼  作者: 瑠璃雀
神楽祭
71/113

それぞれの自由時間

 七海は目を覚まし、寝転がったまま大きく伸びをする。昨夜は卓球で汗を流し、その後温泉を堪能したせいか、ぐっすり眠れたのだ。

 布団から起き上がって窓の外を見ると、気持ちの良い晴天だ。

「おねーちゃん起きたんだー」

 おめめをこすりながら隣の布団で寝ていた流水も、ゆっくりと起き上がった。寝起きの髪は、あっちゃこっちゃに跳ね回り、七海はつい笑ってしまう。

「どうして寝る度にそんなことになるのかな?」

 かわいいなあと思いながら手櫛で整えると、かなりマシになった。


「おはようございます。」

 すでにさくらは起きており、朝からシャワーを浴びていたらしい。

「おはよーさくらちゃん!」 

「さくらちゃん、おはようございます!」

 七海も流水も元気いっぱいで挨拶をする。茜もすでに起きており、髪はいつも通りのポニーテールだ。

「いい天気だねえ!‥今日も暑そう!」

 窓の外を見た茜が眩しそうに言い、そそくさと着替え始める。七海や流水も身支度を整え、ホテル内の庭園を散策しようという話になった。


 朝食開始まで30分程度時間があるため、連れ立って外へと歩く。まだ比較的早い時間であるのに日差しは強く、セミが大合唱を始めていた。

「ひえ~このセミすっごいね!」

「ていうか、この時間でこんなに暑いとか‥」

 地元も暑くはあるが、何か暑さの体感が違うようにも思える。容赦なく照りつける日差しは、半袖の肌にひりつくような感覚をもたらしてくる。

「さくらちゃん、長袖で暑くないの!?」

 シースルー素材で見た目は涼しげだが、長袖がいかにも暑そうに見えたのだ。

「‥強い日差しだとかぶれちゃうんですよ。」

 日除け帽までかぶり、紫外線を徹底カットしているように見える。なるほど、透けるような白い肌はいかにも夏の強い日差しは苦手そうだ。

「そっかーそれはそれで大変そう‥」

 日差しなどなんのその!といった様子の3人に、さくらは笑顔で後をついていく。緑も多く、池もあるというのに、ムッとする暑さを感じるだけで、ひんやり感は全くない。それが南国に来たという実感ともいえるのかもしれない。



 散歩を終えてホテルにもどると、朝食が始まっていた。七海達が入って行くと、席はポツポツと埋まり始めている。

「七海ー!」

 声をかけられ振り返ると、遊馬たちが笑顔で手を振ってくれる。ちょうど4人分空いていたため、一緒に食べることにした。

 バイキング形式であるため、和洋中様々な食事が用意されている。サラダボウルにサラダを盛り、気になるおかずをプレートに乗せていくと、瞬く間にいっぱいになってしまう。

「‥やば!食べきれなかったらどうしよう!?」

「ワッフルあるとか、超嬉しい!ていうかさ、スクランブルエッグ超美味しそう!」

 七海と流水はそう言って笑い合う。


「うまそー!」

 遊馬はこんがり焼けたウインナーとベーコン、ポテトフライを山盛りだ。プラス牛乳である。

「お前、少しは野菜も食えよな‥」

 道明は横目で見ながら笑っている。

「ミチくんて、お米好きなの?」

 皿にてんこもりのご飯とカレー、サラダ、茶碗にごはんと焼き魚や海苔、納豆に味噌汁だ。

「うん。米が好きすぎて‥茜はパン派か。」

 皿を見ると、様々なパンを少しずつ、サラダにヨーグルト、果物。ウインナーとベーコンにスクランブルエッグを少々添えている。

「うん。なんか目移りしちゃうんだよね。」

 さくらと司は和食中心で一番バランスが取れている。但し二人とも量は多い。

「私はどうしても朝のパンが苦手で‥朝はごはんが好きですね。」

「あー何か、口の中の水分全部持ってかれる感じするっすよねー!」

 ご飯に焼き魚、浅漬けに卵焼き、納豆、その他和惣菜が並び、味噌汁をつけている。バラエティに富んでいてそれだけで面白かった。


「ラーメン屋行くとさ、チャーハンとラーメンと餃子になぜか白米食うんだよね、道明。」

「え!?わりと普通だろう!?」

 道明と遊馬の会話に七海たちはつい笑ってしまう。

「「「普通じゃないよー!!」」」

 さくらだけが微かに首を傾げる。

「ラーメンとチャーハンに定食を食べることはありますよね‥?」

「「「それもないよー!!」」」

 さくらの呟きにも即座に突っ込んだ。

「炭水化物取りすぎっすよー!俺はあまり身体重くしたくないんで、バランスよく程々っすね。」

 司は筋トレもやりつつ、食事メニューにも気を遣っているのだという。

「にーちゃん、案外健康志向なんだよなー!」

 遊馬がウインナーを齧りながら笑う。道明と司が筋トレや食事について熱弁をふるっているのが面白い。


 七海たちが食堂を出ると、入れ替わりに恭平と智樹、智琉がやってきた。早朝からジョギングをして一風呂浴びた後らしい。

「マジっすか。俺も一緒に走ってくれば良かったー!」 

「うわ、俺も!何時集合?明日は俺も行く!」

 道明と司が食いつき、明日朝の約束までしていた。

「ナナちゃん、ルミちゃん!」 

「茜―!」

 雅と立夏も現れ、この後、少し観光をしようという話になった。

「さくらちゃんは‥?」

 流水に声をかけられ、さくらは笑いながら首を振った。

「兄さんたちに引っ張り回される予定です。」

「人聞きの悪い言い方するなよ。昼はとんかつだぞ!しっかりリサーチしたしな。」

 智樹がそう言って店の情報を見せつける。そこから更に盛り上がり、昼食はその店で落ち合うことになった。

「じゃあ予約を入れておこう。12時にここだ。‥URLを全員に送っておくよ!」

 そう言って兄たちと雅達は朝食に向かう。


 その間、部屋で待つことにして周囲の店や観光地を検索する。

「展望台あるよ!海が見えるみたい!」 

「いいね!お店が始まるにはまだ早いし!」

「ちょっと歩くけど、お腹すかせないと!」

 七海と流水と茜は、スマホで検索しながら画像を見せあい、きゃあきゃあ盛り上がった。



 雅たちが食事から戻って来ると、早速5人でホテルを出る。

「‥日差しがすごいわね。」 

「セミの声もね?」

 朝の散歩時より、更に日差しが強くなっており、母2人は娘たちにスプレータイプの日焼け止めを振りかける。

「えー?これって必要?」 

「何かベタベタするー!」 

「粉っぽい?」

 三人は言いながらも肌に擦り込んだ。

「真っ赤になってヒリヒリしちゃうわよ?」 

「お風呂でしみちゃうしね?」

 旅行前に買っておいた帽子もかぶり、お喋りを楽しみながら海の見える展望台を目指した。



 その頃ホテルではーー

 さくらがロビーで読書をしていると、準備を整えた兄たちが戻って来て声をかけてくれる。

「待たせたな、さくら!」 

「行こうか!」

 智樹と智琉に声をかけられ、さくらも笑顔で立ち上がる。理知的イケメンが両脇に立ち、中央にオッドアイの美女が並んでいるという、ビジュアル破壊力満点の図に、観光客達が立ち止まって目で追うという状況だった。

「‥やばいなあれ‥」 

「え?芸能人?」 

「双子かな?」 

「ヘテロクロミア!神秘的!!」

 こそこそと呟く声が聞こえてきて、さくらはつい帽子を目深にかぶってしまう。何となく注目されているような気がして居た堪れなかったのだ。

(もう‥兄さんたちが目立ち過ぎるんですよ‥)

 その後、近くの植物園を見学する。咲き誇る花をバックに写真を撮らされ、兄たちは嬉しそうに撮った写真を見ていた。

「なあ、これでカレンダーを作って部屋に飾らないか?」

「にーちゃん!天才か!?てことはベストショット12枚を厳選する必要が!!」

 智樹と智琉は大いに盛り上がり、何枚も写真を撮ってはニヤニヤしている。植物園に来たのかさくらの写真を撮りに来たのか、目的がズレていることに兄たちは気づかないのであった。



一方、司と遊馬、道明と恭平もホテルを出て歩いていた。

特に目的はなく、水がある方が涼しそう。そんな理由で海方面へと向かった。

「砂浜走ると足腰鍛えられそうだよな?」

「そうだな、体幹も鍛えられるし、瞬発力アップにもなる‥だと!?」

 道明の言葉にスマホをポチリながら恭平は呟いた。

「よーし!砂浜で鬼ごっこしようぜ!!」

「面白そうだね!!」

遊馬が言い出すと、司も即座に同意した。空手、バレーボール、バスケ、弓道と種目はばらばらなのに、結局こうして身体を動かす方へ話が転がってゆく。そして目的が決まると途端に歩くペースも速くなる。

「競争だー!!」

 遊馬が言い出してダッシュすると、司も続く。

「え!?マジか!」

 道明も走り出し、恭平もダッシュする。が、いかんせん走るスピードが違いすぎる。

「ははは!俺等は俺等のペースでいこうぜ!」

 恭平がそう言って道明と伴走してくれる。兄も相当速いはずだが、こうして一緒に走ってくれるのが嬉しかった。




「「うわーー!!海だーーー!」」

 眼の前に開けた海に、流水と茜が大はしゃぎでジャンプする。内陸で生まれ育った七海たちにとって、こうして海を眺める機会はそうそうない。七海だけは少し下がり、遠くの海を眺めて目をキラキラさせていた。

「‥おねえちゃん、どしたの?」

 手すりのずっと手前に佇む七海に、流水が不思議そうに声を掛ける。

「‥下、見える、だめ。」

 更に不思議そうな表情になった流水に、雅が笑いながら助け舟を出した。

「手すりに近づき過ぎると真下まで見えちゃうでしょう?‥そういうのが苦手な人もいるのよ。」

 そう言って七海の肩にそっと手を置く。

「そっか!じゃあ写真撮っとく!あとで一緒に写真見ようね!!」

 流水と茜はそう言いながらパシャパシャと写真を撮った。


「でもナナ、この間の山キャンプは、大丈夫だったの?」

 そういえばと茜に聞かれて七海は首を傾げた。

「うん、そこまで急斜面じゃなかったし。‥あとは鷹兄がさ、いざという時のために、ずっと下で見ててくれたでしょう?」

 確かに傾斜がきつい場所や、足場の悪い場所では、常に鷹也が下から見ていてくれていた。

「ナナ、本当に鷹兄大好きだよねえ!」

「ちがっ!そういうわけじゃないけど!!」

 茜に突っ込まれ、つい反論してしまう七海である。

(そういえば鷹兄を見かけないな‥今日もお祖父ちゃんの手伝い、なのかな。)

 そう考えると少しだけ気になった。


「みんなで写真撮りましょ?‥ここから海を背景に!」

 雅に声をかけられ、手すりから離れた場所で並ぶ。流水がカバンから自撮り棒を取り出し、全員が上手く入るように調整してくれる。しかし七海の表情だけが少し硬い。

「ナナちゃん、鷹にゃんよー!」

 黒猫の耳としっぽを装着した兄の待受を見せられ、七海の顔が引きつる。

「ローバリトンの“にゃー”はえぐいわよね‥」

 大真面目な雅の呟きに、ついに笑い出す。茜や立夏までも笑い出し、弾ける笑顔の記念写真になったのである。



 せっかくだから海まで行こうと、展望台を降りて砂浜へと向かう。日差しはますます強くなり、吹き出す汗を拭いながら歩いていると見覚えのある4人組がいた。

「‥あっくん達とお兄さんたち?‥何、してるの?」

 思わず茜が呟く。4人は砂浜を走り回り、転んでは笑っていた。

「‥男の子って元気ね‥」

 立夏もしみじみ呟いている。女性陣はそんな様子を眺めながら、近くの売店でジュースを買い込み、再び海岸へと向かった。



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